いつもよりは一応多めなので、許してください、はい
「ではこれからの作戦について話しながら、宴をしようではないか。シロウたちを歓迎せねばならぬからな。アーチャー、頼めるか?」
「了承した」
「あの、アーチャーさんは何を?」
「うむ。アーチャーの作る料理は実に美味であるぞ!戦いもでき、家事もこなす。アーチャーが居てくれるおかげで、我らの軍は士気が高いのだ」
肩をすくめるだけのアーチャー。ただ、満更でもないように見えたのは気のせいではないだろう。
「それでは早速、「失礼します。ご報告があります!」ぬ?」
「東の門付近に敵の軍勢が現れました。直に戦闘になるかと思われます」
「むぅ、休まる暇もないではないか。仕方がない。ここは余が、「いや、ネロ。君は休みたまえ」」
立ち上がろうとしたネロを制したのは隣に立って居たアーチャーだった。主人を気遣うその様子は相変わらずで、思わずニヤリとしてしまう士郎。
「君はずっと戦いっぱなしだ。君の強さは十分理解しているが、万が一のことがあっては困る。ここは私に任せてもらおう」
「アーチャー……だが、「なら、俺も行く」」
皆の視線を受けながら、士郎はアーチャーと並ぶようにたち、ネロを見た。
「俺とアーチャーの二人で行くよ。任せてくれ」
「先輩、なら私たちも」
「いや、今回はこいつとだけで戦いたいんだ。頼む」
頭を下げる士郎に、ネロは少し唸っていたが、最終的には許可を出すことにした。
「先輩、私たちは火山の近くにある霊脈へ、サークルを設置してきますね」
「あぁ、頼んだ、マシュ」
門の方へ向かう二人の間に、会話は特になかった。するだけ無駄だと思っているのか、するまでもないと思っているのか。ただ、二人に共通していたのは、腹がたつことに、相手といることで、全くもって負ける気がしないということだった。
門に近づくにつれて、戦闘の音が聞こえてきた。急いで向かうためにも、彼らはスピードを上げた。その直前に、先導するアーチャーは士郎の方へ一瞬だけ視線を送ると、また前を見据えた。そのまま正面を向きながら声がかけられる。
「────ついて来れるか?」
おそらくそれはスピードを上げること、それだけの話ではないだろう。彼の戦いについてこれるのか、そう聞かれているのだろう。口元に笑みが浮かぶ。ついてこれるかだって?
「当たり前だ」
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門にたどり着くと、既に敵の軍勢にローマ兵は苦戦を強いられているようだった。
「俺は右から、アーチャーは左からだ」
「よもやお前の指示に従うことになるとはな。だが、了解した」
「「
全く同時に紡がれる、全く同じ言葉。その手に握られるのは全く同じ白と黒の剣。双剣の使い手二人は反対の方向へ別れ、敵との交戦を始めた。
敵からすればたった二人増えただけのはず。しかしながら、たったそれだけで戦況はひっくり返されていたのだ。一人は世界と契約した守護者とはいえ英霊となった者、もう一人はそれと同一にして、それを超える可能性を持つ者。サーヴァントの伴わない軍勢では相手になるはずがなかった。
いつの間にか相手の近くまで攻め入っていた二人。すれ違い様に相手の背後にいた敵を互いに仕留める。
「流石に成長しているだけあるな。以前とは比べ物にならないほどに様になっているな。特異点での戦いの経験も、糧になっているようだな」
「…そういえばまだ礼を言ってなかったな。ありがとう。あの時マリーさんを助けてくれて」
「ふんっ。お前に礼を言われても、嬉しくもないのだが」
「俺だってお前に礼なんか言いたくはないっての」
軽口とも取れる言い合いをしながらも、背中合わせで互いに目の前の敵を斬り伏せて行く。本人たちは認めないかもしれないが、お互いにお互いの力を信じているからこそのことである。
