アンジュ・ヴィエルジュ-もしもの世界の物語- 作:Kuroya
どうしても彼女視点で書きたかったので……。
私は今、闘技場の近くに建っている空の神殿で天使のお仕事をしています。
「はぁ……」
『四聖天使』と呼ばれる大天使のお一人であるガブリエラ様のお手伝いが私の主な仕事。
といってもやることは書類や書物の整理、街の見回りです。
「レミエル、この資料の片付けを頼む。場所は書物庫の奥の棚だ」
「は、はい! あの、ガブリエラ様は何処かへ行かれるのですか?」
「ああ。少し虹の宮殿に用事があるのだ。すまないがいつもの稽古は……」
「大丈夫、です! 私一人でもやれます!」
実はガブリエラ様は私のお師匠様でもあるんです。どうして私なんかの面倒を見てくださるのか分かりません。
でも、そのお陰であの人と共に戦い、一人の少女を救うことができました。感謝してもしきれません!
「そうか。最近のレミエルは以前と比べて明るくなったな。その調子で立派な天使に育っておくれ」
「は、はい!」
行ってくる、そう言って部屋の窓からガブリエラ様は飛び降りました。
急いで窓に駆け寄ると一対の大きな翼を羽ばたかせて虹の宮殿に飛んでいってしまいました。
「私にも、あんな翼が……ううん。今は私にも翼があるもん。早く片付けてお稽古しなきゃ!」
ガブリエラ様の使っていた資料は1冊1冊が重く、分厚いのでちょっと運ぶのが大変です。
「えっと、1、2、3、……15冊もある。お昼までに終わるかなぁ」
資料を保管してある書物庫は地下にあります。
前は地上にあったそうなのですが、壊れてしまったので地下に新しく作ったみたいです。
「でも、どうして壊れてしまったのでしょう? ガブリエラ様に聞いても苦笑いを浮かべるだけですし」
どんな理由があって壊れたのかはとりあえず置いておきましょう。早く運ばないとお稽古の時間がなくなってしまいます。
「よいしょ、っと。やっぱり……重い、です」
私は両手で抱えて資料を地下に続く階段のところまでなんとか運びました。でも、重いのを分かっていながら2冊も持ったのは間違いだったかもしれないです。う、腕がプルプルしてきました。
「うーん。何か楽に運べる方法はないでしょうか? 後は階段を下るだけですし」
……そうだ! 飛んで運べばいいのです。私は片翼の天使ですが、今は光の翼があります。あの時のように飛べるはずです!
「はぁあああ!! 光の翼よ!」
あ、あれ? 背中を見ても光の翼はありません。昨日のお稽古ではうっすらと出すところまではできたのに!
「うぅーん! 出てきてください、光の翼さん!」
資料を地面に置いてやってみてもダメでした。今度は深呼吸をして落ち着いてからやってみます。
「やっぱり、出てこない……? 一体どうし──」
「レミエル? 何してるの?」
「ひゃあああ!!? ゆ、ユラちゃん!? 驚かせないでー!」
「驚かしたつもりはないんだけど。それより、あなたは何をしていたの? 声が響いてきたけど」
「響いて……? あっ」
ここは地下に続く階段の前、私はそんなところで大きな声を出していたのです。
あぁ、恥ずかしすぎます。穴があったら入りたい気分です。
「この資料……、なるほど。これを戻しに行っていたのね。私も手伝ってあげる」
「あの、でも……」
「これでも毎日剣を振ってる身よ、力には自信があるの」
そう言ってユラちゃんは軽々と分厚い本を二冊とも持ち上げます。
ユラちゃん、それは女の子としてどうなんでしょうか。ユラちゃんは最近、グラディーサ様に似てきている気がします。
あの方は無類の戦い好きですから、ユラちゃんにはあまり似てほしくありません。
私は優しいユラちゃんの方が好きです。
「ユラちゃんはどうしてここに? 女神のお仕事ですか?」
「違うわ。ただ遊びに来ただけ。それとお昼のお誘いかな」
「えぇ!? もうお昼なんですか!? あうぅ」
「み、耳がっ……」
また叫んでしまいました。耳がおかしくなりそうです。ユラちゃんは二冊を片手で持ちながら、もう片方の手で耳を塞いでいました。
「ご、ごめんなさい、ユラちゃん。私がダメダメでドジなせいで」
「気にしないの。ミスは誰だってあるんだから。そんなことより早く運んで私の働いてる宿でお昼食べましょ?」
「あっ、それなら、私も持ちます」
「これは私が持つから、レミエルは次から手伝って? この資料だけじゃないでしょ?」
「どうしてわかったんですか? まだ残ってるって」
「んー、女神の勘、かな」
少し照れくさそうにするユラちゃん。
力持ちになってもユラちゃんはやっぱり優しい女神です。
最初の二冊はユラちゃんに書物庫まで運んでもらいましたが、その後は私も頑張って5冊運びました。
ユラちゃんが手伝ってくれたお陰であっという間に終わったので、お礼にお昼は私が奢りました。
