学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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準決勝第2試合 シルヴィア・リューネハイムVS武暁彗(前編)

『さぁ!ついに迎えた王竜星武祭準決勝第2試合!残す試合はこの試合を含めて2つとなりました!既に決勝進出を決めているレヴォルフ黒学院の比企谷選手と戦うのはどちらなのか?!』

 

実況の声が響くと観客席からは更なる歓声が生まれる。それを東ゲートの入り口付近で聞くシルヴィアはその騒々しさに眉をひそめる。

 

(今回の王竜星武祭もいざ始まるとあっという間だったなぁ……)

 

シルヴィアは昨日までの激闘を思い出す。これまでシルヴィアが行った6試合の内、印象に残った試合3試合。

 

3回戦のプリシラとの試合、5回戦の陽乃との試合、そして昨日の準々決勝で戦ったノエルとの試合だ。

 

特に昨日のノエルとの試合。対戦相手のノエルは自分の切り札を使っても一度は耐えて最後まで諦めずに自分に挑んできた。アレはシルヴィアから見ても見事であり素直に感嘆した。

 

(まああそこまで頑張る原因が八幡君の為ってのが妬けちゃうけど)

 

シルヴィアは苦笑しながら誰にでも優しい八幡の顔を頭の中に浮かべる。つい先程キスをしてくれて激励してくれた想い人の顔を。それを思うとつい頬を緩めてしまう。

 

今から戦う相手はかつてないほどの強敵。シルヴィア1人だけなら緊張するかもしれないが、試合前に自分の命より大切な2人から激励されたシルヴィアの辞書に緊張という文字は無かった。

 

すると……

 

 

『先ずは東ゲート!世界中の誰もが知っている世界の歌姫にしてクインヴェール序列1位『戦律の魔女』シルヴィア・リューネハイム選手ぅー!』

 

実況が自分の名前を呼ぶのでシルヴィアは東ゲートをくぐってステージに繋がるブリッジを歩きだす。同時に星武祭恒例の大歓声とスポットライトがシルヴィアに降り注ぐ。昨日までも大量に浴びたが、今回はそれは昨日までとは一線を画していた。

 

そしてブリッジからステージに飛び降りて自身の銃剣一体型煌式武装フォールクヴァングを取り出していつでも起動出来るようにする。

 

『続いて西ゲート!生きる伝説『万有天羅』の一番弟子にして界龍の序列2位!星辰力を効果的に変質するというある種異次元の技を会得した男!『覇軍星君』武暁彗選手の登場だぁー!』

 

実況がそう叫ぶとシルヴィアの頭上から圧倒的な気配を感じる。離れているにもかかわらず、暁彗がこちらに歩いてくるのを理解してしまう。

 

そして暁彗がステージに降りるとシルヴィアは思わず息を呑んでしまう。

 

鍛え抜かれた体躯から感じる力はただただ圧倒的である。シルヴィアもこれまで強い人間とはそれなりに戦ってきたが、今の暁彗はシルヴィアがこれまで対峙した人間の中では最盛期のオーフェリアの次に強いと断言出来る。

 

(少なくとも3年前の王竜星武祭時代の私や八幡君じゃなす術なく負けるだろうね)

 

そんな事を考えていると暁彗がこちらに近付いてきて手を差し出してくる。

 

「よろしく頼む、『戦律の魔女』」

 

「こちらこそ宜しくね」

 

そう言われたのでシルヴィアも手を出して暁彗と握手をする。同時にシルヴィアは暁彗の手から伝わるオーラを再度息を呑んでしまう。

 

「先に言っておく。決勝に上がって比企谷八幡に挑むのは俺だ」

 

言うなり暁彗は少しだけ握手する力を強める。暁彗自身王竜星武祭に参加した1番の理由は星露を除いて最初に自分に黒星を与えた八幡にリベンジをする事故に気合の入り方はこれまでとは一線を画していた。

 

同時にシルヴィアは暁彗の本気具合を理解した。同時に既に試合は舌戦という形で始まっているという事も理解した。

 

「悪いけどそれは無理かな。八幡君には上がってこいって言われてるし」

 

対するシルヴィアは不敵な笑みを浮かべながら暁彗同様に握手する力を強めて暁彗に応える。

 

「ふっ……予想通りの返事だ。とはいえ決勝に行くには目の前にいるお前に勝たないといけないからな。比企谷八幡の事を今は忘れよう」

 

「だろうね」

 

そういう暁彗に対してシルヴィアも同意する。試合が始まったら目の前にいる相手以外の事を考えたら負けに繋がるとシルヴィアも暁彗も理解している。

 

「さて、そろそろ開始時間だし戻ろっか。勝たせて貰うよ」

 

「望むところだ」

 

言いながら2人は真っ向から視線をぶつけ合い開始地点に向かい、シルヴィアはフォールクヴァングを斬撃モードにして、暁彗は徒手空拳のままだ。

 

『いよいよ開始時間です!勝ってレヴォルフと覇を競うのは界龍か、はたまたクインヴェールか?!』

 

実況の声によってステージにいる2人の空気は一層張り詰めて、観客席は一層盛り上がる。

 

そして……

 

『王竜星武祭準決勝第2試合、試合開始!』

 

試合開始の合図が響いた直後…….

