学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

251 / 324
抽選が行われて各陣営は……(後編)

「ノエル、組み合わせが決まったけど……って、幸せそうに顎を触ってどうしたんだ?」

 

エリオットが抽選会を終えて、ガラードワース学園生徒会専用の観戦席に入るとノエルが幸せそうな表情を浮かべながら自身の顎を触っていた。

 

「わ、わにゃっ?!」

 

エリオットの声にノエルは慌てて顎から手を離しワチャワャし始める。それを見たエリオットは明らかに何かあったのだと確信を抱いた。

 

「ノエル、僕が居ない間に何か「な、何もないよ……!」そ、そうか……」

 

エリオットは何かあると思って尋ねようとしたが、ノエルの剣幕に押されて何も言えなくなった。ノエル自身、エリオットに隠し事はしたくないが好きな男子に30分近く顎を撫でられた事は恥ずかしくて言えなかった。

 

「うん……それよりも組み合わせが発表されたし、私頑張るね……!」

 

「ああ。正直言って他の2人が勝つのは不可能に近いからね。ノエルには頑張って欲しい」

 

今回本戦出場を果たしたガラードワースの生徒はノエルを入れて3人だが、ノエル以外の2人の4回戦の相手はロドルフォとレナティと圧倒的な強者なので、エリオットが勝つのは不可能と考えても仕方ないだろう。特に前者はロドルフォと相性が最悪の近接特化タイプの生徒だし。

 

 

「う、うん……私、頑張るよ」

 

ノエルは小さく握り拳を作る。ノエルは他の2人と違って割と当たりの組み合わせである。少なくとも準々決勝までは壁を越えた界と当たらないのは絶対であるから、本戦出場を果たした32人の中で1番運が良いだろう。

 

(八幡さんと当たるのは決勝……私が上がれる確率は低いけど頑張ろう……!)

 

ノエル自身、自分を鍛えてくれた八幡に勝ちたいと思っている。それは本当に厳しい道と理解しながらも、諦める様子は見えない。

 

(でも先ずは目先の4回戦をしっかりと取り組まないとね……)

 

そう思いながらノエルは早速4回戦の対戦相手の記録を見始める。それを確認したエリオットは邪魔をしちゃマズイと思いながら紅茶を淹れ始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『では陽乃、3日後に界龍の食品流通会社『帝食』の御曹司とのお見合いがありますので。当日は朝9時までに私の所に来るように』

 

「いや、お母さん。一応星武祭の期間中なんだけど」

 

界龍第七学院の女子寮にて、雪ノ下陽乃は自分の母にして、統合企業財体『界龍』建築事業六花支部室長の雪ノ下秋乃の命令に対して遠回しに拒否をする。

 

それに対して秋乃は冷たい笑みを浮かべて……

 

『問題ありません。その日は調整日で休みですし……貴女は2日後の5回戦で負けているでしょうから』

 

「……っ」

 

その言葉に陽乃は僅かに眉をひくつかせる。しかし秋乃はそれに気付いているのか気付いていないのか判断のつきにくい笑顔を浮かべる。

 

『仮に5回戦を突破して更には準々決勝も突破しても、準決勝で当たるであろう武暁彗に負けるだけです。もう自由になるのは諦めてしまいなさい』

 

「……嫌よ。私はお母さんの駒じゃないから」

 

『そうですね。貴女が優勝すれば駒じゃなくなりますね』

 

明らかに余裕があり、陽乃が自分の駒になるという確信を抱いている。

 

『とにかく3日後にはお見合いがあるので朝9時までに私の所に来るように。文句があるなら比企谷さんを間接的に貶められる原因を作ってオーフェリア・ランドルーフェンの怒りを勝った自分自身を恨みなさい』

 

そう言って秋乃が通話を切って空間ウィンドウは真っ黒になる。話すべきことだけ話して通話を切る。そこに陽乃の意見は一切含まれていない。

 

次の瞬間、陽乃は怒りの余り携帯端末を壁に叩きつけていた。2年前の陽乃ならそんな事をする程荒れる事はなかったが、2年前の学園祭でオーフェリアに自身の力を奪われて、それを取り戻す条件として自由を失って以降、陽乃は1人でいる時しょっちゅう物に当たるようになった。

 

「なんとしても優勝しなきゃ……!オーフェリア・ランドルーフェンが出てない今回が最後のチャンスなんだから」

 

既に陽乃はオーフェリアに対して心が折れている。純星煌式武装『覇潰の血鎌』によって磔にされてから星脈世代としての力を奪われたあの日から陽乃はオーフェリアに対して勝てないと判断するようになった。

 

だから彼女にとってオーフェリアが出ない今回が最初で最後のチャンスであるのだ。

 

「先ずは雪乃ちゃんだけど……私の邪魔をするなら容赦しないから」

 

陽乃は一度ため息を吐いてから実妹の戦闘記録を見始めたのだった。

 

自由に振る舞えて、それでありながら親の仕事に憧れる為、妬ましく思ってしまう妹の記録を、陽乃は見続けた。

 

