アンジュ・ヴィエルジュ-もしもの世界の物語-   作:Kuroya

5 / 57
第5話 一日の終わり

「えっと、もうすぐ住宅地区だけど、雄二の家ってもうすぐかな?」

雄二は美海に言われて眼下に広がる地区に目を凝らす。

「あった、あれだ。あの無駄に庭が広い家」

「無駄に広い……。うわあ、確かに無駄に広い、かも」

「な? このスペースあったらもう一つぐらい家が建てられそうなぐらいだろ?」

「う、うん。雄二の家って意外とお金持ちだったんだね。全然知らなかったよ~」

雄二の家は学園から徒歩20分程度の位置にあり、さらに進むと商店街やショッピングモールがあるので立地条件が良かったりする。

両親が何をしていたか知らないが、相当稼いでいたんだろうな。

「ただいまー。別に金持ちだったわけじゃないぞ。この家だって親父と母さんが研究する時に使っていたらしいし。まぁ、一人暮らしには広すぎだよな」

「でも、千尋ちゃんと一緒ならそうでもなさそうだよね~。まだ荷物は届いてなかった?」

「まだ、みたいだな。じゃあ、美海はどうする? 帰るか?」

「今来たばかりだよ!?」

「いや、お前は寮生だろ。門限とかあるだろ。高等部になって初日で門限破りなんて印象悪いぞ?」

雄二は一階の部屋を一つ一つ確認し始める。

一階にはリビングダイニング、バスルーム、トイレ、居間があった。玄関から伸びる廊下を進むと廊下の突き当りには二階に続く階段がある。

二階へ上がると部屋が四つあり、そのうち二つは書斎と両親の寝室。残りは空き部屋だ。青蘭島に来る前に渡された資料通りみたいだな。

書斎のドアを開けて中へと入る。

壁一面の分厚い書物たちと机の上に積み重ねなれた何かの研究について書かれたレポートの束。

たったこれだけの要素がこの部屋を飾っている。

その光景が何故か誇らしかった。

あの、いつも家でゴロゴロしていた両親が働いていた証。

何が書かれているのか気になった雄二は少しだけ埃の積もったレポートを一つ手に取った。

「『αドライバーとプログレスの共鳴反応について』……?」

プログレスとは特殊能力『エクシード』に目覚めた者の通称であり、現在発見させているプログレスは十代のころにエクシードが発現した少女のみである。

また、エクシードとは異なる能力に目覚める者、通称『αドライバー』が発見させている。彼らは等しく男であり、プログレスと同じく十代で発現しているがその個体数はプログレスに比べてかなり少ない。

「…………」

これは読んではいけない類いのものではないだろうか。だが、一度読み始めた好奇心は止められるわけもなく、斜め読みしながら読み進めていく。

────つまり、彼らはお互いに共鳴し、成長するのだ。そこで私はある実験を行うことにした。プログレスとなりえる素質の高い子供に私の息子を近づけて長期間の観測を行い、素質の成長率を求めた。

結論としては長年そばにいることでαドライバーとしての素質が芽生え、それはプログレスとしての素質と共鳴し、成長する可能性が高いと判明した――――

「これって、もしかしなくても俺と美海のこと、だよな? というか親父たちは美海に素質があることを前提に実験したみたいだが、かなり前から美海がプログレスになるかもしれないと知っていたってことか?」

頭の中がごちゃごちゃになってうまく考えがまとまらない……。

親父たちが美海の素質に気づいてこの実験を始めたのか。たまたま相手が美海だったのか。

くそっ、思い返しても色んな場所にいった記憶はあっても、誰とあったかなんて覚えてないぞ。

でも、これだけは断言できる──

「俺は、美海に素質を引き出されたんだ……」

ここにあるものにはまだ何か重要なことが書いてある。

雄二はそう確信すると、読みかけのレポートを机に戻して部屋を出た。あれ以上読み進めてもまともな判断はできそうにないから。

 