 

「破っ!」

 

暁彗がそう叫ぶといきなり地面が抉れて吹き飛び、四方遥か先までひび割れが走り、粉塵が舞い上がる。

 

暁彗がやったのは極めて単純な踏み込みからの掌打とシンプルな攻撃。しかし暁彗本人のスペックが桁違いなので、一撃必殺の技はなっている。事実1回戦から4回戦はこの一撃で勝ち上がっている。冒頭の十二人でも上位クラスでない限り暁彗の一撃を耐えるのは不可能だろう。

 

しかし……

 

「うわー……初っ端から飛ばすねぇ」

 

今回の対戦相手は暁彗同様に壁を越えた人間であった。

 

噴き上がった粉塵の中からシルヴィアが飛び出して引き攣った笑みを浮かべている。

 

同時に舞い上がった粉塵はゆっくりと晴れクレーターの中心には……

 

「ただの煌式武装で俺の攻撃を受け流すとは……見事だ」

 

異様な質感の星辰力ーーー錬星術によって変換された攻性星辰力を纏った拳を構えた暁彗がいた。その表情はまさに不敵の笑みと言っていいだろう。

 

シルヴィアは開始直後に暁彗が放ってきた拳を腹に当たる直前にフォールクヴァングによる流星闘技で受け流して軌道を逸らしたのだ。

 

開始直後に瞬時に距離を詰めて一撃必殺の拳を放つ暁彗も怪物だが、その一撃を咄嗟の流星闘技で受け流したシルヴィアも桁違いの力を持っている事を意味する。

 

(とはいえ今のは結構ギリギリだったし、早く歌わないと……)

 

歌わない状態で挑んでも暁彗に勝てないとシルヴィアは判断して、フォールクヴァングを射撃モードにして光弾を放ちながら全力で距離を取る。

 

対する暁彗は自身の星辰力を錬星術によって防御に特化した防性星辰力に変換するや否や身に纏ってシルヴィアに突撃をする。

 

すると光弾は暁彗に当たるも1秒すら暁彗を止める事は出来なかった。

 

それにはシルヴィアも驚愕した。フォールクヴァングは銃剣一体型煌式武装だけあって剣の方にもリソースを割いているが、W=Wの最高傑作と言われる煌式武装であり、射撃モードによって放たれる光弾は充分な破壊力を持っている。

 

にもかかわらず暁彗は全く意に介さずに突き進んでくるのだからシルヴィアは危険と判断した。

 

同時に守りに入った負けとも判断したので、息を吸って……

 

「ぼくらは壁を打ち崩す、限界の先に境界を越えて、傷を厭わずに、走れ、走れ」

 

ステージに歌声を響かせる。するとシルヴィアの身体の奥から力が噴き上がり、それに比例するかのように観客席のボルテージが上がる。

 

同時にシルヴィアはフォールクヴァングを斬撃モードに切り替えて暁彗に向かう。

 

「想いだけでは追いつけないから!願うだけでは超えられないから!力の限り、その先へ!」

 

いつも以上に気合を入れて歌いながら暁彗に斬りかかる。すると暁彗は右腕に防性星辰力を込めてシルヴィアの斬撃を受け止めて、左腕に攻性星辰力を込めてシルヴィアに殴りかかる。

 

対するシルヴィアは即座に身体を捻って暁彗の掌打を回避してフリーの左腕で暁彗の鳩尾に二撃拳を叩き込むも、暁彗は全くダメージを受けてないように左腕を使って薙ぎ払いをしてくる。

 

 

シルヴィアはフォールクヴァングを暁彗の右腕から外してから、フォールクヴァングで流星闘技を使用して薙ぎ払いを受けるも……

 

「おおっとっ!」

 

押し負けて後ろに吹き飛ぶ。しかし自身の身体に直撃した訳ではないので殆ど無傷の状態で身体を起こす。

 

しかし余裕はない。何故なら暁彗が追撃をするべくシルヴィアの方に向かっているからだ。

 

暁彗を見据えたシルヴィアは息を吐いて違う歌を歌う。

 

「光の矢は 人々の思いを束ね 闇へと駆けて 突き進む」

 

すると大量の光の矢がシルヴィアの周囲に現れて一斉に暁彗に向かう。同時にシルヴィアはバックステップで距離をとって次の歌を歌おうとするが……

 

「噴っ!」

 

暁彗が攻性星辰力を込めた右腕を上げてから振り下ろすと、そこから放たれる衝撃波が光の矢を全て消滅して、地面には巨大なクレーターが生まれる。

 

「………」

 

『………』

 

これにはシルヴィアどこらか観客も絶句してしまう。暁彗の戦闘スタイルは全て基本に忠実なスタイルだ。やってる内容そのものは界龍の基礎を基にした戦い方だ。

 

