アンジュ・ヴィエルジュ-もしもの世界の物語- 作:Kuroya
お気に入りの子が皆様にできたらいいなぁ。
それでは、新章開幕です!
※不定期更新です。ご了承ください。
第1話 初授業
入学式の翌日、雄二は気だるげに授業を受けていた。
授業と言っても授業らしいものではなく、この青蘭島の設備や他の世界の説明といったオリエンテーションのようなものだ。1-Aの教室では制服を着た生徒たちが先生の話に耳を傾けている。
「ニュースとかで聞いて知っている人も多いかもしれないけど、一応説明するわね。この青蘭島は東京都に属する無人島だったの。各世界に繋がる門がこの島の上空に出現して
安堂先生はスクリーンに映しながら説明をしている。
雄二は説明を聞きながら、少し周りを見ていた。
この教室は40人分の席が用意されているが、明らかに昨日より空席が多かった。
何人か他世界の生徒もいるが、それ以外は全員地球人なのだ。
「成瀬、雄二君だったかしら。この光景が不思議?」
「あ、はい。なんだか、空席が多いなと」
ん? よく見たら制服を着ているのも青の世界のやつらだけのような……。
「いいでしょう。それじゃあそのことについて説明してあげるわね。皆も不思議に感じているだろうけど、ここでは大体こんな感じよ。通常の授業には別に出なくてもいいの」
元々この学園はプログレスやαドライバーを育成、保護するための機関。だから重視されるのはブルーミングバトルといった特殊な授業なのだ。しかし他の世界の子はそれでよくても、地球で暮らしていく生徒はそれだけでは生きていけない。
いずれ社会に出るときのために勉強しなければいけないことがたくさんある。
そのため通常授業では青の世界出身の生徒ぐらいしかいないのだ。
「授業に出る、出ないは自由よ。あなたたちが選んでもかまわないわ。だから他の世界の子もこうやって授業を受けれるから、仲良くするのよ? 先生、いじめは許しませんからね」
生徒たちは先生の話を聞いて騒めいていた。
サボりを公認したようなものだ。ちらほらとサボろうかなと言う声が聞こえてくる。
「でも、期末にはテストをするから。よく考えて、選びなさいよ?」
「テスト……うぅ、嫌な記憶がよみがえってきた」
美海は頭を抱えて唸っていた。中学の時はテスト期間になると毎回勉強を教えていた雄二は美海の嫌な記憶というものが何なのか大体わかっていた。
「なあ、美海。中等部の時、勉強はどうしていたんだ?」
「どうって、普通に授業受けて、テスト期間には沙織ちゃんに勉強教えてもらってたよ」
「苦労したんだろうな、その沙織って子は」
「ちょっ、それどういうこと! 私だってもう高校生。中学のときとは違うんだから!」
ほう。それは期末が楽しみだ。
雄二は美海との会話を切り上げて先生の話に集中した。
「じゃあ次はこの学園の特殊カリキュラム、ブルーミングバトルについて説明します」
安堂先生は誰を指名しようかと生徒たちを見る。
「そうねぇ……、岸部さん。ブルーミングバトルについて説明してくれるかしら」
先生に指名されて立ち上がった岸部という女の子。
雄二はふと昨日のことを思い出した。入学式の前、体育館に行くために廊下に並んでいたとき、妙に美海との関係を聞いてくる女子がいた。その子が岸部だったのだ。
「はい。ブルーミングバトルとは青蘭学園内で行われるプログレス同士の模擬戦闘のことです。最大4人のプログレスがフィールド内で戦い、戦況に応じてリーダーであるαドライバーがプログレスを強化したり、控えのプログレスと入れ替えることができます。フィールドで発生するダメージやエネルギーはαドライバーが負荷として受け止めるため、αドライバーが倒れれば試合終了になります」
一呼吸置くと岸部は説明を続けた。
まるで教科書を朗読しているみたいにスラスラと出てくる岸部にクラス中が注目している。
「流石沙織ちゃんだね」
「え、あの子が? なるほど、勉強のできる優等生ってわけか」
「うん。でも――」
「そして、参加にはチームを組む必要があり、プログレス1名、αドライバー1名が最小の構成。プログレスは最大8名までチームに登録できますが、αドライバーは1名だけしか登録できません。じゅ、授業で行うブルーミングバトルはこの学園に設けられた闘技場で実施します。そそ、その様子は編集されたものであれば、島外でも視聴することができ……っ! できます」
「その通りよ。ありがとう、岸部さん」
そう先生が言うと、美海は拍手をした。一人、また一人と拍手し出して、いつの間にか拍手は大きくなっていた。だが、その拍手を一身に浴びて耳まで真っ赤にしながら岸部は座った。
「でも、ちょっと照れ屋さんなの。可愛いでしょ?」
「確かに可愛いけど……」
中等部のときも岸部は美海に振り回されていたと思うと何故か他人のように思えなかった。
……とりあえず俺も拍手しておくか。
「ブルーミングバトルの詳しい説明は次の時間、校内の闘技場で行います。その前にプログレスとαドライバーについて知ってもらう必要がある。これはあなたたち自身に必ず関わってくるものよ。あと少しだから最後まで聞いてね」
プログレス――
青の世界では、世界接続による異変を機に確認され始めた異能を持つ少女たちの総称だ。世界接続以前から存在が示唆されていた『魔法使い』や『超能力者』なども、プログレスにあたる。
青蘭島には他の世界からも多くのプログレスが訪れており、単純に観光目的であったり、良い成績で卒業することを目指していたり、正義感で動くものだったりと、動機は様々である。
現在、プログレスに男性はいない。
何故か発現するプログレスは女性であり、その大半が10代の少女たちなのだ。
「さて、プログレスのことはニュースでも何度か取り上げられて知っていたりするけど、αドライバーって名前には聞き覚えがない人がほとんどよね。皆の知っている通りプログレスには女性しかいない。なら、この教室にいる男子たちは何なのか。……そう、彼らがαドライバーよ。ちょっと前に出てきてもらおうかしら」
「頑張って雄二! 笑顔だよ、笑顔♪」
「無理なのを分かってて言ってるだろ、それ」
「ほら、いってらっしゃい」
美海に背中を押されて前に向かう。他の男子も乗り気じゃないのか前に向かうスピードは遅い。
「ほら、早く出てくる。じゃあ、一番窓際の子から自己紹介してもらおうかしら」
一番窓際にいたのは雄二だ。訴えかける視線に気づいたのか雄二にウィンクをする先生。
雄二は呆れながらも自己紹介をする。
「
無表情で簡潔に済ませる雄二。その冷めた態度にどう反応していいのかクラスメイトは戸惑っていた。
やばい。何を話したらいいのか分からない!
