学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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王竜星武祭に向けて各陣営は……(前編)

「へぇ〜、では綾斗さんも王竜星武祭に出ると?」

 

「うん。ユリスとも話して『大博士』に非人道的な実験をさせない為にもね」

 

「加えて八幡も協力してくれるから、正直言って頼もしい。まあ、優勝するのは私だがな」

 

星導館学園の高等部校舎の廊下にて、小町は隣を歩く綾斗とユリスに話しかけてると、綾斗は小さく頷き、ユリスは不敵な笑みを浮かべる。

 

「ほうほう……まあ小町としてはお兄ちゃんと当たる前に綾斗さんとは当たりたくないですね」

 

小町はため息を吐きながら手に持つペットボトルに入っているお茶を飲み干す。小町は優勝より大舞台で兄である八幡と戦って勝つ事を望んでいる。その事をこの場にいる人間は全員知っている。

 

「というかクローディアとしても総合優勝が目の前で同学園同士の潰し合いは避けたいだろうな」

 

今シーズンの星導館の順位は鳳凰星武祭と獅鷲星武祭を優勝したことから1位である。それも2位の界龍に対して圧倒的な差をつけながら。

 

しかし本戦の組み合わせ次第では首位の座を奪われる可能性もある以上、生徒会長のクローディアは同学園同士の潰し合いを避けたいと思っているのは当然である。

 

「そうですね。いくら優勝が間近とはいえ星武祭は何が起こるかわから『pipipi』……あ、すみません。メールです」

 

小町が2人に一言断ってから端末を開きメールを確認する。メールを見た小町は差出人と内容を確認すると目を細めてから綾斗とユリスを見る。

 

「すみません。小町は用事が出来たので失礼します」

 

「それは構わないが重要な用事なのか?」

 

ユリスが尋ねると小町は……

 

 

 

 

「はい。新しい純星煌式武装を用意しようとクローディアさんに申請したんです」

 

いい笑顔でそう言って生徒会室のある方に向かって走りました。その際に綾斗とユリスが驚きの表情を浮かべたのは言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

「失礼しまーす」

 

「はい。いらっしゃっい」

 

それから5分後、小町は元気良く星導館の生徒会室に入るとクローディアが笑顔で迎える。

 

「はい。学園祭の後始末が終わったばかりなのに純星煌式武装の申請してすみません」

 

「気にしないでください。小町さんも王竜星武祭で活躍が期待されている生徒です。そんな貴女に協力するのは生徒会長として当然ですから」

 

クローディアは小町の謝罪をやんわりと受け流す。実際の所小町は今回星導館から王竜星武祭に参加するメンバーの中ではかなり期待されている。

 

序列4位で、鳳凰星武祭ベスト8と高い実績のある。それに加えて星露の私塾の魎山泊のメンバーである事をクローディアは知っている。

 

クローディアの中ではユリス、紗夜と同じくらい活躍を期待している。そんな彼女の為に時間を割く事は特に問題ない事だ。

 

「ですが何故新しい純星煌式武装を?今持っている『冥王の覇銃』では不足ですか?」

 

「うーん。『冥王の覇銃』も強いですけど、弾速がそこまで早くないのでお兄ちゃんや綾斗さんみたいな壁を超えた相手には当たらないと思うので王竜星武祭が終わるまでは手放したいと思います」

 

『冥王の覇銃』は一撃に特化した純星煌式武装で弾速と射程はそこまで優れていない。加えて消費星辰力も半端ないので博打要素が強過ぎて今回の王竜星武祭では使いにくい、というのが小町の考えである。

 

「なるほど……話はわかりましたが、小町さんは『冥王の覇銃』以外に高威力の煌式武装を持っているのですか?」

 

今の小町の戦闘スタイルは、高い機動力と体術をメインに、複数の種類の銃を高速切替をしながら巧みに攻めるスタイルだ。そして小町が使う高威力の煌式武装は『冥王の覇銃』である。

 