でも、ユラちゃんは何だか複雑そうな表情でお昼を食べていたのはどうしてでしょうか。
「そういえば、ユージたちと初めて会ってから二ヶ月が経つわね」
「もう二ヶ月ですか……」
私に居場所を気づかせてくれたαドライバーのユージさん。彼は今頃元気にしているでしょうか。
ユージさんのことですから、また血だらけになりながら誰かのために力を使っていそうです。
「この間ここに来てくれたときはミウミやサオリじゃない女の子を連れてたけど、今度は誰を連れてくるのかしらね」
「そうですね。この間……っ!? え、ユラちゃんはユージさんにまた会ったんですか!」
「たまにこの宿を使ってるよ? クエストがどうとか言ってたけど。ユージがどうかしたの?」
「……はぁ、私は不幸です。間の悪い天使です。光の翼も失ったダメ天使なんです」
どうしてでしょうか。ユージさんに会えたかもしれないと思うと胸がきゅーっとなります。
光の翼が出せなくなったのもそれが原因だったりするのかな。
「急に後ろ向きな考えになったわね。……あ、ユージ。また来てく──」
「ユージさん!?」
ユージさんが来たと聞いて、慌てて入り口の方を見ましたがそこにはユージさんどころか誰もいません。
「もう、ユラちゃん。嘘はいけませんよっ」
「ごめんなさい。謝るから羽をしまってくれないかしら。すごく、眩しい」
「ふぇ? 眩しい?」
なんと、意識をしたわけでもないのに私の背中から光の翼が出現していました!
私自身もよくわからずにあたふたとしていると、ユラちゃんが私の顔を見て驚いていました。
「ねぇ。……その目、どうしたの?」
「目、ですか? なんともない、ですけど」
すると手鏡を取り出して私に渡してきました。これで見ろ、ということです多分。
「ぇ……、なにこれ」
手鏡に映る私はキョトンとした顔で私を見つめていました。
でも、鏡の中の私の左目は金色で瞳のなかに白い十字模様が入っていたのです。
私の知る私じゃないことに違和感がある……。でも、嫌じゃないです。
「……レミエル?」
「大丈夫です。多分、力を使っている副作用、みたいな感じです。だから大丈夫、ですよ」
微笑みながら手鏡をユラちゃんに返します。
「そっか。そんな顔ができるなら大丈夫そうね。それで? 戻せるの?」
「やってみます……」
力に意識を集中させる。
資料を運んでいたときとは違う、私の中の何かと繋がっているという感覚。
ユージさんとリンクをしたときのようなあの感覚。
そんな感覚が私を寂しくさせる。
ユージさんと繋がりたい。ユージさんに頭を撫でてほしい。ユージさんに頼りにされたい。
──また、お話ししたい。
光の翼が消える間際に色々な感情が流れてきた。
これは光の翼さんと……私の気持ちなんだね。
「……どう、ですか?」
「うん。翼も消えたし、目も戻ってるよ」
「……ユラちゃん。私、ユージさんに会ってきます!」
「え、それはちょっと無理があるんじゃない? それに、天使の仕事はどうするの。立派な天使になるんじゃなかったの?」
うぅ、ユラちゃんの言っていることが正論過ぎて言い返せないです。確かに天使の仕事はまだ残ってます。
中途半端なところで投げ出していてはガブリエラ様のような立派な天使にはなれません。
「でも、ユージさんが」
「ユージに会うだけならこの宿でもいいでしょ? 多分、また来てくれるからその時にでもたくさんお話したらいいじゃない」
「うっ、そうですけど……、でも」
バサリという強い羽ばたきが入り口の方で聞こえて思わず振り返ってしまいます。
光を浴びてキラキラと輝くほどの純白な翼。
地面に突き立てた身の丈もある大剣はドワーフが振るった最高傑作と言われ、この世界で唯一無二のもので持っているのはあの方だけ。
「なんだ。やはりここにいたか」
「えっ? ガブリエラ様!? どうしてこんな寂れた宿なんかに?」
「ゆ、ユラちゃん。ちょっと落ち着こうよ、店主さんが凄い目で睨んでるよぅ」
「だってだって、あの四聖天使のガブリエラ様よ。落ち着いていられないよ!」
「レミエル、探したぞ。資料の片付けは終わらせたようだな」
「あ、その、ユラちゃんに手伝ってもらいました……」
優れた天使の前で嘘は通じません。
それはガブリエラ様だって例外ではないです。私が嘘をついてもすぐにバレてしまうはずです。
「新人とはいえ女神に天使の仕事を手伝わせるのはどうかと思うが……」
「違います! 私が手伝うって言い出したんです! 私は、友達としてレミエルを手伝いました。女神としてではなく、友達として」
「わかっている。その光景をたまたま見ていたエクスシアから話は聞いている。だから、その事についてとやかく言うつもりはない。ここに来たのは別件だ」
「別件……?」
なんでしょうか、全く心当たりがないです。
首を傾げる私を見て、ガブリエラ様は微笑みを浮かべていました。
第2話につづく