マシュの姉が逝く【完結】   作:VISP

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その15 日常ってなんだっけ?編 微修正

 結果として、藤丸立香は生還した。

 しかし、彼は間に合わなかった。

 

 サドゥ・キリエライト。

 彼女の心は、壊れたままで固まってしまった。

 

 「…お帰りなさい、立香。」

 「うん、ただいまサドゥ。」

 

 一見、何の変哲もない様に見えた。

 でも違った。

 

 「………。」

 「サドゥ?どうしたの?」

 

 ただの壁を見つめてぼぅっとしているのを目撃した。

 

 「サドゥ?」

 「…ぇ、あ、立香、どうしたの?」

 

 明らかに様子がおかしかった。

 

 「…………」ブツブツブツブツ…

 「……っ…。」

 

 誰もいない虚空に向かって、誰にも聞き取れない小声で何かを呟いているのを目撃した。

 

 「………。」

 「サドゥ…。」

 

 後は寝るだけの深夜帯、何をするでもなく、ただベッドに腰かけたまま動きを止めているのを目撃した。

 

 明らかに、異常だった。

 

 立香がロマニやキャスター、或は事情を知っていそうなサーヴァント達に聞いて得た答えは、絶望的なものだった。

 立香が彼女を前を向いて生きる人間に一緒になろうとした結果、彼女は幸福という極普通のものを見出す事が出来た。

 だが、それを思い出させてくれた立香が目の前で魂を拉致されると言う事態に、それを奪われると言う苦痛の存在する未来もまた、見出してしまった。

 

 「ボクの、せいだ…。」

 

 結論だけ言えば、藤丸立香がサドゥ・キリエライトに行った行動は、敵の横槍により、全て裏目に出てしまった。

 カルデアの面々は知らない事だが、今のサドゥは辛うじて人としての精神を保っている状態だった。

 元々が二人分の砕け、欠けた魂を無理矢理に繋ぎ合わせて一個人とした魂。

 普通の魂よりも脆く、歪んだソレは、立香とマシュによって優しく丁寧に穏やかな形になっていく筈だった。

 しかし、横槍によって彼女の心は砕けた。

 結果、それはより一層歪んだ形で、辛うじて人の精神としての範疇に収まる程度の形で、取り繕う様に再構築されてしまった。

 それはもう、通常の方法で、彼女を救う事は出来ないと言う事だった。

 

 「今のサドゥは、壊れかけてるんだ…。」

 

 何処を向いても結局、不幸にしかなり得ないのなら、先ずソレを感じる心を殺そう。

 それ自体はよくある話だ。

 酷い話にはよくある事だが、それがまさか目の前にまざまざと見せつけられる事になるとは思いもしなかった。

 直に心は壊れ、単なる人形になり、最後には設計通り活動を完全に停止するだろう。

 或はそれはデミ・サーヴァントと言う兵器としては優れているのかもしれないが…それがサドゥ・キリエライトの結末だった。

 

 「先輩…。」

 

 それにマシュは何も言えなかった。

 姉は自身の事を隠しつつも、妹と立香の事を慈しんだ。

 立香は目の前の旅に必死になりながらも、二人の姉妹を慈しんだ。

 二人とも、純粋な善意と言う訳ではなかったが、それでも互いの事を想っての事だった。

 だと言うのに、だと言うのに、その結末がコレなのだろうか…?

 ただ、間が悪いからこうなったと言うのだろうか?

 それは余りにも…

 

 (なんて理不尽。)

 

 この日、マシュ・キリエライトは初めて世界と言うものに怒りを抱いた。

 

 

 

 

 ……………

 

 

 

 

 「…立香、泣いてるの?」

 

 気付けば、目の前で少年が泣いていた。

 人類最後の希望を背負わされた、唯の善人の少年だ。

 彼は何故か、自分を見て泣いていた。

 

 「…大丈夫、大丈夫だから。」

 

 最近、感覚が一層鈍くなってきた手を慎重に動かして、その涙を拭う。

 後どれ位、自分は正気の時間を保てるだろうか?

 もう記憶も途切れ途切れで、今が何日なのかも分からない。

 後どれ位、この少年の力になってやれるだろか?

