アンジュ・ヴィエルジュ-もしもの世界の物語- 作:Kuroya
──探れ、探れ。一人ずつ繋ぐ猶予なんてない。
セニアとカレン、二人同時にリンクを繋ぐことが雄二に残された唯一の救う方法だった。
俺ならできる。自分の力を信じろ。彼女たちの心を踏みにじるわけじゃない、怖がる必要は……ない!
「……エクシード・リンクっ!」
感じる。セニアの波も、カレンの波も……。
二つの波は何処か似ていた。
『ます、たー……』
『聞こえているぞ、セニア。お前の心の声はちゃんと届いている』
雄二はセニアとのリンクに成功する。
『あの男は私に任せるでございます。きっちりと始末して──』
『いや、戦闘不能にするだけでいい。やつには聞きたいことがある』
『……了解です』
そして、カレンともリンクを成功させる。
これで手札は揃った。
「お前の負けだ。仮面野郎」
「なっ、何を、何をしたぁああ!! 何故Ω46が僕に銃口を向けているんだ!? おい、ガラクタ! 誤差動でも起こしたのか、おい! 言うことを聞け、このクズがぁああ!!」
セニアは右手で銃口を向けたまま、空いている左手を仮面に置いてじっと動かなくなった。
『セニア。そっちは頼んだぞ』
『はい。……お任せを』
セニアはその状態で仮面の解析を開始する。
「黙りなさい。クズはあなたの方でございますです。私の妹を愚弄するとは万死に値しますです。今ここで破壊してあげます!」
「やめろ、やめろぉおおお!!」
カレンは高々と振り上げた脚を勢いよく振り下ろした。
仮面の男は腕をクロスにして防ごうとしたが、カレンの蹴りを防ぐことはできず両腕は粉砕。
蹴りが床にめり込み、その衝撃で廊下は瓦礫となり、男も無事ではない。
「ってカレン? 廊下どころか対角線上の地面が抉れてるんですけど!?」
「コホン。終わったことはいいのでございます。それよりも聞きたいことがあるのではなくて?」
解析の処理が重いせいで動けないセニアに振りかかった粉塵を払い落としながらカレンは話題をすり替えた。
聞きたいことがあっても、この瓦礫の山から仮面野郎を探すのは大変だぞ。
『カレンはやりすぎです。マスターに迷惑をかけるなんて私が許しません』
「クズはあそこでございます。あぁ、愛しのセニア。不出来な姉をお許しくださいです」
どうやら解析の方も終わりそうだな。
「さて、後はこっちだけど……」
瓦礫の山で見つけたあの男は満身創痍だった。
両手足の損壊、上半身と下半身が完全に分離してしまっている。
よくこれで生きていられるな。
「く、そ……、私が負け、た……のか」
「ああ。お前の負けだ。今から質問をする。大人しく答えろよ、負け犬。……何故このラボを襲った」
「アルドラ……と、プログレス……研究を、している、から……だ」
「お前たちは何だ。目的は」
「ふ、ふふふ、ふはははは! 我々はファントム! この世界を救う偉大な存在! この私がこの程度で負けるわけないだろ、ガキがぁ! こいつは──」
雄二は手に持っていたエクシード・ブラスターの引き金を引いて仮面野郎の頭を撃ち抜いた。
「知ってるよ。エクシードを使ってこのアンドロイドに乗り移ってたんだろ。お前がブラスターの攻撃を大袈裟に避けた時から薄々気がついてたんだよ」
「マスター、解析及び解除に成功しました」
「……セニア、無事でよかった。すまん、無理をさせて」
歩み寄ってきたセニアを雄二は強く抱き締めた。
今度は"誰も"血を流さずに済んだ。
これで一件落着だな……。
「マスター、この場合私はどうしたらよいのですか? 日向美海のようにすればよいのでしょうか?」
「馬の骨、今すぐその手を離しなさいです。さもなくば瓦礫の山に沈めて差し上げますです」
「あ、いや、すまん。つい、抱き締めてしまった。それで、仮面はどうなった」
雄二は慌ててセニアの肩を掴んで引き離した。
危ない、カレンの存在を忘れていた。
「……仮面ならここに。解析した結果、この仮面はプログレスの脳波を乱し、洗脳することで意のままに操る機能がつけられていました。そのため、リンクによる干渉が妨害されていたのだと推測します。そしてもう一つの機能はαフィールドの上書きです。ダメージの逆流を行えないようにαフィールドを書き換えていたんです」
「だからセニアに展開していたαフィールドが……。あ、そうだ。西ゲートでも仮面のプログレスたちが」
「既に解除コードは西ゲートで応戦中のハインに送信済みです。直に鎮圧完了とのことです」
「それなら、これでとりあえず終わったな」
