スパルタクスの口調、超難しいんですけどぉぉぉお!
前回までのあらすじ。ガリアに行ったら、そこにいたのは、筋肉だった。
「な、な、何よこれぇ!?」
「さ、サーヴァントには間違いないみたいですけど」
士郎たちの前に現れたのは岩のような男だった。笑顔で士郎たちを見る男。しかしその笑みに深い狂気と恐怖を感じずにはいられなかった。
「驚かせちゃったかな。彼はスパルタクス。私と同じ、叛逆者にして、ネロ公の客将だよ」
「スパルタクスって、必ず逆転による勝利をもたらすっていう伝承がある、あの?」
「そうだよ。まぁ今は連合ローマを敵と見据えたみたいだから、私の相方として戦ってるんだけどね」
「戦場に招かれた闘士がまた一人。喜ぶがいい。ここではあまねく強者との戦いにその身を投じられるであろう。比類なき圧政者に抗うものよ、叛逆の時は今来たり!」
「?」
「?」
「…」
「フォゥゥウ」
「えぇ、と。とりあえずよろしく、ってことでいいのかな?」
男の発した言葉に対し、マシュとリリィは首を傾げ、フォウは士郎の頭の上で声をあげ、ジャンヌは頭が痛いのか、こめかみを指で押さえている。唯一士郎だけは戸惑いつつもコミュニケーションを図ろうとしている。
「へぇ、珍しいね。スパルタクスが他人を見て喜んでいるのに襲わないこともだけど、君みたいに気圧されずにコミュニケーションを取ろうとしている人もね」
「ドクター。この男性は、」
『うん。間違いなくサーヴァントだ。というか、是非そうであって欲しい。そうでなかったら耐えられない』
「これ、間違いなくバーサーカーよね。話しているけど、全く通じないもの」
『バーサーカーで
通信越しに様子を確認していたロマニも、スパルタクスの圧倒的存在感に、何処か現実逃避をはじめそうだった。
「叛逆の勇士達よ。その名を私に示す時だ。その名を叫び、共に自由を求め、叛逆の狼煙をあげようぞ」
「はぁ?」
「?」
「??」
やはり会話が噛み合わないどころか、理解することに苦しむサーヴァントトリオ。リリィとマシュは顔を困った表情で見合わせていたが、ジャンヌに至っては呆れと苛立ちの半々の表情をしている。どうやらスパルタクスとの相性はあまり良くなさそうだ。
「あ、えっと、俺は衛宮士郎。三人のマスターだ。右からマシュ、リリィ、そしてジャンヌだ。よろしくな」
「「わかったんですか!?」」
『流石士郎くん……色々と規格外なのかな』
「というか、今の名前を聞かれていたわけ?意味わかんないわよ」
「そうだよ。よくわかったね、えっと、私もシロウでいいかな?」
「あぁ。ブーディカさんも、よろしく」
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なんとか意思疎通を完了した士郎とスパルタクスたち。とりあえず手合わせ前に、味方であること、本気の殺し合いではないことをスパルタクスに理解してもらうために、ブーディカと士郎が主に説明していた。完全に理解してくれたかどうかはわからないが、いざとなればブーディカが止められるとのことらしく、始めることにした。
「さてと、思ってたよりも遅いスタートになっちゃったわけだけど、」
「あぁ。行くぞ」
剣を抜くブーディカを見据え、士郎は両手に干将・莫耶を投影する。どこからともなく武器を取り出した士郎に対し、ブーディカは一瞬めを見開いたものの、すぐに戦闘態勢に入った。
「それじゃあ、行くよ、スパルタクス!」
「了解した。これより叛逆の声をあげ、圧政者に鉄槌を下そう!」
「マシュ、リリィ、ジャンヌ、頼むぞ!」
「はい」
「お任せください」
「ふんっ」
