個人的な解釈が割とあるのでご注意ください
「か、勝ったの?」
「はぁっ、はぁっ、はぁっ」
慌てて駆け寄るオルガマリー。盾を支えにし、肩で息をするマシュ。先ほどの盾の発動で大きく疲弊してしまったようだ。無理もないと士郎は思った。自分も初めて自分の力を使った時にはボロボロになったと思い出す。それでも出来たのは、あの時守りたいと思った、守らなきゃいけないと思った人がいたから。やっぱりどこか自分と似ていると感じる。
「やるな」
「っ!?」
「そんなっ!?」
士郎がマシュに労いの言葉をかけようとした時、先ほどの爆発の中心から声が聞こえて来る。煙が晴れると、そこにまだ彼女はいた。全くの無傷ではなく鎧の所々はかけている。それでも消える気配はなく、彼女は剣を構えた。
「だが果たしてその守り、次は持つか?」
「くっ、あぅっ」
既にマシュの体は限界に近かった。サーヴァントの力を得て、その肉体が人間のそれよりも強化されたとはいえ、その力はまだマシュの手には余るものだった。加えて先ほどの無意識による宝具の解放、それにより精神的にも限界になっていた。それでもなお立ち上がろうとするのは今セイバーと戦えるのが自分しかいないから。せめてキャスターが来るまでの時間稼ぎをと。
立ち上がろうとする彼女を肩に置かれた手が制した。士郎がセイバーを見据えながらマシュと立ち位置を入れ替えるようにしてセイバーと対峙した。
「先輩?」
「よくやったな、マシュ。少し休んでてくれ」
「ちょっと、あなた何をするつもり?」
二人に笑顔を向け、士郎はさらに前に出る。セイバーと対峙するかのように。
「まさか貴様が私の相手をするつもりか?」
「あぁ。そのつもりだ」
「魔術師ではサーヴァントには勝てぬ。それを理解してなお挑むというのか」
「あぁ」
「何を言ってるの!?あなたがどんな魔術で武器を持ってきてるのかは知らないけど、勝ち目なんてあるはずがないでしょ!」
「それでも、誰かがやらなきゃいけない。だったら、今動けるのが俺だけなら、俺がやらなきゃいけない」
「迷いなく即答か。フッ、ならば私も貴様の覚悟に応えよう。来るがいい、そこなマスターよ」
「
両手に干将・莫耶を握り、士郎は駆け出した。士郎の剣とセイバーの剣が激突する。技術とパワーで言えばセイバーの方が圧倒的に上だ。魔力解放によるブーストもかかり一撃一撃が重い。しかしそれでも士郎は倒れない。双剣を操り、セイバーの攻撃を防ぎ、受け流し、躱す。ほぼ防戦ではあったが時には自ら攻めることもする。かつて幾度も見せてもらったその剣技から、次の動きを予測して動く。これも彼が身体強化を習得したからこそのことではあるが。
師匠から教わり自身で昇華させた身体強化。より速く、より強く、より鋭く。常にイメージし続ける最強の自分。それを再現するために己は強化される。この身は剣、無限の剣。であれば、衛宮士郎にそれを底上げすることなど、造作もない。
何度目かの撃ち合いののち、両者一旦距離をとった。
「流石はセイバーだな。攻めきれる気がしない」
「貴様こそ。私の知る限り、ただの人間の中では貴様が一番強いかもしれぬ」
「それは褒めてくれてるととっていいのか?そいつはありがとう。ついでに聞くけど、話し合いの余地はないのか?」
「ふん、言葉で何を理解しようとする。語るならばこちらの方が早い」
再び剣を構え駆けるセイバー。士郎もまた迎え撃たんと駆け出す。洞窟内に激しく撃ち合いの音が響き渡る。
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士郎の戦いに三者三様に想いを馳せていた。
