アンジュ・ヴィエルジュ-もしもの世界の物語- 作:Kuroya
レミエルは訳もわからずに雄二のところまで駆け寄る。
道中に先輩から攻撃を受けていたが、沙織がすべて守ったおかげで無傷である。
「あの、ユージさん。どうして私なんかの力を? それにこの人たちは一体……」
「女の子の方はプログレスの沙織、男の方はアルドラの巧だ。とにかく力を貸してくれ、詳しい説明は後だ。沙織、そのまま防御を任せる。巧は美海たちにかかってる俺のαフィールドを上書きしてなんとか耐えてくれ」
「え、雄二さん、一体何を? それにその子は誰なんですか」
「岸部さん。今は雄二を信じよう。アイツには何か考えがあるみたいだ。そうだろ?」
「ああ。上手くいく保証は何処にもないけどな。でも、絶対に上手くやってやる」
『雄二? αフィールドが切れてるよ? 何かあったの?』
『何でもない。巧に変わってもらっただけだ。美海は気にせず暴れん坊の女神様を抑えていてくれ』
『わかった。でも、無理はしないでね?』
リンク状態の美海から心配している気持ちが伝わってくる。ここで失敗はできない。だからαフィールドを巧に任せたんだ。
「レミエル」
「ひゃ、ひゃい!」
「俺とリンクするぞ」
「でも……前にしたときは成功しませんでした。きっと今回も同じです」
「レミエル、やる前から諦めるな。後ろを向いていたら成長なんて出来ない、前には進めない。今この瞬間、お前の力を欲しているんだ。いらない子なんかじゃない、必要とされてるんだ」
「必要と、されてる……?」
「だから俺とリンクしてくれ。お前の力があれば人を救える」
「……」
レミエルは胸に手を当て、目を閉じる。
そしてコクリと小さく頷いた。
「ありがとう、レミエル。いくぞ、……エクシード・リンクっ」
雄二は言葉を発することでイメージをより強固にし、レミエルの脳波の波長を感じ取る。
以前泉の畔で試したときのように二つの波があるのは変わらない。
だけど、ここで諦めたら俺だってなにも変わらない。
リンクを複数同時に繋ぐだけだと思えばいい。今だって美海と繋がったままだ。
俺になら……できるっ!!
「一度繋がれば波長を合わせる必要もなくなるからスムーズになる。例え複数あっても一つ一つ合わせていけば全て繋がる。こんな、風に……な!」
繋がれっ、救いたいと思う気持ちは同じなんだ!
「っ!? ぅ、背中が、熱いっ」
「っはぁ、はぁ。大丈夫か、レミエル」
「ユージ……さん。ぁああああ!!」
叫びと共に閃光が迸り、雄二の視界を真っ白に染める。
しかし、その光は攻撃的ではなく、むしろ優しげで包み込むような暖かさを持っていた。
「レミエル、その翼……」
「私、どうしちゃったんだろ。体が熱くて、でもなんだか軽い。このまま飛んでいきそう、ってあれ? 私浮いてる?!」
片翼しかなくてそのことにコンプレックスを抱いていた彼女は今、光の翼を生やして自分の羽で飛んでいる!
「これが私のエクシード。私だけの力……」
『レミエル、やれそうか?』
上空へ舞い上がったレミエルに雄二はリンクを使って話しかける。
「今、ユージさんの声が頭に? えっと、はい! 今なら、今の私ならやれるって気がします」
『リンクを通じて話しかけてるんだ。俺との繋がりを意識しながら心の中で話す感じだ。それはまた練習すればいいさ。それよりも、あの仮面のプログレスを助けるぞ』
「は、はいっ!」
『雄二。なんで……』
レミエルとのことで頭がいっぱいの雄二にその声は聞こえない──。
リンクにより覚醒したレミエルの猛攻は凄まじかった。
今までのオロオロと慌てた様子もなく、冷静に攻撃を見切って反撃に移る。
その姿はまさに別人のようだった。
「やぁあああ!! 『白き流星の奇跡』!」
「…………」
先輩も氷で応戦するが徐々に被弾率も高くなりレミエルが優勢のようだ。
「雷撃を受けても無反応か。でも動きが止まった」
「ユージさん!」
既に何をしようとしているのか伝わったのかレミエルが雄二に合図を出す。
わかってる、このチャンスは無駄にしない!
