アンジュ・ヴィエルジュ-もしもの世界の物語- 作:Kuroya
『システム・ホワイト・エグマ。通称「白の世界」。科学が発達した高度な文明を持つ。世界を統治するシステム・E.G.M.A.によって、人工生命体やアンドロイド、機械生物が開発された』
以上、青蘭学園の教科書より抜粋。
赤の世界で仮面に操られた先輩を救ったときに負った腹の怪我はアンバーの回復魔法とレミエルや日向美海、岸部沙織の献身的な看病によって翌日には完治していた。
「雄二、無理なら無理って言うんだよ? 無理してまで観光したいわけじゃないんだから」
「大丈夫だって。怪我は完治したし、気分も悪くない。何も心配はいらない」
「それでも心配なんです。雄二さんはすぐに無茶しますから」
全くもって沙織の言う通りだな。
御影の時といい、先輩の時といい、毎回怪我してる気がする。
雄二自身は怪我しようとしてるわけではないのだが、世界を渡る度に事件に遭遇して怪我の一つや二つ負うことは不思議ではない。
「むしろ死なないのが不思議なくらいだよな」
「もう、雄二! 話聞いてるの? まだリンクの件だって終わってないんだからね」
「聞いてる、聞いてるって。沙織もそんなに勢いよく頷かなくてもいいから。とりあえず、荷物を整理してからこの広場に集合な」
雄二たちは既に赤の世界から帰還していた。
青の世界に戻るとき、レミエルが物凄く寂しそうな顔をしていたが、雄二はまた会いに来ることを約束して転移門をくぐった。
そして解散して三十分後、俺は二人より早く転移門広場に来てしまったようだ。
「イベントも今日が終われば土日だけか。この一週間、あっという間に過ぎていったなぁ」
「お待ちしていました、マスター」
「うおっ、誰!? ってセニアか」
「はい。セニアです。マスターはこれからシステム・ホワイト・エグマへ行かれるのですよね。是非、案内させてください」
セニアはぐっと距離を詰めて俺を見上げてくる。
おいおい、こんなところをカレンに見られたら殺されるぞ、俺が!
「……どうか、しましたか?」
「いや、なんでもない。それで、案内してくれるのは嬉しいけど、少し待ってくれないか? あと二人、一緒に行くやつがいるんだ」
「マスターのプログレスである日向美海と岸部沙織ですね。それなら既にそこにいることを確認しました」
「別に俺のプログレスってわけじゃないぞ。ただのチームメンバーだし」
(見て、沙織ちゃん。また雄二が違う女の子と一緒にいるよ)
(ホントですね。雄二さんの周りにはどうして女の子ばかりいるのでしょうか)
(昔からあんな感じだったよ。知る人ぞ知るって感じて女の子が寄ってくるの)
あの二人は一体何をしているのだろうか。広場の茂みに隠れてこちらを見ているようだが、バレてないとでも思ってるのか?
