「では合同合宿は2週間後の月曜日から水曜日までやって木曜日の朝にアスタリスクに帰る予定となりました。こちらが栞ですのでご確認を」
クインヴェール職員室にていつものように戦闘部門担当教師同士の職員会議をしている。
それだけなら特に問題はないが、毎回進行の担当が俺ってのは勘弁して欲しい。
何故俺がやっていると言うと、最近退職したお袋が戦闘部門でカリスマ性を発揮していて、その影響だからか息子の俺もお袋と同じ事をやらされている。……まあ今の所大きなミスをしてないのが不幸中の幸いだろう。
「何か質問は?」
俺が尋ねてみるも、特に異論はないようだ。良かった……栞の作成は慣れてないからな。
「ないようならこれで朝の職員会議は終了します。それと午後から自分は歌奈の迎えに行かないといけないので悪しからず」
言いながら俺は一礼してから職員室にある自分の席に座って電子書類の整理を始める。
さて、早い所書類を片付けて、アメリカ横断ツアーを終えてアスタリスクに帰国する歌奈を迎える準備をしないとな。
4時間後……
「早く帰ってこいよ……」
「もう八幡君ったら……少し落ち着きなよ」
アスタリスクにある空港にて、娘の歌奈が乗っている飛行機を今か今かと待っているとシルヴィが苦笑いしながらそう言ってくる。隣にはオーフェリアとノエルも居て、2人もシルヴィと似たような表情を浮かべている。
そして周囲には大量のマスコミが展開されている。大方世界の歌姫である歌奈に用があるのだろう。一部の人は俺達を撮っているが一々キレて有る事無い事報道されたら面倒なのでシカトする。
「煩え、可愛い可愛い歌奈が帰ってくるんだ。落ち着ける訳ないだろ」
「相変わらず親バカだね……まあ私も楽しみだけど」
シルヴィがそう言ってくるが、俺も3人が出産するまで、自分が親バカだとは全く予想してなかったわ。初めは適度に接すれば良いと思っていたのだが、生まれた直後に抱いたらそんな考えは即座に吹き飛び、立派な人間にすると考えたくらいだ。
そこまで考えている時だった。
「む!そこにいるのは八幡ではないか?」
「加えて妻3人もいるじゃん、おーい!」
背後からそんな声が聞こえてくる。声からして材木座とエルネスタだろう。空港にいるって事は仕事でアスタリスク外部に行くのか?
疑問に思いながら振り向く。しかしそれと同時にブラックコーヒーを無性に欲したくなる。何故なら……
(その初々しい恋人繋ぎを見せつけんな……!)
見れば2人は恋人繋ぎをしながらこちらに歩いているが2人の反応が初々しい。材木座は照れていつもの高笑いをせずに自身とエルネスタの手を頑なに見ず、エルネスタはいつもの天真爛漫な笑顔ではなく恥じらいの混じった笑みを浮かべて繋がっている手を見ている。
それはまさに付き合ったばかりのカップルが手を繋ぐのを恥ずかしがっているようにも見える。俺達からしたら甘過ぎる……
ともあれ新婚夫婦のやり取りに文句を言うのも野暮だし鋼の理性で文句を言うのを我慢する。
「……よう。お前らは仕事か?」
俺は呆れなどの感情を表に出さず、2人に話しかける。
「いやいや違うよん。私達はカミラを迎えに来てるの」
そういやカミラの奴、アメリカで新しい煌式武装の技術について発表していたな。んで発表が終わったから帰ってくるようだ。
「そうかい……それと一応エルネスタにも言っとくが結婚おめでとさん」
「にひひー、どういましまして。まだ結婚して一月も経ってないけど、結婚する前とは違った意味で楽しいよ。ね、将軍ちゃん?」
エルネスタは言いながらレナティそっくりと笑顔を見せてくる。義理とはいえ親子だから本当にそっくりだな。まあエルネスタはレナティと違って黒い笑みも持ってるけど。
「……まあ退屈はしてないな」
「そっかー、なら良かった」
さり気ない会話なのに2人の間から生まれる空気は甘い。エルネスタの奴がさり気なく繋いである手をギュッギュッしているのが拍車をかけているからだろう。
正直言って今すぐブラックコーヒーを買いに行きたいくらいだ。見れば俺の嫁3人も僅かだが引き攣った笑みを浮かべている。(オーフェリアに至っては呆れ果てている)
「そういえばさ新婚旅行に行くとしたら何処が良いかなー?」
そんな俺達の気持ちを他所にエルネスタは俺達に話しかけてくる。
「今まで行った事ない場所にすりゃ良いじゃねぇか」
「うん。結婚する前は何処に行った事があるの?」
シルヴィの質問に対して……
「うーん、ハワイに泳ぎに行ったり、カナダに避暑に行ったり、ヨーロッパでウルム=マナダイトが落ちた場所周辺に調査と観光に行ってり……かな?」
随分と楽しそうな旅行だな。てか何でお前らこれで結婚が遅いんだよ?下手したら俺達より早く、それこそ学生結婚とか出来ただろうに。
「あー……海外が多いみたいだし、偶には日本にしたらどうだ?」
「となるとディスティニーとかUSJとかかな?……あ、ディスティニーは将軍ちゃんの地元だから将軍ちゃんは行き慣れてる?」