雄二は体が痺れて動けない先輩のもとへ走り出す。御影もあの時操られていた。
なら先輩にだって通じるはずだよな!
「雄二さん!? 危険です、やめてください!」
「雄二、何をする気だ! 今の彼女は加減を知らないだぞ。下手すればお前はっ!」
わかってる。わかってるよ、そんなこと。
危険なのも死ぬ可能性が高いのもわかってる。
「先輩、あとで謝りますから。どうか自分を取り戻してください」
俺は先輩の体を御影の時のように正面から抱き締める。
この至近距離でやっと何かに妨害されて読み取りづらかった先輩の波が、助けを求める思いが伝わってくる。
「エクシード・リンク」
読み取りづらいがレミエルほどじゃない、これなら直ぐに──
「雄二っ、危ない!」
「えっ?」
リンクに気をとられ過ぎた雄二は高速回転をして飛んでくる氷の槍に気づけなかった。
美海が助けに行こうとするが距離が遠すぎて間に合わない。
異世界に来てから毎回怪我をしているのは俺の気のせいか?
──けて。
せめて、先輩だけでもっ!
「っ、がぁああっ!! くっそ、いてぇええ!!」
心臓まっしぐらだった槍は途中で進路を変えて雄二の腹を貫通して地面に突き刺さった。
雄二の咄嗟の判断で突き放された先輩は少し離れたところに倒れている。
「今の、声……先輩なのか? ちっ、やっぱり原因はそいつか。レミエル、仮面を……仮面を外して、くれ!」
腹に伝わる氷の冷たさと痛みの熱さに耐えながらレミエルに指示を出す。
既に雄二の視界は霞み始めていた。
だが、この結末を見届けるまで気絶するわけにはいかない、その思いが雄二は必死で意識を繋ぎ止める。
「わ、わかりました。すぅ、はぁ……失礼します。『砕けて』」
レミエルは先輩の前に降り立つと仮面に手を当てて言葉を発した。
するとその言葉通りに仮面は粉々に砕け散ってしまう。
「これで、先輩も解放されたはずだ……」
くそっ、血が足りねえ。折角アンバーに治癒してもらったのに無駄になってしまったな。
『雄二っ! 雄二っ!』
「ユージさん、意識をしっかり持って! 今助けを呼んできますから!」
雄二に美海の焦る声が伝わってくる。
また心配かけてるなぁ。
仲間に心配させるなんて駄目なアルドラだな。
沙織はバトルエリアの出入口へ駆け出して、巧はこちらに駆け寄ってきた。
仮面を外した先輩は赤く透き通った綺麗な瞳をしていた。
『ありがとう。アルドラくん』
妨害がなくなったことで繋がりかけていたリンクがしっかりと繋がり、先輩の声が俺に届いた。
『皆のお陰です……、友達や仲間の力があったから先輩を……』
言葉を届けきる前にそこで雄二の意識は途絶えた。
「ん~、気持ちのいい風だ。絶好の観光日和だな!」
「雄二、色々と話したいことがあるんだけど……」
ユラの宿屋の前で伸びをしていた雄二に美海は詰め寄ってくる。
頬を膨らまして明らかに不機嫌な様子だ。
「お、落ち着け、話は聞くからエクシードはなしだぞ?」
「もう! そんなことしないよ!」
おっと、余計に不機嫌にしてしまったらしい。
「バカアルドラぁ? アンタ、なんで寝てないのかしら?」
宿屋の二階にある窓から飛んできたアンバーも何処か苛立っていた。
「おう、アンバー! 丁度良かった、お礼を言おうと思ってたところなんだ。ありが──痛い痛い!! まだ治ってないんたから足をグリグリしないでくれ」