雄二とセニアは瓦礫の山から降りて、被害にあってないカレンの部屋に入る。
流石のカレンも雄二だけ追い出す、ということはセニアの前ではできなかった。
床に座り込んだ俺の隣にセニアは腰を下ろし、カレンは壁に寄りかかっていた。
「後は、美海たちの無事を確認して、それから……」
駄目だ、頭がボーッとして視界がボヤけてきた。
「馬の骨、脳を酷使しすぎでございます。早くリンクを切りなさい」
「……リンク・アウト」
「マスター、お疲れ様でした。すぐにナナを呼びますからそれまでゆっくり──」
セニアが言い終わる前に雄二の体は傾き、床に倒れてしまう。
その体は背中から流れ出た血によって出来た血溜まりで濡れる。
雄二は意識を失うように眠りについた。
「……あー、頭が痛い」
雄二は目が覚めると知らない部屋にいた。
服装は制服のままだが、上着が脱がされてベッドに寝かされていたのだ。
「マスター、お目覚めですか」
「ん? ああ、セニアか。もしかしてずっと手を握ってくれてたのか?」
雄二はまだ目覚めたばかりではっきりしない意識のなか、声がした方を向く。
するとセニアがベッド脇の椅子に座って雄二の左手を握っていた。
部屋を見渡すと部屋に置かれたソファーで青蘭学園の保健室にいたはずのナナが気持ち良さそうに寝ていた。
他のメンバーはいない。
「……なんでナナがいるんだ?」
「ナナは私が呼びました。マスターの容態を看てもらうためです。診断結果は脳の酷使による過労と背中からの出血による貧血だそうです。それと、ここはS.W.Eの治療施設です。もともとナナが勤めていた場所ですよ」
「過労……、リンクで脳が疲れたのかもな。ってナナのやつ、働いてたのか!? それに血が苦手なのに、俺の手当てまで……」
雄二は起こしていた体を倒して再びベッドに預けた。
今日はもうなにもやる気が起きない。
ここから動く気さえない。なんという無気力感。
これがリンクの代償、なんてな。
「ところで他のメンバーは? カレンは兎も角、美海と沙織は何処に行ったんだ?」
「二人はこの世界を観光している最中です。マスターの代わりに私たちが楽しんできてあげる、と意気込んでいました」
つまり俺は置いていかれたということか。
prrrrr……prrrrr……。
タイミングよく、雄二の端末が鳴り出す。
「もしもし?」
『あ、雄二? エネルギードリンクってのが売ってたんだけど、何味がいい?』
「因みに何味があるんだ」
『えっとね、ストロベリー味、オレンジ味、グレープ味、メロン味があるよ。あ、セニアちゃんにも聞いておいてね』
「セニア、美海たちがエネルギードリンクを買ってきてくれるらしいけど、ストロベリー味とオレン──」
「マスターと同じものを」
セニアは味を言い終わる前に即答した。
その手は未だに雄二の手を握っている。
「聞こえたか? 俺とセニアはオレンジ味を頼む」
『はーい。ドリンク買ったらそっちに行くから抜けたしたりしないようにね』
「そんなことする気力もねぇよ。じゃあな」
雄二は通話を切ると端末をサイドテーブルに放り出して目を閉じた。
「マスター」
「どうした、セニア」
セニアは何か言いづらいのか雄二の手を揉みながらしばらく黙っていた。
「マスター。私はいらない子なんでしょうか」
「……何でそう思うんだ?」
「今回の襲撃で私は仮面の男に捕まり、操られてしまいました。マスターに銃口を向けた記憶もあります。ファントムと名乗る男を『マスター』だといい、命令に従ってしまいました。そのような役立たずなアンドロイドは、マスターにとって不要だと判断しました」
「……はぁ、そんなこと気にするな。不要かそうじゃないか判断するのはリーダーの俺だし、セニアはもう俺たちのチームメンバーだろ? 不要だなんて思わない。それに、セニアがいたから他のプログレスも救えたじゃないか。だから気にするな。な?」
セニアは雄二に頭を撫でられてくすぐったそうにする。
だが、嫌がった様子はない。
「マスター……。マスターにそうされるとこの部分がぽかぽかしてきます。何かのバグでしょうか?」
「さぁ、どうだろうな。生憎、俺はアンドロイドに疎いから何とも言えないぞ」
「そう、ですか。たとえ、バグだとしても……この感覚は消したくありません」
「きっと、それが感情ってやつなんだろうなぁ」
「はい。……マスター、私はマスターのプログレスで良かったです」
窓から差し込む光が病室を優しく照らし、その時のセニアは普通の女の子のように微笑んでいた。
第24話につづく