アンジュ・ヴィエルジュ-もしもの世界の物語- 作:Kuroya
「よしっ、今日はこれぐらいにしてルビーの様子でも見に行こうかな」
毎日の魔法の練習は欠かせない。
私はあまり攻撃系の魔法に才能はなかったけど、多少は使えるように練習している。
そんな姉の姿を見て育ったルビーは案の定、魔法に興味を持ったようで、少し前から師匠のところに通い始めた。
日課も終わったし、フローリアと一緒にアウロラのお昼も作った。あとは私の時間、つまり自由なわけだから妹の頑張る姿を見に行くぐらいしてもいいはず。
「でも、ルビーは完全に攻撃特化とか師匠がボソッと言ってたし、無闇に近づくのは危険かしら」
「アンバー! お友だち連れてきたよ~!」
「はぁ、今度は何の石を……って、お友だち?」
「うん! えっとね、アルドラの人は方向音痴だから道を覚えられないって言ってたの。だから大丈夫かな~って」
「どういうこと? それに、そのアルドラの人はどこにいるの?」
チラリとフローリアの後ろを見てもそこに人影はない。
というかこの森に知らない人を連れてきちゃダメだって言ったのに、方向音痴だから大丈夫ってどういう理屈よ。
「どこって後ろに……? どうしよう、迷子になってる!」
どうやらフローリア自身、いなくなっていることに気づいていなかったのね。
相変わらずどこか抜けてるというか……、今回はどっちが抜けてたんだろう?
って、今はそんなくだらないことを考えてる場合じゃない。
この森に人が踏み込んで迷子になってるだけなら無視するところだけど、今回はフローリアのともだちが迷っているんだし助けないわけにはいかないわね。
「アンバー、どうしよう!? アルドラの人が迷子になってるよ!」
「はぁ、落ち着きなさい。迷子になったのはアルドラの人だけなのね? 他に人はいない?」
「連れてきたのはアルドラの人だけだよ。あとの二人は森の外でアウロラと待ってるの」
「……じゃあ、先に森の外で待ってる二人のところへ行きましょ。心配になって森に入られても被害が増えるだけだし」
「さっすが、アンバー! それじゃあついてきて!」
どうしてフローリアは毎回面倒を持ち込むのかしら。
私は迷うことなく飛ぶフローリアの後ろを追いかけている。
どうして迷わないのか分からないけど、普段からこれぐらいしっかりしていれば今回のようなことにはならなかったと思うのは私だけかしら。
そうこうしているうちに森を抜けて花畑に着くとアウロラと知らない女の子が二人いた。
「ミウミ~! サオリ~! アルドラの人が迷子になっちゃったよぅ」
「わわっ、ってフローリアちゃん? 雄二が迷子になったってホントなの?」
「本当らしいわ。初めまして、私は琥珀の妖精アンバー。今から私とフローリアで捜しに行くから、あんたたちは森に入らないように。いいわね?」
「あの、私は岸部沙織って言います。それで、その、どうして森には行ってはいけないんでしょうか?」
「そうだよ。大勢で捜した方が早く見つかるよ! あ、私は日向美海だよ。よろしく♪」
「よ、よろしく……。コホン、森には人避けの結界が張られてるの。人間が迷い込めば出てこれない仕組みになってるから、あんたたちが捜しに入っても被害が増えるだけってわけ」
森の情報を外に出さないため、とか前に偉い大天使様が言ってたけど、改めて考えると物騒よね……。
「ぐす……、わたしもちゃんと捜すから二人は待っててね!」
「あの~、私もお手伝いを」
アウロラが手を挙げて捜索に参加しようとしているけど意地でも参加させないわ。
参加しても迷子が増えるだけじゃない。
「却下」
「あら~」
笑顔で却下したのにアウロラは「断られました~」と言いながら微笑んでる。
相変わらずの不思議ちゃんね。
「さ、フローリア。早く行くわよ」
「うんっ! あ、それで何しに行くの?」
「アルドラの人ってのを捜しに行くんでしょ!?」
フローリアは興味のないことはすぐに忘れてしまうというか、別のことに飛び付くから話が繋がってなかったりする。
はぁ、こんな調子で見つかるのかしら。
見つけたら絶対にとびきりの魔法をぶつけてやろうかしら。
「ったく、ユージは大げさなのよ。衝撃を与えるだけの魔法なのに気を失うなんて耐性が無さすぎるわ。それに何よ、可愛いって。私が可愛いのは当たり前でしょ。でも……」
ちょっとだけ、ちょーっとだけ嬉しかった。
フローリアとかルビーは私をキレイとは言ってくれるけど、可愛いなんて評価はしてくれない。
アウロラは、……うん。アウロラの言う可愛いはなんか違う気がする。
「アンバー? さっきから何をブツブツ言ってるの?」
「フローリア、きっとあれはさっきユージさん達に褒められたことを思い出してるのよ。だから邪魔をしてはいけないわ」
「そっか。じゃあ話しかけない~!」
「しっかり聞こえてるわよ、二人とも。変な憶測するなら夕食は抜きだからね!」
「あらあら~」
「えー! 私たち悪くないよー!」
「ふん、知らないわ」
なんでなんで、と楽しそうに騒ぐ二人を置いて私は先に進んでいく。
そんな時、何故か胸騒ぎがした。
「ん? どうしたの?」
「いえ、なんでもな──」
今の感覚……、もしかして私の施していた治癒魔法が破壊されたの?