「そう思うのなら、マスターとしてもっと優秀になるべきだな。 どんな時も冷静さを失うな。己が手札をしっかりと確認しろ。あの時令呪を使えば、彼女の転移も可能だったはずだ。その選択肢は頭に浮かばなかったのか?」
「っ、確かにそうだったな」
「確かにお前はサーヴァントに匹敵する力を持つようになった。だが、それ以前にお前はマスターだ」
最後の敵を切り払ったアーチャーが士郎を正面から見据える。
「お前が最優先ですべきことは、サーヴァントへの適切な指示出しと、どうすれば勝つことができるかを導くことだ。お前の判断一つが、サーヴァントの命運を左右することになる」
アーチャーの言葉はまっすぐで、その口調もかつてのそれのように、士郎を責めるようにも、諭すようにも聞こえる。ただ、そこにはかつてのような憎しみや怒りの感情はなかった。
「この戦い、お前に敗北は許されない。お前が世界の命運を担っているのだ。この先、もっと激しい戦いもあるだろう。より大きな理不尽にぶつかることになるだろう。だが、お前は勝たなければならない」
肩に手が置かれ、少しだけ力を入れられる。僅かな痛みと、言葉ではない思いが感じ取れた。
「あぁ。必ず勝つさ。お前はただの一度も負けなかったけれど、ただの一度も勝利しなかった。なら俺はそれを超えてみせる」
「ふっ。ならば、精々楽しませてもらうとしよう」
そう言って、アーチャーは宮殿の方へ歩き出した。士郎もその後に続く。帰りに会話は無かったが、二人の顔は笑顔だった。
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「ただいま戻った」
「ただいま、マシュ、リリィ、ジャンヌ、ネロ」
宮殿に戻った彼らをマシュたちが出迎えてくれた。アーチャーと二人きりはやっぱり気まずかった士郎は、彼女たちの姿を確認した時から少し落ち着いた気がした。
「お疲れ。みんなもう帰っていたのか」
「はい。特に敵との遭遇もなく、すぐに済みましたので。先輩の方こそ、お疲れ様です」
「シロウ、どうでしたか?アーチャーさんとの共闘は」
「あぁ。やっぱりあいつはライバルだって、再認識したよ」
「前に殺しあったことがあるのでしょう?そんな相手とよく共闘なんてできるわね。首を狙われることを一瞬でも考えなかったのかしら?」
「あいつにそんなつもりは、今はもうないさ。心配してくれてありがとな、ジャンヌ」
「はぁ?誰があなたの心配などしますか。おめでたい考えも大概にしなさい」
「ご苦労だったぞ、アーチャー。それで、敵は?」
「一般の兵士だけだった。皇帝たちも、敵側の魔術師の姿もなしだ」
「そうか。ところでアーチャー、そなたの目から見てシロウの腕はどうだった?」
「戦力としては申し分ないだろう。私の知っていた頃よりも、力を使いこなしているようだ」
「うむ。アーチャーのお墨付きとは、頼もしいではないか。その働き、今後の戦いでも期待させてもらうとしようぞ。それでアーチャーよ。帰ってきて早々に頼むのもなんなのだが、」
「わかっているさ。すぐに食事の支度をするとしよう。何、せっかくだ。あの小僧の料理の腕前も見極めてやるとしよう」
その後、軽く事態の報告をし合う両者。突如現れた連合ローマとその魔術師。目的が一致していることを確認したネロと士郎が共闘を約束し、歓迎の宴となった。料理を作るのはやはりアーチャーと士郎の二人。張り合いながら作り出された料理を、皆目を輝かせながら食べた。特にリリィとジャンヌ・オルタはネロが見事な食べっぷりと称すほどに。
夜になり、あたりが暗くなったため、彼らは一度寝ることとなった。割り当てられた部屋で、天井を見つめながら士郎は手を伸ばし、拳を握った。翌日から始まるであろう、連合ローマとの激しい戦いに向けて、決意を固めた。
ではでは皆さま、また5月に