オルガマリーは驚愕。基本中の基本すら使いこなせない彼がどうして聖杯戦争を生き延びられたのかが不思議だった。サーヴァントが優秀だったのかとも思ったがそれだけでは説明がつかない。どんなに強い英霊でも、マスターがへっぽこなら力を出すこともままならないのだから。しかし目の前の彼はどうだろうか。人の身でありながらも双剣を使い、あのアーサー王と渡り合っているのだ。驚きとともに納得してしまう。この実力ならば、聖杯戦争に勝ち残ってもおかしくはないと。そして彼の魔術。武器を転移させているわけではなさそうだ。今ここで作り出しているかのような。そんなことはありえないというのに。
マシュが抱いたのは羨望。サーヴァントとなった自分のマスターである彼は本来前線で戦うはずのない人だ。自分が守らなければならない相手だ。その彼が今、自分を守るために戦ってくれている。サーヴァントである自分でも苦戦した相手に、彼は食らいついていた。その姿に、マシュは憧れた。その強さに近づきたいと思った。この人に、着いていきたいと。戦いにおいても、人としてもやはり彼以上に先輩らしい人はそうそういないだろう。グッと盾の持ち手を握りしめる。徐々に体に力が入るようになってきた。もう少ししたら、自分も動けるかもしれない。
そして3人目は感嘆。決して才能があったわけではなかった。それでも彼は何度も向かってきた。回を重ねるごとに学習し、激しい戦いの中でさらに技術を身につけた。あれから時が経ったが、きっとその間も自分を高め続けてきたのだろう。一体どれほどの努力を重ねて来たのだろうか。磨き上げられた彼の技と本気で戦えることに、喜びを感じずにはいられなかった。ぶつかり合うその一撃一撃から彼の努力の結果が伝わってくる。
セイバーの大振りの一撃で吹き飛ばされる士郎。本人にダメージはないが、受け止めた衝撃で干将・莫耶が砕けた。既に幾度か砕かれながらも、士郎はまたその剣を投影し備える。その様子を見て、セイバーが小さな笑みを浮かべぼそりと何か呟く。その呟きは誰の耳に届くこともなかった。
「本当に、強くなったのだな」
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両手に干将・莫耶を持ち構える士郎。流石にずっと打ち合っていたため、その息は上がってきている。
「貴様に敬意を払おう。我が剣の一撃によって、葬ろう」
再び魔力が渦巻き始める。聖剣が黒い光をまとい始める。先ほどの巨大な一撃が、再び放たれようとしていた。
「衛宮!」
「先輩!」
後方からの悲鳴に士郎は振り返らなかった。避けるわけにはいかない。あの二人が後ろにいるということは、自分が避ければ二人がやられてしまうということだ。ならば正面から受け止めるほかない。
「
「
「
「
かざされた士郎の右手の正面に6つの花弁を持つ花が開く。現れるのは彼の最強の守り。トロイヤ戦争において大英雄の投擲さえも凌いだ鉄壁の盾。そこへセイバーの宝具が激突した。一瞬盾が持ちこたえたかのようだった。しかし一枚、また一枚と、押し寄せる膨大な攻撃に花弁が散っていく。次々に散った花弁は残すところあと1つのみとなった。その最後の1つですらヒビが入り、余波で士郎の体に傷がつき始めた。
「くっ、このぉ!」
「ふん、よく足掻いた方だが、これで終わりだな」
「あぁ。終わりだ、お前がな!」
突如として士郎の隣に現れたのはキャスターだった。驚く周囲をよそにキャスターはセイバーに向けてその杖を振るう。
「我が魔術は炎の檻、茨の如き緑の巨人」
「因果応報、人事の厄を清める社」
「
攻撃に専念していたセイバーの足元から炎を纏った木の巨人が現れた。その腕がセイバーを捉え、腹部の籠へ閉じ込める。そのまま巨人は倒れ伏し、セイバーごと燃え上がった。
士郎君、結構強くなってます
強化の理論も勝手に考えて書いたやつなので、難しく考えずに読んでください