「………八幡」
校門を出ると横にオーフェリアがいた。彼女を見ると漸く自由にさせる事が出来たと込み上がって来るものがある。
俺がオーフェリアの名前を呼ぼうとした時だった。
オーフェリアはいきなり俺に抱きついてきた。
「……オーフェリア?」
いきなりどうしたんだ?いつもなら必ず事前に抱きついていいか聞いてくる筈だが……
「……さっき八幡達が話してるのを聞いたのだけど……本当に私は自由なの?」
疑問に思っているとオーフェリアは上目遣いでそんな事を聞いてくる。そうか……聞いていたのか。
「……ああ」
そう言って俺はオーフェリアにさっき手に入れた電子書類を見せる。
「これで今、お前の所有権は俺にあるが……俺はディルクや『大博士』とは違ってお前をどうこうするつもりはないし、お前がやりたい事があるなら協力してやる」
「……じゃあさっき言っていたように私を幸せにしてくれる?」
「ああ」
ただ一言そう返す。こいつがまた昔のように幸せを感じたいなら協力するし、その時に俺が必要なら何でもしてやる。
「……そう。じゃあ八幡、前に言った事、覚えている?」
「前っていつだよ?そこを言わないと思い出せん」
「鳳凰星武祭の本戦一回戦の後、小町達と会った時の事よ」
本戦一回戦の後?確かあん時は……
「リースフェルトと会った時の事だよな?」
「……そう。あの時に八幡が言った事、覚えてる?」
オーフェリアは不安そうな表情をしながら上目遣いで見てくる。これ間違えたら泣くんじゃね?ってくらい悲しそうな表情だ。絶対に間違える訳にはいかないな。
「えーっと……確か、もしもお前が自由になったらお前の願いを叶える云々ってヤツだよな?」
俺の記憶が正しければそれだったと思う。間違えていたらマジで済まん。
しかし俺の心配は杞憂だった。オーフェリアは不安そうな表情を消して頷く。
「……そう。覚えていてくれて安心したわ」
良かった、これで忘れていたら最悪だからな。
「そうか。でも今ここで言うって事は俺に願いを叶えて欲しいって事か?」
「……ええ。今ここで私の願いを八幡に話したい」
「わかった。じゃあ言ってくれ」
俺がそう尋ねるとオーフェリアは頬を染めて俯く。何を願うんだ?少し怖いんだけど。
疑問に思っているとオーフェリアは顔を上げて
「私の願いは……八幡と結婚したい。八幡と結婚して幸せに暮らしたい」
そう言っていきなり俺の唇を奪ってきた。
オーフェリアからのいきなりのキスによって初めは呆気に取られるも直ぐに顔が熱くなってきているのを実感する。
まさかオーフェリアにキスをされるとは思わなかった。てかシルヴィとキスした時も思ったが女の子の唇って柔らかくて気持ちが良い。出来ることなら何度も味わいたくな……って、何を思ってんだ俺は?!
内心そう突っ込んでいるとオーフェリアは俺から唇を離して更に強く抱きついてきた。
「お、オーフェリア……そ、その結婚って事は……」
俺がしどろもどろな返事をしているとオーフェリアは俺を見上げて口を開ける。
「……ええ、私は八幡の事が好き。こんな私を普通の女の子として扱ってくれたり、私に楽しいという感情を改めて教えてくれた貴方の事が好き。自由になったからもう我慢が出来ないし、するつもりもないわ。これからずっとずっと……私の隣にいて欲しい」
そう言って再びキスをしてくる。シルヴィとは違ったキスだが、気持ち良さは勝るとも劣らないキスだ。
まさかこんな短期間に2人の女子、それも世界の歌姫と世界最強の魔女に告白されるとは……マジで俺の人生はどうなってんだ?
しかしどうすればいい?俺の頭の中にシルヴィの事も浮かんでしまっている。
オーフェリアの事は本当に大切に思っている。しかしそれと同じくらいシルヴィの事も大切に思っている。
どちらの告白にも驚いたし本当に嬉しかった。しかしどちらか片方は断らないといけない。それは必然の事ではあるが今の俺には……
俺が悩みながらオーフェリアにキスをされているとオーフェリアは唇を離してきて俺に話しかけてくる。
「……八幡。もしかして今、私の事だけじゃなくてシルヴィアの事も考えていた?」
「……何でわかった?」
「好きな人が何を考えているかくらいはわかるわ」
はっきりと言うなバカ。全くシルヴィといい……俺を悶死させる気か?告白してきた相手に殺されるって……
呆れている中オーフェリアが口を開ける。
「……もしかしてシルヴィアにも告白されたの?」
「ああ、された。結果はまだ保留にしている」
「保留という事はまだ付き合ってはいないの?」
「……ああ。シルヴィも返事は後で良いって言ってくれた」
しかし……マジでどうしよう?今オーフェリアに告白されたので更に迷いが生じてしまう。
俺が悩んでいるとオーフェリアが一息吐く。
「……わかったわ。じゃあ私も返事は今じゃなくてもいいわ」
オーフェリアはそう言ってくる。え?そりゃ今返事をしなくていいのは俺としてもありがたいが……
「いいのか?」
「ええ。無理に聞き出してもそれが正しい答えとは限らないから。今は私の気持ちを伝えられただけで充分よ」
「……そうか」
「ええ。……でもいつか、必ず返事をちょうだい」
「……わかってる。必ず返事を出す」
「お願い」
オーフェリアはそう言って更にギュッと抱きついてくる。そして背中に回した手を動かしてくる。その手つきが妙にくすぐったい。
「お、オーフェリア……そのだな……マジで勘弁してくれ」
「ふふっ……嫌……もう少しだけこうさせて」
オーフェリアはそう言うと笑顔を見せてくる。今までより明らかな笑顔だった。物凄く可愛いんですけど?