「そんなこと知ってるわよ。私がたまたま、買い出しで近くに来てなかったら今頃死んでたのよ? もっと自分の体も周りも大切にしなさいよ」
「本当にありがとう、アンバー」
「ちょっ、何処触ってんのよ! 気安く頭撫でないで! 止めなさい、止めなさいったら!」
俺とアンバーが戯れていると宿屋の中からレミエルが出てきた。
「ユージさん、そろそろ中に入りましょう。まだ体の傷は塞いだだけなんですから、あまり動くと開いてしまいますよ」
「大丈夫、大丈夫。あ、そうだ。アンバーが俺の腹に抱きついていれば観光できるんじゃないか?」
我ながら名案だと思ったのだが、周りは納得いかないらしい。まぁ、仕方がないか。
「すまん、調子にのり過ぎた。少しでも励まさればと思ったんだが……すまん」
「雄二はまず自分のことを心配しないとね。変に気を使わなくていいんだよ? 丸一日潰れたけど、イベント期間はまだ三日もあるんだから」
美海は俺の意図がわかっていたのだろう。諭すように俺に言い聞かせる。幼馴染みには敵わないな。
「雄二さーん! お土産、いーっぱい買ってきました~!」
両手に編みかごを提げて沙織は大通りを歩いてくる。隣には先輩も一緒だ。
「お金は足りたか? あまり持ち合わせがなかったんだが」
「大丈夫でした。買ったのは果物や食材ばかりですので。それに、先輩のエクシードのおかげで保存もバッチリです♪」
「気分はどう? アルドラくん」
「先輩こそ、どうなんですか。ずっと操られていたんだし、何か違和感とか」
「お陰さまで気分爽快だよ。私はこれから垣内君と一緒に地球に戻るけど、あなたたちはまだ世界を巡るの?」
「はい。次の白の世界で最後です。早く治して旅立つつもりです」
「そう。それじゃあ、ここでお別れね。地球に戻ってきて、エクシーズに参加する機会があったら暇なときなら手を貸してあげるわ。バイバイ」
素っ気なくそう言い残して先輩は転移門広場の方へ走り去っていった。巧はそこで先輩を待っているのだろう。
「さてと、じゃあ大人しく寝ておきますか」
「雄二。私ね、聞きたいことがあるの。なんでレミエルちゃんとリンクできるの? 私だけじゃなかったの?」
「何故できるかなんて知らねえよ。それに御影ともリンクできたぞ」
「うそ!? いつしたの? ねぇ、ゆうじー!」
「私も気になります。幸い時間はたっぷりありますから、じーっくりお話ししましょうね」
「お、おい、なんか笑顔が怖いぞ、沙織」
雄二はそのまま二人に腕をホールドされて部屋まで引っ張られていく。
何が気に入らないって言うんだよ!?
「あははは、ユージさんは慕われているんですね」
「……自分とは違うって落ち込むの?」
「ユラちゃん……。いいえ、違います。自分も慕われるような存在になりたい、そう思ってます」
「変わったんだね、レミエル。ううん、昔に戻ったみたい」
「そうですか? 私は、前に進めた気がします。そうでなくても前に進んでいくんです、この翼と共に」
レミエルは一瞬だけ光の翼を顕現させる。
雄二とリンクしたことで、まだぎこちないながらも少しの間なら自在に出せるようになったのだ。
これで誰も彼女を落ちこぼれとは言わないだろう。
彼女自身、既に落ちこぼれだとは思っていないはずだ。
ユラの目には微笑むレミエルが昔のように輝いて見えていた。
これで第2部・赤の世界は終わりです。
次は第3部・白の世界です。