これ以上ダラけると次の章が、ね
というわけでオルレアン決着です
二つの影が交わり、旗が振るわれる。一閃の後、膝をついたのは竜の魔女だった。その正面から突きつけられる白い旗。
「くぅっ、そんな、バカな。私はまだ、フランスを滅ぼせていないのに。願いを果たせていないのに!」
「その口ぶりからすると、気づいていたのですね。貴方も」
物憂げな表情で話しかけるジャンヌ。士郎もまた、どこか苦しそうな顔で竜の魔女を見ていた。
「ジャンヌさん?先輩?」
「どうかしたのですか?」
「黒いジャンヌ、竜の魔女は、本来あり得ないサーヴァントなんだ。何故なら、あいつはジャンヌ・ダルクの別側面なんかじゃなかったんだから」
「どういうことですか?」
「聖杯が与えられたのは彼女ではなかったのです。別の者が聖杯を与えられ、願ったのです。この
「その通り!」
ふと響いた声に反応したジャンヌはその場を飛び退いた。彼女が立っていた場所に魔力の塊が打ち込まれた。
「無事ですかな、ジャンヌ!?」
突如現れたジルが、竜の魔女を庇うように士郎たちと対峙した。少し遅れてマリーたちがやって来た。倒されたのではなく、振り切られただけのようだった。
「あ、いた!」
「まさか逃げ出すとは思いませんでした。あの本も気づいたら再生してましたし」
「ジャンヌ、シェロ君。竜の魔女に勝てたみたいね」
「はい、なんとか。あとは聖杯を回収するだけです」
「ジル」
「おぉジャンヌよ、なんと痛ましいお姿に。ここは一旦、このジルに任せて、ゆっくりと休まれてはいかがですかな?」
「でも、まだ戦いは、終わっていない。願いは、まだ、」
「それはこの私めが引き受けましょう。ジャンヌは私の勝利を望み、待っていてくれればいいのですよ。目が覚めたら、全てが終わっていることでしょう」
「そうね、ジル。貴方に、任せるわ」
ジルの手を握り、倒れこむ竜の魔女。彼女から莫大な魔力がジルへと渡された。
「さぁ、始めるとしますかな。この国への復讐を!」
「ジル、貴方は、」
「ジャンヌよ、確かに貴方はこの国を恨まなかった。裏切られ嘲られてもなお。しかし私は絶望したのです!この国に、その民に、そして神にさえも!邪魔をするというのであれば、貴方とて容赦はしませんぞ」
「そうですか。なら、私は貴方を止めます。聖杯戦争における裁定者、ルーラーのサーヴァント、ジャンヌ・ダルクとして!」
「いいでしょう、ならば私は貴方を倒しましょう」
「シロウ、お願いします。ここでな決着をつけましょう」
「あぁ」
「あなた方への敬意を示して、お見せしましょう。このジル・ド・レェによる、最高の Coooooool を!」
ジルの周りに魔力が溢れ、その周りに何かが現れ始めた。それは徐々にその体を飲み込み、巨大な怪物へと変貌した。海魔の集合体とも言えるその姿はおぞましく、同時に恐ろしい。
「来ます、先輩!」
邪竜百年戦争、その最後の戦いの火蓋が切って落とされた。
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パッタリと海魔たちが現れなくなったことに戸惑いつつも、ジークフリートたちはしばらく周囲を警戒した。しかしもう海魔が現れる様子はなかった。
「終わったのか?」
「いや、どうやら魔力を一箇所に集中しているようだ。城の方で最終決戦が始まったのだろう」
白と黒の夫婦剣をしまい、城をじっと見ていた男の言葉に、ジークフリートも城へと目を向けた。外からはわからないが、そこで最後の戦いが始まっているのであれば、加勢しに行くべきだろう。しかし無尽蔵に湧き出る海魔との戦いで、今は戦うための魔力はない。
「託すしかないでしょう、シロウたちに」
「そうだね。流石に疲れたかな」
「あぁ、そうだ。ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト、君に伝言がある」
「伝言?」
「無事だったから助けに行く、だそうだ。もっとも、その本人はこちらではなく城の方へ行ったわけなのだが」
「そうかい。それはまた、彼女らしいな。君が助けてくれてたのかい?」
「なに、事態の収拾のためにも、彼女にいてくれた方がいいと思ったまでのことだ」
「それはありがとう。ところで君の名前を聞いてもいいかい?マリアの恩人のことは知っておきたい」
「名乗るような名はないさ。敢えていうならサーヴァントとしてのクラス名のアーチャーか、或いは
そう言って男は消えて行った。
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激しい連続攻撃で攻め立てる士郎たち。しかし状況的には、彼らの方が圧倒的に不利だった。ジルを取り込んだその怪物の体は、いくら切っても、焼いても、潰しても、すぐに修復されてしまうのだ。
