アンジュ・ヴィエルジュ-もしもの世界の物語- 作:Kuroya
「あ、そうだ。ハインにあれを返してなかった」
横になって体を休めていた雄二はふと思い出して体を起こした。
「マスター。ハイン曰く『それは今回のお礼だ。これからも役立ててくれ。君の活躍、期待している』……だそうです。エネルギーはチャージしていますからいつでも使えます」
……ハインに感謝しないといけないな。
俺一人でも自分を守る術ができたんだから。
「なぁ、セニア。ファントムってなんだろうな」
「単語の意味、ですか?」
「いや、違う。あの男の言っていたファントムって何だろうなと思ってさ……」
セニアは目を閉じる。だが、すぐに目を開けた。
「青蘭学園のデータベースに該当する項目を発見しました」
「は? この短時間で検索したのか?」
彼女はコクリと頷く。
「ファントムとは、特殊なフィールド発生装置を所持する、規模不明の犯罪者集団だそうです」
「特殊なフィールド発生装置、か。十中八九、あの仮面のことだろうな」
「また、ユリア・ロマノフスカの帰還により、ファントムがプログレス失踪事件に関与していることが判明されました。現在、学園では警戒体制を取っていますが、例の男のような人物は発見されていないようです」
「……そうか、先輩が初めて仮面から解放されたプログレスってことになるのか」
「はい。そして、そのプログレスを解放したマスターは両陣営から注目されているはずです」
「俺が、狙われるかもしれないってことか……?」
ん? それを逆手にとればファントムを誘き出せるんじゃないか?
「なぁ、セニア。俺はあの男を、ファントムを許さない。絶対に壊滅させる。……協力、してくれないか?」
「もちろんです。何をするのですか?」
セニアは迷いなく答えた。
そのことに雄二は少しホッとする。
「やることは変わらない。いつも通りエクシーズに参加してブルーミングバトルをする」
「…………?」
セニアは雄二の言葉の真意が分からずに首を傾げる。
「えーっと、つまりだな。ファントムは俺が力をつけるのを阻止しようとしてくるはずだろ? それなら、盛大に戦って俺たちの場所を明かして、そこにやつらを誘い出そうってわけだ」
「……しかし、それにはマスターやチームへ危険が伴うと推測されますが」
「分かってる。だから無理強いはしない。なーに、最悪、俺一人でもこいつがあれば隙をつくってリンクで操られているプログレスたちを救えるだろうからな」
雄二はサイドテーブルに置かれていたエクシード・ブラスターを手にとった。
「……私はマスターと共に在ります。故に。全力をもって協力します、マスター」
「そうか。ありがとう、セニア」
ファントムは絶対に逃さない。親の仇を取るために、そして捕まっているプログレスを助けるためにも絶対に見つけ出してやる。
「頑張りましょう、マスター」
雄二はブラスターをサイドテーブルに戻した。
そして体を休めようと横になり意識を手放しかけたが、勢いよく開いたドアの音で飛び起きてしまう。
「な、なんだ!? ファントムか!?」
「ただいま~、雄二。お土産買ってきたよ~」
「雄二さん、具合はいかがですか? このエネルギードリンクを飲んで元気になりましょう!」
「……ははは、お前らは平和そうだな」
「なにそれ! どういうこと?」
「平和が一番ですよ~」
「実は……、お前らに話しておきたいことがある」
雄二は買ってきたお土産をテーブルに並べている二人を見て、早速話を切り出した。
「どうしたの、改まって。何か、真剣なお話?」
「ああ。今回の襲撃の黒幕と今後の俺たちの活動について、な。美海たちは今回の襲撃について何か聞いているか?」
「えっと、ユリア先輩みたいな仮面に操られているプログレスたちが襲撃の犯人だーってぐらい……」
「セニアさんの解析した解除コードによって仮面を取り外して無事に鎮圧した、ということまではハインさんとミハイルさんから教えてもらいました」
美海と沙織は口々に答える。
二人が教えられたのは一般的な部分のみなのだ。
