正義の味方の人理修復   作:トマト嫌い8マン

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なんだか駆け足になってしまった気もしますが、許してください
これ以上ダラけると次の章が、ね

というわけでオルレアン決着です


救国の剣

二つの影が交わり、旗が振るわれる。一閃の後、膝をついたのは竜の魔女だった。その正面から突きつけられる白い旗。

 

「くぅっ、そんな、バカな。私はまだ、フランスを滅ぼせていないのに。願いを果たせていないのに!」

「その口ぶりからすると、気づいていたのですね。貴方も」

 

物憂げな表情で話しかけるジャンヌ。士郎もまた、どこか苦しそうな顔で竜の魔女を見ていた。

 

「ジャンヌさん?先輩?」

「どうかしたのですか?」

「黒いジャンヌ、竜の魔女は、本来あり得ないサーヴァントなんだ。何故なら、あいつはジャンヌ・ダルクの別側面なんかじゃなかったんだから」

「どういうことですか?」

「聖杯が与えられたのは彼女ではなかったのです。別の者が聖杯を与えられ、願ったのです。このジャンヌ・ダルク(わたし)の存在を、竜の魔女の誕生を」

 

 

「その通り!」

 

ふと響いた声に反応したジャンヌはその場を飛び退いた。彼女が立っていた場所に魔力の塊が打ち込まれた。

 

「無事ですかな、ジャンヌ!?」

 

突如現れたジルが、竜の魔女を庇うように士郎たちと対峙した。少し遅れてマリーたちがやって来た。倒されたのではなく、振り切られただけのようだった。

 

「あ、いた!」

「まさか逃げ出すとは思いませんでした。あの本も気づいたら再生してましたし」

「ジャンヌ、シェロ君。竜の魔女に勝てたみたいね」

「はい、なんとか。あとは聖杯を回収するだけです」

 

「ジル」

「おぉジャンヌよ、なんと痛ましいお姿に。ここは一旦、このジルに任せて、ゆっくりと休まれてはいかがですかな?」

「でも、まだ戦いは、終わっていない。願いは、まだ、」

「それはこの私めが引き受けましょう。ジャンヌは私の勝利を望み、待っていてくれればいいのですよ。目が覚めたら、全てが終わっていることでしょう」

「そうね、ジル。貴方に、任せるわ」

 

ジルの手を握り、倒れこむ竜の魔女。彼女から莫大な魔力がジルへと渡された。

 

「さぁ、始めるとしますかな。この国への復讐を!」

「ジル、貴方は、」

「ジャンヌよ、確かに貴方はこの国を恨まなかった。裏切られ嘲られてもなお。しかし私は絶望したのです!この国に、その民に、そして神にさえも!邪魔をするというのであれば、貴方とて容赦はしませんぞ」

「そうですか。なら、私は貴方を止めます。聖杯戦争における裁定者、ルーラーのサーヴァント、ジャンヌ・ダルクとして!」

「いいでしょう、ならば私は貴方を倒しましょう」

「シロウ、お願いします。ここでな決着をつけましょう」

「あぁ」

 

「あなた方への敬意を示して、お見せしましょう。このジル・ド・レェによる、最高の Coooooool を!」

 

ジルの周りに魔力が溢れ、その周りに何かが現れ始めた。それは徐々にその体を飲み込み、巨大な怪物へと変貌した。海魔の集合体とも言えるその姿はおぞましく、同時に恐ろしい。

 

「来ます、先輩!」

 

邪竜百年戦争、その最後の戦いの火蓋が切って落とされた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

パッタリと海魔たちが現れなくなったことに戸惑いつつも、ジークフリートたちはしばらく周囲を警戒した。しかしもう海魔が現れる様子はなかった。

 

「終わったのか?」

「いや、どうやら魔力を一箇所に集中しているようだ。城の方で最終決戦が始まったのだろう」

 

白と黒の夫婦剣をしまい、城をじっと見ていた男の言葉に、ジークフリートも城へと目を向けた。外からはわからないが、そこで最後の戦いが始まっているのであれば、加勢しに行くべきだろう。しかし無尽蔵に湧き出る海魔との戦いで、今は戦うための魔力はない。

 

「託すしかないでしょう、シロウたちに」

「そうだね。流石に疲れたかな」

 

「あぁ、そうだ。ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト、君に伝言がある」

「伝言?」

「無事だったから助けに行く、だそうだ。もっとも、その本人はこちらではなく城の方へ行ったわけなのだが」

「そうかい。それはまた、彼女らしいな。君が助けてくれてたのかい?」

「なに、事態の収拾のためにも、彼女にいてくれた方がいいと思ったまでのことだ」

「それはありがとう。ところで君の名前を聞いてもいいかい?マリアの恩人のことは知っておきたい」

「名乗るような名はないさ。敢えていうならサーヴァントとしてのクラス名のアーチャーか、或いは贋作者(フェイカー)か。本来王妃を守る騎士の役など分不相応な、そんな存在だよ、私は」

 

そう言って男は消えて行った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

激しい連続攻撃で攻め立てる士郎たち。しかし状況的には、彼らの方が圧倒的に不利だった。ジルを取り込んだその怪物の体は、いくら切っても、焼いても、潰しても、すぐに修復されてしまうのだ。

 

「ぐっ!」

「先輩!」

 

伸ばされた触手の一撃で後退する士郎。防いでいても、そのパワーは脅威だった。

 

