個人的にちょっとこの部分は触れておきたかったので
「とまぁ、大体の事情はこんな感じだ」
「なるほどねー。異境の地から。そっかぁ、そういうこともあるのかぁ。なんだか、思ってたよりも大変なことになってるっぽいね。君の話を聞いた限りだと、君って相当巻き込まれ体質なのかな?」
「んー、なんだろう。なんだか否定したいけどできない気がする」
ガリアの野営地、その中のテントの一つで、士郎とブーディカが並んで会話をしていた。その前には様々な食材。夕飯を希望したネロに応えるべく、二人で食事の準備をすることとなったのだ。
「ブーディカさんは、その、どうしてローマの将軍に?」
「まぁ、そうだよね。女王ブーディカの話を知ってるなら、その疑問も当然か。それに、あたしはもう死んだはずの存在だからね」
料理の手を止めることなく、二人は話を続ける。士郎の手際の良さに感心しながらも、ブーディカは彼の疑問に答えるべく口を開く。
「ネロとローマを許さない。ケルトの神々にまで誓ったあたしが、まさか自分が死んだ直後の時代に召喚されるとは、思ってもなかったよ」
「復讐しようとか、考えなかったのか?」
「考えたよ。でも、蹂躙されている
「守るために、か……それは、ネロのことも?」
「……かもね」
手を止めるブーディカ。士郎もまた、料理の手を止め、ブーディカを見つめる。複雑そうな笑みを浮かべながら、ブーディカは答えた。
「ネロ公はさ、あたしのことを「生きている好敵手」だと、勘違いしているみたいでさ。余計な気遣いをさせたくないしね。あいつったら、あたしに会って最初に謝ってきてさ、力を貸して欲しいって頼みこんできたんだ。その姿を見たら、なんかね、応えてあげたくなっちゃったんだ」
「……ブーディカさんは凄いな。人を守る存在、まさしく英霊の体現者って感じがする。少し、憧れるな」
「嬉しいこと言ってくれるね。あたしって結構地味な英霊なんだけどなぁ」
はにかんだ笑顔を見せるブーディカ。自分の周りにはあまりいなかったタイプの年上系オーラに、士郎も思わず顔が赤くなった。
「あ、んん!早く仕上げないとな。ネロもリリィも楽しみにしてたっぽいし」
「そうだね。よしっ、最後の一踏ん張りと行こうか」
その後、二人の合作料理を目を輝かせながら食べるリリィや満足そうにするネロを見ながら、ブーディカはなんだか温かい気持ちになったのだった。
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「それにしても驚いたよ。シロウって逸材だね。戦闘能力も高く、戦闘時の頭もキレる。おまけに家事スキルまで高いときた。君一人がいるだけで、多くの戦争の結果が変わってたかもね」
「俺はそんな大した存在じゃないよ。ただ、誰もを幸せにしたいって思ってただけだから。料理は親父がまともにできなかったから身につけたし、魔術も剣術も、才能がないって散々言われてたしな」
「ですが、先輩はやはり凄い方だと思います。私も、戦闘面や生活面でたくさんのことを学ぶことができてますし」
「それに、シロウは私に剣の指導もしてくれてます。お陰で私ももっと上達できていると感じてますし」
「ふむふむ、サーヴァントとの関係も良好。サーヴァントとマスターというよりも、一人一人の個人として、見ているのかな?」
「?いや、個人として見てるって、マシュはマシュ、リリィはリリィだろ?」
「あはは、その通りだね。うん、成る程ね。いいマスターだね、君は」
食事後、今日のところは一先ず休むということで、士郎たちはブーディカと話していた。ネロは兵たちと話しこんでおり、ジャンヌは一足先に風呂に入るといい、さっさと行ってしまった。
「それにしても、うん。うんうん。(じーっ)」
マシュとリリィを優しく見つめるブーディカ。理由がよく分からない二人は首をかしげる。
「あの、ブーディカさん?」
「うん。やっぱり、二人とも可愛いなぁ。よしよし」
「えっと、あの、ブーディっ」
立ち上がり、二人の元まで歩いたブーディカはその頭を優しく撫でたかと思うと、抱きしめた。
「こういう感じ、久しぶりだなぁ。二人はあたしの後輩みたいなものだし、なんだか甘やかしたくなっちゃうよ」
「あ、あの、ブーディカさん、その顔に」
「わわっ、わわわっ」
顔を赤らめ、何やら話しにくそうにしているマシュ。リリィも恥ずかしそうにしている。そんな光景を見た士郎はというと、
「ん、どうしたのシロウ?急にそっぽ向いちゃって」
「いや、なんでもないよ」
顔を背けたのは、なんだか見ていて気恥ずかしかった……というだけではない。むしろ光景自体は微笑ましく思えた。ただ……
「母親……か」
今の自分の全てが始まったあの事件。あの日以来、自分には縁のなかった母親という存在。二人の娘がいたブーディカにとって、マシュとリリィは娘のように思えるのだろう。
自分には父と呼べる
けれども、自分には母と呼べる存在はいなかった。
産みの母はいたはずだが、その記憶も既にない。
ブーディカの母性溢れる行動を見て、母親の記憶がないことを少し寂しく思ってしまったとはとても言えない。
「んん〜?何々、シロウは仲間外れにされて寂しいのかな?」
「え?いや、そういうわけではなくて、わぷっ」
「先輩!?」
「シロウ!?」
振り返った士郎の視界が何かに埋もれた。頬に感じるのは、何やら暖かくて柔らかい物。自身の髪を誰かの手が優しく撫でてくれて、とても心地よい。そしてふわりと、なんだか気持ちが落ち着くような香りが……
「まだいたの?私もネロも上がっちゃったわ……よ?」
風呂から上がってきたジャンヌが丁度戻ってきて、目の前の光景に固まった。椅子に座ったままの士郎の頭をブーディカが抱え込むように抱きしめ、頭を撫でているのだ。丁度位置的に、士郎の顔がブーディカの胸に埋もれる形になっている。
「……」
「…………」
「………………」
「って、何してんのよあんたはぁっ!?」
沈黙することしばし、ダッシュで士郎たちの元へ駆け寄ったジャンヌは思いっきり士郎の首根っこを引っ掴み、ブーディカから引き離した。
「ぐえっ、ちょっ。ジャンヌ待て!これには深い訳が……」
「あら、どんな訳なのかしらね?今日会ったばかりの女性の胸に顔を埋めるなんて、一体どれほど重要な理由があるのかしら?」
「いや、それはなんていうか、今のは不可抗力というか。ほ、ほら!マシュたちも、説明してくれ」
恐ろしいほどの笑顔で肩を掴んでくるジャンヌ。何故ここまで怒っているのか分かっていない士郎だったが、取り敢えず宥める必要があると思い、マシュたちに助けを求める。が、
「先輩、不潔です」
「えっ!?」
やや不機嫌そうなマシュには見捨てられ、
「わ、私もいつかブーディカさんくらいに育つのでしょうか」
なんだか悩ましげなリリィには聞こえていないらしく、
「あはは、こりゃ大変だ」
実行した張本人のブーディカには見守られるだけだった。
「ふふっ。さぁて説明してもらおうじゃない」
ジャンヌの笑顔がさらに凄みを増す。どうやら逃げ場はないらしい。そんな時、士郎に言えることは一つだけ。
「なんでさぁぁぁぁあっ!?」
という訳で、ブーディカさんと絡んでもらいました笑
母親、ね……やっぱり、呼ぶべきですよね