雄二は内心焦っていた。元々人前で何かをするという事に慣れていない上に見ているのは女子ばかりなのだ。
「えっと、成瀬君? もっと何かないのかな? それだと味気ないっていうか皆も取っつきにくいと思うの」
「え、はい。そうですね……、無表情ですが感情はあります」
「も、もういいわ。ありがとう成瀬君。それじゃあ次の人お願いね」
「……
朝比奈は小さくお辞儀をすると制服のポケットからスマホを取り出して操作し始める。
雄二は何をしているのか手元を覗いてみたが、アンドロイド工学という項目のページを見ているという事しか分からなかった。
「じゃあ最後は俺か。
「一応ここにいる全員の自己紹介は終わったわね。あ、そうそう。このクラスのαドライバーは全員で四人。あと一人は昨日もいなかったけど、今は黒の世界にいるそうよ。今日中には来るらしいからその子の紹介はまたその時にね」
安堂先生はスクリーンに映るパワーポイントを切り替えてαドライバーの説明に入る。
「αドライバー、通称アルドラとはプログレスたちを強化する力を持つ能力者のこと。確認されているその全てが男性よ。プログレスの持つエクシードを強化させることができるほか、αフィールドによってプログレスが受けたダメージを引き受けることで、プログレスたちを保護するわ」
ブルーミングバトルにおいては、プログレスたちは必ずαドライバーをチームメンバーに加えることが義務付けられている。数少ないプログレスよりもさらに数が少ない、極めて稀少な存在。そのため人数比の関係上、一人のαドライバーに対し複数のプログレス、というチーム編成になる場合が多い。
「だからプログレスの皆はαドライバーを選ぶとき、後悔しない選択をしなさいね。αドライバーの君たちも稀少な存在だと威張って女の子を傷つけないように」
先生はそう言うと教卓の上の段ボール箱を開けて何かの端末を取り出す。
「αドライバーの君たちには渡すものがあるの。はいこれ」
「スマホ、ですか?」
端末を受け取った雄二はスマホによく似たそれを見て、そう質問していた。
だが、その質問に答えたのは先生ではなく朝比奈だった。
「これは、αドライバー専用ブルーミングバトル補助端末だな」
「知っているのか? 朝比奈」
「ああ。私のことは淳で構わない。これはその名の通りαドライバーのブルーミングバトルを補助するための端末だ。先程安堂先生が説明していたが、αドライバーのバトルでの役割は攻撃の補助やダメージの身代わり、状況に応じてのメンバーの入れ替えが主なものだ。それらを円滑にするための手助けをしてくれる端末という事だ」
「見た目は完全にスマホなのに凄いものなんだな」
「お、電源ついた。なんだこれ? いろんな項目があるな」
垣内は雄二と朝比奈の話を聞きながら端末をいじっていた。するとボタンが押されたと判断して電源がついたのだ。
「全く、先生が説明する前に勝手に操作しない。君たちだけで話していると女の子たちが置いていかれちゃうでしょ」
先生の言葉にハッとする三人。
「垣内君はもう電源をつけたみたいだけど、二人は端末の横にあるボタンを押して電源をつけてくれるかしら。プログレスの皆はもう休憩にしましょうか。次の時間は闘技場だから遅れないように行くのよ。それじゃあ解散! ほら、あなたたちは説明を聞く」
女子たちはワイワイと休憩をし始めるなか、アルドラの三人は教室の前方で端末の使い方を教わっていた。そして彼らが解放されたのは授業が終わる直前だった。
「おっと、チャイムが鳴ったわね。使い方の説明は終わり。あとはそれをちゃんと使いこなすこと。それを使いこなせばバトルもやりやすくなるから頑張ってね」
安堂先生はそう言うと教室を去っていく。男子たちはとりあえず教えてもらったばかりのチャット機能を起動してお互いにIDを登録してからそれぞれの席に戻った。
第2話につづく