「おい、こそこそ話してないで出てこないのか? 出てこないなら置いていくからな」
「わわ、待って待って! 今行くから!」
「ひゃあ!? 美海ちゃん、置いていかないでぇ!」
意外とあっさり出てきたな。置いていかれるのは嫌ということか。
「それで、その子はどちら様かな? 雄二の彼女さん?」
「美海、違うと分かってて言ってるだろ。沙織もなんでショック受けてるんだよ」
「あ、い、いえ。なんでもないです……」
「マスター、私はマスターの彼女なのですか?」
「セニア……、話をややこしくしないでくれ。えっと、この子はコードΩ46セニア。俺たちの新しいチームメンバーだ」
「コードΩ46、認識用個体名セニアです。よろしくお願いします」
ペコリとお辞儀をするセニアにつられて二人もお辞儀をした。
「私は日向美海だよ。よろしくね、セニアちゃん♪」
「岸部沙織と言います。確か、セニアさんは交流戦の時に呼ばれていましたよね?」
「はい。あのときは別のチームで参戦しました。ですが、今はマスターの仲間です」
「その、どうしてこのチームに? 私たちって弱小ですし、今まで何回かしかエクシーズで勝ったこともないのに」
「……沙織、自分で言っていて悲しくないか?」
「もう、雄二さん。今大事な話をしているんですから邪魔しないでください。それでセニアさん、どうしてですか?」
「雄二はもう少し乙女心を学ぼうねー」
納得いかないまま雄二は美海に引きずられて二人と距離をとらされる。
「私はブルーミングバトル用に開発されたアンドロイドです。したがってその存在意義はブルーミングバトルにあります。この学園でブルーミングバトルに積極的なチームは多くありません。たまたまマスターのチームを選んだと考えられるはずです」
「それが、理由?」
「……いえ。マスターに、興味が湧きました。だからこのチームを」
「なーんだ、やっぱりそういうことだったんですね。ごめんなさい、変に勘ぐってしまって。最近雄二さんの周りで物騒なことばかり起きてるから警戒しておかないわけにはいけませんから」
「先日、一時的にマスターの位置情報が途切れたのもそれが原因ですか?」
「えーっと、多分それは迷子になっていただけだと思います。あははは……」
どうやら二人とも打ち解けられたらしい。沙織も笑顔だし、セニアの加入は問題ないかな。
「よーっし、それじゃあ白の世界へ出発~ぅ♪」
いよいよ、雄二たちはイベント最後の世界へ。
白の世界は科学が進んだ世界、一体どんなオーバーテクノロジーが飛び出してくるのか楽しみだな。
「ここが、白の世界……システム・ホワイト・エグマ」
「確かに白いね~。それに建物が高~い!」
「地球の技術力が進歩すればこの世界のようになるんでしょうか」
地球がこんな風になるのは十年や二十年じゃあ無理だろうなぁ。
アンドロイドとか普通にいるし。
「この世界の技術力は青の世界のそれの何世紀も先を行っていると言われています。ですから、このレベルまでなるのはまだ先ですね」
「ん~、もっと油とか煙がスゴいとこだと思ってたけど、意外と清潔だね」
「ちょっ、バカ、消されるぞ!」
「ぇええ!? ごめんなさーい! ってそんなわけないじゃん!」
「ははは、冗談だって。じゃあ、セニア。案内役任せたぞ」
「了解です、マスター。ばっちり任務遂行します。私のあとについてきてください」
心なしかセニアも嬉しそうだ。アンドロイドでも一人の人間ってことだな。
「まず現在地のここは青の世界と繋がる転移門が設置された広場です。そして大通りの先に見える一際大きな建物はこの世界の中枢機関であり、すべてを管理するシステム・E.G.M.A.がある場所です。次にあの建物は」
「ストップ、ストーップ。セニアちゃん、もしかしてだけど建物全部説明するつもりだったり?」
「はい。案内を任されたので」
(雄二、セニアちゃんって意外と)
(バカ、それ以上言うな。冗談なしに消されるぞ)
(えぇー、……雄二それ気に入ってるの?)
(割とな。でも、セニア関連は気を付けろよ。マジでセニアの姉に消されるぞ)
「セニアさん、全てを案内する必要はないんです。自分の行きたいところや連れていきたいところに案内すれば、私たちはそれで満足なんですから。ね?」
沙織のナイスなフォローに雄二と美海は勢いよく頷いた。
「そう、ですか。……わかりました。ではついてきてください、是非マスターに会わせたい人がいます」
「ですって、雄二さん」
「俺に会わせたい人? カレンのことか?」
「いいえ。私を開発した研究者、Dr.ミハイルのことです」
ついてきてくださいと歩き出すセニアの後ろを雄二たちはついていく。
ここからミハイルのラボがあるE区画までは少し歩くらしい。
ふと雄二は空を見上げた。
「……空が近い?」
その声は誰にも届くことなく消えていった。
第19話につづく