一晩明けた翌朝、時刻は9時53分。次の特異点の説明を一通り聞き終えた士郎たちはジャンヌが来るかどうかを待っていた。しかし一向にジャンヌが現れる気配はなかった。
「どうやら彼女は来ないみたいだね。士郎君、そろそろ君達は、レイシフトのための準備をしてくれるかい」
「わかった」
用意されたコフィンに入ろうとする士郎。と、その時管制室のドアが開いた。
「やっと見つけたわ。本当に広すぎるわよ、ここ。せめて、部屋の位置をもっとわかりやすくしてくれないかしら」
思いっきり悪態をつきながらしかめっ面で入って来たのは、ジャンヌ・オルタだった。
「ジャンヌ」
「何を嬉しそうにしているの?暇だったから来てあげただけ。精々退屈させないように気をつけなさいね、マスター」
「あぁ。よろしく頼むよ」
ようやく四人が揃ってレイシフトの準備ができた。ジャンヌへの説明は士郎たちがすることとなり、ロマニの指揮の元、レイシフトが始まった。
西暦60年、繁栄の時代を迎えていた、古代ローマへ。
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目を開けると先ず目に入ったのは青い空だった。あたりを見てみると、どうやら都市などからは離れた場所、ローマ郊外に着いたらしい。マシュ、リリィ、ジャンヌの三人もちゃんと着いたみたいだ。ついでにフォウも。
「また着いて来てしまったようですね」
「そう言えば居たわね、こんなの」
「まぁいいさ。危ない時はちゃんと離れててくれるか?」
「フォウ!」
「よしよし…マシュ?」
フォウのことを見ずに、目を閉じて深く深呼吸していたマシュ。不思議に思い声をかけた士郎の方に向き、笑顔を見せる。
「すみません。なんだか、気持ちが良くて。青い空に、緑豊かな大地。映像では何度も見たことがあったのですが、改めて感じて見ると、やっぱり違いますね。フランスでは驚いてばかりだったので、なんだか改めて向き合っている気分です」
「マシュは、ずっとあそこにいたのか?」
「はい」
「そっか。なら、特異点の修復ついでに色々な景色を見れたらいいな。海や山、島や街。世界には本当にいろんな景色が溢れてる。俺も初めて旅した時は圧倒されたからなぁ」
「先輩も…ですか?」
「あぁ。だからマシュも、色々と見て、色々と感じて欲しい」
「はい!」
会話がひと段落した彼らはこれからの方針を考えることにした。ともあれ、まずは情報を集める必要がある。フランスでの時のように、すぐに状況を理解しているサーヴァントと出会えるわけでもない。とりあえず人のいる町を探すために、四人は歩き出した。
「歩きだとやっぱり遅いわね。ワイバーンを呼べないのは残念だわ」
「竜ですか。馬とかなら乗りこなせる自信はありますけど、」
「流石にそれはやりすぎだと思うぞ。むしろ余計な混乱を起こしかねない」
「あの、先輩、皆さんも。何か聞こえませんか?」
マシュの言葉に全員が黙る。耳を澄ませると、どこからか音が聞こえる。たくさんの人の雄叫び、馬の嗎、鉄のぶつかり合う音、そして断末魔の悲鳴。
「これは、」
「どこかで戦闘が行われてるわね。それも多人数での」
「丘の向こうからのようです、シロウ」
リリィが指差す先、やや高めの丘が見える。戦闘はそこで行われているらしい。しかしこの時代にそんな大規模な戦闘があったという記録はない。つまり、
「歴史の異常か」
「そのようです、先輩。急いで向かいましょう」
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丘を駆け上がった彼らが見たものは、二つの軍勢が戦うところだった。両方が真紅と黄金の意匠を持つものの、片方は少数部隊、もう一方は大隊だった。少数部隊を率いるのは一人の女性。一騎当千の活躍を見せる彼女からはサーヴァント反応はない。つまりは生身の人間なのだが、士郎たちはそれどころではなかった。その彼女の顔を見た瞬間、全員が全員、驚いたのだった。
何故ならそれは、士郎の隣に立つ白の姫騎士と、よく似た顔だったのだから。
というわけで、ジャンヌを加えた四人で、この特異点をめぐってもらいましょう。まぁ、頑張ります、はい