「あの仮面をつけたプログレスたちが失踪したプログレスたちだってことは知ってるよな?」
「うん。ユリア先輩のこともあるし」
「もしかして、彼女たちを誘拐した犯人って……!」
「ああ。その犯人が今回の襲撃を計画した犯人ってことだ。それがファントムという犯罪組織に繋がっている」
「は、犯罪組織!? でも、なんで雄二がそんなこと知ってるの?」
「それは……。俺が、自分たちのことをファントムと名乗る仮面の男と戦ったからだ。その時に、やつから聞き出した」
雄二は言い淀みながらも告げる。
その言葉を聞いて二人は何も返さない。
「日向美海、岸辺沙織。お二人は勘違いをしていると推測します」
「勘違い、ですか? 私はそうは思いません。また雄二さんが無茶をして怪我をしたのは事実です」
「そうだよ。怒るつもりはないけど、雄二は無茶しすぎだよ……。私たちはチームなのに、雄二ばかり負担になってる。そんなの嫌だもん」
「違います! マスターは私やカレンを傷つけずに救うにはどうしたらよいのか考えた末のことです。マスターは悪くありません」
「セニア。別に二人は俺を責めてる訳じゃないと思う。それに、俺が無茶しすぎってのは自覚あるしな」
「ですが……」
雄二はセニアの頭を優しく撫でて落ち着かせようとする。
セニアは撫でられたことで大人しくなった。
「……話を戻すぞ。我々はファントムだと名乗った男は世界平和を望んでいるといった口振りだったが、プログレスを誘拐して操ることが平和に繋がるなんて俺は思わない。だから、やつらをぶっ潰す。そのために二人には協力してほしいんだ」
「……何するかによる。雄二が自分を蔑ろにしようとしてるなら協力してあげないもん」
「私も美海ちゃんと同意見です。何をするのか、きちんと話してくれるまで首を縦には振りませんから」
「いつもと変わらない。エクシーズに参加してブルーミングバトルをする。その時にファントムが襲ってくるようにわざと盛大に戦って俺たちの場所を知らせる。そこでファントムを迎え撃つってのが今後の計画なんだが……」
雄二は二人の顔を窺った。
だが、二人は悩んいるのか、こそこそと相談している。
「……ダメか」
「マスター。お二人はマスターに協力します。何故なら彼女たちも私と同じ、マスターのチームメイトですから」
「そう、なるといいんだけどな」
やがて結論が出たのか、美海は数本のエネルギードリンクを持って近寄ってくる。
その横にいる沙織も手には1本のエネルギードリンクを持っていた。
「はい、雄二。セニアちゃん」
「お、おう」
「これは、どういう意味ですか?」
雄二とセニアは差し出されたドリンクを受け取って首を傾げた。
「乾杯しよう! 私たちの勝利と誘拐されたプログレスの子達の解放を祈って、ね?」
「は? お前、何を……」
「もう、雄二さんは察しが悪いですね。私も美海ちゃんもこの件に協力する、ということですよ。だから、乾杯しませんか?」
美海と沙織は優しく微笑み、乾杯を促す。
そのことが不思議と雄二の胸を満たしていった。
「ありがとう、美海。沙織。セニア。お前らが協力してくれるって言ってくれて凄く、嬉しい。本当に……ありがとう」
「あれれ~? 雄二、もしかして泣いてるの?」
「泣いてない! いいから乾杯するぞ! ほらっ」
『かんぱーい!』
雄二は腕で目元を擦りながらドリンクの容器を掲げる。
それに美海と沙織が自身の容器を軽くぶつけて、セニアは見よう見まねでコツンとぶつけた。
乾杯をしたあと、カレンの部屋に遊びに行ってくると言って、美海たちは病室を出ていった。
「いい仲間を持っているみたいだな。少し安心したよ」
「聞いていたのか? あまりいい趣味とは言えないな。Dr.ミハイル」
「中々入るタイミングが無くてね。それについては謝罪しよう。盗み聞きしてすまない」
「……それで、なんでここに? セニアなら今カレンの部屋にいるぞ」
「いやなに、そう急かすな。話に入る前にそこで狸寝入りしているナナを叩き出すとしよう」
「狸寝入り?」
ナナはビクッと反応して、恐る恐る目を開けた。
