アンジュ・ヴィエルジュ-もしもの世界の物語-   作:Kuroya

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第20話 幼馴染みの役目

雄二と別行動になってから約一時間経っていた。

「んー、こっちかな」

「み、美海ちゃん。迷いなく進んでるけど、ちゃんと戻れるよね?」

「大丈夫、大丈夫! なんとなく雄二の場所は分かるから」

沙織は相変わらず心配性だなぁ。

それに私だって分かれ道で迷ってるよ?

完全に勘で選んでるけどね。

「あ、そういえば、沙織ちゃんはまだ雄二とリンクしてないんだよね?」

「わ、私にはまだ早いです、そういうのは! そういうのはもっと、お近づきになってからがいいなぁって……」

段々と声が小さくなってよく聞こえない。恥ずかしいのかな?

でもなんでだろう、雄二が誰かとリンクすると少しモヤモヤする。チームが大きくなればもっとそんな機会は増えるのに……。「……はっ!? 私って意外と欲張りなのかも」

「美海ちゃん?」

「ううん、何でもないよ~」

危ない危ない、考えが声に出ちゃってた。

雄二と違って、私はしっかりしてなきゃ!

「あの~、美海ちゃん。多分ここ、別のラボだと……」

「えっ!? ま、まぁ、大丈夫だよ!」

「美海ちゃん、もしかして雄二さんのことが心配なの? いつもの勘も働いてないみたいだし」

「そ、そんなことないよ?」

「…………」

うぅ~、沙織ちゃんの視線が痛い。

あれは完全に納得してない目だよ。

……でも、隠しても仕方がないよね。

「ううん、実は割と心配かも。雄二って最近、戦って怪我してばかりだし」

赤の世界で先輩を救ったとき大怪我してた。

多分、黒の世界でボロボロの服を着ていたときも何かあったはず……。目が覚めた時、ベッドが砂だらけだったし。

葵ちゃんとの特訓であんな風になったなんて嘘なのは私じゃなくても分かる。

「それに、昔から大事なことは一人で解決しようとする癖があるし。知らないうちに、……雄二自身でも気づかないうちに抱え込んでたりするから心配なの」

「ふふふ、美海ちゃんも人のこと言えないですね。私以上に心配性じゃないですか」

「だって幼馴染みだよ、自然と気になっちゃうよ。私は幼馴染みとして、チームメンバーとして雄二を支えてあげたい。そうすればいつかあの表情だって、昔みたいに戻るはずだから」

雄二は今ごろ何してるのかな?

美人のお姉さんと仲良くしてるのはいいけど、また無茶したり事件に飛び込んだりしてないかな。

……少し、ううん。すごく心配かも。

「そういえば、今まで深く聞いていませんでしたけど、雄二さんが無表情になったのっていつぐらいなんですか? なにかきっかけがあったとか?」

んー、いつだったかなぁ。中学の時にはもう今の感じだったし……、うーん。

「あっ、確か小学五年生のときだよ。雄二の妹ちゃんから聞いたんだけど交通事故に巻き込まれてその時に雄二の両親が……。雄二自身も大怪我をして何日も意識不明で目が覚めたときにはなにも覚えていなかったんだって。しばらく何も喋らなくて生きてるのに死んでるみたいだったよ」

「雄二さんにそんな過去が……」

「それまではよく笑ったり、泣いたり、怒ったり、表情に出やすいタイプだったんだよ? それでね、一度離れ離れになったけどこの学園で再会できたから、雄二の心の傷を癒して昔みたいに笑わせるのが今の私の目標だよ!」

中学では一人で戻そうと頑張った。

でも結果は今の通り……。

だから次はみんなで雄二を助ける。

美少女に癒してもらうんだからありがたいと思いなさい! なんてね。

「美海ちゃん。その目標、私も手伝っていいですか? 私も雄二さんを助けてあげたいんです」

「沙織ちゃんみたいな優しい子なら大歓迎だよ♪」

私たちが廊下で話していると突然近くのドアが開いて私たちぐらいの女の子が出てきた。

「およ? なんだか話し声が聞こえると思ったらまたお客さんかな。いやー、今日は珍しく三人もお客さんがくるなんてねー。なははは」

クリーム色の髪を雑にまとめあげた髪形。露出度の高いスウェット。腰に巻かれた作業服。

どことなく残念感が漂うこの子は誰?

「おい、エルセア=エコルダ。作業が止まっているぞ。早く再開しろ」

「んもー、今は休憩だってぇ。疲れて手元が狂った方が一大事だよ~」

「時間の無駄だ。僕はここに作業を見に来たんだ。作業をしないと言うなら代われ。僕がやる」

「あれ? 朝比奈君?」

なんと女の子が出てきた部屋のなかにはαドライバーの朝比奈淳君がいた。

朝比奈君が誰かと一緒にいるなんて珍しい、なんて言ったら怒られるかな。

「奇遇ですね、朝比奈君もこの世界に来ていたなんて。私たちもこのラボを見て回っているところで」

「お前たちの予定なんぞ興味もない」

むむっ、いきなりそっぽを向かれちゃった。

これには私も沙織ちゃんも苦笑いだよ。

「なははは、君は誰に対してもそんな感じなんだねぇ。あ、私はエルセア=エコルダ、見ての通り整備士だよ。よろしくね」

「おい、まだ休憩なのか?」

「わかったわかった、今戻ります~。ったく、私はまだ許した訳じゃないのに偉そうだね君は! あ、それじゃあね、お二人さん。よかったらまた来てよ」

「は、はい。って、入っちゃった……。んー、これからどうする?」

沙織も急な展開に困惑してるみたい。

私にも何がなんだか……。

ただなんとなく、朝比奈君は自分勝手過ぎると思う!

