え?本命のチョコ?あげた相手はエミヤだけですが何か?
視界に広がるのは一面の青。
上を見ると白い雲と輪っかは見える、晴れの空。下を見るとやや深めの青に染まった穏やかな海。
足が踏みしめるのは白い砂の感触。
耳を撫でるのは穏やかな波の音。
鼻をくすぐる塩の匂いを含む風。
「海、ですね」
「海だな」
「海ね」
「海です!」
感心したようなマシュ。興奮気味のリリィ。興味無い風を装いながらも、唇の端がヒクヒクしているジャンヌ・オルタ。3人ともローマで海を見たはずなのだが、あの時はいろいろありすぎてしっかりと見ることはなかったためか、落ち着いて海を見るのは初めてらしく、目の前の光景に見とれている。
足元ではまたまたついて来てしまったらしいフォウが、波打ち際で遊んでいる。
ここだけ切り取れば、まるでバカンスにでも来たみたいにも見えるが、悲しいかな、彼らのするべきことは他にある。
『士郎くん。その島から強い魔力の反応が出ている。気をつけて調査してほしい』
「わかった」
若干残念そうにしているマシュたちを連れて、士郎は島の奥、森の方へと向かっていく。
「森の中からの反応ってことは、サーヴァント関係か?」
「あるいは強い魔力を持った生物かもしれません。伝承などではこのような森には、魔猪と呼ばれる生き物が生息していたそうです」
「魔猪ですか?マーリンが剣の特訓にと、度々連れて行かれた先で会いましたね。人間に害をなすものが多いので、倒すしかありませんでしたけど」
「猪ねぇ。でも、その程度なら大したことないじゃない」
「ってことは、もっと厄介な相手ってことかもしれないな」
森の奥へと進む士郎たち。と、何かが焼けるような匂いが鼻に付く。間違いなく何者かが火を起こしたということだ。周囲を見渡してみると、煙が漂ってきている方向がわかる。目配せをしあい、士郎たちは殊更に気を引き締めて、煙の方向へ進み始める。
聞こえてくるのは笑い声。それも1人や2人ではない。何人かの男が共にはしゃぎ、共に笑い、共に歌っている。決して上品なものではない笑い方、誰もいないはずの島。士郎の中で一つの可能性が上がる。
森の中の開けた場所、そこが煙の発生源だった。
そこにいるのは何人もの男たち。酒を木製のジョッキでかわし、火の回りではしゃいでいる。剣、銃、短刀など、様々な武器を持つ彼らの服装は、しかし騎士や旅人とは異なる。海の男たちではあるが、水夫や釣り人などではない。
「海賊か?」
パキリ
「フォッ!?」
「フォウさん!?」
と、大きな音が響く。慌てた様子のマシュの視線の先、フォウが枝を踏んづけてしまったらしい。
すぐさまこちらを向く男たち。その手は各々の武器に伸ばされている。暫しの沈黙。そして、
「敵襲〜っ!」
「野郎ども、やっちまえ!」
「やっぱりこうなるのか……」
「溜息ついてないで、戦闘準備しなさいな!来るわよ」
ぞろぞろと出て来る海賊たち。どうやらそこそこの規模の海賊団らしい。やれやれと思いながらも、士郎が武器を構える。
「とりあえず、話を聞きたいからな。峰打ちで頼む」
「わかりました、シロウ」
「お任せください。マシュ・キリエライト、行きます!」
やる気満々な2人を横目に、ポツリとジャンヌが一言漏らす。
「あんたたち、どうやって峰打ちにするのよ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
数分後……
「「「「「すみませんした」」」」」
正座させられている海賊たち。さしもの海の猛者たちとはいえ、サーヴァントに敵うはずもなく、あっさりと制圧されてしまうのであった。
「それで、少し聞きたいことがあるんだけど、いいか?」
「はいっ!何でもどうぞ!」
「お前たちは何でここにいるんだ?というかここはどこだ?」
「へ、へぇ。それはですね、」
「ここは海賊島。まぁ、所謂休憩のための島って奴だね」
辺りに響く声。女性の、それもただならぬ強さを感じさせる、自信にあふれた声。声の主が森の中から姿を現わす。
紅色の長い髪に、いかにも海賊の船長っぽい赤いコート。ニカッという効果音が似合いそうな笑みを浮かべる顔にはしかし、大きな傷跡が残されている。
