レヴォルフを出た俺は持てる力全てを使用して商業エリアに向かう。時計を見ると集合時間を20分過ぎていた。これ以上待たせる訳にはいかない。
集合場所に着くと待ち人がいた。
「すまん!待たせた」
走りながらそう言うと2人は俺を見てきて近寄ってくる。
「お兄ちゃん遅い!小町的にポイント低いよ!」
そう言って膨れっ面で詰め寄ってくる妹の小町。うん、怒っている所も可愛いな。
「まあまあ小町ちゃん。八幡は理由もなく遅れないよ。先ずは事情を聞こうよ」
そう言って小町を宥めるのは中学時代、唯一と言っていい友人の戸塚彩加。男子なのにその笑顔は並の美少女を上回る程だ。守りたい、あの笑顔。
「いやすまん。序列戦が最後の方の上、予想以上に長引いた」
俺がそう説明すると小町は納得したような表情を浮かべる。
「あ、そうなの?じゃあ仕方ないね」
公式序列戦は対戦カードによって時間が長引く場合もあり、まして終盤あたりの人間は予想以上に待たされる時もある。小町もそれを知っているので怒りを鎮めてくれたようだ。
「悪かったよ。ところで何処に行くんだ?」
「あ、それなんだけど小町達お昼ご飯まだ食べてないから何処か飲食店に行かない?」
まあ今の時刻は昼飯時と言っていいだろう。俺はステージで食ってきたが小町達は食べてないのか。
「わかった。じゃあどこにする?」
「うーん。じゃああそこにしない?」
戸塚が指差したのは世界的に有名なハンバーガーチェーン店だった。俺は昼にハンバーガーを食ったがまあいいか。
「小町はそれでいいですよ。お兄ちゃんは?」
「俺はそれで構わない。じゃあ行こうぜ」
方針も決まったので俺達はハンバーガーショップに足を伸ばした。
「それでね!後一歩の所で小町の攻撃を防がれたの!」
ハンバーガーショップに入った俺達は適当に注文して今日の公式序列戦について話を聞いている。
それで小町が今日の序列戦で星導館の序列4位の『氷屑の魔術師』に敗北した事を知った。小町の話を聞きながら記録を見てみると確かにいい勝負だった。
終盤で小町が放った銃撃は氷の壁に防がれ、それと同時に小町の両手が凍らされてそのまま校章を破壊されたようだ。
試合の内容については文句なしだ。負けたとはいえかなりいい勝負で小町が勝ってもおかしくなかったと思う。
「それでお兄ちゃん。何か良い対策ある?」
そう言われて考えてみる。小町の射撃技術は優秀だ。しかしそれだけじゃ上に行くのは厳しい。早撃ち以外に更に違う武器を用意すべきだ。
そこで俺は小町にある提案をしてみる。
「じゃあ小町。いっそ純星煌式武装を使ってみるのはどうだ?」
俺がそう提案すると小町と戸塚が目を見開いてくる。それを見ながら説明をする。
「お前の戦闘記録を見る限り射撃技術、身体能力は一級品だが火力不足は否めない。お前は冒頭の十二人だし簡単に許可が下りるだろうしハンドガンタイプの純星煌式武装を借りるのも悪くないと思うぞ」
確か星導館は純星煌式武装を六学園で1番保有してた筈だ。ハンドガンタイプもあるかもしれん。
「それにだ。鳳凰星武祭には今のお前と相性の悪い奴が出てくるだろうし」
そう言って端末を操作して空間ウィンドウを呼び出す。そこには聖ガラードワースの制服を着た男性が映っている。
「お兄ちゃん。この人は?」
「ガラードワースの序列11位の『鎧装の魔術師』ドロテオ・レムス。この人は2度鳳凰星武祭に出たから多分今回も出てくると思うが、間違いなくお前にとって天敵だ」
俺が彼の戦闘記録を小町に見せる。初めは普通の表情をしていたが徐々に嫌な顔になってくる。気持ちはわかるが女子がそんな顔をするな。
「うわー。小町この人と当たりたくないなー」
小町が嫌がって見ている映像ではドロテオ・レムスが自身に鎧を纏わせて対戦相手に突撃をしていた。
しかし小町が真に嫌がっているのは対戦相手が鎧を破壊しても5秒もしないで新しい鎧を作っている場面だろう。
この鎧は防御力が高いのも厄介だが、能力で作った鎧の為壊しても彼に星辰力が残っている限り何度も作られる事が1番厄介だ。
「つまり今の小町さんが彼と戦ったらジリ貧になるって事?」
「戸塚の言う通りになるだろうな。しかも彼自身能力抜きでも強い実力者だ。これを打ち破るには高い火力が必要だ」
並の煌式武装じゃ通用するかわからない。それなら純星煌式武装で確実に攻めるべきだろう。
「うーん。そう考えると小町は火力不足かもねー。とりあえず月曜日に申請してみるよ」
「そうしろそうしろ。折角冒頭の十二人なんだし。戸塚も小町から能力は聞いているがある程度攻撃力のある煌式武装は持っておいた方がいいぞ」
場合によっては小町が負けて1人で戦う可能性もあるし。
「あいあいさー」
「うん。ちなみにどんな煌式武装が良いかな?」
「それはお前次第だな。まあ鳳凰星武祭まで数ヶ月あるからゆっくり決めろ」
