マブラヴで楽していきたい~戦うなんてとんでもない転生者 作:ジャム入りあんパン
人類初の、戦術機のみによるハイヴ攻略。
その報告はまたたく間に世界中に広まった。
一体誰が、どこの国が、どんな戦術機を使った。誤報じゃないのか。
世界は揺れた。大いに揺れた。そして、その大本を知って更に騒ぎに発展した。
『新塚拓哉の私設部隊がやった』
『光学兵器を搭載した戦術機を用いた』
『それを中央アジア戦線の部隊にばら撒いた』
世界中が日本とコンタクトを取ろうとした。だがそれよりも早く、拓哉は人員を動かしていたのだ。
その内の一つの部隊が、ソビエト連邦と東ドイツに件の戦術機、『ジム』を提供したとなって騒ぎに発展し、更に西ドイツ以西の国家にもばら撒いたと知って大騒ぎとなった。
日本人は物の価値が分かっていないのかと。
機体性能は驚愕に値するものだった。一部F-15を購入していた国などは『ガラクタを買ってしまった』と悔し涙を流したそうだ。
「ファッキン、ジャップ!!!」
ドカンッという、机を叩き割らんとする凄まじい音とともに拳が叩きつけられる。
その気持ちも察してあげて欲しい。自分たちが最新鋭機であると言って売りに出した機体をガラクタ呼ばわりされたのだから。
そして、その評価は正しく、F-4改造機である瑞鶴改を圧倒的に上回る性能を持っていたのだから。
「まだタクヤ・ニイヅカを抹殺できんのか!?」
「プレジデント。残念ながらそれは不可能に近いです。タクヤ・ニイヅカは現在中央アジア戦線に参加しています。彼の家族を人質に取ろうにも、周囲はインペリアル・ロイヤル・ガードの護衛が陰ながら守りについている始末」
「ちっ、あのままBETAの餌になっていればよいものを!」
前線国家に聞かれたら堪ったものではない一言だが、今のこの場にいる人間の内心を如実に表していた。
遡ればまずはヒートサーベルとレールガン。学習型コンピューターというおまけも付いて、世界中にばら撒かれた。ほとんどタダ同然で、というおまけ付きでだ。
ヒートサーベルやレールガンに至っては、ブラックボックス化は一切なされておらず、結局各国で解析がされ、日本の利益というものは殆どなかった。
だが、学習型コンピューターは違った。ブラックボックス化は実に念入りで、アメリカの科学機関で今を以って解析できていないというおまけ付き。更に、性能は従来のOSを上回るほどだった。
これが日本の収入源だというのは間違いない。だが、問題はそんなところではない。そのOSがたった一人の子供によって作られ、今もなおバージョンアップを続けているという、これもまたおまけ付きで。
だからこそ機体の性能を上げることに躊躇はなかった。F-15イーグルは、F-4ファントム、F-5フリーダムファイターを圧倒的に上回る性能をえたのだ。今度こそ、日本の戦術機を叩きのめす。はずだった。
だが結果は惨敗。自分たちが見切りをつけたF-4改修機の瑞鶴で以って、完膚なきまでに叩きのめされたのだ。
更に面白くないのは、瑞鶴改とF-15の間に大きなスペック差はない。衛士の実力次第でかんたんにひっくり返る程度の性能差だったのである。
絶対に何かがあると踏んだ米国側は、なんだかんだといちゃもんを付けたのだが、それに対するタクヤ・ニイヅカの答えは『そんなに気になるんなら、お互いに交換する?』その一言によって、F-15と瑞鶴改の交換がなされたのだ。
その結果は語るべくもない。F-4系列機としては最高の改造が施してあり、同時に、機体のスペックはどれだけ調べてもほぼ同じ。衛士の優劣だけで簡単に覆るぐらいの差だった。
『つまり、我が国の衛士はジャップにも劣るということかー!!』
大暴れした大統領を抑えるのにかなりの苦労を要したとだけ、記録しておこう。
そして、今度は光学兵器持ちの純国産機という。更には、空飛ぶ戦艦まで現れたというのだから、笑えない。
「どうにかジャップどもからジムを手に入れることは出来んのか?」
「いつものバラマキ外交ですからね。そのうち我が国にも回ってくると思いますが」
「それでは遅い!そもそも、日本の我が国寄りの議員はどうした!」