 

 

 

 

「おーおー、今回の会長殿のくじ運はあんまし良くないねー。ま、私としては面白そうな一戦だけど」

 

シリウスドームのアルルカント専用の観戦席にてエルネスタ・キューネは楽しそうに笑う。エルネスタの意見に対して観戦席にいる2人は対称的な表情を浮かべる。

 

「……私としてはもう少し後に当たって欲しかったがな」

 

「ぱぽん!我としては楽しみであるな!カミラ殿とは一度交えてみたいと思っていたのでな」

 

前『獅子派』会長のカミラ・パレートは苦い顔を、現『獅子派』の会長である材木座義輝は楽しそうな表情をしながらステージ上空にあるトーナメント表を見ると……

 

材木座義輝VSカミラ・パレート

 

本戦最初の4回戦から、いきなりアルルカント同士、代理出場同士、擬形体同士の戦いが起こる事を示していた。既にネットでもこの試合は大きく注目されている。

 

そんな中、エルネスタは……

 

「ぷぶっ……将軍ちゃん、カミラと交わりたかったんだ。こんな場所で堂々と言うなんてやるねー」

 

ぷるぷる震えながらそう口にする。すると材木座は一瞬ポカンとした表情を浮かべるも……

 

「ち、違う!カミラ殿違うからな!我が言いたいのはカミラ殿の作る煌式武装と戦ってみたいという意味であるからな!」

 

慌ててカミラに説明を始める。対するカミラは特に恥じらう事なくため息を吐く。

 

「安心しろ。説明を受けなくてもわかっているからな」

 

この手のやり取りは殆ど毎日経験している(巻き添えを食らっている)カミラはエルネスタが材木座をからかっている事を理解しているので冷静に対処する。

 

「す、済まん……エルネスタ殿!貴様、妙な誤解を招くような事を言うでないわ!」

 

材木座はカミラに謝罪をした後にエルネスタに怒りを向けるも、エルネスタは楽しそうな表情を浮かべるだけだ。

 

「え〜?でも将軍ちゃんだって、カミラと交わりたいって誤解を招くような言い方をしたじゃん?」

 

「状況からして貴様が余計なことを言わなければ、誤解を招くような事はならなかったであろうがこのビッチ!」

 

「ちょっと!私はまだ処女ですよ〜!」

 

「水着エプロンをしたり、クリスマスに酔って我を襲ったりする貴様は充分ビッチであるであろうに!というか貴様の場合、将来男の貰い手がおらず自分の作った擬形体と結婚しそうであるな!」

 

「うがぁぁぁっ!人を馬鹿にし過ぎだよ将軍ちゃん!将軍ちゃんだってどうせ結婚出来ないんだし、将軍ちゃんの為に美人の擬形体を作ってあげようか?!」

 

「何だと?!そんな事をしたら我、痛い人ではないか!」

 

「大丈夫だって!もう手遅れなくらい痛い人だから!」

 

「貴様言ってはならない事を……!今日という今日こそ貴様を泣かす!」

 

「それはこっちのセリフだよ!今日こそどっちが上か教えてあげるにゃ〜!」

 

言葉と共に材木座とエルネスタはいつものように互いの胸倉を掴み合い喧嘩を始める。2人は基本的にこのように1日最低3回、年に1000回以上喧嘩をするのだ。

 

それを見たカミラは内心呆れ果てる。

 

(本戦の組み合わせが決まったのにこの余裕……やはりこの2人は天才と馬鹿を両立しているな)

 

カミラは自身が才能に恵まれているという自負はあるが、目の前で馬鹿みたいに喧嘩をしている2人に比べたら劣っている自覚がある。

 

さっき組み合わせが発表した時も、2人は楽しそうにしながらも目には絶対的な自信が溢れていた。自分達は負けないという強い自信が。

 

(だが……私自身も負ける訳にはいかない)

 

リムシィと共に沙々宮紗夜との約束を果たす為にも。そこまで考えたカミラは立ち上がる。

 

彼女と戦う為には、本戦初戦から自身を超える頭脳を持つ男が作り上げた煌式武装を使うアルディとの試合に勝たないといけない。だからギリギリまで自分の出来る事をするべきだろう。

 

カミラはリムシィの装備を確かめようと帰ろうとすると……

 

「ふがぁぁぁぁっ!くたばれやエルネスタ殿!」

 

「それはこっちのセリフだよ!将軍ちゃんがくたばりなよ!」

 

ヒュー

 

ガツン ガツン

 

2人が取っ組み合って喧嘩した衝撃によって、2人の足から靴が外れてカミラの顔面に当たる。

 

カミラは自分の顔面に当たった物の正体を理解すると、ブチリと頭の中で何かがキレるのを理解する。

 

同時に……

 

「おい」

 

ただ一言、そう呟く。すると激しく喧嘩をしていた材木座とエルネスタは動きを止めて、ギギギとブリキのおもちゃの様に顔を動かしてカミラを見る。

 