「そう、ですね。そろそろ戻りましょうか」

「そだね。戻ろっか」

私の勘にかかれば、簡単に戻れちゃうんだから。

 

「あっれ~? ここら辺だったような気がするんだけどなぁ」

「あ、セニアさんがいますよ。本当に戻ってこれた……、流石美海ちゃんですね」

「ふふん、でしょ~♪」

やっぱり私の勘は頼りになるね♪

でも、なんでセニアちゃんは外に出てるんだろう?

「セニアちゃん、雄二は中にいるの?」

「はい。ですが、まだ三十分経っていません」

「なんのこと? って」

私が近づいたせいでドアが開いちゃった。

「やっほー、雄二~。残って何を……雄二? ……はぁ。もう、仕方ないなぁ」

セニアさんが外に出ていたのは追い出されたからか。一人にしてくれ~とか言われたのかな。

「あの、美海ちゃん? 雄二さんはどうしちゃったんですか?」

「雄二はね、事故に遭ってからたまにネガティブになりすぎることがあるの。何がきっかけかわからないけど、不定期であんな風になっちゃうの」

「そんなっ……、雄二さんは大丈夫なんですか?」

「マスターは怯えていました。今のマスターに近づくことは推奨しません」

「大丈夫だよ。私は雄二を支えるって決めてるから」

怯えてるって何か怖いのかな。そんな素振りは見えなかったし、表立ったものじゃない、とか?

部屋に入っていくとモニターに何か映し出されていた。

「リンク適合率? これってなんだっけ?」

どこかで聞いたことあるんだけど思い出せない。思い出そうと考えていると沙織ちゃんが近づいてきた。

「リンクを成功させる能力値を表したものですよ、美海ちゃん」

「じゃあ、これが高いと色んな人とリンクできるってこと?」

「理論上は。……ですよね? セニアさん」

「はい。本来リンクにはアルドラとプログレスとの相性、そしてアルドラのリンク適合率が主に関わってきます。その中でリンク成功に大きく作用するのは相性や互いの信頼関係ですが、相性を無視してリンクできるアルドラは今のところマスターだけです」

それって無理矢理、心をこじ開けてリンクすることもできるってことだよね……。

「……そっか。だから雄二は怯えているのかな」

膝を抱えて座り込む雄二を横からそっと抱き締める。

背は大きくなっても、こういったところは昔のまま。

それなら、私がやることも昔と同じだよ。

「美海……」

「なあに、雄二」

「俺はお前らの心を無視してリンクしていたのか? お前や御影、イレーネス、レミエル……それに先輩の心も。俺は踏みにじってきたのか?」

「ネガティブになりすぎだよ。誰一人だってそんな風には思ってない、むしろ雄二のその力に救われた人だっているんだから」

ん? 一人だけ知らない名前があったような……。イレーネスって誰?

「俺は、怖い。相性を無視して無理矢理リンクを繋ぐのが。リンクで伝わってきた心が……」

「うん、うん。私だってリンクが怖いよ。リンクするってことは心のうちを見せるってことだから。だからね、雄二以外とリンクしないんだよ? 雄二とは絆があるから。たとえ相性が悪くても、何度だって雄二とリンクするよ?」

「でも、他の皆は……」

雄二は私から離れようと押し返してくる。

でも、絶対に離してあげない。

ここで離したら雄二はずっと悩み続ける、苦しみを抱えることになる。

そんなの、見過ごせないよ……。

「思い出してみて。雄二は誰にも強制しなかったでしょ? 雄二は優しいもん、無理矢理誰かに自分を押し付けるなんてしない。だから皆、雄二と心を繋いだんだよ?」

「……なんで分かるんだよっ、俺がどんなやつかなんて! 俺はαドライバーで、お前はプログレスだろ! 同じでもないのになんで!」

「だって幼馴染みだもん」

「……幼馴染み?」

「うん、幼馴染み。だからその絆は誰も負けない! 千尋ちゃんにだって負けないんだから。誠也君たちにリベンジした時、雄二だって言ってくれたじゃん。私を信じてるって」

それぐらい私たちの絆は強いんだよ。

「それにね? リンクって怖いだけじゃない。リンクしてるとね、一緒にいるって感じがして心地いいの」

「……そっか。そう、だな……。俺も、お前とのリンクが一番落ち着く」

「うん……」

「……なぁ、美海」

「んぅ? なあに?」

「もう少しだけ、このままで……」

「いいよ。気がすむまでこのままで居てあげるから」

雄二は遠慮がちに私の手に自分の手を重ねてくる。

あー、もう。なんだか本当に子供みたいだなぁ。

沙織ちゃんとセニアちゃんがじっと見てるけど、これはこれで悪くない。

私だけの、幼馴染みの特権だもん。

だからね、雄二。ちゃんといつもの雄二に戻ってよ?

 

約二十分後、雄二は元に戻った。

そして、その瞳から怯えは消えていた。




第21話につづく

今回のみ美海視点でお送りしました。
次回から雄二視点に戻ります。
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