 ステータスが高くても、それを生かせる戦場に行く事も出来ないのに。

 死を心から望みつつも、彼と妹の事だけは気がかりだった。

 

 「…私は最後までいけないけど、君の旅には幸いがきっとあるから。」

 

 白々しい言葉だと自分でも思う。

 でも、どうか彼と妹には幸福があってほしいと、柄にもなく祈りたくなる。

 

 「でも、サドゥがいない…っ」

 

 泣きながら囁かれた言葉に、仕方ないよ、と返す。

 目の前の彼だって、何時か自分の下から去ってしまう。

 自分だって、結局はどう足掻いたって、彼を置いて去る側の人間だ。

 そう設計されているのだから。

 

 「…でも、マシュはいる。Dr.も、ダヴィンチちゃんも、カルデアの人達も、サーヴァントの皆も、ね?」

 

 ぎゅうと、ただ抱き締める。

 貧相な身体だが、それでも人肌は人を落ち着かせる。

 悔しそうに涙を流す立香の嗚咽が僅かだが収まっていく。

 

 (あぁ、どうしようかなぁ…。)

 

 死にたいと、本当に願っているのに、

 

 (ほんの少しだけ、もうちょっとだけ長く…)

 

 ぎゅっと、腕の中の頭を大事に、決して傷つけない様に抱き締める。

 

 (生きてみたい、なんて思っちゃった。)

 

 第5特異点発見の、三日前の事だった。

 

 

 

 

 ……………

 

 

 

 

 第5特異点。

 そこでの異変はアメリカ独立戦争時、イギリス軍ではなく女王メイヴが率いるケルト軍に蹂躙され、対抗する様に米国歴代大統領の力を得た発明王エジソンによるパワードスーツを装備した大統王国軍との大陸規模の軍事衝突だった。

 これに更にインド叙事詩の大英雄、ラーマとアルジュナ、カルナの3騎に加え、アウトローと言う何処にも属さぬ風来坊なサーヴァントらを加えたのが、北米における英霊達だった。

 何と言うかもう…総合するとスーパーケルト&インド大戦と言うべき惨状だった。

 カルデア一行は両軍の最前線の一角にレイシフトし、そこで治療行為を行っていたフローレンス・ナイチンゲールに確保され、殆どなし崩し的にエジソンらと合流した。

 が、北米のみを人類史から切り離す事で延命を目指すエジソンとの交渉は決裂し、一時カルナによって捕獲されるも、アウトローのサーヴァントらの手を借りて脱出に成功した。

 後にアウトロー達を糾合しつつ、何で死んでないのか分からない程の重傷を負ったラーマの治療のためにナイチンゲールに引き摺られる形で北米を転戦、何とか彼の治療と奥方にかかった呪いを除去する事に成功(この時、一時的にサドゥが戦線に参加)し、再度エジソンと交渉する事で、漸く戦線を対ケルトに集中する事に成功した。

 一部少数精鋭を敵側首都ホワイトハウスに急行させつつ、二分された戦線での最後の大攻勢が開始された。

 結果、少数精鋭は敵側についたアルジュナに殲滅されたものの、戦線の押し上げには成功する。

 一度小休止の後、再度大攻勢を開始、主戦線にてアルジュナにはカルナをぶつけて膠着させる。

 が、敵司令官であるクー・フーリン・オルタによりカルナが撃破。

 これにより戦線は再度膠着してしまう。

 進軍再開と共に、アルジュナが出現、交戦し、撃退に成功する。

 第二戦線にて強化型魔神柱が出現、配置されたサーヴァントらの捨て身の攻撃と新規召喚された二コラ・テスラにより時間稼ぎを敢行する。

 主戦線にて、女王メイヴの撃破に成功する。

 これにより敵ケルト兵の消滅を確認、クー・フーリン・オルタへと戦力を集中する。

 第二戦線にて、アルジュナが出現、全力の宝具による真名解放により、強化型魔神柱の撃破に成功する。

 そして、主戦線にて、遂にクー・フーリン・オルタ及び出現した魔神柱の撃破に成功する。

 これを以て、第5特異点での戦闘を終了した。

 

 

 

 

 ……………

 

 

 

 

 第5特異点攻略後、カルデアに帰還してきた立香らは休憩もそこそこに、特異点で入手した「とある包帯」をセットして召喚を行った。

 この時、他の面々がいたら「おい馬鹿止めろ」と本気で止めただろうが、生憎と立香もまた色々と精神にキていたらしく、また、一縷の望みに賭けて、召喚を敢行した。

 結果…

 

 「私が来たからには、どうか安心なさい。全ての命を救いましょう。全ての命を奪ってでも、私は、必ずそうします」

 

 「手始めに…あの少女の治療を行いましょう。」

 

 現状のカルデアで最も来てはいけない方が降臨してしまった。

 

 

 

 

 




 さて、余りの鬱展開に作者が登場を躊躇させていた小陸軍省を登場させてみました(白目

 だって自分で書いてて結構な自爆ダメージががががが(ry

 まぁ此処から先は多少は改善しますので、愉悦部の方もまだ戻れる方も落ち着いてください。

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