アンジュ・ヴィエルジュ-もしもの世界の物語- 作:Kuroya
美海に抱き締められたまま、雄二は少しの間眠っていた。
「すっげー、恥ずかしい……」
「んふふ、雄二がしてほしいならまたしてあげるよ?」
そして美海は凄くご機嫌だった。
「う、うっせー! もうその心配には及ばねえよ。俺は絶対にこの力を悪用しない、これはチームのために、誰かを救うために使う! だから、その……俺の仲間でいてくれ」
「うん。約束だからね♪」
「た、例え雄二さんが暴走しても私が止めます! いいえ、暴走しないように守りますから!」
「マスターの情報をアップデート完了。私はマスターにどこまでもついていきます。あなたの側で共に戦わせてください」
美海、沙織、セニア。
彼女たちが雄二を支えてくれる。
なんだよそれ、支えが強すぎて倒れようがないじゃないか。
「ありがとう。なんて言うか、凄く、嬉しい。あれ? くそっ、……視界がぼやけて」
「もう、今度は泣いてるの? 雄二は子供だなぁ。ほらほら、なでなでしてあげる~」
「あ、私も雄二さんをなでたいです」
「マスター、マスター。私もその行為を所望します」
「ちょっ、お前らっ! やめろって!」
雄二が三人から逃げ回っていると廊下に続くドアが開いて誰かが入ってきた。
頭部には角のような突起部のついたカチューシャを装備している女の子だ。
彼女は雄二たちを見て焦りの表情を浮かべていた。
「っ、まだ人が残っていたのか。君たち、今すぐこの建物から避難するんだ! この建物は襲撃されているっ!」
「お、おい、お前は誰なんだ? それに、襲撃されているってそんな感じは……」
「……マスター、緊急事態です。現在このラボの西ゲートにて仮面をつけたプログレスが侵入を図ろうと暴れています。侵入されるのは時間の問題だと推測します」
セニアを除く三人がハッとする。
仮面をつけたプログレスなんて思い当たるのは一つしかないのだ。
つまり、先輩のように操られたプログレスたちがこのラボを襲っているということである。
その時、西ゲートにて起きた爆発の衝撃が雄二たちのいる部屋を揺らした。
「くっ、時間稼ぎにもならなかったか。仕方がない、私が彼女らを食い止める! その間にこの建物内にいる人を避難させてくれ」
大きな爆発音のあった方向を見て彼女は咄嗟に判断する。
「雄二っ、私たちも戦いにいこうよ!」
「いや、ここは彼女の言う通りにしよう。俺たちは避難の誘導を優先だ。念のためにαフィールドは展開しておくから手分けして避難させるぞ」
「……わかった。雄二の言う通りにする」
「美海ちゃん、急ぎましょう!」
「皆さんの端末にこのラボ内の見取り図を転送しました。それを活用してください」
「サンキュー、セニア。よし、みんな行くぞっ!」
一番に飛び出したのはセニアだ。
それに続いて美海、沙織も走り出してラボ内へと散る。
雄二も部屋を出ようとした時、ドア付近にいた彼女に腕を捕まれて止められた。
「待て、君は先程の会話からしてαドライバーだろう?」
「ああ。そうだけど、お前は誰なんだ?」
彼女は雄二の腕を放すと腰のホルスターからブラスターガンを抜いて雄二に手渡した。
「私はコードΣ29、ハイン。コイツはこの世界の技術の粋を集めてプログレス鎮圧用に造られた『エクシードブラスター』、特殊なレーザーでエクシードを破壊する効果がある。護身用に持っているといい、きっと君の役に立つはずだ」
「え、そんなもの、なんで俺に?」
「君はプログレスを守るのが仕事だろ? なら私の仕事と大差ない。私の仕事は陰ながら市民を守ることだ。言わば君の同僚とも言えるのか? まぁ、そのだな……、君の仲間を、そして君自身をそれで守るんだ。それじゃあ、避難の方は任せたよ」
そう言い残してハインは颯爽と西ゲートの方へ走り出していく。
「ハインさん、カッコよすぎだろ」
思わず雄二はそう溢していた。
雄二はエクシードブラスターを片手に各部屋を回っていた。
しかしどの部屋も空で人の気配はどこにもない。
「もう美海たちが避難させたのか? それならそれでいいか。次の部屋でこのラボのE区画は最後だし」
部屋のドアを開けて中に踏み込む。
部屋の中はセニアがいっぱいだった。
タペストリー、ポスター、写真立て。壁に埋め込まれたディスプレイ。その至るところに飾られてるセニアの写真。
雄二はこの時点で誰の部屋なのか見当はついていた。
「この部屋って、おっと」
雄二は進もうとして床を這うコードに躓いてしまう。
よろけて手をついたのは色々なケーブルが繋がれたカプセルのガラス部分だった。
「……やっぱりお前の部屋か。予想通り過ぎて苦笑いしか出ないな」
ガラスの向こうで静かに呼吸をして眠っていたのはセニアの姉、コードΩ33カレンだ。
カレンもDr.ミハイルによって開発されたため、ここでメンテナンス等を受けている。
「おい、起きろ。緊急事態だ」
「……」
コツコツとガラスをノックしても反応は返ってこない。
聞こえていないのだろうか?