「ぐっ!」
「先輩!」
伸ばされた触手の一撃で後退する士郎。防いでいても、そのパワーは脅威だった。
「大丈夫だ。けど、早くなんとかしないと、このままじゃ」
「おそらく、ジル・ド・レェを見つけ出して本を破壊するか、相手を一撃で消滅させなければなりません。ですがそのためには、対城宝具が必要で、」
「それは今の俺たちが持っていないわけか」
「はい」
大きなダメージを与えるに至る宝具はある。清姫やエリザベート、リリィの宝具を使えば大抵の相手ならば倒せるだろう。しかし、この大きさの敵を一撃で葬ることができるとすれば、それは
「やってみるしかないな。マシュ、みんな!しばらく時間を稼いでくれ!」
「わかりました」
「了解です!」
一旦距離を取り、深呼吸する。まずは舞台を整えよう。剣製の真髄、その先を手にするために。自身の力を最大限に発揮できる場所を。そして成功した時に、周りに被害を出さずに済む場所を。
「
士郎めがけて迫る触手を盾でマシュが防ぐ。
「
炎と魔力を合わせてを放つ王妃マリーと姫の名を持つ清姫。
「
槍で何度も切りつける自称アイドルサーヴァント、エリザベート。
「
外で兵を守ってるであろう聖人、ゲオルギウス。
「
音楽家でありながらも、最後まで戦ってくれたアマデウス。
「
あれほどの大英雄でありながらも、自分をマスターと認め力を貸してくれたジークフリート。
「
舞うように剣を振るうリリィ。
「
そして今、自分の前で旗を振るい、守ってくれているジャンヌ
「
みんなのためにも、必ず勝利を掴む、掴んでみせる!
「
大地が裂け、炎が溢れた。その後、眩しい光に包まれて、彼らは無数の剣が突き立つ荒野に立っていた。
「先輩、これは」
「まさか、固有結界」
「バカな!現代において、神秘の薄れた時代において、このような大禁呪を使えるものがいるはずがない!」
その光景に驚愕したジルが、怪物の中から叫ぶのが聞こえた。怪物の動きも止まっている。そのチャンスを生かすべく、士郎は言葉を紡ぐ。
「
記憶を辿り、魔力を巡らす。この身が再現しようとしているのは星の輝き、王の剣。絞り出せ、しがみつけ、足掻きもがいてたぐりよせろ。それしか、この状況を打破することができないのであれば、力の限りを尽くしてやってのけろ。
身体が軋み、頭が焼けそうだ。体内を巡る魔力も熱い。膝をつきそうになる、気が遠くなる。それでも、やらなければならない。
突然身体の奥、どこか深いところから暖かさを感じる。ほんの僅かに痛みが引く。頭が冴える。魔力が剣を形作っていく。その手に完成した剣が握られる。光り輝く一振りの剣。
「みんな離れろ!」
その声に反応し、マシュたちが彼の後ろに立つ。その手に握られた剣に、リリィは釘付けになった。
「その、剣は」
両手で握りしめたその剣を、天に向けて高く掲げる。軽く息を吐き力を込める。星の聖剣には遠く及ばないものの、その剣は限りなく近づけたもの。今の自分の作り出せる最高にして、最良。最強にして、最上の輝き。故にその名、
「
振り下ろされた剣から放たれた光、それは怪物を丸ごと包み込んだ。その奥でジルは感じた。その光の清らかさと暖かさを。最後に狂った彼は思い出した。ジャンヌと共に戦った日々と、その中に確かにあった希望を。涙を流しながら消えゆく彼は、それでも笑顔だった。
ジルは敗れたのね。あぁ、ということは願った者がいなくなってしまったということ。その願い主の願いを叶えられなかったことで、この戦いは終わり。その願いの形だったものも、それによって引き起こされたことも、跡形もなく消える。竜も、生ける屍も、そしてこの身も。
存在しないはずの空っぽの存在。人の、サーヴァントの振りをしていた偽物。そう、あの聖女のもう一つの側面として、望まれただけの贋作。戦場と、あの最期の記憶だけを与えられ、それに対する憤怒と憎悪を表す代理品として。でもそれももうおしまい。体が実体を保てなくなってきたのがわかる。願いによって与えられた魔力で維持していたのだから、それが途絶えれば消えるのが道理。
ただ、今になって願ってしまう。一つの個として存在したいと。贋作でもなく、代理品でもなく、偽物でもなく。一騎のサーヴァントとして、ありたかった。そうすれば、空っぽな自分が埋まる。存在しないはずの自分が実在できる。そう思ってしまった。けれどそれは叶わぬこと、無理な願い。自分に奇跡など、起きはしないのだから。
最後に見えたのは、忌々しい人間のマスターが捻れた短剣を手に、走ってくる姿だった。