学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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比企谷八幡は技術を習得する

「はぁっ……はあっ……っ!」

 

俺は息を荒く、身体をよろめかせながら前を見て両手を前にかざす。すると両腕に圧倒的な衝撃が走り、後ろに吹き飛ぶ。

 

そして俺が吹き飛ぶと先程俺の両腕に衝撃を与えた男の娘ーーー界龍第七学院序列6位『天苛武葬』趙虎峰が脚部に星辰力を込めて俺との距離を詰めてくる。

 

対して俺も脚部に星辰力を込めて距離を詰めにかかるも……

 

「ぐっ……!」

 

星辰力を必要以上に込め過ぎて自身の身体でも制御出来ない速さとなってバランスを崩してしまう。

 

そんな隙だらけの俺に対戦相手の虎峰が何もしない筈もなく……

 

「破っ!」

 

「がはっ……!」

 

俺の鳩尾に拳を叩き込んでくる。脚部に星辰力を込めるのに集中していたので鳩尾に対する防御が遅れて、モロに拳を受ける。

 

それによって胃液が込上がり吐きそうになるが何とか堪えて後ろに下がる

 

(クソっ……やっぱり生身じゃ手も足も出ないな……)

 

内心舌打ちをしながら息を吐く。既に俺は全身に痛みが走り、制服も裂けるなどかなりボロボロだが、虎峰は殆ど無傷。カウンターで何発か攻撃を当てたが戦闘に支障はないだろう。

 

悔しいが今の俺の体術では虎峰には届かないようだ。その理由としては星辰力のコントロール技術。

 

俺自身も今まで何度も足に星辰力を込めて速度を上げた事があるが、虎峰はそれ以上に星辰力を込めて爆発的に速度を高めている。

 

例えるなら普段の俺が足に込める星辰力を100とするなら、虎峰は500位込めている。そうなればどちらが早いのか言うまでもないだろう。

 

じゃあ俺も500込めれば良いと思うが、そう上手くはいかない。その500を込めるのが難しいのだ。

 

星辰力を足に込める事自体は簡単だが、量ーーー500というのは絶妙な数字で、俺が足に込める星辰力を増やすと100から一気に1000や1500込めてしまう。

 

それなら虎峰以上の速さを出せるが余りにも速過ぎて自身の肉体を制御出来なくてさっきのようにバランスを崩してしまい隙だらけとなる。

 

要するに足に込める星辰力を100から500にする為には凄く繊細なコントロール技術が必要という訳だ。

 

しかも虎峰の場合、常に500の星辰力を込めて戦っているのだから恐ろしい。身体つきを見ればわかるが相当鍛錬を積んだのだろう。

 

(しかしどうしようか……さっきから星辰力を暴発し過ぎだな……)

 

今日まで俺は安定性を重視して脚部に星辰力を込める事はなかったが、更に上に行くには虎峰の技術を会得しないといけない。

 

爆発的な加速力を得れたら鎧を纏った俺も更に機動力を上げれる。極めれば星露すらも勝てるかもしれないし、是非とも身につけたい。

 

そんな事を考えていると、虎峰が構えを崩す事なく口を開ける。

 

「さっきまでの戦闘で貴方が本気を出さない理由は大体わかりましたが……そろそろ限界でしょう。能力を使わないならここで終わらせます」

 

言いながら虎峰の脚部だけでなく拳にも星辰力が溜まる。界龍の拳士は拳に星辰力を込めて爆発的な威力の一撃を放つ、流星闘技のような技を使う。今の虎峰は決着をつけようとしているのだろう。

 

そして虎峰の言っていることは正しい。既に何度も爆発的な加速力を得ようとしたが、星辰力の制御に失敗して、バランスを崩した際に虎峰の攻撃を何発も食らっていてかなりボロボロだ。

 

能力を使わないなら十中八九負けるだろう。それについても嘘ではない。

 

しかしただで負けるつもりはない。最後に一回くらいは成功してやるつもりだ。

 

俺はボロボロになったら身体に鞭打って構えを取り、脚部に星辰力を込める準備をしながら腕にも星辰力を込めて虎峰と同じようなスタイルを見せる。

 

パワーと防御力は俺の方が圧倒的に上だが、スピードと技術は虎峰の方が圧倒的に上だ。だから一回でも星辰力のコントロールに成功すれば……

 

そう思いながらも構えを崩すことなく、虎峰を見据える。そして互いの視線が交差すると……

 

 

「はぁぁぁぁっ!」

 

虎峰がその風貌に似合わない雄叫びをあげて、大地を揺るがすような震脚を生み出しながら一気に距離を詰めにかかる。

 

(最後くらい決めてやる……!)

 

それと同時に俺も脚部に星辰力を込めて距離を詰めにかかる。針の穴を通すような繊細なコントロールをするべく。

 

すると……

 

(……出来た!)