「セニアが危な──」
『テスト、オールクリア。起動認証──カウント、始めます』
「──い、って言い終わる前に反応しやがった。どんだけ妹が好きなんだよ」
「どれだけも、でございますです。セニアを危険にさらす愚か者に生きている価値はありません。それと、何故私の部屋に勝手に入っているのですか、馬の骨。蹴飛ばされたいのございますですか?」
おい、今こいつカウントが終わる前に目覚めたぞ。絶対俺が呼び掛けたときに起きてただろ!
「勝手に入ったのは謝る。でもそれどころじゃないんだ」
「……言わなくても状況は把握しました。西ゲートは完全に破壊、突破されて現在はコードΣ29が迎撃に当たっているでございます。この建物はDr.ミハイルの研究資料が大量に保管されている場所、ここを落とさせるわけにはいきませんです」
「わかった、既に避難誘導も終わっただろうし俺も手伝う」
「馬の骨の手を借りるほどではございませんです。戦術級決戦型アンドロイドは伊達じゃありませんことよ? こう見えて荒事は得意中の得意でございます」
「……そうか。なら、俺は他の皆と合流して──」
「邪魔でございます」
突然カレンに突き飛ばされて尻餅をついた雄二の頭上を凄い速さで何かが通過した。
もしカレンが突き飛ばしていなかったら雄二は今頃串刺しになっていたはずである。
「か、カレンさん? ……今のは」
「ふんっ、これは犯人捕獲用ロボットのスパーク・スネーク。本来微弱な電流で相手を痺れさせて締め上げるものなのですが、どうやら違法改造が施されているようでございますね」
狙いをはずして床を這っていたスパーク・スネークをカレンは足で粉砕して無力化、やつが飛んできたドアの先を睨み付けていた。
「また来るでございます。馬の骨はそこで見てるです。はぁあ!」
先程と同様に雄二目掛けて飛んできたスネークをカレンは惚れ惚れするような蹴りで破壊してしまう。
その時、雄二にはカレンの脚がブレて見えた。
「ブレるほどのスピードって、マジかよ……」
「私は空間歪曲エンジンを搭載しておりますです。そのため脚力を強化された私の蹴りは空間をも切り裂く。よく、気づいたでございます」
「生身でその蹴りをくらったら無事じゃすまないレベルじゃないか」
「ええ、ですから私が戦闘に導入されるのは滅多にないでございます」
戦闘慣れしているように見えるカレンだが、ただそう見えるだけで実戦の参加回数は少ない。
だが、この場面において戦力としては申し分ない。
「馬の骨、いつまで床に這いつくばっているつもりでございますですか? 今のうちに早く行くでございますです」
「あ、おう! カレンも気を付けろよ、お前だって女の子なんだからな」
「私はアンドロイド。たとえ破壊されても修復可能です。その心配は不適切だと判断しますが?」
「いいや、適切だ。アンドロイドだって人間だ、感情も温もりもある。それにお前が破壊されたらセニアが悲しむぞ? それでもいいのかよ」
「愚問です。私がセニアを悲しませるなどあり得ません。なるほど、馬の骨の考えが適切だったと再認識します」
カレンが考えを改めていると不意に声がした。
第22話につづく