そしたらね、間違ってね、10連回しちゃったのね〜
その結果は………………………………………
「俺の、両親?」
「そ。なんだか聞いてみたくなって」
どんな話題が来るのかと身構えていた士郎は、その内容に拍子抜けする。肩の力を抜き、いざ話そうとしたが、
「あー、悪い。俺、父親はいたけど、母親はいなかったんだ。だから話すなら親父のことだけになるんだけど、いいか?」
「もちろん」
「え、と。そうだな。どこから話したものか、わからないけど……」
士郎は語った。ある事故で、自分が今の
病室で彼は士郎に話かけた。
『初めに言っておくとね、僕は魔法使いなんだ』
一緒に暮らし始めて思ったことは、自分がしっかりしないと、ということだった。養父は度々家を空けるし、食事にも気を使わない。自分の家事スキルは、最初は養父を支えるために磨かれてきたのだ。
彼と共に過ごす中で、士郎は魔術を教えて欲しいと願った。何度断られても折れない士郎に、養父はようやく魔術を教えてくれた。しかしながら、それは正しくはなかった。士郎に、魔術とは無縁であって欲しいと、そう願っていたからだ。
そしてその夜、養父は縁側に座り、空を見上げていた。見事な満月を見つめながら、ただ静かに座るその姿は、どこか消えてしまいそうなほどに弱々しく見えた。
『僕はね、正義の味方になりたかったんだ』
それは、士郎へと託された願いであり、希望であった。あの日の安心した顔は、生涯忘れることのないものだ。あの時自分を助けてくれた時の表情、そして最後に全てを託した時の表情。どちらも幸せそうで、どちらも安堵していた。その時に彼の見せた顔が、
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「そっか……なるほどね〜」
士郎の語りを聞き終え、ブーディカは何かに納得したように頷いている。自分の話のどこに納得したのだろうか。わからない士郎はブーディカの言葉を待った。
と、気づけばブーディカに抱き寄せられていた。
「ちょっ、ブーディカ、さん?」
「シロウは、いい子だね」
10センチ以上の差があるため自然と自分は少し前かがみになる中、ブーディカの肩に頭を乗せさせられる。その頭をブーディカは片手で撫で、もう片方の手は背中を優しく叩く。何だか赤ん坊をあやすような感じになっていることに若干の恥ずかしさを感じながらも、何かしら理由があるのだろうと考え、士郎は特に何もしなかった。
「シロウは、本当にいい子に育ってるね」
「別に、普通じゃないか?」
「そんなことないよ。一人親で、しかも度々家を空けていたことを考えると、もっと捻くれてたり、荒れてたりしててもおかしくはないんじゃないかな。それでも、シロウはお父さんの夢を継ぐことを決めて、ひたすらに頑張ってきた。親としては、これほど嬉しいこともそうないと思うよ」
最後に養父が見せたあの顔は、弱々しくもあったけど、嬉しそうにも見えた。あれだけ士郎に魔術とは無縁であってほしいと願いながら育てていたけれども、あの日の士郎の言葉は、やはり嬉しかったのだろうか。
「でもね、シロウ。今のシロウは、喜んでもらえないかもしれないよ」
「……えっ?」
抱きしめられたままのため、ブーディカの表情は見えない。けれども、多分笑顔のままなのだろう。少し寂しげで、悲しげで、儚くも見える、そんな笑顔。
「シロウはさ、その事故で命を救われて、お父さんのように人を助ける正義の味方になりたいって、思うようになったんだよね?」
「……ああ」
「誰もが幸せでいられるように、誰もを救い出したい。それはきっと、とても綺麗で、尊くて、正しい願いなんだと思う。でもね、その願いを本当の意味で叶えるためには、その『誰も』に、シロウも入ってないといけないよ」
「俺自身……いや、そんなこと、俺には」
「確かに、助けてもらえた人たちは幸せかもしれない。でも、そこでシロウが怪我をしたり、最悪死んだりしたら、幸せになれない人もいるんだよ?」
「それは……」
「あたしだってそうだよ。とても悲しいし、とても苦しい。自分が傷つくことよりも、心が痛むんだ」
ブーディカの言葉は、責めているわけでも、怒っているわけでもない。ただ、諭すように語りかけて来る。何故だかそれは、あの日、雪のような少女の墓の前で、師匠が言っていたことに重なる。
自分のために、涙を流しながら怒った彼女。憧れて、共闘して、師弟になって。恋人……とまではいかなかったものの、間違いなく一番近くにいてくれていた。その彼女の言っていたことを、やっぱり自分は理解できていなかったのかもしれない。
「シロウ、何もシロウだけが頑張る必要はないんだよ。今は、あたしたちが一緒にいるから。何も、シロウだけが背負わないといけないわけじゃない。だから、無理はしないでほしい。無理してるシロウを見るのは、マシュも、リリィも、ジャンヌも、ネロも、そしてあたしも辛いから」
ここで士郎の顔を離し、目を見るブーディカ。時折、自分の姉貴分や、師匠が向けてくれた見守るような、けれどももっと優しさのこもった視線に、士郎は引き込まれた。
「もっともっとあたしたちのことを頼ってほしい。君はマスターで、あたしたちはサーヴァントなんだから。それで、ちゃんと回復したら、また一緒に並んで戦いたい。それじゃダメかな?」
その言葉に、思わず士郎は首を横に振った。何故だか知らないけど、逆らう気も、反論する気も起こらなかったのだ。
「いや、わかったよ。むしろさっきまで意地張っててごめん。そうだよな、自分一人でやることじゃないんだよな。ありがとう、ブーディカさん」
「うん、素直でよろしい。なら、今後もなるべく無茶は控えるようにね」
「……俺、母さんってのがどういうのかは、わからなかったけど……なんか、こんな感じの人なのかって思うよ」
「何何?シロウも母親が欲しくなっちゃった?」
「いや、別にそういうわけじゃないって」
「なら、あたしがお母さん代わりになってあげよっか?娘は二人いたけど、息子はいなくて、欲しいって思ってたから丁度いいんじゃないかな?」
「へっ!?」
「ふふっ、シロウの顔赤いぞ。熱でもあるのかなぁ?」
「な、ちょっ、ブーディカさん!?」
「ふふっ」
士郎の頭を抱き寄せ、額を合わせるブーディカ。至近距離で微笑む顔を見て、この人には敵わないと、思い知らされる士郎だった。
まぁ、正確には敵わないのは「
ブーディカにより説得された士郎が納得したことで、今後の戦略も決まり、十分な休息を得ることができたネロ率いるローマ軍は、首都へと戻ることにするのだった。
というわけで、母親属性のエピソード書いていたからなのだろうか……
かの頼光様がおいでなさったぞぉぉぉぉお!?
眠気飛んじゃったよ、どうしよん