「大丈夫だ。けど、早くなんとかしないと、このままじゃ」

「おそらく、ジル・ド・レェを見つけ出して本を破壊するか、相手を一撃で消滅させなければなりません。ですがそのためには、対城宝具が必要で、」

「それは今の俺たちが持っていないわけか」

「はい」

 

大きなダメージを与えるに至る宝具はある。清姫やエリザベート、リリィの宝具を使えば大抵の相手ならば倒せるだろう。しかし、この大きさの敵を一撃で葬ることができるとすれば、それは

 

「やってみるしかないな。マシュ、みんな!しばらく時間を稼いでくれ!」

「わかりました」

「了解です!」

 

一旦距離を取り、深呼吸する。まずは舞台を整えよう。剣製の真髄、その先を手にするために。自身の力を最大限に発揮できる場所を。そして成功した時に、周りに被害を出さずに済む場所を。

 

「 I am the bone of my sword. (体は剣で出来ている)」

 

士郎めがけて迫る触手を盾でマシュが防ぐ。

 

「 Steel is my body,and fire is my blood.(血潮は鉄で心は硝子)」

 

炎と魔力を合わせてを放つ王妃マリーと姫の名を持つ清姫。

 

「I have created over a thousand blades. (幾たびの戦場を越えて不敗)」

 

槍で何度も切りつける自称アイドルサーヴァント、エリザベート。

 

「Unaware of loss. (ただ一度の敗走もなく、)」

 

外で兵を守ってるであろう聖人、ゲオルギウス。

 

「Nor aware of gain. (ただ一度の勝利もなし)」

 

音楽家でありながらも、最後まで戦ってくれたアマデウス。

 

「Withstood pain to create weapons, (担い手はここに独り)」

 

あれほどの大英雄でありながらも、自分をマスターと認め力を貸してくれたジークフリート。

 

「waiting for one's arrival. (剣の丘で鉄を鍛つ)」

 

舞うように剣を振るうリリィ。

 

「I have no regrets.This is the only path. (ならば我が生涯に意味は不要ず)」 

 

そして今、自分の前で旗を振るい、守ってくれているジャンヌ

 

「My whole life was(この体は、)」

 

みんなのためにも、必ず勝利を掴む、掴んでみせる!

 

「"unlimited blade works"(無限の剣で出来ていた)!」

 

大地が裂け、炎が溢れた。その後、眩しい光に包まれて、彼らは無数の剣が突き立つ荒野に立っていた。

 

「先輩、これは」

「まさか、固有結界」

 

「バカな!現代において、神秘の薄れた時代において、このような大禁呪を使えるものがいるはずがない!」

 

その光景に驚愕したジルが、怪物の中から叫ぶのが聞こえた。怪物の動きも止まっている。そのチャンスを生かすべく、士郎は言葉を紡ぐ。

 

「投影、開始(トレース・オン)!」

 

記憶を辿り、魔力を巡らす。この身が再現しようとしているのは星の輝き、王の剣。絞り出せ、しがみつけ、足掻きもがいてたぐりよせろ。それしか、この状況を打破することができないのであれば、力の限りを尽くしてやってのけろ。

 

身体が軋み、頭が焼けそうだ。体内を巡る魔力も熱い。膝をつきそうになる、気が遠くなる。それでも、やらなければならない。

 

突然身体の奥、どこか深いところから暖かさを感じる。ほんの僅かに痛みが引く。頭が冴える。魔力が剣を形作っていく。その手に完成した剣が握られる。光り輝く一振りの剣。

 

「みんな離れろ!」

 

その声に反応し、マシュたちが彼の後ろに立つ。その手に握られた剣に、リリィは釘付けになった。

 

「その、剣は」

 

両手で握りしめたその剣を、天に向けて高く掲げる。軽く息を吐き力を込める。星の聖剣には遠く及ばないものの、その剣は限りなく近づけたもの。今の自分の作り出せる最高にして、最良。最強にして、最上の輝き。故にその名、

 

「永久に遥か黄金の剣(エクスカリバー・イマージュ)!」

 

振り下ろされた剣から放たれた光、それは怪物を丸ごと包み込んだ。その奥でジルは感じた。その光の清らかさと暖かさを。最後に狂った彼は思い出した。ジャンヌと共に戦った日々と、その中に確かにあった希望を。涙を流しながら消えゆく彼は、それでも笑顔だった。

 




ジルは敗れたのね。あぁ、ということは願った者がいなくなってしまったということ。その願い主の願いを叶えられなかったことで、この戦いは終わり。その願いの形だったものも、それによって引き起こされたことも、跡形もなく消える。竜も、生ける屍も、そしてこの身も。

存在しないはずの空っぽの存在。人の、サーヴァントの振りをしていた偽物。そう、あの聖女のもう一つの側面として、望まれただけの贋作。戦場と、あの最期の記憶だけを与えられ、それに対する憤怒と憎悪を表す代理品として。でもそれももうおしまい。体が実体を保てなくなってきたのがわかる。願いによって与えられた魔力で維持していたのだから、それが途絶えれば消えるのが道理。

ただ、今になって願ってしまう。一つの個として存在したいと。贋作でもなく、代理品でもなく、偽物でもなく。一騎のサーヴァントとして、ありたかった。そうすれば、空っぽな自分が埋まる。存在しないはずの自分が実在できる。そう思ってしまった。けれどそれは叶わぬこと、無理な願い。自分に奇跡など、起きはしないのだから。

最後に見えたのは、忌々しい人間のマスターが捻れた短剣を手に、走ってくる姿だった。
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