対セイバーの導入部を添えて
「おら、よっと!」
キャスターが巧みな技量で槍を振るう。クラスがランサーではないため素早さはその時と比べたら落ちるが、それでも並大抵の強者では防ぐことなど不可能だ。しかしアーチャーは両手の剣を使い、確実な守りで攻撃をさばいていた。
一旦距離を取り弓を持つアーチャー。そのまま何発か矢が打ち出されたが、キャスターは同数の魔力弾を打ち出すことで相殺した。さらに距離を取るためにアーチャーが下がろうとすると、ルーンで作られた壁に弾かれた。いつの間にか、まるで一つのケージのように、周囲をルーンの壁が囲っていたのだ。
「遠距離からチンタラやっててもらちがあかねぇからな。師匠の真似して、舞台を整えさせてもらったぜ。これなら思う存分、お前とやり合えるしな」
「やれやれ。少しはキャスターらしい戦い方にしたらどうかね?近接格闘をしたがるキャスターなど、邪道にも程があるだろう」
「お前にだけは言われたくねぇ、よ!」
再び激突する二人。両者共に相手を仕留める気でぶつかり合い、剣と槍が激しく火花を散らす。勢いよく繰り出された攻撃により、アーチャーの剣の片方が弾き飛ばされる。
「これで、どうだ!」
「ぐっ!」
片手のみの剣でなんとか持ち堪えるアーチャー。しかし先ほどと比べても守りの隙が多くなった。鍔迫り合いの状態になる二人。
「なんだぁ?セイバーについてから腕が鈍ったんじゃねぇか?」
「さて、それはどうかな?私からすれば、君の勘が鈍ったようにも見えるが」
「あん?っ!?」
間一髪で身を引いたキャスター。先ほど弾き飛ばされた白い方の剣が、彼の首のあった場所を通った。その剣を掴んだアーチャーは体勢が崩れ、槍を構えることもできなかったキャスターの体に、両の刃を突き立てた。
「ふっ。こんなものか。ん?」
アーチャーが勝利を確信したその時、キャスターの身体がまるで植物のように変わり、彼の両腕を固定した。そのキャスターの身体の人形の中からキャスター本人が現れた。
「森の賢者を舐めるんじゃねぇよ。こいつで、終いだ!」
身動きの取れないアーチャーへ、槍ではなく杖を振るキャスター。アーチャーの足元から巨大な木の腕が現れ彼を捉えた。握りしめられる圧迫感ののち、アーチャーは熱を感じた。一瞬でその木の腕は燃え上がり、彼を大地に叩きつけた。
炎と煙が消え、木の腕もなくなった。倒れていたアーチャーが立ち上がる。しかしその輪郭から粒子になり始めていた。
「俺の勝ちだな、アーチャー」
「そうだな。まさか君に負けることとなるとはな。だがあの盾の少女はともかく、あの小僧と戦ったとしても、どの道勝てはしなかっただろうな」
「なんだそりゃ?仮にも英霊のお前があの坊主に負けるってのか?」
「奴は既に先を見据えている。その理想の先にいるのはもはや別人と言ってもいい」
「理想?別人?急になんの話ししてんだ、お前?」
「常にイメージするのは最強の自分。奴のそれはとうに先を行っている。それもこれも全て彼女のおかげということだろうか。その先に得られる答えは、きっと間違いではないのだろう。ならばもはや何も言うまいし、何もしまい。衛宮士郎に伝えろ、キャスター。その思いは、もはや本物だとな」
そう言い残し、アーチャーは消えていった。
「本物だぁ?何いってやがるあいつ。それに最後に満足そうな顔しやがって」
疑問や愚痴は尽きないが、ゆっくりしている暇はあまりない。セイバーとの戦いで助太刀すべく、キャスターは士郎たちの元へ急いで向かった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
時を遡ること少し、洞窟内でも激しい戦闘が行われていた。
剣が振るわれるたびに、まるで空気そのものが切りつけてくるかのような激しい振動が伝わってくる。離れていてもこの重み。直に受け止めるとなると、その重みは想像もつかない。
「くぅっ」
しかしマシュは倒れない。彼女の持つ盾は、あのセイバーの攻撃にも耐えていた。ただ、マシュ本人はその攻撃の重みに押されっぱなしだった。
「どうした?攻めては来ないのか?」
なお休まることのない攻撃。セイバーが大きく剣を横に払う。その際に生じた衝撃に耐えることができず、マシュは盾ごと後ろに弾き飛ばされた。
「お願いマシュ、耐えるのよ」
ギュッと拳を握りしめ、祈るようにオルガマリーは言葉を絞り出す。ふとマスターである士郎の様子を見ると、真剣な表情をしているものの、驚くほど冷静に戦況を見ていた。
「あなた、不安とかないの?流石に動揺しっぱなしというのはマスターとしてどうかと思うけど、マシュのことが心配ではないの?」
「信じてるから。俺のサーヴァントのことを、マシュのことを」
そう答える彼からは嘘偽りなんて感じ取れなかった。目をそらすこともなく、彼はずっと二人のサーヴァントの戦いを見守っていた。
さてさて次が一番大変だな〜
マシュの戦いとどう士郎を絡めようか