なお、沖田さんは来てくれなかった模様
しかし次のイベもやはりエミヤが活躍するのか……ならばよし!
「ヌォァァア!」
「がっ!?ぐうっ」
振り下ろされる斧を咄嗟に両手の剣を交差させることで防ぐ。ズシリと重い一撃はしかし、それだけで体力をごっそりと削る。
受け流すことができたなら話は別だったろう。しかし真上から今にも自分を潰さんとする重い一撃に、士郎は身体が悲鳴をあげそうになるのを感じる。
(重っ……けど、今なら!)
「やぁぁあっ!」
斧と士郎に意識を向けていたバーサーカーの懐深くまで、マシュが踏み込む。薙ぎ払うように叩きつけられた盾の一撃は、バーサーカーを大きく後退させる。
更に一瞬攻撃の手が緩まった瞬間を逃さず、士郎が斧を弾き上げ、敵の手から落とさせる。
「ドレイク!」
「応さ!野郎ども!」
ガラ空きとなったバーサーカーへと浴びせられる大量の鉛玉。本来人の武器でサーヴァントを傷つけることは難しいはずだというのに、その攻撃は確実にバーサーカーにダメージを与える。
「グゥ……」
「あれを耐えるのかい?やっぱりバカみたいな耐久力だね」
「サーヴァントになったということは、基本は英霊になるだけのことをした人ってことだ。それに……」
チラリと士郎はバーサーカーが落とした斧を見る。素早く近づいたバーサーカーが斧を手に取る。即座に士郎はその武器を観察してみる。
(生きた武器……血を吸収し続けなきゃいけない性質か……)
つまりはこちらがダメージを受ければ受けるほど、あの斧は本来の力を取り戻していく。生きたまま武器として使われる魔獣の力……血塗られたその斧と狂気……
『血斧王』
その二つ名が頭に浮かんだ。
「バイキングの王様、エイリーク・ブラッドアクス……」
「あん?」
「多分、あいつの正体だ」
「待ちな。エイリーク……エイリーク……その名前確か聞いたことがあったような気がするね……かなり昔の人物じゃなかったかい?」
「そうだ。サーヴァントは生前の逸話や伝説により、人間を超えた存在、霊長類最強にして最高。そんな奴が相手なんだ」
「聞けば聞くほどデタラメな連中だね、そりゃ。でも、あんたんとこの
「……まぁな」
ドレイクの言う通りだ。たとえ相手が恐ろしいまでの狂気を秘めた血に狂う王だったとしても、彼女たちがいるのならば大丈夫だ。
「よしっ。マシュ、ジャンヌ、リリィ!合図で前後入れ替え、速攻行くぞ!」
「はい!」
「お任せを!」
「ええ」
バーサーカー、エイリークが斧を振り上げながら突っ込んでくる。両手で斧を持った大振りの一撃。
「マシュ!」
「行きます!」
同時に走り出す士郎とマシュ。マシュが先行し、全体重をかけながらエイリークの一撃を受け止める。
「つぁぁっ!」
素早く前に回り込んだ士郎が、勢いの止まった斧目掛けて、両手の剣を下から上に振り上げる。全体重を込めた一撃は、斧を弾き上げ、エイリークの態勢を崩す。
「リリィ!ジャンヌ!」
「行きます!」
「ふっ!」
士郎が合図を出すと同時に、マシュと2人で後ろに飛ぶ。入れ替わるように、カリバーンを構えたリリィと、旗ではなく剣を手にしたジャンヌが飛び出す。
同時に剣を振るう二人が、エイリークの身体を一閃する。胸元にX字の深い傷を負ったエイリークがよろける。
「グガゥゥゥ……テッタイ……」
士郎たちがとどめをさす前に、エイリークは霊体化し、その場から姿を消した。あたりを警戒するが、どうやら言葉の通り、撤退したらしい。
「やった……わけじゃなさそうだね」
「ああ。多分撤退しただけだ。けど、バーサーカーであるあいつが、そんな判断を自分でできるとは思えない。マスター、或いは他に手綱を握ってる奴がいるな」
「船長、エイリークが戻ったよ」
「見るからに撤退に追い込まれたみたいですね。ということは、」
「どうやらお仲間が増えちまったらしい。やだねぇ、おじさん的には面倒ごとはごめんなんだが」
海上に浮かぶ海賊船。そこに乗っているメンバーは、一見普通に見えて、けれどもそうではない。この時代には似つかわしくない服装の男に、二人の女海賊……それらを従える船長は、
「デュフフ。どうやら新しく来たマスターはかなりの美少女をはべらせているらしいですぞ。それも後輩、純真、ツンデレ……属性盛り盛りで羨ましい!」