「あ、それなら落星工学研究会の方にアテがあるので大丈夫です。いざとなったら厨二さんに頼んで作って貰います」

 

「厨二さん……まあ彼なら凄い銃を作るでしょうね」

 

クローディアの頭には夏でもコートを着る暑苦しい男ーーー材木座義輝の姿が浮かぶ。

 

2年前、綾斗が転入した直後に起こったアルルカントのスパイであるサイラス・ノーマンの事件の手打ちとして、星導館はアルルカントと煌式武装共同開発をする事となった。その時にクローディアは彼と会っている。

 

普段は訳のわからない事を言っている変人だが、煌式武装の製作の腕については、ユリスの持つ煌式遠隔誘導武装『ノヴァ・スピーナ』やチーム・赫夜がチーム・ランスロットを撃破するきっかけを作った煌式武装『ダークリパルサー』を生み出すなど圧倒的な実績を残している。

 

その所為でアルルカントからはしょっちゅう雷を落とされているようだが、その辺りはクローディアの知った事ではない。

 

「まあアテがあるなら問題ありません。それでは装備局に行きましょうか。ちなみに既に目を付けている純星煌式武装はあるのですか?」

 

クローディアが生徒会室を出ながら小町にそう尋ねると……

 

 

 

 

 

 

 

「決まってます。小町が使いたい純星煌式武装は……『迅雷装』です!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

界龍第七学院黄辰殿、朱雀の間

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「ぐぅぅぅぅっ!」

 

界龍の序列5位『雷戟千花』セシリー・ウォンと序列6位『天苛武葬』趙虎峰の悲鳴が朱雀の間に響き渡る。同時に2人は地面に倒れ込んでしまい、2人と対峙していた女性が近寄ってくる。

 

「まだ……まだ足りない……!セシリー、虎峰。もう一本お願い」

 

女性ーーー界龍の序列3位『魔王』雪ノ下陽乃は目に強い執念を燃やしながら2人に話しかける。衣服が焦げてボロボロのセシリーと虎峰に対して、彼女には僅かにしか傷が付いていない。

 

「それは良いけど……陽姉、少し休みなよ」

 

「そうですよ。先程戦った沈雲ら双子も不安視していましたよ」

 

「無理だよ……今回の王竜星武祭で優勝しないと、私は一生雪ノ下の家の人形なんだから」

 

2人の提案に陽乃は首を横に振る。昨年の学園祭で陽乃は、総武中で文化祭を引っ掻き回して間接的に八幡が貶められる原因を作った事に対して激怒したオーフェリアによって一度、星脈世代としての力を奪われた。

 

その際に陽乃の母である秋乃が力を戻すように頼んだ結果、条件として陽乃に一切の自由を与えない事を提案して秋乃はそれを承諾した。

 

結果、陽乃は力を取り戻したものの秋乃によって自由を奪われた。放課後に遊びに行くことも禁止されているし、卒業後の進路や結婚相手も決められている。

 

陽乃がその状況を打破するには王竜星武祭で優勝する以外道はない。もしも優勝しなかった場合、陽乃は言葉通り雪ノ下家の人形と化すのだ。

 

「でもさ陽姉、今回の王竜星武祭はオーフェリア・ランドルーフェンが出ないけど、桁違いの面々が多いんだよ。今回は見送って、来シーズンの鳳凰星武祭とかじゃダメなの?なんならアタシが組んでも良いよ」

 

王竜星武祭まで半年以上あるが、既に各学園から出る面々の情報についてはある程度知られている。そして今回の王竜星武祭ではオーフェリアは出ないが、それによって前回以上に沢山の猛者が出てくると言われている。

 

また陽乃と同じように壁を超えた存在も多数出るとも言われている。

 

確認されているのは……

 

星導館からは『叢雲』天霧綾斗

 

クインヴェールからは『戦律の魔女』シルヴィア・リューネハイムに『舞神』ネイトネフェル

 

レヴォルフからは『影の魔術師』比企谷八幡に『砕星の魔術師』ロドルフォ・ゾッポ

 

