アンジュ・ヴィエルジュ-もしもの世界の物語- 作:Kuroya
「まさかこうも簡単にスパーク・スネークが破壊されるとは。流石はDr.ミハイルの開発したアンドロイドと言ったところか……。だが、こっちの方はそうでもなかったな」
「っ!? なんだ、セニアに展開してたフィールドが侵食されて、いく……」
コツンコツンと音を立てて、仮面をつけた背広の人物が廊下を歩いてくる。
体格や声の感じからして、男……なのか?
「おや? これはこれは、やはりαドライバーがいたのか。なら、これに展開されていたαフィールドも君のかい?」
仮面の男が手を横に広げると彼の後ろから仮面をつけた少女が歩み出てきた。
「っ、まさか、セニアを……」
「そうそう、これの名前はセニアだったか。よく知ってるねぇ、アルドラ君。どうだい、私たちの仲間にならないかい?」
「誰がイカれた仮面野郎の仲間なんかになるかよ! それよりもセニアを解放しろ!」
「おいおい、解放しろだなんて人聞きの悪い。それじゃあ、まるで私が無理矢理言うことを聞かせているみたいじゃないか。これは自ら私に協力して──」
雄二の横を何かが猛スピードで通りすぎていく。
「私の妹に何をしたぁああ!!」
「やれやれ、いきなり蹴りかかってくるとは礼儀を知らない、所詮これと同じガラクタの人形か」
「なっ!? 私の蹴りを腕で止めるなど人間には……、まさかアンドロイドなのですか」
空間をも歪曲させるカレンの蹴りを仮面の男は腕一本で受け止めていた。
雄二に視線を固定したままでそれほどのことをやってのけたのだ。
「はぁ、こんなガラクタを開発しているラボなら研究資料も高が知れてるな。全く、成瀬の時といい、どうして研究員というのは素直に渡さないのかねぇ」
「成瀬……? もしかして、成瀬裕一と成瀬千香のことか?」
「ん? そういえばアルドラ君の顔はどことなく成瀬夫妻に似ているなぁ。そうか! あのとき殺し損ねたガキか! あぁ、納得だ、納得したよ成瀬雄二君。君の運の悪さは親譲りだったんだねぇ?」
殺し損ねた……? 親父と母さんは交通事故で死んだんじゃないのか? 俺はそれに巻き込まれて──。
「っ! 思い出そうとすると頭がッ……」
「んー? 頭を押さえてどうしたんだい? 私との再会が嬉しすぎて頭がおかしくなったのかなぁ?」
思い出せない。でも、この仮面野郎の言う通りなら、親父と母さんが死んだのは……。
「……す、お前は絶対に殺すっ! ここから生きて帰さねえ。ここで、親父たちの仇をとってやる!」
「威勢がいいねぇ。でも勝てるのかい、この私に。それに君の相手は私だけじゃないはずだよ」
「……」
セニアは銃口を雄二に向けて仮面野郎の前に立った。
あいつを守るつもりなのか。
「どけっ、セニア! そんなやつの言うことなんて聞くな、正気に戻れよ!」
雄二の声が届いていないのか返ってきたのは、雄二の顔の横を通過するように撃たれたエネルギー弾のみ。
次は当てるというセニアの警告だった。
くそっ、戦闘力未知数の男とただでさえ強いセニアが相手になるとか無茶苦茶じゃねえか!
