アンジュ・ヴィエルジュ-もしもの世界の物語- 作:Kuroya
土曜日の夜に帰ってきた雄二たちは広場で解散して各自帰宅した。
「それでさ、白の世界で飲んだエネルギードリンクがスゴく効いて疲労なんて吹き飛んだのにナナのやつは『いつも無理するんですからこの世界にいる間ぐらい休んでください!』って意地でも病室から出させてくれなかったんだ」
「ふーん。で、これが例のドリンク?」
「そうそう。体力、スタミナはもちろん、疲労回復まで効果あるらしいから帰り際に何本かお土産に買ってきた。あ、今神薙が持ってるのはグループ味だ。あげるから飲んでみろよ、美味いぞ」
「え、くれるの? タダで? 後で多額の料金を請求とかしないでしょうね?」
「おい、巫女さんの目に俺はそんな風に見えてるのか? 素直に受けとれよ」
「……ありがと。飲んでみる」
今日は日曜日。現時刻は午前10時頃。
雄二はエネルギードリンクとその他各世界の土産物をリュックに詰めて青蘭神社まで来ていた。
「でも、巫女の仕事があるからこの島を離れられないって不憫だよな。こういったイベントに参加できないわけだし」
「別に。あなたや美海たちがお土産を持ってきて、話を聞かせてくれるなら私は満足」
神薙は石段の最上段に座る雄二の隣に腰を下ろしてエネルギードリンクのボトルをコクリコクリと飲み始める。
「……美味しい。あなたがお土産にしたくなるのもわかるわね」
「だろ? 気に入ってもらえてよかった」
雄二もオレンジ味のボトルを開けて飲む。
あー、この、美味しさに加えて、体にエネルギーが満ちていく感じがたまらない。
「ねぇ、病室がどうとか言ってたけど、また無茶な特訓でもしたの?」
神薙のその言葉に雄二はドキリとする。
話が盛り上がりすぎて、つい口が滑ってしまっていたことに気がついたのだ。
「あ、ああ。そうなんだよ。三つの世界を巡ったらそこでしか味わえない経験があってさ。つい、な」
チームメンバーでもない神薙にあの話をして巻き込むわけにはいかない。
ファントムの狙いさえ曖昧なのだから、迂闊に話すことは控えた方がいいとセニアに忠告されていたのだ。
「……そう。あんまり無茶なことして美海や沙織に心配かけさせないようにね。チームリーダーがしっかりしないとメンバーはついてこないわよ」
「肝に命じときます。……ん? 神薙は心配してくれないのか?」
「気持ち悪い顔ね。あなたを心配してたら体がもたないもの」
「きもっ!? おかしいなぁ、笑顔のつもりだったんだが」
「変わったのね、あなた。前より表情に出るようになってる」
「らしい、な。多分、幼馴染みのおかげだ。アイツには感謝してもしきれない」
「そういうのは、本人に言ってあげれば?」
「もう言ったよ。幼馴染みだから気にしないで、だってさ」
「あなたもそうだけど、美海も中々なものね」
「どういうことだ?」
「……何でもない。それじゃあ、私は仕事に戻るわ。お土産、ありがと」
「おう。また明日な」
お礼を言って境内に戻っていった神薙の姿を見送った雄二は手に持っていた飲みかけのドリンクを飲み干して立ち上がった。
「……さて、これからどうするか」
まだ青蘭神社に来て一時間ほどしか経っていない。
うーん、特に今日は予定があるわけでもないしどうしたものか。
そう思いつつも雄二は学園の方へ歩いていた。
「マスター、今日も特訓ですか?」
「うぉ!? 何でセニアがここにいるんだ?」
「マスターの行動パターン上、会う確率が高いのは闘技場で待っていることだと計算で出ましたから」
「もしかしてずっと待ってたのか?」
「いえ、たった今来たところです。この時間帯に来ることが多いのは観測結果から把握していました」
ふと雄二は思った。
白の世界の人たちはどうしてこうも監視したがるのかと。
本人たちから言わせれば監視ではなく観察だと言いそうだが……。
