古代の街並みを歩きながら、彼らは辺りを見渡した。活気が溢れるその様子は、本当に戦争中なのだろうかと一瞬思ってしまう。
「なんだか、フランスの時と違う感じですね。町の人も、なんだか笑顔が多い気がします」
「まぁ、あっちだとこっちみたいに、全体の指揮をとって戦うリーダーみたいなのはいなかったみたいだしな」
「戦時中でも、基本的に戦闘時以外なんていつもとそう変わらないわよ。そうした方が兵のためになることもあるわけだし」
流石は繁栄している時のローマ、そんな感想を士郎たちが持つ中、彼らはネロの宮殿までたどり着いた。
「此度の戦い、余の右腕として働いてくれてる男がおる。あやつもそなたらのように不思議なところもあるが、中々頼りになる」
「右腕、ですか?」
通された部屋で、士郎たちはネロと対面する形で座っていた。士郎たちに現状を説明し、知っていることや目的を詳しく聞きたいとネロが言ったのだ。まだ完全に状況をつかめていない士郎たちは特に断る理由もないため、話に応じた。
「おおっ、来たようだな」
ネロの隣に一人の男が立った。その姿に、マシュが驚きの声をあげ、ジャンヌが顔をしかめた。唯一リリィだけが出会ったことがなかったので、二人のそんな様子に首を傾げていた。士郎は立ち上がり、その男の前まで歩いた。
かたや日本人としては一般的な肌の色、かたや日に焼けたように褐色色の肌。
かたや赤みがかった茶髪の髪、かたや色素の抜け落ちたような白髪。
かたや美しい琥珀色の瞳、かたや鋼鉄を映すような白に近い銀色の瞳。
これほどまでに違うというのに、その二人は驚くほどよく似ていた。そう彼のサーヴァントたちは思った。それは、今こうして向かい合っているその表情までもだ。
「やれやれ、まさかこんな形で君たちと再会することになるとはな。全く、難儀な運命に生まれてしまったものだな。私も、お前も」
「確かにそうだな。けど、お前を見て安心する日が来るとは思わなかったよ、アーチャー」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
アーチャーと呼ばれた男の前に立っている士郎は、どこか嬉しそうで、それでいて複雑そうな表情をしている。それはアーチャーも同じことで、マシュはこの二人が冬木でも何か会話していたのを思い出した。
「そなた、アーチャーと知り合いなのか?」
突然言葉を交わした二人に驚いていたのはマシュたちだけではなく、ネロも二人を交互に見やりながら質問した。
「あぁ。色々あって、共闘したことも、戦ったこともある。あえていうなら、絶対に負けられないライバルって感じか?」
「言い得て妙だな。まぁその辺りが妥当だろう」
衛宮士郎の戦いとは、常に己自身とのものだ。自らのイメージする最強の自分。そこに辿り着く戦いなのだ。そういう意味では、士郎の説明はかなり適切とも言えよう。
「ほう、好敵手とな?ではここの者たちも既に知っておるのか?」
「いや、ほとんど顔を知っている程度だ。私もこいつ以外についてはあまり詳しくないのでね」
「まぁとりあえず自己紹介をしておいた方がよさそうだな。今回は味方なんだろ?」
「そういうことになるな」
「なら、ちゃんと知っておいてもらった方がいい。そうしないと、背中を預け合うこともできないだろ」
士郎の提案により、ひとまず自己紹介と、現状と目的の確認を行った。その時にアーチャーがリリィに動揺したり、ジャンヌと一悶着起こしそうになって、フランスで密かに手助けしていてくれたことがわかったりするのだが、それはまた別の話。
お互いの目的に共通することがあるのを確認しあった彼らは、共に突如現れた異常国家、連合ローマ帝国と戦うことに決めたのだった。
おまけ
全部書くのは無理なので簡潔な反応まとめ
「アーチャーのサーヴァントだ。すまないが、私のことはクラス名で呼んでくれ」
「クラス名で、ですか?」
「あぁ。私は正義の味方という概念をサーヴァントとして現界させた姿。個人としての英雄ではないのだよ。つまり、無銘の英雄と考えてもらっても構わない」
「わかりました。よろしくお願いします、アーチャーさん」
(とてもではないが、本来の真名は面倒ごとになりそうだからな。私としても、奴としても、この方がやりやすい)
「あなた、あの時はよくやってくれたわね」
「まさか君が彼らのたびに同行することになるとは、いや本当に驚いた」
「ふん、そこのマスターがいつの間にか契約していただけよ。まぁ、暇つぶしに付き合ってあげようと思っただけですし」
「そうか。やれやれ、あいつも苦労しそうだな。君のようなタイプは、ある意味で」
「は?」
(まぁ少し刺々しい凛に近いような気もするが、それならば小僧なら何の心配もあるまい)
「アル…トリア…?」
「はい!でも、みなさんにはリリィと呼ばれてますので、アーチャーさんもそう呼んでください!……アーチャーさん?」
「はっ!?私は、何を。いや、すまない。少し驚いただけだ」
「その反応、シロウにそっくりですね」
「……っ、まぁ。とにかく、よろしく頼もう」
「はい!」
(いくら何でもその顔でその仕草は反則ではないかね)