先陣を切って突撃してくるスパルタクス。マスターを圧政者としたのか、士郎へと真っ直ぐ進む。その巨体を止められるものは、士郎達のメンバーには居まい。そう思ったブーディカだった。しかし、
「ぬおっ!?」
突如、スパルタクスの目の前に黒い刃がいくつも突き刺さる。驚いた拍子に止まってしまうスパルタクス。その周囲に更に同じような剣が刺さり、完全に取り囲まれてしまう。
「全く、これだから狂戦士は。そんな分かり易すぎる攻撃、くらうはずもないでしょう」
そう言って士郎の前にだったのは、旗を手にし、剣を抜き、笑みを浮かべたジャンヌ・オルタだ。先ほどの剣も、ジャンヌが降らしたもの。ルーラーからクラスチェンジし、復讐者、アヴェンジャーとなり、手にした能力。攻撃力の上がったこのクラスは、彼女の性格も相まって、より適しているように見える。
「サンキュー、ジャンヌ」
「礼なんていらないわよ。それよりも、仮にもこの私のマスターなのですから、もっとしっかりしなさい。貴方がヘマをしたら、私までダメなサーヴァントと思われるでしょう」
「あぁ、そうだな……悪い」
あまりにも素直に謝られるため、むしろジャンヌの方が調子が狂いそうだ。咳払いをした彼女は視線をスパルタクスに戻す。丁度剣を叩き折り、脱出したところのようで、次の獲物としてジャンヌに狙いを定めていた。
「よし、マシュ、リリィはブーディカさんを頼む。こっちは俺とジャンヌでやる」
「了解です。行きましょう、リリィさん」
「はい!」
左右に走り、スパルタクスの周りを迂回する二人。ジャンヌ目掛けて走り出したスパルタクスの目には、二人は映っていない。そのまま通り過ぎた二人は、ブーディカ目掛けて走った。
「おやおや、分断されちゃったか。シロウも案外策士だね」
「行きます!」
「やぁぁっ!」
振り下ろされる盾と剣。しかしブーディカは焦らずに攻撃を回避し、続けて振り上げられた剣を自身の盾で防ぐ。
「それじゃあ、二人の力も見せてもらうとしますか」
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手合わせが始まって少し、士郎とジャンヌはスパルタクス相手にかなり攻めあぐねていた。どうもスパルタクスは攻撃されてから反撃することしかしないようだ。ならば攻め続ければいいと思ったのだが、そうもいかないらしい。
どれほど傷をつけたところで、回復してしまうのだ。更に言えば、普通なら回復のためにそれなりの魔力を使うものなのだが、保有しているスキルなのか、ほとんど魔力が使われていないのだ。
「くっ、
通常よりも一回りも二回りも大きい剣をいくつか投影し、スパルタクス目掛けて射出する士郎。その剣は容易く肉を裂き、地面に突き刺さる。
「ははははは。この身は満身創痍にして、強き圧政者が二人。これでこそ、勝利の凱歌は叫びがいがあるというもの!」
それでもスパルタクスは笑う。痛みなどないかのように。裂けた肉は、傷は、たちまち塞がっていく。
「ほんっと、狂ってるわね。私もオルレアンじゃいろんなサーヴァントを狂わせていたけど、ここまでのはいなかったわ」
「いや、こう言っちゃ悪いが、あのジル・ド・レェも相当狂ってたと思うぞ。あれでクラス的にはキャスターだもんなぁ」
余裕があるんだかないんだか、なんだか緊張感に欠けるやりとりをするジャンヌと士郎。しかしその瞳はスパルタクスから逸らされない。
「ジャンヌ、俺が奴の攻撃を防ぐ。その隙に攻撃してくれ」
「いいわよ。けど、しくじらないように」
「あぁ」
一方、マシュ・リリィペア対ブーディカ。第一特異点での旅が終わった後、より強い敵と戦えるように、二人はコンビネーションを磨いていたのだ。攻めと守りを交互に入れ替える二人に、ブーディカも押されている。反撃してきたブーディカの剣を防ぐマシュ。