「いや……当時の我、友達が居なかったから家族以外とは行った記憶がないな」
材木座ェ……しかし馬鹿にするつもりはない。俺もアスタリスクに来る前は友達が居なかったので家族以外とは行ってないから。
まあアスタリスクに転向してからは嫁3人や娘4人だけでなくチーム・赫夜のメンバーやウルサイス姉妹など様々な人と行ったけど。
「相変わらず将軍ちゃんは悲しい事をカミングアウトするなー。じゃあ私と行って家族以外とも行ったようにしよっか?それに将軍ちゃんの両親に挨拶しないといけないし」
「そういえば婚姻届は提出したが親にはまだ報告してなかったな。なら新婚旅行の前に一度実家に帰るか」
報告してないで婚姻届を出したのかよ?本当にこいつらは色々ぶっ飛んでるな……
そんな事を考えている時だった。窓から大きな音が聞こえてきたので見れば巨大な飛行機が着陸していた。俺達がいるゲートの近くに着陸したので十中八九アメリカからの便だろう。
「さて……暫くしたら降りてくるだろうからお前らは俺にしっかり掴まっとけよ」
俺は嫁3人にそう話しかける。マスコミに捕まったら面倒なので歌奈がゲートから出てきたら、速攻で歌奈の身体に触れて影の中に入る算段を立てている。影の中に入れば星露やオーフェリアですら対処出来ないからマスコミ程度ではどうにもならないだろう。
「あ、私達も早くカミラを迎えたいからお願いねー」
言うなりエルネスタと材木座が俺にしがみついて影の中に入れる準備をし始める。
(まあ偶には良いか……っと、来たな。しかも2人同時に来ているし手間が省けたな)
ゲートを見れば俺の娘にして世界の歌姫二世である歌奈と世界最大の技術会社である技術開発局所長のカミラがなにやら話しながらこちらに向かってくる。
同時にマスコミが大量にフラッシュを焚く。今まで空港まで歌奈を見送ったり迎えた事はあるが相変わらず慣れる気配はしないな。
そう思いながらも俺は自身の影に星辰力を込めてから、そのまま影の中に入って2人の元に近寄り……
「よっと」
「うわあっ!」
「な、何だ?!」
そのまま2人の足を掴んでそのまま影の中に引きずり込む。その際に2人が驚きの声を上げるが気にしない。
「よう歌奈。1ヶ月ぶりだな」
「やっほーカミラ。お仕事お疲れ様ー」
「パパ?!ママにオーフェリアさんにノエルさんも……あ、もしかしてパパの影の中?」
歌奈は理解が早いようだ。即座に自分の状況を理解する。
「なるほどな……これなら取材陣に捕まらずに済むな。礼を言うぞ」
「別に気にすんな。歌奈を迎えに来たら偶然、そこの新婚夫婦と会ったからな。もののついでだ」
「そうか……って待て!今なんて言った?!」
するとカミラは焦るような態度で俺の肩を掴んでくるが、俺は今、変な事を言ったか?
「今新婚夫婦と言わなかったか?!」
あー、その事か。
「あー、ごめんカミラ。報告忘れてたけど先日将軍ちゃんと結婚したんだ」
なんだその昨日コンビニに行ったみたいな軽いノリは……
「何っ?!お前ら2人は結婚しないで無自覚に砂糖を振りまくだけで進展はしないと思っていたんだが……何があったんだ?!」
あ、やっぱりカミラも俺……というか材木座とエルネスタと関わりのある人間らと同じ事を考えていたようだ。
「んー。この前私と将軍ちゃんが男子会と女子会をやった時に、結婚云々の話が出て私は将軍ちゃんについて考えたらって言われて、将軍ちゃんは私について考えたらって言われたの。だから帰ってから結婚について考えて話し合ったら、結婚するのもアリかなーって思ったから結婚したの」
「まあそんな訳だ」
「考えろと言われたその日に結婚するとは……お前達とは長い付き合いだが、相変わらずぶっ飛んでいるな……」
「止せいカミラ殿、照れるではないか」
「そうそう。長い付き合いなんだし褒めなくて良いよ?」
「褒めてないわ!」
「「ひいっ!」」
カミラの怒声に新婚夫婦が悲鳴をあげる。結婚してもカミラに対して頭は上がらないようだ。
とりあえずあのトリオは放っておこう。今は……
「おかえり歌奈」
愛娘の帰還を喜ぶべきだろう。俺がシルヴィと同じ歌奈の紫色の髪を撫でると歌奈はくすぐったそうに目を細める。
「ただいまパパ、ママ、オーフェリアさん、ノエルさん」
「おかえり。アメリカはどうだった?」
「ご飯が脂っこいものが多かったかな。ツアー中は殆ど遊べなかったし、今度は家族全員でプライベートで行きたいな」
「それは楽しそうね……でも茨はともかく、翔子と竜胆は余り興味ないから厳しいわね」
オーフェリアの言う事は的を射ている。翔子と竜胆はガキの頃から戦い以外の事に欲を抱いてないからな。なんというか中学生にもなって家族旅行をしている姿が全く想像出来ない。
「あはは……まあそうかも。それよりも疲れちゃったし早く帰らない?」
歌奈がそう言ってくる。そうだな……確かに今は歌奈の疲れを取る事が最優先だな。
だから…….