セシリー達がいる界龍からも陽乃以外に『覇軍星君』武暁彗に『神呪の魔女』梅小路冬香が出る。

 

見劣りするのはガラードワースだけだが、アルルカントからも3体目の擬形体も出ると噂されていて、世間では歴代最高の星武祭になると評されている。

 

セシリーも虎峰も陽乃が桁違いの実力を持っているのは知っているが、彼女なこれらの面子を相手に確実に優勝出来るかと言われたら首を横に振るだろう。現時点で陽乃は暁彗に負け越しているのだから。

 

そんなセシリーの問いに対して……

 

「それが学園から出ろって命令されたの。多分お母さんが私を自由にさせない為に学園上層部に圧力をかけたんだと思う。来シーズンの鳳凰星武祭とかで優勝させないように」

 

陽乃は目に強い怒りを生みながらそう返信する。既に陽乃には仮面が無くなって素の表情を浮かべている。仮面はオーフェリアによって完膚なきまでに破壊された故に。

 

陽乃の指摘は的を射ていた。秋乃は陽乃を雪ノ下の家に縛る為に統合企業財体幹部の立場を利用して、界龍の理事に陽乃を王竜星武祭に出させるように圧力をかけたのだ。

 

そして陽乃は界龍の特待生であるので、学園側が指定した星武祭には強制的に参加しないといけない。でないと退学処分となり雪ノ下の家に縛られるのは確実となる。

 

つまるところ陽乃は強者が集う王竜星武祭に参加するしか道がないのだ。

 

「そっか……じゃあ仕方ないから。もう一本やるよ虎峰ー」

 

「……まあそんな話を聞かされたらやらないわけにはいかないですよね……」

 

言いながらセシリーと虎峰は立ち上がり構えを取る。既にやる気は満々であり、陽乃も構えを取る。

 

「ありがとう、じゃあ星露が帰ってくるまでよろしく」

 

その言葉と共に陽乃は2人の元へ突っ込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

アルルカントアカデミー、食堂にて……

 

「おーい将軍ちゃん」

 

「んむ、なんであるかエルネスタ殿?」

 

新しく『獅子派』の会長となった材木座義輝がラーメンを食べていると、『彫刻派』代表のエルネスタ・キューネがパスタを持ってピョンピョン跳ねながら材木座の向かいに座り、空間ウィンドウを開いて投げ渡す。

 

「はいアルディの貸出証明書と、王竜星武祭の代理参加に必要な書類。その2つを星武祭の運営に渡せばアルディは将軍ちゃんの代理で出せるよ」

 

「おお!わざわざ済まん。というか言ってくれれば我が取りに行ったのだが」

 

「気にしなくて良いよ。元々ご飯終わってから呼ぶつもりだったし。というかカミラは?一緒じゃないのー?」

 

「カミラ殿はリムシィ殿の新しい武器の製作でキリが悪いらしいのである」

 

「へー、ちなみにカミラの武器って凄いの?」

 

「ああ。中々興味深い武器である。それよりエルネスタ殿、貴様に聞きたい事があるのだが」

 

「ん?何かにゃ?」

 

エルネスタが猫のような口調で首を傾げる。アスタリスクに来た当初の材木座なら緊張してキョドッているが、今はエルネスタの態度にも慣れたので焦らずに口を開ける。

 

「貴様がレナティ殿を始めて紹介した時に、カミラ殿がレナティの武器を作ると言ったが、何故それを受けた?」

 

材木座がそう言うとエルネスタは口に笑みを浮かべたまま若干目を細める。

 

「ん?どういう意味かにゃ?友達の好意を素直に受け取る事がおかしいかな?」

 

「違う。我が聞きたいのは、何故ロボス遷移方式でウルム=マナダイトを多重連結出来るレナティ殿に普通の煌式武装を持たせるのかという事である。普通に考えて徒手空拳の方が合理的であろうに」

 

材木座がそう言った次の瞬間だった。エルネスタは瞳をにんまりと曲げてくつくつと笑い出す。

 

