アンジュ・ヴィエルジュ-もしもの世界の物語-   作:Kuroya

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第6話 黒魔女の誕生日

雄二たちは誠也に連れられて何処かへ向かっている。

道端で巨大な蛙やスライムを見るたびに反応を示す雄二たちに誠也は満足げに案内をしていた。

「あそこに見えてる大きな城が魔女王の住まう闇の城、黒枢城(ダーク・クレイドル)だよ」

「教科書に載ってたやつか。写真で見たときより威圧感が凄いな」

「なんかオーラ放ってそうだよね~」

「不思議な力を感じますね。もしかして目的地はそこですか?」

沙織の質問に誠也は頷いて答えた。

「そうだよ。まぁ、中に入れるのは許された者だけだから行けるのは門までだけどね。ちなみに、ソフィーナちゃんは今あの城にある工房にいます」

「え、ソフィーナちゃんってそんなに凄い人だったの!?」

「ソフィーナちゃんは次期魔女王と呼ばれてるほど優秀な黒魔女なんだ。黒枢城の中に工房を持てるレベルで魔女王に評価されてるんだよ」

「確か、誠也とソフィーナって上司と部下の関係だったよな。お前、やっぱりただ者じゃないな」

「正確には雇い主と助手だけどね。ソフィーナちゃんの助手の仕事は退屈しないよ」

一番後ろを歩いていた御影は話についていけていなかった。まずソフィーナという人物がよくわからないのだ。

話を聞く限り、とても凄い魔女だということは理解できていた。

そんな御影の様子に気がついた美海は彼女の隣に来て説明している。

「葵ちゃん。ソフィーナちゃんはね、いつも黒のゴスロリ服着てる人だよ。誠也君とよく一緒にいるんだけど、見たことない?」

「……交流バトルのときに戦ってたあの子? それなら見たことあるかも」

「そうそう、そのプログレスで合ってるよ。その子がソフィーナちゃん」

「あの時のバトルは壮絶だったわ。次期魔女王というのも納得ね」

「あとね、今日が誕生日なんだよ。だよね? 誠也君」

美海が先導しているその話をする誠也は驚いた表情をした。

「あれ? 日向は知ってたのか。日向の言う通り、ソフィーナちゃんは地球の暦だと今日5月9日が誕生日なんだ。だから今日最後の予定は誕生日パーティーだよ」

「ソフィーナちゃんとは仲良しだもん♪」

「美海ちゃんは9月5日が誕生日だよね」

「うん! 数字が逆だったから初めて知ったとき、ちょっとびっくりしちゃった」

雄二はソフィーナの誕生日が今日だということに少し驚いていた。そして決して顔に出すことなく焦ってもいた。

「そういえば、雄二はプレゼント用意した? 誕生日の話をしてたとき一緒にいたから知ってたよね?」

「あ、ああ。もちろん。用意してるぞ」

ヤバい、そんな話初耳なんだけど! ……どうしよう、プレゼントなんて用意してない。どこかそこらの店で何か見繕うか? いや、それはどうなんだ。雑すぎないだろうか。何か、何かないのか──あっ。そうだ、あれをあげればいいのか

そんな雄二の内心焦り、ホッとしている姿を美海は怪訝に思いながらも不安そうな顔をする御影に助け船を出していた。

「葵ちゃんは今知ったばかりなんだし、プレゼントはなくてもいいと思うよ。それに、大事なのはお祝いする気持ちだと思うな~」

美海の言葉に少しホッとした御影。

そうこうしている間に一行は黒枢城の門前にたどり着いた。

 

黒枢城の工房にて。一人の黒魔女が工房内を行ったり来たりと忙しなく動いていた。

その黒魔女の名はソフィーナ。黒の世界で知らない人はいないと言われている次期魔女王のプログレスだ。そんな彼女は見るからにそわそわしていた。

「あの……。ソフィーナ様……、どう……したの?」

「あら、サーシャ。私はどうもしてないわよ? それより貴女こそどうしたのよ。まだお昼時よ?」

サーシャと呼ばれた病的なまでに色白な少女は花束を抱えてソフィーナに近寄った。

紫がかった腰まで伸びている黒髪。色白の肌。ネグリジェのような服装。前髪で片眼の隠れた幼い顔立ち。小柄で細い体。それらの要素がサーシャという少女を希薄にしてどこか幽霊のような印象を与えている。