「ところでセニアはどうして俺を待っていたんだ? なにか用事でも……、まさかファントムが動いたのか?」
「違います。マスターが特訓をするかもしれないのでそのお手伝いをしようと待っていました」
「ありがたいけど今日は特訓はしない。特訓してるのがナナにバレたらまた病室に縛られるからな。特訓は明日から再開するつもりだ」
「ではどうしてここに?」
「ちょっと確認にな。セニアもついてくるか?」
そう聞きつつも、セニアの答えは予想していた。コロシアム内に入っていく俺の後ろをセニアはついてくる。やはり答えはイエスのようだ。
「これは……、何かの装置ですか?」
エントランス脇にあるATMのような装置をセニアは不思議そうに眺めている。
「これはな、EXM交換装置ってやつだ」
「マスター。『いーえっくすえむ』とは何かの略ですか?」
「ああ、EXMはエクストメダルの略称だ。大体皆はメダルって言うけどな。エクストメダルってのは知ってるよな?」
「はい。マスターが数回しか勝利したことのないエクシーズで獲得することができるメダルのことですね」
「最初のは余計だ、これから勝ち続ける予定だからいいんだよ。セニアが入ってくれて前衛が増えたからな」
「マスターのために頑張ります」
「おう、頼りにしてるぞ」
雄二は上着のポケットから端末を取り出して装置に嵌め込む。
すると装置のスリープモードが解除され、メニュー画面が表示された。
「えっと、メダル枚数は……」
「23、ですか」
「まぁ、妥当だな。確か10枚で1万リシェだから、稼ぎはまだ少ないけどな」
メダル獲得にはある4つの条件がある。
──1つ目はエクシーズに参加すること。
エクシーズに参加してブルーミングバトルをすれば1枚獲得だ。
──2つ目は1試合で最高ダメージ値を叩き出すこと。
最高値を出したプログレスまたはアルドラの属するチームが1枚獲得できる。
──3つ目は1試合で獲得ポイント数が計10万を超えること。
エクシーズでは相手のアルドラやプログレス、その陣営に配置されたクリスタルへ与えたダメージはそのまま数値化されて自チームのポイントとなる。
達成することで3枚獲得できる。
──4つ目はエクシーズで勝利すること。勝利することで5枚も獲得できる。
この4つの条件を全て達成すれば10枚、つまり1試合で1万リシェ稼げるということだ。
「俺たちの持っている23枚は、8枚は八回分のエクシーズ参加特典、残り15は三回の勝利報酬だ。先輩たちに比べたら、微々たる稼ぎってところだな」
「大丈夫です、マスター。今のチームなら勝利は難しくありません。稼ぎは良くなるはずです」
雄二はセニアの言葉に頷きながら画面をタップしてメンバーリストを表示させる。
しかし、その中にセニアの名前がない。
「どうかしましたか? マスター」
「あ、いや、メンバーの中にセニアの名前がないんだ。……何かの手違いか?」
「……。マスター、チームのメンバー加入は教務課に書類を提出して更新しなければいけないのでは?」
そういえばそうだった気がする。
ということはまだセニアはメンバーになってなかったのか。
「よし、セニア。今すぐ教務課に行くぞ。メンバーの更新だ」
「ですが、マスター。今日は日曜日です、教務課に誰かいるとは……」
「そんなの行かなきゃ分からねえだろ。兎に角行くぞ!」
雄二は装置から取り外した端末をポケットに押し込み、セニアの手を掴んで闘技場を出た。
「誰もいないな」
「はい」
セニアの言う通り、教務課には誰もいなかった。
「すまん、セニア」
「私は構いません。ですが、マスター。明日また手続きをしに来ましょう」
「そうだな。手続きしなきゃエクシーズに参加できないもんな」
「早く私も共に戦いたいです。私はブルーミングバトル用アンドロイド。その真価をお見せしましょう」
「ああ、もちろんだ。期待してるぞ」
その言葉にセニアは、小さく笑みを浮かべた。
第26話につづく