いや、そんなはずはない。とは言い切れなかった。
ユージは迷子になってたのに何故か女神様と一緒にいるし、いきなり私を可愛いなんて言うし、バカアルドラだし。
何をやるか分からないやつだ。
だから、治癒魔法が破壊されるような大怪我をしてる可能性は捨てきれない。
ううん、きっとしてるはず。この胸騒ぎはそういうことなんだと思う。
「──くない。ごめん、二人は先に帰っていて」
「アンバーはどこか行くの?」
「ちょ、ちょっと街に買い出しに行ってくるわ! あ、大した買い物じゃないし私一人で大丈夫だから! それじゃ、行ってきまーす」
急がないとっ! 胸騒ぎが私の不安を掻き立てていた。
「ねぇねぇ、アウロラ~。どうしてアンバーはアルドラの人のこと、私たちといるときだけ名前で呼ぶのかな?」
「さぁ? 多分、本人の前では恥ずかしいのよ。ふふっ、アンバーは照れ屋さんなのね」
「そっか~、アンバーは恥ずかしかったんだね~。戻ってきたらアンバーをからかってあげよーっと」
私のあの時の判断は間違っていなかったと思う。
もし、街に来ていなかったらサオリが私を見つけることもなかったし、闘技場で血塗れになっていたユージを助けることもできなかったはずだ。
泣きそうな顔で私を呼び止めたサオリに連れられて闘技場にやって来たとき、ユージともう一人女の子が重なるように倒れていた。
ミウミが男に羽交い締めにされてたのはミウミを近寄らせないためだと思う。
その時ユージはお腹に風穴が空いていて出血が酷かったから下手に近づいて体を揺らしたりすると悪影響だったもの。
不思議だったのは風穴が空いていてた部分と垂れ流された血が凍っていたことと、ユージの下敷きになっていた女の子は全くの無傷だったことかしら。
あとでユージたちに聞いてみたらそういう力があるらしい。
「誤魔化してるだけじゃないでしょうね?」
「違うって。あー、えっと、あの時俺は先輩に氷の槍で腹を串刺しにされてたんだよ。先輩に刺さらなかったのは俺が咄嗟に突き飛ばしたからだ」
「…………」
「な? 説明しても分からないだろ?」
「えぇ、そうね。私には全く、これっぽっちも分かんないわねっ!」
そんな言い方しなくてもいいじゃない。分かんないのは事実だけど何かムカつくわ。
「痛っ!? な、なあ、アンバー。アンバーさん?」
「なに」
「治そうとしてるのか悪化させようとしてるのか、どっちなの? 腹の上に座ってるのはいいけど、跳ねられると響くというか」
「ふん、さっきまでしれっと観光しようとしてたバカアルドラのくせによく言うわね。ただで治してあげてるだけでもありがたいと思いなさい!」
「思ってる、思ってるって! だから跳ねるなよ!」
「大人しく跳ねられてなさい! 逃げようとした罰よ!」
「で、でも、治癒はしてくれてるんだな。ははは」
きっとムカつくのはこの顔のせいね。無表情で、眼だけは鋭くて。
でもなんだか怯えてるみたいな感じがして放っておけない。
「反省、しなさいっ!」
「がぁあああ!!?」
大きな声を出すから皆が来ちゃったじゃない。
ただ治癒魔法の効力を高めて回復を加速させただけなのにね。
まぁ、それだけ傷口のところが活性化するわけだから痛みを伴うけど。
心配だからとかじゃない。胸騒ぎがしないように、少しだけ強く魔法を掛けておく。
次に怪我をしても治せるように、少しでも長く守れるように。
長くといっても私の力だと精々三日が限界。
「……その間だけでも不出来な弟をお姉ちゃんが守ってあげる。なんてね」
「弟? 誰のことだ?」
「っ!? うっさい! 今のは忘れなさい!」
こ、こんなやつが弟だなんて私だって嫌だっての!
……ほ、ホント、なんだからね?
というわけで、アンバーがメインの『お姉ちゃんと弟?』をお送りしました!
分かりにくかったかもしれませんが、この話は雄二たちが赤の世界にいた第2章のときの話です。
ちょっとした裏側を書いてみました。
楽しんでいただけたなら幸いです。
次回予告
「ええ!? わ、わた、私のお話ですか!?
え、えっと……か、片翼でもがんばります!」
というわけで、次回更新のときにまたお会いしましょう。
※三話目以降は鋭意執筆中です。