「へぇ……その言い方だと将軍ちゃんは直ぐに気が付いたんだ?カミラも気付かないのにやるねー」

 

「ふん。コアのコーティングに隙間があった時点で察したわ。貴様があんな隙間を見逃す筈はない。にもかかわらず隙間があるという事は何かしら理由があるに決まっているわ」

 

材木座はつまならそうに鼻を鳴らす。実際のところ材木座にしろエルネスタにしろ互いのことは認めている。互いに普段の言動はふざけていると思っているが。

 

「随分な高評価ありがとねん。とりあえずさっきの質問に答えるけどカミラの好意を素直に受け取ったのは本当だよ」

 

「……意外であるな。我、レナティ殿を作った時点でカミラ殿と決別するかと思ったぞ」

 

レナティの存在は兵器と擬形体の根幹に関わるもので、カミラにとって許容出来ない存在であると考えている材木座は、レナティのデータを見た際にその事を予想していた。

 

「うーん、確かにカミラとはいずれ別の道を歩くのは決まってるけどたった1人の友人だし出来るだけ長く歩きたいからさ」

 

それを聞いた材木座は嘘を吐いてないと察した。カミラのことを大切に思っているのは事実であっても、自分の夢の為ならばそれを捨てることが可能な人間であると。

 

「……なら少しでも長く歩けるように祈るべきであるな」

 

「もちろん。ちなみに将軍ちゃんならどうする?」

 

「何がであるか?」

 

「いや、私みたいに自分の夢の為ならあらゆる事を切り捨てられるのかなーって思ったからさ」

 

言われて材木座は考える。材木座個人としては小説家になりたいが……

 

「正直に言うとわからんな。我はエルネスタ殿と違ってそこまで大層な夢はないのであるからな」

 

小説家は煌式武装の研究をしながらも出来るし、切り捨なきゃいけないものがない以上材木座には判断が出来なかった。

 

ただ……

 

「我は貴様の夢について笑うつもりも否定するつもりはない。寧ろ友人と決別までしてでも夢を叶えようとする意志の強さについては敬意を表するな」

 

するとエルネスタは珍しく目を見開いて驚きを露わにする。エルネスタ自身否定されると思っていたが、そこまで言われるとは思わなかったのだ。

 

暫く驚きを露わにしていたエルネスタだったが、やがて小さく苦笑を浮かべる。

 

「やー、これは予想外だったよ。将軍ちゃん、普段は痛い人なのに偶に格好いいねー」

 

「待て。我の何処が痛い人であるか?」

 

「え?自分のこと剣豪将軍って言ったり、友達の居ない所」

 

「はっ!残念だったな。我には八幡と戸塚殿の2人がいるわ!」

 

「たった2人じゃん」

 

「1人しかいない貴様に言われたくないわ!まさかとは思うが貴様、友達が居ないから寂しくて擬形体を作った訳ではないであろうな?」

 

「ちょっと待ってよ将軍ちゃん!それじゃまるで私が痛い人じゃん!」

 

するとエルネスタは今度は珍しく怒りの感情を露わにする。

 

「いや、普通に痛い人であろうに……」

 

「聞き捨てならないにゃ〜!私の何処が痛い人なのかなぁっ?!」

 

「ふっ……自覚のない辺りが、また……」

 

「むぅぅぅっ!パクリ小説しか書けない厨二病患者にバカにされるなんて一生の恥だよ!」

 

「なんだとこの電波女がっ!」

 

「なんですとぉっ!この剣豪将軍(笑)っ!」

 

 

 

ギャーギャーワーワー!

 

2人の言い争いが食堂に響き渡る。

 

それを聞いていた2人の部下ーーー『獅子派』と『彫刻派』の人間は思った。

 

ーーーどっちもどっち、両者共に痛い人だ、と。

 

 

そしてこの食堂にいる全員は思った。

 

ーーーお前ら、絶対に友達だろう、と。

 

 

結局2人はカミラが来るまで言い争って、彼女から拳骨を食らったのは言うまでもないだろう。


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