同時に2人は明らかに怯えた表情に変わる。それを見たカミラは自身は相当怖い表情をしていると理解した。

 

しかし今のカミラにとってそれはどうでもいい事である。今カミラのするべき事は……

 

 

 

 

 

「この……馬鹿共がっ!」

 

ガツンッ ガツンッ

 

「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」

 

目の前で下らない喧嘩をした馬鹿2人を殴る事だ。カミラの拳骨によって2人の悲鳴が観戦席に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「オーフェリアさん。今日は上がった方がいいですよ」

 

「……何故かしら?まだ仕事が残っているわ」

 

レヴォルフ黒学院生徒会室にてプリシラがそう口にすると、オーフェリアは不思議そうな表情を浮かべると、イレーネが口を開ける。

 

「気付いてないのかよ?アンタの書類を見たけどケアレスミスばっかだぞ」

 

「……え?本当?」

 

「ああ。大方八幡の試合の事を考えてんだろ?」

 

イレーネの言葉にオーフェリアは息を呑む。30分程前に本戦の組み合わせが発表されたが、オーフェリアの恋人である八幡の対戦相手は自分と因縁のある『大博士』ヒルダ・ジェーン・ローランズであった。

 

改めて考えると確かにその事に意識を割いて仕事どころではない。そして愛しい彼の元に向かいたくなってきた。

 

「……ごめんなさい。今日は上がって良いかしら?」

 

「ああ。さっさと行って甘いひと時を過ごしてこい」

 

イレーネがそう言うと同じ生徒会役員のプリシラところなも頷いた。それを確認したオーフェリアは3人に感謝の意を伝えて、早足で生徒会室を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまー」

 

俺とシルヴィは抽選会を終えて帰宅する。すると玄関にはオーフェリアの靴があった。これは俺も予想外だ。確かオーフェリアは今日生徒会の仕事をやると言ってレヴォルフに向かった筈だったが……

 

俺とシルヴィが頭に疑問符を浮かべていると、リビングの方から足音が聞こえてきて……

 

「……オーフェリア?」

 

オーフェリアが俺の元にやってきて無言で、それでありながら思い切り抱きついてきた。

 

「……八幡、シルヴィア。おかえりなさい」

 

「あ、ああ。ただいま、でもどうして早く帰ってきたんだけ?」

 

「さっき、組み合わせを見て……八幡の事が心配になって……」

 

言いながらオーフェリアは俺を抱きしめる強さを強める。まさかここまで彼女を心配させてしまうとはな……これも俺の弱さが原因であろうな。

 

「……心配かけて悪いな。だが、お前が居てくれて良かった。正直言って俺も緊張してるからよ……お前とシルヴィに甘えても良いか?」

 

3人で過ごせば俺の緊張は無くなるだろう。そしてオーフェリアの心配を薄れてくれるかもしれない。

 

俺の要求に対してオーフェリアは……

 

「っ……ええ。好きなだけ甘えて」

 

小さく笑みを浮かべながら受け入れてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

「んっ……んむっ……んんっ……」

 

「ちゅっ……んちゅ……はち、まん、くん……」

 

「しゅき……八幡……だいしゅき……!」

 

それから2時間、俺達はリビングにあるソファーに座って3人で唇を重ねている。

 

俺は自身の緊張を無くす為、オーフェリアは自身の心配を無くす為、シルヴィは俺とオーフェリアの不安を和らげる為にキスをする。

 

既にお互いに舌を出して絡め合い、ソファーには唾液がこぼれ落ちているが俺達は気にせずに舌を絡め合う。

 

それによって俺の中にある負の感情はキスから生まれる幸福によって徐々に薄れていく。やはり3人でするキスは最強だな。

 

「んっ……八幡」

 

「ちゅっ……どうしたオーフェリア?」

 

「明日の試合……ちゅっ……八幡には、んっ……勝って欲しいから、頑張って……」

 

「うん、ちゅっ……『大博士』には負けて欲しくないな……んんっ」

 

オーフェリアとシルヴィは俺の勝ちを願いながらキスをしてくる。2人がそう言うなら俺の返答は決まっている。

 

「任せろ。持てる力を全て出して『大博士』を倒す」

 

そう言ってから俺はオーフェリアとシルヴィを抱き寄せて……

 

 

ちゅっ、ちゅっ

 

2人の額にキスをする。誓いのキスだし額にするのが1番だろう。俺がキスをすると2人はトロンとした表情を浮かべて俺を見てくる。

 

そして……

 

「「ありがとう八幡(君)、大好き……」」

 

ちゅっ……

 

再度3人でキスをする。それによって俺は更に幸せになる。2人とキスをすると俺の幸せの最大値は無限に大きくなる気がするな。

 

そう思いながら俺達は更に幸せになるべく、キスに溺れ始めた。

 

そして気が付いた時には寝巻きに着替えてベットにいたが、その時には緊張といった負の感情は完全になくなっていたので明日の試合は問題なく望めると思ったのだった。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。