「よし、んじゃ急いで空港を出るぞ……さっさとそいつら影の中から追い出したいし」
チラッと見た先には……
「って感じでまだ結婚して一月も経ってないけど、楽しいよ〜」
「うむ。結婚生活も悪くないし、カミラ殿も早くしないと行き遅れ「大きなお世話だ……!」ひぎゃぁぁぁぁぁっ!」
電波女が笑顔で惚気て、元厨二病の男が苦労人にアイアンクローをされている光景が存在していた。
2時間後……
「とりあえずお疲れさん。暫く仕事は入ってないんだしゆっくり羽を伸ばしな」
自宅に帰宅した俺と嫁3人と歌奈は嫁3人が作った料理を食べながら話している。
「うん。それとさツアー終盤に知ったんだけど、四学園で合同合宿するんだっけ?」
「そうだが……そういや各学園の生徒会長は可能なら出席しろって話だったな」
一応他学園との合同合宿なんて初めてなので挨拶的な意味で生徒会長には召集がかかっている。まあ四学園の内、三学園は俺の娘だけど。
「そうなんだ……はぁ、茨と竜胆はともかく、優子は苦手なんだよなぁ」
「まあ優子ちゃんは母親に似て腹黒いからね」
シルヴィは苦笑しながら歌奈の肩を叩く。優子ってのは綾斗とクローディアの娘で星導館の序列2位にして生徒会長も務めている。何度か会ったが母親の血を濃く受け継いでいて強かだ。
俺もシルヴィも学生時代に生徒会長をやっていたので、当時星導館の生徒会長をやっついたクローディアの腹黒さを知っている。奴と同等の腹黒さを持っているなら歌奈も苦労するだろう。
「ま、でもお前も優子も鳳凰星武祭に参加する訳じゃないし、そこまで腹の探り合いはしないだろ……問題は俺の方だな」
俺がそう言うと同じく合同合宿に参加するノエルは苦笑いを浮かべて、事情を知らないシルヴィとオーフェリアと歌奈はキョトンとした表情を浮かべている。
「えっ?なんでパパが?」
歌奈が質問をするので……
「実はな、界龍の引率教師なんだが、今朝セシリーから電話があって、星露も同伴するらしい」
「「「あー」」」
すると3人が納得したように頷く。セシリーから電話がきた時はマジでビビったくらいだ。
星露の事だ。合宿先に着いたら真っ先に勝負を挑んでくるだろう。アイツ、王竜星武祭で戦って以降、会う度に戦いたい戦いたいと文句を言ってくるし。
今まで戦わずに済んだのは星武憲章があったからだが、合宿先は大津ーーーアスタリスクの外で星武憲章の影響が及ばない場所だ。
そんな場所に居る以上、星露は絶対に俺に勝負を挑んでくるだろう。下手したらノエルや綺凛にも挑む可能性が高い。
(無理だと思うが頼むから平和に終わってくれ……)
内心俺は叶う事がない願いを込めて祈るのだった。
同時刻……
「くくくっ……合宿が待ち遠しいのう……!八幡との再戦は勿論、綺凛やノエル、八幡や綾斗の娘達……是非とも喰いたいのう……!」
星露が餓狼の如く獰猛な笑みを浮かべていた。
同時刻……
「ああ……早く比企谷を殺さないと……そしたら比企谷が色々な人に仕掛けた洗脳は解けるだろうから、俺はノエルちゃんと結婚してメスメルの家に認められてからE=Pの幹部に入って世界を平和に変えてやる。その為にも……」
再開発エリアのビルの一室にて、1人でいる葉山隼人は醜悪な笑みを浮かべて空間ウィンドウを見る。
「その為にも是非とも俺の捨て駒になってくれよ?」
空間ウィンドウには三浦や戸部を始めとした葉山グループのメンバーの写真が写されていたのだった。
比企谷歌奈 (13)
クインヴェール女学園所属序列1位兼生徒会長
二つ名 歌王
八幡とシルヴィアの娘で竜胆の双子の妹。小学校時代からトップアイドルとして活躍して、卒業後は母親が所属していたクインヴェールに入学。入学して1ヶ月以内で世界の歌姫二世と呼ばれるようになった。
戦いに興味がある訳ではないが、両親の名に恥じないようにする為に、入学して2ヶ月以内に序列1位になる,
所有煌式武装はシルヴィアから貰った銃剣一体型煌式武装のフォールクヴァング。
奇跡的に母親と同じく、歌を媒介にして様々な事情を引き起こす能力を所有する魔女。歌の精度はシルヴィアより上だが身体能力はシルヴィアの方が上。
茨に比べたら大したことはないがファザコンでありマザコン。両親と一緒に風呂には入ってないが、頭を撫でられる事を好んでいる。