「はぁああ!!」
「何度言ったら分かるのですか。ガラクタごときの攻撃が私を傷つけるなどあり得ないと」
「まだでございますッ!」
仮面の男はカレンの蹴りをすべてガードする。空間歪曲の蹴りを何度も食らったにも関わらず、その背広ですら傷はついていない。
「ッ、出力を50から80%にシフト。これならば!」
「学習しないですね。無駄だと言っているのです。出力を出し惜しみして私に敵うとでも?」
カレンは一瞬で加速し、仮面の男に迫る。
男は防御する素振りさえ見せない。
だが──
「っ!?」
攻撃は届かない。いや、カレン自身が止めてしまったのだ。
「セニアっ、何故邪魔をするでございますか!」
「マスターを守るのがアンドロイドの使命。私はマスターをお守りします」
「ふむ。これはこれは……。マスター設定を上書きする効果があったとは誤算でした。私がガラクタのマスターになるのは甚だ遺憾だが都合がいい。Ω46、Ω33を破壊せよ」
「了解。命令を遂行します」
セニアはハンドガンの銃口をカレンへと向ける。
「セニア、あなたは本当にそれで──」
カレンは動かない。
セニアの行動が本心ならば、それを優先するのが姉であるカレンの信念だからだ。
カレンには今のセニアの行動を判断できなかった。
発射される寸前、雄二は咄嗟に動いていた。
雄二は自身の体をカレンの前に滑り込ませ、カレンを庇うように抱き締める。
仮面をつけたプログレスとの戦いでは、αフィールドは無意味になるというのなら、傷つくのは俺だけでいい。
そう判断しての行動だった。
「ぐっ、……いいわけ、ないだろっ。そろそろ目を覚ませ、カレン! お前は、セニアの姉だろうが!」
「馬の骨……、何故庇うでございますですか」
背中に高出力の攻撃を受けた雄二は精一杯の笑顔でカレンに答える。
しかし、その顔に変化はない。
「プログレスを守るのがαドライバーの役目ってもんだろ?」
「ふざけたことを。馬の骨が傷つけば、セニアが悲しむのは確実でございます。優先順位を間違えるなど、まだセニアのマスターとして認めることはできないようです」
カレンは雄二の腕を退けようとするが、その力は弱い。
その間にも雄二は背中に集中砲火を受けていた。
「優先順位を間違えてんのはそっちだ。セニアは姉を傷つけて何も思わないような妹じゃない。今のアイツは操られてるんだ、その事を忘れんな!」
「…………まさか、馬の骨ごときに説教をされるとは。やはり戦闘は定期的に行わなければいけないでございますです。どうにも体が鈍ってしまう」
「やっと目が覚め──」
「いい加減に放すでございます!」
セニアの攻撃が弱まった一瞬を見極め、カレンは雄二を投げ飛ばす。
そして、目の前の何もない空間を横凪ぎに蹴った。
それだけの動作にも関わらず、セニアは廊下の後方へ弾き飛ばされてしまう。
「衝撃波を生み出すことなど造作もございませんです」
脚を床に下ろし、カレンは仮面の男を睨み付ける。
「ちっ、ガラクタめ。あの程度の衝撃波、耐えられないとは情けない。やはりお前たちは私自ら止めを刺すしかないようだなァア!」
「くっ、攻撃が重い……。やはりアンドロイドの体でございますかっ」
上下左右、壁や床、天井までも使い、カレンは3次元的に相手を翻弄する。
その動きに仮面の男は対応しきれていない。今まで傷ひとつなかった背広は所々破け、そこからメタリックなボディが見えていた。
「ふんっ! ちょこまかと目障りな! ガラクタはガラクタらしく、這いつくばっていればいいんだよぉおお!!」
「俺もいることを忘れんなよ!」
雄二はエクシードブラスターで相手の顔面を狙って引き金を引いた。
カレンが床に着地した瞬間を狙い、仮面の男は拳を放とうとしたがそれを無理矢理キャンセルして、大きく飛び退くことでブラスターの攻撃を回避した。
「今の動き、どこか引っ掛かる……」
雄二が男に銃口を向けたまま思考していると隣にカレンが戻ってきた。
「……馬の骨、私とリンクを繋ぎなさい。あの仮面はセニアを苦しめた、それだけで許されないことでございますです。不本意ですがセニアを助けるのに力を貸しなさい」
「でも、お前の攻撃は……」
「あれはただの牽制です。私が本気を出せばあの程度一捻り、いえ一蹴りで消し飛ばせますです」
「……わかった、無理はしないでくれよ。それと、今のセニアには俺のαフィールドがない状態だ。つまり──」
「皆まで言わずとも把握しているでございます。それに、私が相手をするのはあの男の方です。馬の骨ならばセニアを助けられるのでしょう?」
……なるほど、既に俺の戦闘データは把握しているってことか。やっと冷静になれたようだな。
「セニア、絶対にお前を仮面から解放してやる。だからもう少し我慢していてくれ。……カレンっ!」
「少々本気を出させていただくでございます。ごめんあそばせ」
「今更何をしようと言うのだ! ガラクタがどうあがこうとも状況は覆せない! 破壊しろ、Ω46!」
「了解」
仮面野郎なんかに姉妹の絆は破壊させない。俺が、この力で絶対に守るっ!
第23話につづく