「あれ? もう降りてきたの? 二階はどうだった?」

「普通の空き部屋だった。俺の部屋は奥の部屋にする予定だ」

二階から降りてきた雄二のもとへ美海がトテトテと走ってきた。一階の部屋を見て回っていたようだ。

「ねぇ、雄二。ひとつだけ開かないドアがあったんだけど、鍵とか持ってる?」

「開かないドア? そんなの何処にもなかったはずだけど」

「えぇー! あったよ? 階段下のところに」

嘘じゃないもんと言う美海に引かれて階段下にやってきた雄二。

確かにそこにはドアが存在した。

だが、このドアの存在は資料に載ってなかったはず。

しかも、そのドアはどこか様子がおかしい。

ドアノブがないのだ。更には取っ手さえも。

「ぅん? どうしたの、雄二。ちょっと顔が怖いよ?」

「表情には出てないだろ」

「そう、だけど。何となく伝わってくるの」

「それより今はこいつだ。このドア、どうやって開けるんだ?」

「え? ドアノブを捻れば、ってドアノブない!? えっとじゃあスライドするとか?」

「スライドするにしても取っ手もないぞ。それにこのドア、木製じゃない」

「どう見たって木製だよ? 叩いても響かない……? あれ?」

美海がノックをすると金属音が響いた。

このドアは見た目さえ偽装されていたのだ。

「大丈夫か?」

「う、うん。ちょっと痛いけど大丈夫だよ。それよりもこれ見て」

「は? な、なんだよ、これ……」

美海が視線で示したのはさっきノックしたドアだ。そこには先程までなかった電子パネルのようなものが浮かび上がり、数字を入力してくれと言わんばかりにパネルの数字の部分が点滅していた。

 

二人はリビングに場所を移動した。

結局パスワードはわからなかったからあのドアを開けることはできなかったのだ。

「美海、お前はこれからどうするんだ?」

「んー、そろそろ帰ろうかな。流石に門限は破りたくないし」

帰ろうと美海がソファーから腰をあげたとき、インターホンが押され、来客を知らせた。

「私が見てくる~」と言って美海は玄関に行き、ドアを開けると待っていたのは引っ越し業者だ。

後ろから慌てて追いかけてきた雄二は手続きを済ませて運び込まれる荷物を眺めている。

つい先日まで本土の家にあった家具や家電、そして自分の荷物が詰め込まれた段ボール箱。

妹は元気にしているだろうか。

美海の家族に馴染めているだろうか。

大した相談もせずに置いてきたこと、怒ってるんだろうなぁ。

「今日はいろいろなことがあった」

玄関先で業者と美海を見送った後、雄二は重くなった足を動かして自室へ戻る。

山積みにされている段ボール箱が唯一の背景になっているこの部屋にぽつんと置かれたシングルベッド。既に片付ける気力もない雄二はベッドに倒れこむ。

長い船路を経て辿り着いた青蘭島。

非日常が集まる青蘭学園。幼馴染みとの再会。広い校内の案内。安いと謳っている購買の無駄に高い謎のカツサンド。消えた財布の中身。

今日の出来事を思い出しながら雄二は制服のまま深い眠りについた。

ああ、妹を説得して小遣いを貰わなければ……。

なんて思っていると見計らったかのように携帯に着信があった。

気だるげに表示されている名前を見た雄二は怠そうに携帯を置きかけたが、とりあえず出ることにした。

「もしもし、お兄ちゃん? 今日はどれくらい使ったの?」

「ろ、6000ぐらい……」

「何に使ったの?」

「しょ、食費……です」

「ふーん、食費ねぇ。あ、カツサンドは美味しかった? 一個1200もするんだよね?」

「な、なんで知ってるんだよ!?」

「美海さんからさっき電話がかかってきたの。お兄ちゃんが高いカツサンドをいっぱい買ってお金を使いすぎたって。今回は許してねって」

「じゃ、じゃあ許して――」

「それとこれとは別問題だよ。全くもう、美海さんが付いていながらお兄ちゃんの無駄使いを見逃すなんて……。やっぱりお兄ちゃんには私が付いてないとダメだね。だから私もそっちに……」

「…………」

「お兄ちゃん? あれ? おーい! むぅ、電波悪いのかな」

眠気に負けた雄二は偶然通話を切ってしまったのだ。

後日、機嫌を損ねた千尋によってお小遣いを削られるなんてこのときの雄二は思いもしなかった。

こうして成瀬雄二の青蘭島での一日が幕を閉じた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。