戸塚は入学したばかりだがらどうなるかはわからないが努力次第ではある程度どうにかなるだろう。
「うん!ありがとう!ところで八幡は鳳凰星武祭は興味ないの?」
「俺?見る分には興味あるが参加するのは王竜星武祭に絞るな。てか鳳凰星武祭に参加するにしても組む相手がオーフェリアとイレーネしかいない」
「それ絶対ぶっち切りで優勝じゃん!!というかお兄ちゃん!レヴォルフの知り合いって『孤毒の魔女』と『吸血暴姫』しかいないの?!」
「す、凄い組み合わせだね……」
正確にはイレーネの妹もいるがあいつは戦闘向きじゃないので除外してある。
「まあオーフェリアは王竜星武祭に出るだろうし、イレーネは鳳凰星武祭に興味ないだろうから仮定の話だ」
「だよねー。そう言えばオーフェリアさん紹介して欲しかったんだけど無理だった?」
あー、そういや小町に紹介してくれと頼まれてたな。
「それなんだが……オーフェリアは自分の肌から瘴気を出すから迷惑かけたら悪いって断られた」
すると小町は若干悲しそうな顔で頷く。
「じゃあしょうがないね。それってどうにか出来ないのかな?」
「一応手袋や制服で肌を隠せばギリギリ漏れないがな……」
何度が肌から瘴気が漏れているのを見たが……あんな綺麗な肌なのに勿体無い。
「そっか。……あれ?でも何でお兄ちゃんはオーフェリアさんと一緒に過ごせるの?」
「ん?ああ、それはな……」
そう言って俺は口の中から影の塊を出す。すると2人は驚き出す。
「は、八幡?!何それ?!」
「お兄ちゃんそれ不気味だから早くしまって!」
まあ確かに見た目はヤバイかもしれんな。小町にそう言われたので影の塊を体内にしまって口を開ける。
「俺は体内を影でコーティングしてるからオーフェリアの毒は効かないんだよ」
実際オーフェリアと何度か戦ったが毒を吸って負けた事はない。
「じゃあ八幡は『孤毒の魔女』に勝てるって事?」
戸塚はそう言ってくる。しかしそれは余り現実的じゃない。
「正直言って殆ど不可能だ。確かに俺はオーフェリアの毒は効かないが星辰力の差があり過ぎる。だから俺の攻撃は殆ど効かないし、オーフェリアの攻撃を防ぐ事は難しいから」
オーフェリアの星辰力は簡単に見積もっても俺の4倍はあるだろう。いくら毒は効かなくても星辰力による力押しをされたら勝ち目は無いだろう。
「となると今回の王竜星武祭も……」
「十中八九オーフェリアが優勝だろうな」
小町が濁した言葉をはっきり口にする。去年の決勝でもシルヴィを殆ど一方的に倒したオーフェリアはガチで強過ぎる。オーフェリアを倒せるとしたら界龍の『万有天羅』くらいだろう。奴の対戦記録も見たが次元が違うし。
「まあ王竜星武祭は2年後だからいいだろ。それよりお前らは鳳凰星武祭に集中しろ」
「そうだね……僕はまだまだ弱いし頑張ろう!」
そう言ってガッツポーズをする戸塚。やだ、可愛すぎる。レヴォルフは殆どが屑だから結構ストレスが溜まるので癒される。
「小町も色々と新しい技術も身に付けないと……あ!そう言えばお兄ちゃん!鳳凰星武祭には雪乃さんと結衣さんも出るんだって!」
……ほう。あいつらも鳳凰星武祭に出るのか。
「マジか。由比ヶ浜はともかく雪ノ下は王竜星武祭に出るかと思ったぞ」
あいつ姉の雪ノ下陽乃に勝ちたがってたし。
「何か結衣さんに誘われたんだって。あ!でも今シーズンの王竜星武祭には必ず出るって言ってたよ」
だろうな。雪ノ下陽乃は後1回しか星武祭に出れない。姉に挑む最後のチャンスを逃すつもりはないだろう。
「そっか。ちなみにあいつは強いのか?」
中学にいた頃はそこそこ星辰力があるのは知っていたが。
「かなり強いと思うよ。高等部に入学して直ぐの公式序列戦で勝って今序列30位だし」
ほう……入学して1ヶ月もしないで序列入りか。中学時代から優秀なのは知っていたが戦闘も優秀みたいだ。帰ったら公式序列戦の記録を見てみるか。
「どうやら姉同様才能に恵まれてみたいだな。今から王竜星武祭が楽しみだな」
まあ1番の目標は優勝よりシルヴィにリベンジを果たす事だけど。あの悔しさは今でも残ってるし。
そう思っている時だった。
「いいからオレと闘えって言ってんだよ!」
いきなり叫び声が聞こえ、それと同時に衝撃音が響く。んだよ、煩えな。
内心舌打ちをしていると戸塚は怯えた表情を浮かべていて、小町は『また始まったよ……』と言わんばかりの表情を浮かべている。どうやら小町は事情を知っているようだ。
その事を不思議に思いながら叫び声がした方向を見ると巌のような体軀をした男が、ピンク髪の女子と余り特徴がない男子の2人組が座っている席にあるテーブルに手を叩きつけていた。
(……何だあの光景?てかあのピンク髪、オーフェリアの昔馴染みの『華焔の魔女』じゃねぇか)
そう思うと頭が痛くなるのを感じた。
マジで厄介事が起こる未来しか見えねぇ……