 

最後の最後でバランスを崩すことなく、圧倒的な加速力を生み出すことが出来た。これまで生身では出した事のない速さーーーそれこそ影狼夜叉衣を使った時に匹敵する程の速さを生み出せた。

 

そして虎峰がこちらに掌底を放つ中、俺は直撃寸前に僅かに身を屈めて回避しながら星辰力を込めた突きを校章目掛けて放つ。ボロボロの状態にしては最高の一撃だろう。

 

 

 

 

 

「甘いですっ!」

 

しかし当たる直前に虎峰は身体を傾け校章の位置をズラしながら後ろに跳ぶ。それによって俺の拳は虎峰の脇に当たったが、虎峰が後ろに跳んで衝撃を受け流したからか、全く手応えを感じなかった。

 

(ちっ、今のタイミングを見るに咄嗟に行動した訳じゃないな)

 

おそらく俺が爆発的な加速を成功する事も計算に入れていたのだろう。やはり今の俺の体術では虎峰に勝つのは不可能だ。

 

内心舌打ちをしていると、後ろに跳んだ虎峰は全くダメージがないかのようにこちらに突っ込んでくるので、迎撃の構えを見せる。何もしないで負けるなんて絶対に嫌だからな。

 

そして再度脚部に星辰力を込めて距離を詰めにかかるも……

 

 

「ちいっ……!」

 

星辰力を込め過ぎて、再度一瞬だけ自分の制御出来ない速さとなり、バランスを崩し膝をついてしまった。やはりさっきのはマグレだったようだ。

 

すると虎峰がこちらに突っ込んできて……

 

「これで終わりです!」

 

叫び声と共に俺の顔面に飛び膝蹴りを放ってくる。今から腕を使って防御しようとしても間に合わないだろう。そして大量の星辰力を込められたアレを食らったら、こっちが星辰力を顔面に集中しても顎が砕ける可能性もある。

 

そこまで考えると……

 

「……っ!」

 

俺は反射的に影の盾を生み出して虎峰の飛び膝蹴りを防いでいた。咄嗟に生み出した盾なので、直ぐに轟音と共に壊れたが回避する時間は稼げた。

 

(やっちまった……能力を使わないで戦う予定だったのに……)

 

内心後悔しながら虎峰から距離を取る。

 

「やっと能力を使いましたか……僕としては全力の貴方と戦いたかったですよ……!」

 

虎峰は強気の笑みを浮かべながら構えを取る。全く、界龍の連中は本当に戦い好きが多いなぁ……

 

とはいえ一度能力を使ったし俺も使うか……、虎峰の技術は充分身体に教えられたし。

 

そう判断した俺は能力を使うべく、影に星辰力を込めると……

 

 

 

 

 

ビィィィィィィッ

 

『タイムアップ!試合結果、引き分け!』

 

「「……は?」」

 

ブザー音が鳴り、俺と虎峰の校章から機械音声が流れ引き分けを告げられる。

 

それによって俺と虎峰の口からは素っ頓狂な声が出てしまう。マジで?ここからって時に試合終了かよ?いや、まあ……制限時間有りだから仕方ないけどさ……

 

 

(空気読めよ……)

 

こうして俺の技術修得を目的とした試合は締まらない空気のまま幕を下ろしたのだった。

 

 

 

 

「ぷっ……あんなの実質負けじゃないですかー、やっぱり屑は大したことがありませんね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「痛えっ!も、もうちょっと優しくお願いします……!」

 

俺はついうめき声をあげてしまっている。虎峰との試合を済ませた俺は医務室に行った。理由は簡単、最後以外は生身で虎峰と戦ってボロボロだからだ。

 

「包帯巻くのにこれ以上優しくは無理ですからね?……とりあえず応急処置は済ませました。星脈世代なら3日で完治するでしょう」

 

「了解っす」

 

言いながら椅子から立ち上がり近くにある制服を着ようとするが、虎峰との戦いで裂けまくってみずぼらしいので影に星辰力を込めて影の服を作る。

 

そしてボロボロの制服を肩にかけて医務室を出ると……

 

「……八幡君」

 

横からそんな声が聞こえてきたので振り向くと最愛の恋人のシルヴィとオーフェリアがこちらにやって来ていた。

 

「よう2人とも。悪いな、勝てなくて」

 

シルヴィとオーフェリアは勝って欲しいと言っていたが、結果は実質負けの引き分けだった。2人の期待に応えられないのは申し訳なく思ってしまう。

 

「気にしてないから良いよ。それよりも趙君と戦えて何か得られた?」

 

「ああ。学べた」

 

一度だけとはいえ、俺も爆発的な加速力を使えたのだ。それだけで充分な成果だ。

 

そしてこの経験を活かすつもりでもある。来月から公式序列戦では全て体術のみ使用していこう。そうすれば王竜星武祭までにある程度モノにする事も出来るだろう。

 