俺はドキドキしながらオーフェリアに抱きつかれた。これが決勝開始30分前まで続いた。
「……八幡、さっきはいきなりキスをしてごめんなさい」
突風を感じているとオーフェリアが謝ってくる。
現在俺とオーフェリアは影の竜に乗ってシリウスドームに向かっている。普通にモノレールで行ったら遅刻する可能性があったので却下した。
「別に気にするな。既にシルヴィから何度もされてるし」
初めてキスしたのは昨日だが、今日シルヴィと別れるまでに軽く1000回はキスをされたのでぶっちゃけそこまで恥じらいが無くなった。
シルヴィの奴マジでキス魔だろ?朝起きたら飯を食うまでに200回ぐらい、朝食を食べている時に100回くらい、朝食の後シルヴィの寮を出るまでには700回はキスをされただろうし。後半300回くらいで恥じらいが無くなった。
「……やっぱりシルヴィアとはキスをしたの?」
「ん?ああ」
「そう……八幡のファーストキスは私が欲しかったのに……」
オーフェリアはそんな事を言ってくるがんな事を当人の前で言わないでくれよ。何と返事したらいいかわからないからな?
オーフェリアに内心そう突っ込んでいるとオーフェリアがまた口を開ける。
「……八幡、さっきシルヴィアに何回もされたって言っていたけど八幡からはしたの?」
そう言われて言葉に詰まってしまう。それを言われたか。俺はベッドの上で起こった光景を思い出してしまう。
顔を赤くしているとオーフェリアが悲しそうな顔をする。
「……したのね」
「いや、したというか……してしまったに近いな」
「……?どういう事?」
「うーん。何というか……キスするつもりはなかったがキスしちまったみたいな……」
あん時はシルヴィの綺麗な瞳を見たくて顔を近づけた結果、キスをしてしまったからな。
「……つまり自分の意思でした訳ではないという事?」
「まあそうなるな」
「……そう」
オーフェリアはそう呟くと何かを考えるような素振りを見せてくる。何を考えているんだ?
疑問に思っているとオーフェリアが顔を上げて……
「……八幡。八幡さえ嫌でなければ……私にキスをしてくれないかしら?」
爆弾を投下してきた。
「お、オーフェリア!い、いきなり何を言ってんだよ?!」
余りの爆弾にテンパっている中、オーフェリアは俺に抱きついて上目遣いで見てくる。しかも目には涙が微かに見えて俺の理性を刺激してくる。
「……お願い。私、ずっと前から八幡にキスをされたいと思っているの。自由になった以上もう我慢が出来ないわ」
そう言ってくる。自由になった故の要望、オーフェリアを自由にさせて望む願いを叶える事を目的としている俺からしたらそう言われたら断れない。
仕方ない……覚悟を決めるか。
「……いいんだな?」
最後の確認をする。オーフェリアは頬を染めながら頷く。
「……お願い」
「わかった」
俺は息を吐いて一度オーフェリアから離れ肩を掴む。凄く華奢な体で強く抱きしめたら壊れてしまいそうだ。
そんな事を考えながらオーフェリアの唇を見る。薄ピンク色の唇が凄くエロい。今からこの唇にキスをするのかよ?
まあいい、覚悟を決めたし……するか。
俺は決心をすると同時にオーフェリアに近寄り……
「……んっ」
オーフェリアの唇に自分の唇を重ねる。
シルヴィと初めてした際の無意識のキスと違って自分の意思で交わしたキスだ。物凄く恥ずかしい。
「んっ……ちゅっ……んんっ」
俺が恥ずかしがっている間にも、オーフェリアは目を瞑ってキスをしてくる。普段殆ど感情を出さないオーフェリアがこんな情熱的なキスをしてくるとは完全に予想外だ。激しさならシルヴィに引けを取らないだろう。
暫くキスをしていると息苦しくなったので唇を離すとオーフェリアがトロンとした瞳で俺を見てくる。
「……八幡。もっとして……凄く幸せだわ」
「はいはい」
一度キスしたからか特に抵抗は感じない。もうどうにでもなれ。
そんな事を考えながら俺はまたオーフェリアと唇を重ねた。
「んっ……八幡……大好き」
オーフェリアがそう言ったのを皮切りに俺達はシリウスドームに着くまでキスを続けた。
この時の俺はまだ知らなかった。
シリウスドームにて決勝戦とは別の激しい戦い……本当の修羅場があるという事を