「うちの連中が急にすまなかったね。ちょいと浮かれてたってのもあるのかもしれないけど」
「あ、あぁ。いや、それはいいんだけど……俺たちと戦わないのか?」
「あたしかい?必要ないよ。本当に敵なら、あたしの部下たちが正座させられるだけで済むわけ無いからねぇ」
あっさりと敵意がないと言ってのける女性。士郎たちとしてもできるだけ戦闘しなくてもいいというのであれば願ったり叶ったりなので文句はないが。
「俺は士郎。衛宮士郎だ。それからマシュ、リリィ、それにジャンヌだ」
「シロウね。自分からしっかりと名乗るとは、中々しっかりしてるじゃないか。それじゃああたしの番だ。フランシス・ドレイク。この海賊団の船長さ」
差し出した士郎の手を躊躇いなくとる女性。その名に士郎とマシュは覚えがあった。
世界一周を生きたながらにして成し遂げた者。
最強と謳われた艦隊を打ち破った伝説を持つ者。
沈まぬはずの太陽を沈めた者。
又の名を、テメロッソ・エル・ドラゴ。
紛れも無い、英雄と呼ばれる存在が、そこにいた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
森の奥へと進むことしばし、ドレイクの用意していたキャンプにて、士郎たちはもてなしを受けている。
「ほら、飲みな飲みな!何はともあれまずは一緒に飲む。そっからだよ」
「そ、そうか。なら、頂くよ」
「そうこなくっちゃね。お嬢さんたちはどうだい?」
「いえ、あの……未成年なので」
「私もあんまり飲まないので」
「そうかい?ならそっちの黒いのも飲めないとか?」
「ふんっ、馬鹿にしないで。そのくらいのお酒、飲めるに決まっています」
負けず嫌いスイッチが働いたのか、差し出されたジョッキを勢いよく煽るジャンヌ。空になったジョッキを見せつけるようにし、笑みを浮かべているが、顔が赤くなっているのはパッと見てすぐにわかる。
「おっ、いい飲みっぷりだね。そうこなくっちゃ。そら、シロウも」
「いやいや、流石にそれはちょっと。頭がはっきりしているうちに話したいこともあるし」
「そうなのかい?けど、ジャンヌだっけ?かなりいいペースだよ?」
「へ?」
後ろを見ると、既に顔を真っ赤にしながらジョッキを差し出すジャンヌ。口元を手の甲でぬぐいながら、ドヤ顔をしている。
「どうよ?まだまだ余裕よ」
「あぁ、待て待てジャンヌ、そこまでにしとけって」
「うるさいわね。あんたも飲みなさいよ!ほらほら!」
止めようと士郎が近づくと、首に腕を巻きつけてくる。酔っ払っているからか、力がかなり込められていて、正直痛い!
「あ、ちょっ、ジャンヌ待て!絞まる、絞まるから!」
「ほら、飲・み・な・さ・い・よ!」
「ジャ、ジャンヌさん!先輩が大変なことに!」
「シロウ、しっかりしてください!」
『全く……これではいつまでたっても話が進まないではないか。こんな序盤からつまづいているとは、全く嘆かわしい』
『ロード・エルメロイって、噂には聞いていたけど、本当に厳しそうだなぁ。僕なら逃げてたかも』
「んー?どこからか声が聞こえるね。1人はまぁしっかりしてるけど……もう1人は軽薄そうだね。あたしの嫌いなタイプだね、こりゃ」
『声だけでディスられた!?』
『えぇい、さっさと本題に入りたいのだが!』
話がなかなか進まないまま、ジャンヌが士郎にもたれかかるように眠りにつくまで、わちゃわちゃした時間が過ぎて言った。
「スースー」
「まぁ、とりあえずジャンヌは置いておいて……改めて俺たちの話を聞いてほしいんだけど」
「いいよ。酒を酌み交わしたらって話だったしね。それで?あんたらはどこから来たんだい?海賊って感じではないし、ましてや海軍だとかでもないんだろ?」
「ああ。俺たちは、カルデアのものだ。少し長くなるけど、いいかな?」
「船旅じゃ、長い話なんざ日常さね。さっさと話しな」
「わかった。まず、俺たちの目的なんだが……」
余談ですが、pixivのほうではエミヤを主人公?にした別作品の連載始めました
よければチェックしてみてください笑
まぁ、もしかしたらこっちにも来るかもしれませんが