しかし暁彗本人のスペックに加えて星辰力を効果的に変質させる錬星術によって圧倒的な力を出しているのだ。

 

それについてはシルヴィアも試合前から理解はしていたが、自分の技を悉く粉砕するのを見ると絶句してしまう。

 

「(本当にデタラメだね……!だったら……!)蒼穹を翔け、渾天を巡る意志の翼は、いつの日かキミを、明日の向こうへ導くだろう」

 

暁彗がこちらに詰め寄る中、シルヴィアは新しい歌を歌う。同時に背中から光の翼が顕現されて空を飛ぶ。

 

 

八幡も似たような飛行能力を持つが性質は大分違う。八幡の影の翼は形を変えたり、切り離して飛ばすなど多様性が武器であり、シルヴィアの光の翼は単純に飛ぶことしか出来ないが機動力は八幡の翼より数段高い。

 

そしてフォールクヴァングを射撃モードに光弾を暁彗に向けてフルオートで放つ。暁彗からしたら雨のように感じるだろう。

 

しかし暁彗は特に焦ることなく、フォールクヴァングから放たれる光弾を回避したり撃ち落としたりしながら懐から大量の呪符を取り出す。

 

星仙術を使えば懐に数千枚の呪符を仕込む事が出来るが、星露を除けば界龍最強である暁彗が取り出した呪符は、暁彗のように星仙術を使う陽乃やセシリー、沈雲や沈華より遥かに多い枚数であった。

 

そして呪符を四方八方にばら撒いたかと思えば、ジャンプして呪符を足場にしながらシルヴィアとの距離を詰めにかかる。

 

その動きは尋常ではなく、空中にもかかわらずシルヴィアが放つ光弾を呪符を足場に八双飛びよろしく飛び回り簡単に回避する。その速さは空中戦特化型の純星煌式武装『通天足』を装備した趙虎峰に匹敵する速さだった。

 

その上、何発か光弾が当たっても防性星辰力を突破出来ずに実質ノーダメージである。

 

(もう!速いし硬いし強いって……だったら!)

 

シルヴィアは内心毒づきながらもフォールクヴァングから光弾を放つ。ただし狙いは暁彗ではなく、暁彗が足場に使用している呪符だ。いくら暁彗でも足場が無ければ飛べないと判断したからだ。

 

シルヴィアが徐々に呪符を破壊し始める。しかし暁彗は特に焦ることなく、寧ろ楽しそうな表情を浮かべる。

 

「やるな!ならば……急急如律令、勅!」

 

暁彗がそう叫ぶと呪符の一部から雷が生まれて、シルヴィアに降り注ぐ。呪符はあらゆる方向にある故にあらゆる方向から雷撃がやってくる。

 

対するシルヴィアは全神経を集中して紙一重で回避するも、一瞬、ほんの一瞬だけ暁彗の事を意識から外した。

 

それを暁彗が気付いたのか知らないが、それと同時に足場にしている呪符を爆破させて、その勢いのままシルヴィアに襲いかかる。

 

それを見たシルヴィアは慌てて回避しようとするも……

 

「うわあっ!」

 

暁彗の蹴りはシルヴィアの光の翼を貫く。暁彗が蹴りの勢いを殺さずに地面に穴を開けながら着地する中、シルヴィアの光の翼は消えてゆっくりと地面に落下する。

 

シルヴィアが下を見れば暁彗がクレーターから出て再度呪符をばら撒き始める。空中にいるシルヴィアの所に向かって叩き落とす算段とシルヴィアは判断した。

 

(今の所大きなダメージはないけど……本気を出さないと負けるね)

 

暁彗の実力はシルヴィアの予想以上だった。今はまだ戦えているが、この状況が続けば遠くない未来に負ける、とシルヴィア確信していた。

 

だから……

 

「私は纏う、愛する者を守る為、支える為、共に戦う為」

 

だからシルヴィアは歌う。自身の最強の技を発動する為に。歌い始めるとシルヴィア自身の体内から膨大な星辰力を膨れ上がらせて、大気中の万応素を変換させる。そしてシルヴィアの周囲に光が生まれ出す。

 

そして……

 

「纏いて私は動き出す、誰よりも強く、誰よりも速く、愛する者を奪おうとする敵を討ち滅ぼす為に……!」

 

 

次の瞬間にシルヴィアの身体が光に包まれたかと思えば、次の瞬間に光が薄くなり光の衣を身に纏ったシルヴィアが光の翼を羽ばたかせて空中に留まる。

 

手には先程ぶつけ合った圧倒的な星辰力を感じる光の剣、背中には神々しい翼が12枚生えている。これまでなら5回戦や準々決勝でも見せていたが……

 

「光神の神弓」

 

今回は違った。次の瞬間に空いている左手に巨大な光の弓が生まれたかと思えば、右手に持つ光の剣を矢のように構えて……

 

 

「光神の滅矢」

 

引いたかと思えば光の剣は一直線に暁彗に放たれて……

 

 

 

 

ドゴォォォォォォォォォンッ

 

 

 

光の剣が暁彗の近くに着弾して大爆発を起こしたのだった。


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