「お、おはようございます。雄二さん。Dr.ミハイル。私はなにも聞いていませんよ? 私、今起きました!」
「私はまだ何も言っていないぞ」
「ハッ!? あぅ、ごめんなさい。美海さんたちが帰ってきた辺りから起きてました……」
「ほとんど最初からじゃねえか」
「さぁ、ナナ。すまないが、今は少し席を外してくれないか? 話が終わればまた呼ぼう」
「は、はい。分かりました。ですが、雄二さんはまだ完治したわけじゃないですから無理はさせないでくださいね」
ペコリとお辞儀をしてナナは病室を去った。
ミハイルは雄二のベッドの脇にある椅子に腰を下ろす。少し前までセニアが座っていた場所だ。
「怪我の具合はどうだい?」
「まあまあだな。痛みはないが、まだ体が怠い。で、そんな話をしに来た訳じゃないんだろ。いつ美海たちが帰ってくるか分からないんだ。さっさと本題に移ろうぜ」
「ふむ。では、そうするとしよう。……君の両親についてだ」
「俺の、両親? なんでそんなことを」
「カレンから報告を受けて君の両親についてデータを漁っていたのだ。そうしたらこういうものが出てきた。少しこれを見てくれ」
ミハイルは白衣のポケットからタブレットを取り出して雄二に渡す。
そこには一枚の写真が映し出されていた。
写真にはブルーミングバトルをする少女と少年が映っている。
「これ、親父と母さん、か? でもなんでブルーミングバトルを……ってまさか、二人はアルドラとプログレスだったのか!?」
「その通り。しかも彼らはエクシーズで常に勝ち抜くほどの強者だったようだ」
親父と母さんがそんなに強かったなんて……。
「全然知らなかった。でも、なんでこれを俺に?」
「何故あれほどまでにリンク適合率が高いのか、気にしているようだったからね。君のあの数値の原因は少なからずこの二人の影響があるはずだ。それに、君が重症を負った幼少期の事故にファントムが関与してたのだろう? ならばファントムの手がかりは成瀬夫妻にありそうだと私は考えている」
「ファントムの手がかり……」
「何か心当たりはあるのかい?」
ふと雄二の頭をよぎったのは両親が研究者の時に使っていた家にあった妙なドアのことだった。
「……いや、心当たりってわけじゃないけど、親父たちが研究者だった頃に使っていたらしい家に妙なドアがあってさ」
「妙なドア?」
「ああ。何故か木製に偽装されたドアがあるんだが、鍵が掛かっていて入れないんだ」
「ふむ……。そのドアの向こうに何かあるかもしれないというわけだな。うーん、私はこのラボを離れるわけにはいかないから、そのドアについてはセニアにでも任せるとしよう」
「セニアって解錠もできるのか?」
「アナログな鍵ならば無理だろうが、電子ロックのようなものならセニアの演算でも解錠できるはずだ。スペックが足りないパターンも想定されるが……、その時は別のアンドロイドに頼めばいいかな」
「セニアってブルーミングバトル用アンドロイドなのに色々とできるんだな」
「ふふん。当たり前だろう? セニアは私が作ったんだからな。それに、彼女は"成長する"。まだまだ能力値は未知数だよ」
ミハイルは椅子から立ち上がる。
「成瀬雄二。是非、セニアのマスターになってあげてはくれないか?」
「……それは遠慮しとく。セニアは大事な仲間だからな。上下関係になるつもりはない」
「そういうと思っていたよ。では、そろそろ失礼する。セニアを、頼んだよ」
「おう。任せろ」
雄二の言葉に頷き、ミハイルは踵を返して病室を立ち去った。
部屋には雄二だけが残っていた。
「さて、と。今のうちに街に行くか」
置いてあった新品の制服をビニールから取り出して羽織る。
雄二がいざ抜け出そうと病室のドアをスライドさせる。
「雄二さん。何処に行くつもりですか? まだ完治していないって言いましたよね?」
しかし、ドアの先には腰に手を当てたナナが立っていた。
くそ、ミハイルめ!
呼ぶの早すぎだっての!
雄二の脱走は呆気なく阻止されたのだった。
これで第3部・白の世界は終わりです。
次は第4部・青の世界です。