正義の味方の人理修復   作:トマト嫌い8マン

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今回から一応第二特異点篇ですね〜

後一話挟んでから特異点にレッツラゴーしてもらいましょう


第二特異点 永続狂気帝国セプテム
自分の未来


一つ目の特異点での旅を終えた士郎たち。報告や回収した聖杯の受け渡しなどを済ませた彼らは、それぞれの部屋に戻り、しっかりと休憩を取ることにした。士郎もあれほど大きな戦いの後では、流石にくたびれたようで、翌日はいつもよりも遅い時間に目が覚めた。

 

「こんなに疲れてたのか。けど、特異点はまだあと6つもあるんだ。毎回こんなふうになるようじゃダメだよな。もっと体力をつけるべきかもしれないな」

 

実際のところ、訓練を続けてきた士郎の体力は既にアスリート並みかそれ以上なので体力がないわけではない。しかしそれでも、あの戦いは相当体に負担をかけたことは間違いない。かなり劣化させていたとはいえ、あの聖剣までもを投影しようとしたことも影響しているだろう。

 

「っとと、そろそろ行かないとな。みんなも頑張ってくれてたんだし、うまいもの食べてもらわないと」

 

いそいそと着替え、士郎は食堂へと向かった。

 

前と変わらぬ様子で職員が自分に接してくれることに、士郎は安堵を覚えた。固有結界という大禁呪を扱える自分は、封印指定待った無しだと遠坂から散々言われていたのだ。態度が変わっても仕方がないと思っていた。

 

けれども、正直に話したところ、驚きこそしたものの、誰一人として士郎への態度が変わることはなかった。ダヴィンチちゃんだけ目をキラキラさせながら手をわきわきさせていた気もするが、ロマニによって止められ、他の職員は笑っていた。

 

そこにあったものを守り、奪われたものを取り戻すと、士郎は決意を新たにした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

朝食後、士郎はリリィに呼ばれてトレーニングルームへと来ていた。なんとなく、何を聞かれるのかは想像できた士郎だった。

 

「シロウ、フランスでの最終決戦のことで、聞きたいことがあります」

「あの剣について、だろ?」

「はい…私が今愛用している剣は、このカリバーンです。ですが、以前マーリンから聞いたことがあります。私がいずれ新しい剣を振るうことになると。その名は、エクスカリバー」

 

暫しの間の後、リリィは一度伏せた目をあげて、士郎をまっすぐと見つめた。

 

「シロウのあの剣。名前こそ違っていましたが、マーリンから聞いた特徴と似ていました。あれは一体?」

 

その真剣な問いかけに対して、士郎は正直に答えることにした。特に隠すことでもない上に、他ならぬ彼女は知る権利があると判断したからだ。

 

「俺が一度見た剣を複製出来るって話はしたよな?」

「はい。シロウの魔術は特殊だとも」

「あの剣は、本物のエクスカリバーのレプリカだよ。まぁ、本物と比べると、威力とかは圧倒的に劣るけど」

「では、シロウは、エクスカリバーを見たことがあるのですか?」

「…実はさ、俺が昔聖杯戦争に参加した時、サーヴァントはセイバーだった。そのセイバーの真名は、アルトリア・ペンドラゴン」

「もしかして、」

「そうだ。アーサー王として、聖剣を振るっていた頃の姿。あいつと一緒に、俺は聖杯戦争を戦ったんだ」

 

あの時、結局話すことは出来なかった。戦いの後、既に彼女はいなくなっていたのだから。そしてここに来て、彼女に出会った。全力でぶつかり合い、刃を通して語り合った。

 

少しそのことを思い出していた士郎は、リリィが少し寂しそうな、それでいて悲しそうな表情をしていることに気づいた。

 

「リリィ?どうかしたのか?」

「あの、私はまだまだ未熟ですけど、きっとシロウの期待に応えられるような騎士になりますから!」

「へ?」

 

そう言ったリリィの瞳に、若干の涙が浮かんでいたのに士郎は驚いた。自分は何かしてしまったのだろうか、そう思い慌てて考えるが何も思いつかない。

 

「リ、リリィ。俺なんかしちゃったか?」

「いえ、その。知らなかったものですから」

「何を?」

「シロウのかつてのサーヴァントが、成長した私だったことをです。きっと今の私よりも素晴らしい騎士だったのだと思います。だから、まだ未熟な私に不満があっても、」

「待て待て!俺は不満なんて何もないぞ」

 

何やらネガティブになり始めていたリリィの肩を掴み、士郎はその顔を覗き込んだ。寂しさや悔しさのような感情が入り混じっているようだった。一先ず落ち着くように頭を撫でる。

 

「なんで俺が不満を持ってるなんて思ったんだ?」

「その、未来の私とお知り合いだということを伝えてくれなかったのは、私がシロウの期待に至らなかったからかと、少し思ってしまって。そう考えたら、実は私の訓練も本当は嫌々付き合ってくれてるのではないかと思って」

 

かつて自分が出会ったセイバーからはとても想像できない、しおらしい反応に、ついつい笑みを浮かべてしまう士郎。優しくその身体を包むように抱きしめながら、自分の考えを話した。

 

「そんなことはないさ。リリィにはフランスでも助けられたし、一緒に訓練をするのは、すごく楽しい。それに、未来のことを話さなかったのは、その方がいいと思ったんだ」

「それは、何故ですか?」

「俺の知ってるアルトリアは、ずっと男として過ごして来た。リリィのような女の子っぽくしていたときはなかった。だから、リリィはきっと俺の知ってるアルトリアの平行世界の存在なんだ」

「平行世界の、」

「それはつまり、俺の出会ったセイバーとは違う未来を歩むのかもしれない。全然違う未来を。変に未来の情報を与えて、リリィの可能性を狭めたくなかったんだ。けど、それで不安にさせたなら、ごめん」

 

頭を撫でながら語りかける。それは自分自身の経験からでもある。未来の自分のことを知り、自分はそれでもその道を進むと決めた。いや、それしかなかったからかもしれない。

 

でも、リリィはリリィだ。自分の知ってるセイバーと同じ道を辿るかもしれないし、全然違う道になるかもしれない。けれど、それを決めるのはリリィだ。

 

「シロウは、私がサーヴァントで、良かったですか?」

「当たり前だろ」

「そうですか。ふふっ」

 

嬉しそうに笑うリリィ。過去や未来がどうであれ、今ここにいるリリィこそが士郎のサーヴァントで、士郎こそがリリィのマスターなのだ。ならば今は、その中で一歩一歩歩めばいい。そう思い、二人は気持ちを切り替えて獲物を手に、剣を交えた。

 




「おや、やっとお目覚めかな?」

最初に目に入った人物が笑顔で声をかける。何やら面白いものを見たかのようだ。いや、しかしそれはおかしい。そもそも自分はその相手を認識できるはずがないのだ。いや、それよりも。自分、それに行き着くこと、それさえも不可能なはずだというのに。

「まぁ疑問もいろいろあるだろうけど、まずは挨拶かな。ようこそカルデアへ!」

その笑顔を見たら、無性に腹が立った。そのことからはっきりとわかった。私は今、ここに存在するのだと。サーヴァントとして。そして、今自分が繋がっているそのマスターは・・・

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