「これ、ソフィーナ様に……。わ、わたしの、庭に、キレイに咲いてた、から……」

「え、ええ。とてもきれいな白い花ね。でも、サーシャ? これって亡くなった人に送る花じゃなかったかしら」

「そう、言われる、ことも……ある、かも」

「まあいいわ。きれいな花束をありがとう。でも、どうして花束を?」

ソフィーナは花を花瓶に生けながらチラチラとサーシャの方を期待の眼差しで見ている。

「あの……。今日は、ソフィーナ様の、生まれた日、だから……。その……。誕生日、おめでとう、ござい、ます……」

「っ! ありがとう、サーシャ。貴女が今回最初に祝ってくれた人よ。そのための花束だったのね、とても嬉しいわ」

「ん……? 助手の、人は? 祝って、ない……の?」

「……まだよ。去年は祝ってくれたのに、今年は祝う素振りすら見せてないなんて」

サーシャに祝われて綻んでいた顔には明らかに落胆の色が浮かんでいた。

「忘れてる、とか……?」

「うっ、そんなこと、ないはず。だってカレンダーに印だってつけてるのよ!?」

ソフィーナは壁にかけられているカレンダーを叩く。

バンッという乾いた音が工房に反響して、再び静かになる。

「うぅ……」

「痛い、なら……叩かなければ、いいのに……」

「貴女の手、冷たくて気持ちいいわね。もう大丈夫だわ、ありがとう」

「ん。……あ。そろそろ、時間、ね」

「そ、そうね! あ、別に待ち遠しかったわけじゃないんだからね! それじゃあ、私は皆を出迎えてくるわ!」

「気を、つけて……。変な噂も、ある、から……」

「人形の噂でしょ? 大丈夫よ。なんたって私は天才魔女なんだから。じゃあ、行ってくるわね」

工房の扉を勢いよく開けて飛び出していったソフィーナの背中を見送ったサーシャは大きなあくびをした。

彼女は夜型なのだ。ソフィーナが言っていた通り、日の高いうちに起きているのは珍しいのである。

「ふぁ~……。今日は、たくさん、お話、したわね……。疲れたわ」

サーシャは疲労と眠気に負けそうになりながら、ふらふらと黒枢城横にある墓地へと歩き出した。

「手を、貸して、くれる……の? ふふ、ありがと」

誰もいない場所へ話しかけたサーシャは何もない場所へ足を乗せようとした。

普通ならそのまま床に足が当たりそうだが、サーシャの足は宙に浮いている。見えない何かをよじ登ったサーシャは力を抜いて身を任せた。

そして、見えない何か──サーシャの友達は彼女を自宅である墓地の地下に運んでいくのだった。

 

「遅い!」

門前にたどり着いた雄二たちを待っていたのはソフィーナだった。

「一体いつまで待たせるつもり!? 一時間よ、一時間! どれだけ退屈だったと思ってるのよ。退屈すぎて魔法を一つ作っちゃったじゃないっ!」

ソフィーナは魔法を発動させて、炎で出来た小さな鳥を造ると自分の周りをぐるりと回らせて、魔法を解除した。

「凄い、凄い! ソフィーナちゃんって魔法を造れるんだね~。ねぇねぇ、もっかいやって? おねがーい」

「だ、ダメよ。あれはまだ未完成なの。だから人に見せられるレベルじゃないわ!」

美海の絡みから必死に逃れようとするソフィーナだが、なかなか諦めてくれない。

「え~、でもさっき見せてくれたじゃん。ねぇ、見たよね?」

「うん。綺麗な魔法でしたね」

「ほら、沙織ちゃんだってそう言ってるよ?」

「ち、違うの。さっきのは長く待たされたってことを伝えたかっただけでっ」

焦って弁明していたソフィーナは突然肩に手を乗せられてビクッとしてしまう。

させた張本人である誠也は肩から手を離すと今度は背中を軽く押して歩みを促す。

「ちょ、ちょっと、セーヤ!? なんで背中押すのよ。ねぇ、聞いてるの?」

「いいから、ほら出発しようよ。時間は待ってくれないからね」

「ごー、ごーっ♪」

皆がソフィーナの気をそらしているのに遅れた原因が自分にあるということを打ち明けられるほど、雄二は愚かではなかった。

「成瀬雄二、あなたは意外と律儀なのね。嫌いじゃないわよ、そういうところ。いつか打ち明けられるチャンスが来るわよ。さ、行きましょ」

モヤモヤとしながら後を追う雄二の背中を軽く叩いて御影が励ます。

こうして揃ったメンバーはスロースタートながらも、黒の世界(ダークネス・エンブレイス)の観光を本格的に開始した。




第7話につづく
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