正義の味方の人理修復   作:トマト嫌い8マン

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二つほどイベント飛ばすことにしたので、ちょっとこの辺りから内容が変わってきます

まぁ、若干オリジナル展開っぽくなるだけですけどね


魅惑の踊り子

「ふぅ……」

 

額に滲む汗を拭う士郎。あの後、船の状態を確認した士郎は、二日酔い組のために軽い食事を用意し、自身は船の元へと戻った。

 

確認して見たところ、船の受けたダメージは想像していたほど酷いものではなく、船大工が動けなくても、士郎一人で数日以内に終えられそうなものだった。

 

「お疲れさん、シロウ。ほら、これでも飲みな」

「ああ」

 

みんなの様子を見ていると言っていたドレイクが、水筒を片手に戻って来る。因みにジャンヌはというと、

 

『海賊を信用したわけではないのです。こいつらが妙な真似をしないように、見張らせてもらうわ』

 

と言って、マシュとリリィの側についている。二日酔いに苦しむ二人のことが心配だと、素直に言えばいいのに、なんて思いながら、士郎がドレイクから水筒を受け取り、中身を喉に流し込む。

 

「ぶっ!?ってこれ、酒じゃないか!」

「何言ってんだい。あたしら海賊にとっちゃ、そりゃ水とおんなじ。喉も潤うし、おまけに気分も上がる。むしろ水よりいいじゃないか」

「いや、それでみんな倒れてるんじゃなぁ」

「まっ、あいつらもすぐに動けるようになるだろうさ。それよりどうだい、船の調子は?」

 

ゲホゲホッと驚きに咳き込む士郎に対し、ニカっと笑みを向けながらドレイクが問いかける。袖口で軽く口元を拭ってから、士郎が一瞬ジト目でドレイクを見てから答える。

 

「まぁ、これくらいならなんとかなるな。幸い、資材は豊富だし、数日以内には終わると思う」

「へぇ、大したもんだね」

「まぁ、昔からものを直すのは得意だったからな、っと、ここもだ」

 

図面を見ているわけでもないというのに、士郎はまるで船のどこに何があるのかを、全て理解したかのように作業している。

 

「造船技術はないって話だったけど、やけに船の構造に詳しいねぇ。図面もなしによくやるよ」

「ああ、まぁ。俺の使える魔術の一つでさ。ものの構造を把握するのは、それなりに得意なんだ」

「便利だね、そりゃ。ま、そろそろ日も高くなるし、昼にしようじゃないか」

「っと、もうそんな時間か?わかった、戻ろう」

 

用具をしまい、立ち上がる士郎。ドレイクの後に続いてキャンプの方へと歩いていく。みんなどうしているかと思いながらキャンプへ辿り着くと、

 

「あら、お帰りなさい」

 

「へ?」

「ん?あんた誰だい?」

 

「あっ、マスター」

「シロウ、気をつけてください」

 

眠りこけている海賊と、少し距離を取り警戒しているマシュたち。そして、海賊たちのそばに座り込んでいる一人の女性。

 

踊り子のように見える、露出多めの衣装は彼女の魅惑的な肉体をさらに際立たせるようにも見え、優しく微笑む様は、歳上の女性の余裕を見せる。

 

が、そんなことは士郎にとってはさほど重要とは思えなかった。何故なら目の前の女性、彼女からは紛れもなく、魔力の反応がしている。

 

「サーヴァント、なのか?」

 

士郎の問いに対し、ニッコリと微笑む女性。すっと立ち上がり、士郎とドレイクの前に立つ。

 

「初めまして、マタ・ハリよ。よろしくね」

 

優雅な所作でお辞儀をするマタ・ハリと名乗る女性。戸惑っているドレイクの隣で、士郎の目がわずかに開く。

 

マタ・ハリ。世界で有名な女スパイの名であり、男を手玉に取り、翻弄した……と言われている。

 

よく見ると、海賊たちはどこか幸せそうな顔で眠っている。もしや彼女に?そう思いやや警戒を強くする士郎。

 

「えっと、聞いてもいいか?」

「ええ、いいわよ。なんでも答えてあげる」

「あんた、なんのためにここに来たんだ?」

 

戦いに来たのだろうか。それともただ接触しに来たのか。前者ならば気は進まないが倒すしかない。後者なら、その目的を聞けばいい。

 

「何をしに、と聞かれると……あなたに会いに、かしらね。カルデアのマスターさん」

 

蠱惑的な笑みを浮かべ、首をかしげるマタ・ハリ。その仕草は大変可愛らしいものだったが、いかんせん、可愛い女性だからといって侮れないのは、聖杯戦争で嫌という程経験してきた。そんな士郎の警戒が下がることはなかった。

 

「俺に?」

「ええ。あなたと合流すべきだと言われたのよ」

「誰に?」

「心配しないで。あの人たちも、貴方の味方よ」

 

あの人たち、ということは、どうやらマタ・ハリ以外にも事情を知っている人、それも自分たちのことを知っている者がいるということになる。だが、特異点化しているとはいえ、この時代にいた、或いは呼ばれた者の中に、カルデアについての知識を持つものなどいるのだろうか。

 

まさか、レフのようなやつがまだいる……のか?