「今です!」
「はい!」
肩を蹴り、跳び上がるリリィ。マシュと盾、ブーディカの上さえも飛び越え、背後に回り込みながら剣を振り下ろす。なんとか左手に持つ盾で防ぐブーディカ。攻撃の力が緩んだ隙に、マシュは全力を込めて盾でブーディカの剣を跳ね上げた。
「おっと、これは参ったな。私の負けみたいだね」
次の行動へと移ろうとしたブーディカの背中にカリバーンが突きつけられる。両手を挙げ、降参の意思を示すブーディカ。剣を下ろすリリィ。
「リリィさん!」
「マシュさん、やりましたよ!」
「はい。特訓の成果がちゃんと出せましたね。タイミングもバッチリでした」
駆け寄ってくるマシュと顔を見合わせ笑顔を浮かべるリリィ。特訓の成果がしっかりと出せたことが嬉しそうだ。その様子を見ながら優しげな笑みを浮かべるブーディカ。
「うーん、これでもブリタニアの勝利の女王って呼ばれてたのになぁ。でもまぁ、頼もしい後輩がいるって思うと、私も安心、かな?」
今の打ち合いの中で、ブーディカは二人の真名に思い当たったのだ。そして納得していた。成る程、あの剣を振るうことになる彼女が相手では、約束されざる自分が負けるのも、仕方のないことなのかもしれない。
そして、その隣にいる彼女もまた、自身以上の守りを可能としている。まだ完全に使いこなせているわけではなさそうだが、期待できそうだとブーディカは感じていた。誰よりも白く、まっすぐな心を持つ彼女。その純粋さ故に、その守りは強固となる。
まるで娘の成長を心待ちにする、母のような、そんな優しい思いを込めて、ブーディカは二人を見つめていた。
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「
干将・莫耶をしまい、弓を手に取る士郎。ジャンヌ共々、距離を取り構える。何が来るのかを期待しているのか、スパルタクスの瞳が士郎を捉える。
手に持ったのは偽・螺旋剣とは異なり少し長めの剣。デザインとしてはシンプルで、装飾もほとんどない。しかしそれもまた紛れもなく宝具。リリィの愛用する剣、その原点にして「選定の剣」の起源。
「喰らえ、“
矢へと形を変え、放たれた剣は途中で輝き出し加速する。光の弾丸のごとくになったそれは、剣を振るうスパルタクスの右腕を貫いた。
ガクッ、とスパルタクスの右腕から力が抜ける。手に持つ剣も音を立てて落ちる。
「お、お、おおおおおお———!!」
利き腕を奪われるもスパルタクスは雄叫びをあげ、走り出した。武器を持たぬまま、腕の傷が回復を始める。その腕は士郎目掛けて伸ばされている。
「
「
7枚の花弁を持つ盾が士郎の目の前に現れる。スパルタクスの突撃を受けてなお、その盾が動じることはない。むしろ仕掛け、弾かれたスパルタクスのダメージの方が大きい。カウンターしかしないというスパルタクスが、カウンターを喰らってしまったのだ。
「ジャンヌ!」
「ええ。これでどう?」
剣を抜いたジャンヌ。その剣を振るうとともに、スパルタクスの周囲に炎が溢れ出した。炎の壁に囲まれ、完全に動きを封じられたスパルタクス。
「そこまで!」
突然響いた声。ジャンヌは剣をしまい、炎も消えた。
「うむ。なかなかの戦いであったぞ。双方見事」
いつの間に来ていたのか、ネロが賞賛の言葉を並べながら近づいて来た。ちらりと視線を戻すと、ブーディカがスパルタクスを宥めているところのようだ。一安心した士郎は小さく息を吐いた。
メロダックの演出、実はウルトラマンFERのウルトラマンタロウの必殺技を参考にしました笑
まぁ、そんな使い方があってもいいじゃない!