「日々その数を減らしつつあります。残っているのは、日本の言葉を使うと、『箸にも棒にもかからない』議員ですよ」
「シット!!!」
「プレジデント、事態はそれだけではありません。軍需産業の衰退が続いています。このままでは我らの主要産業を全て日本に持っていかれます」
「技術者の国外流出が続いています。このままではいずれ・・・」
聞きたくない情報が山と押し寄せる、それに合わせて書類が山積みになる。
なぜ、どうしてこうなった?大統領はその考えに頭を埋め尽くされたまま、後ろにひっくり返り意識を失った。
少なくとも、今の彼はすごく幸せであった。面倒なことを投げ出すことが出来て。
日本国内でも荒れに荒れた。
何しろ満を持して登場した国産戦術機第一号ガンダム。その量産型であるジムは、ほとんどタダ同然で世界にばら撒かれたのだから。
「まあ、困った子ねぇ」
「困ったではない。何を考えているのだ」
それは新塚家でも同じことになっていた。拓哉の無軌道な行動は、決して意味のないことではない。が、いかんせんそれが世界常識と比べると突飛にすぎるのだ。
拓哉の父は戦術機衛士の適性を持っていなかった。それでも戦術機に関わりたかった彼は、必死に勉強して技術廠にはいったのである。
だが、その難関である技術廠にわずか5歳で入り、今では常識はずれの超兵器を作り、ばら撒いているのだ。
「拓哉は言っていました。一番大変なのは最前線と」
「知っているとも。だが、もう少しやりようがあっただろうが!」
「それはあの子の未熟ですわ。視野が狭く、思い込んだらそこを曲げることのない頑固者。でも、大丈夫でしょう」
そう言って彼女は夫に微笑む。もう40に届こうという年のはずだが、20代で通じる美貌を持った彼女は静かに言った。
「あの子のしたことで不幸になった人が居ますか?」
海の向こうでは大量生産されているのだが、少なくとも彼らの目の届く範囲では・・・。
「おらん、な」
「ならば、私たちは信じて待ちましょう。拓哉が安心して戻ってくることが出来るように」
母は強し。まさしくそれを表す光景だった。
その一方で胃が痛いのが一人。
榊是近である。自分も軍人であったのなら、ここで無為な会議に出席せずとも、のんびり空の旅と洒落込めたのだろうか?
それともずっと前に、従兄弟に誘われた時に一緒に機械の修理工になっていれば、この苦労はなかったのだろうか?
考えるだけ無駄である。賽は既に投げられており、今の榊は一大派閥を纏めなければならないのだ。
「ままならんものだな・・・・・・」
「榊外務大臣、どうかなさいましたか?」
「なに、空の果てにいる友人と従兄弟を羨ましく思っているところだ」
友人、彩峰萩閣は優れた戦術機の衛士ではあるが、同時に優れた指揮官でもある。人類初の空中戦艦の艦長になれると知った彼の喜び様は、見ていて微笑ましいものだった。仲のいい従兄弟、清太郎もあの年で新しい機械に触れる事を誰よりも喜んでいた。見込みのいい弟子を複数人引きずって旅立っていった。
さて、何度も思う。早くこの阿呆な場から開放されたいと。
「然るに!あの子供を今ここに招集し、証人喚問に」
「国連から意見書が来ているぞ!どうするつもりだ!」
「彩峰中将がおられながら、あの子どもの手綱も満足に握れないとは」
この場にいる誰もが、人類初のハイヴ攻略という点に目を向けていないらしい。
「あの議員はアメリカから国連に乗り換えたか・・・」
「はっ。ですが、第三計画は・・・・・・」
「うむ。長くはないだろうな」
A-01の大半を失ったと聞いている。大した成果も出せず、独断専行の末に部隊壊滅。挙句、助けられるというおまけまで付いたのだ。
彼らにまともなプライドがあれば、少なくとも日本の手柄を横取りしようとはしないだろう。
「さて、私はどうするべきかね?」
「立たれてはいかがでしょうか?榊外務大臣ならば総理大臣も容易いかと」
取れるだろうな。他にタレントが居ないこの現状では。
「おそらく、私は近代で最も嫌われた総理大臣になるな」
いい加減嫌気のするこの茶番劇にとどめを刺すべく、榊是近は立ち上がった。
立ち上がるしかなかった。
そして、次の物語の幕は開く。