およそ海賊とは思えない口調と態度の男。けれども、そんなおちゃらけた態度を取っているにもかかわらず、その視線は鋭く獲物の方向を見ている。
「こうしてはいられないですなぁ。総員、急いで奴らのもとに行きますぞ!いざ、黒髭ハーレムを作るために!」
「いや、誰もそんなもののためにこの船は乗ってねぇと思うけどねぇ」
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ザザーン———ザザーン———
甲板の手すりから少しだけ身を乗り出し、マシュがほうっと息を吐く。隣に並ぶように立っているリリィが、潮風になびく髪を片手で抑える。
無事に修理を終えた船に乗り、士郎たちは海賊島から出発し、この時代の聖杯探索へと出発していた。
「これが船から見る海ですか……ネロさんの時は楽しんでいる余裕なんてなかったので、よく覚えてないのですが……辺り一面が水、というのは、とても新鮮です」
「私もです。修行の旅は基本的に陸路ばっかりでしたから。こういう船旅も、いいものですね」
微笑み合う二人。少し離れた場所から、ジャンヌが二人を眺めている。ジャンヌにマタ・ハリが近づく。
「ジャンヌは混じらないのかしら?」
「何を聞いてくるかと思えば……結構です。私は別にこんな景色のこと、どうとも思っていないので」
「そうかしら?私は好きよ。優しい波の音、潮風の香り、そしてこの日差し。とても素敵じゃない?」
「……ふん」
「あら、うふふ」
内心舌打ちするジャンヌ。何故だろう。このマタ・ハリというサーヴァントには何もかもお見通しとでも言わんばかりである。たしかに、初めて経験するこの景色に、心が少し、そう、ほんの少し踊ったこともなくはない。けれどもまるでそれを、わかってるわ、みたいな顔で見透かされるのはどうにもむず痒い。
「……最悪ね」
「うふふ。そういうことにしておきましょう」
「んー……特徴ねぇ」
「なんでもいいんだ。相手の外見とか、武器とか。そこから相手が何者か、絞り込めるかもしれない」
船内、ドレイクの部屋にて、士郎とドレイクが話している。ドレイクの出会った化け物のような人間たち、そのサーヴァントたちを特定すべく、士郎はドレイクに考えられるだけの特徴を上げてもらおうとしていた。
「そうさねぇ……2人組の女海賊がいたね」
「2人組?」
「あー……確か片方はでかくて銃を使って……もう片方はちっこくて剣を使ってたね」
「剣に銃……女海賊……なぁドクター。これって」
『うん、間違いない。女海賊で2人組、それもその武器ときたら、そんなのもう彼女たちしかいない。アン・ボニーとメアリー・リードだ。現代でも割と知名度のある海賊だね』
「あとはそうだねぇ……なんだか古臭い格好した男もいたね。昔々の物語みたいなのに出てきそうなやつ。武器は槍だったね」
「……それは流石に幅広すぎるな。ちょっと予想できそうにもない」
「あとは船長って呼ばれてた男だね。立派な黒い髭を生やして、まさに海賊のイメージぴったりの格好してたね、ありゃ」
「黒い髭の海賊……」
その響きにピンとこない人はそういないだろう。無理もない。彼は世界で最も有名な海賊なのだから。あらゆる富と女性、そして海は彼が支配し、その名は世界の果てまで残る。
「エドワード・ティーチ……黒髭か」
気配を完全に断ちながら、男は彼らの様子を伺う。暗殺者故のスキルに加え、彼の保有する固有能力が、彼の呼吸までもを悟らせない。
いつの間にか潜り込んでいた彼に、誰一人として気づかずにいた。
その瞳が青年を捉える。
「カルデアのマスター……僕とは、考え方が合わなさそうだ」
彼の理想の正義は、自分のそれと近いようで、それでも異なるとすぐにわかった。
彼は自分のやり方をよしとはしないだろう。
なら、
「僕は僕のやり方で、この特異点の解決を進めるとしよう」
わかり合おうとするために時間を使うくらいなら、別々の考えを持ったまま行動した方が早い。そして、より確実でもある。
そう考えた彼は、青年から視線を外し、その場で姿を眩ませる。
というわけで、合流?したようでしてないですねこれ
共闘があるのか、それとも敵としてぶつかるのか……
さて、どうしようか笑