「……なら良かったわ。それよりも八幡、試合も終わったし色々見て回りましょう?」

 

「別に構わないが、メスメルの試合だけ見て良いか?」

 

一応俺の弟子だし、どんな試合をするのか見ておきたい。

 

「わかったわ。じゃあ行きましょう……あ、その前に」

 

言うなりオーフェリアは俺に近寄り……

 

「お疲れ様、八幡」

 

ちゅっ……

 

満面の笑みを浮かべながらキスを落としてきた。すると身体に感じていた激痛が不思議と和らいできた。やっぱりオーフェリアのキスは最高だな……

 

「あ、じゃあ私も。お疲れ様八幡君……大好き♡」

 

ちゅっ……

 

続いてシルヴィも満面の笑みを浮かべながらキスをしてくる。ああ、もう……本当にこいつらは可愛いなぁ畜生。もう痛みなんて全く気にしてないな。

 

「俺もお前らが大好きだよ……さあ、行こうぜ」

 

俺がそう言って歩き出すと2人が俺の腕に抱きついてそれに続いた。

 

王竜星武祭まで後9ヶ月ちょう、それまでに界龍の拳士の技術を極めてやる。アレを極めて影神の終焉神装を使えば星露にも勝てるかもしれないしな。

 

 

 

 

 

 

「師父、ただいま戻りました」

 

界龍第七学院の中心にあるメインステージ、その特別観覧席にて虎峰は部屋の主人である星露に礼をする。

 

「ご苦労じゃった。まあ、技術を得る為に能力を使ってない八幡の相手ならそこまで疲れておらんじゃろうがな」

 

「……まあそうですね。可能なら次に戦うときは全力の彼と相見えたいですね」

 

「うーむ……手を抜くことはないとは思うが、全力を出すことはないと思うぞ。彼奴の全力は肉体に負荷が掛かるものじゃろうし」

 

「ふーん。てか星露ちゃん、比企谷八幡の全力って星露ちゃんと殴り合えるんだろ?どんな技なの?」

 

すると星露の前に序列1位にいたアレマが星露に尋ねると、星露が空間ウィンドウを開いて操作をする。

 

すると観覧席にいた星露以外全ての人が息を呑んだ。

 

空間ウィンドウには魎山泊の会場にて星露と薄い漆黒の、それでありながら圧倒的なプレッシャーを醸し出している鎧を纏った八幡が殴り合いをしていた。

 

両者から血が流れていて戦いの激しさを如実に物語っていた。

 

「こ、これが彼の本気ですか……?」

 

虎峰は戦慄した表情を浮かべながら震えた声で星露に話しかける。空間ウィンドウに映る戦いは自分とは別次元の戦いであるが故に。

 

「うむ。影神の終焉神装と言って影狼修羅鎧を凝縮させる事で絶対的な破壊力と防御力を生み出す。既に儂と八幡は百戦以上戦っており、戦績は儂の全勝じゃが、その殆どは影神の終焉神装の時間切れによる勝利じゃな。儂が影神の終焉神装を壊した回数など10もないじゃろう」

 

星露の言葉に観覧席に騒めきが生じる。星露の全勝とはいえ、星露が一定時間内に壊せない物が存在するという事実に。

 

「ん?てことは星露ちゃん。もしも比企谷八幡が虎峰のように、星辰力の細かいコントロール技術を身につけたら…….」

 

「うむ、儂を相手にしても勝ち星を挙げれるかもしれんのう」

 

星露はそれはもう楽しそうに頷く。

 

実際のところ、星露は悦を感じていた。アスタリスクには自分が本気を出しても潰れないであろう人間は居るが、殆どは立場などがあったり警戒されている。また星露自身戸籍上ではまだ13歳未満なので、逃げ道のない星武祭の参加も出来ず、本当の強者との戦うことは殆どない。

 

その点、星露にとって八幡は自分が全力を出しても潰れることなくマトモに戦える上、週に一度は必ず戦えると最高の相手であった。

 

そんな彼が新しい技術を加えて自分を超えようとするならば……

 

 

 

 

 

「くくくく……くふふふふ!良いのう!想像するだけで滾ってしまうわ……!ああ、その時は是非とも殺し合いたいのう!」

 

星露は我慢が出来ずにいた。全てをねじ伏せる圧倒的な重圧を醸し出し、餓狼の如く獰猛な笑みを浮かべて高笑いを始めた。

 

その場にいた星露の門下生は星露に怯えながらも、星露と八幡が殺し合いをするなら巻き添えを食らわないよう、直で見ずにライブ映像で見ると心に誓ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ……!」

 

「どうしたの八幡君?」

 

「……いきなり大声を出して、傷が痛むの?」

 

「……いや、なんというか……命を狙われた気がしただけだ」


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