 

「……あの海賊たちは?」

「ああ、ごめんなさいね。ここで待たせてもらう代わりに少し甘やかしてあげたら、気持ちよさそうに眠っちゃったの」

「……マシュ、今の話、本当か?」

「あ、はい。確かにマタ・ハリさんは、私たちに害をなす行動はまだしていません」

「そうか……どう思う、ドレイク?」

「ここで私に振るのかい?あんたに会いに来たって言ってるんだから、あんたが判断しな」

「わかった。一先ず、あんたは聖杯に呼ばれたサーヴァントってことでいいのか?」

「ええ」

「因みに、ここへはどうやって来たんだ?」

「海賊に乗せてもらったのよ。ドレイクの船を見たら、すぐに逃げて行っちゃったけど」

「ふむ……」

 

ここまでのやり取りの中で、マタ・ハリから敵意らしいものは何一つ感じられない。嘘をついているようにも見えない。が、そこはスパイとしては当然のことなわけで、完全に演じきっている可能性もある……

 

それでも、ドレイクと出会えたとはいえ、今の特異点の異常については無知に近い。少しでも状況を知ることができたとすれば、それは特異点攻略を進めることになるかもしれない。

 

「……わかった。取り敢えずは、あんたのことを信じよう。船の修理が終わったら、あんたの仲間のいる所に行けばいいのか?」

「ううん、その前に行かなければならないところ、というより、会わなければいけない人がいるの」

「会わなければならない人?」

「ええ。それがこの歴史を守るために、重要なことなの」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

結局その後、マタ・ハリは具体的に『彼女』については話してくれなかった。というよりも、

 

『場所は聞いてるわ。でも、誰がいるかまでは教えてくれなかったの』

 

と微笑みで返されてしまい、話を打ち切られてしまったのだった。

 

昼食の準備を行いながら、チラリとマタ・ハリの様子を伺うと、敵意がないことから安心しているのか、既にマシュとリリィの二人が楽しそうに彼女と話している。

 

いやまぁ、確かに敵意がないわけなのだけれども、それにしても色々と秘密にしているところが少し引っかかっている士郎だった。

 

「まぁ、考え込んでも仕方ないか。よしっ、これで完成。おーい、昼飯出来たぞー」

 

眠りこくっている海賊たちはほっておいていいとドレイクが言ったため、士郎が用意したのは自分たちとドレイク、そしてマタ・ハリの分だけだった。

 

「あら、私のも?」

「そうだけど、何かまずかったか?あっ、食べられないものがあったとか?」

「ううん。そんなものはないけれど、私サーヴァントよ。食べる必要はないのだけど」

「食事を通じてでも、魔力の補充はできるんだろ?それに、一人だけないってのも変だしな」

 

既に食べ始めているマシュたち。リリィとジャンヌに至っては、ドレイクも驚きの食べっぷりを見せている。

 

「本当にいいの?」

「当たり前だろ。むしろ食べてくれないと、俺が困る」

「そうなの?じゃあ、頂くわ」

 

長年のスパイ生活で身につけたのか、優雅な所作で食事を口に運ぶマタ・ハリ。その一つ一つの動きが、まるで男を魅了するための手管のように思えてくる。が、

 

「あ……とても美味しい」

「そりゃ良かった」

 

余裕のある笑みが、初めて崩れる。口にした料理の美味しさに、思わず素の表情が出てしまう。そのことにハッとするマタ・ハリ。

 

「?どうしたんだ?」

「あ、いいえ。なんでもないわ。それにしても、本当に料理が上手いのね」

 

向けた笑みは先ほどと変わらない。余裕を取り戻したような笑顔。それを士郎は、

 

「そっか。あんな風に言ってもらえるなら、嬉しいよ。みんな最初は意外そうにするからなぁ」

 

と先ほどの反応を追求するでもなく、今の取り繕った様子にも触れない。

 

「ふん。そりゃあそうでしょ。普通あんたみたいなのが、料理できるとは思わないでしょう。ほんと、詐欺よね詐欺」

「ジャンヌさん。それ、暗にシロウの料理がとても美味しいと言っていますよね」

「はぁっ!?違っ……き、許容範囲内?そう、まぁまぁ満足してあげられるレベルということです」

「先輩、これがツンデレというやつなのでしょうか?」

「あ、いや……まぁ、うん……そんな感じかな?」

 

唐突に起こるマスターとサーヴァントによる交流に、目をパチパチさせるマタ・ハリ。

 

「とっても……仲がいいのね」

 

マタ・ハリの言葉に、顔を見合わせる士郎たち。

 

「そうだな。かなり色々とあったからな」

「はい。最初の戦いが、もうずっと遠くの記憶のように感じます」

「これも、シロウの人徳のなせる技ですね。私はまだマスターとサーヴァントがどんなものか、理解しているとは言えませんけど、みんなで仲良くできる、シロウのようなマスターの元に来て良かったです」

「はぁ?何処がですか?他はともかく、私は契約上、仕方なく力を貸しているだけですから。まぁ、退屈はしませんね」

 

その様子が、彼女にはたまらなく羨ましく思えた。聖杯戦争、そこに召喚される可能性のあるサーヴァントなんて、それこそ星の数ほどいる。自分はその中でも最弱の部類。わざわざ狙って呼び出すような酔狂なマスターもいないだろう。

 

そんな自分だからこそ、どれほど願っても叶わない、手の届かない思い(願望)。でも、それに近いものを、彼らはすでに手にしていた。

 

「素敵ね……貴方達」

 




なお、作者はまだ第2部を始めていません
いや、それより先に溜まりに溜まった強化クエと幕間を消化しようかと……

溜めすぎてかなりめんどい笑

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