FGOもいいけど、あのカオスなストーリーとかキャラとか、いいですよね~
「女神、エウリュアレ、さん?」
「ええ。どうかしたのかしら?」
「あ、いえ。私たちの知っている方と似ていたものですから」
「似ていて当然だと思うぞ。エウリュアレとステンノは姉妹だからな。更に言うならメドゥーサもそうだけど」
「よく知っているわね……まさかとは思うけれど、その二人まで捕えているのかしら?」
すっ、とエウリュアレの瞳が細められる。先ほどまであった諦観にも近い視線から、敵意にも近いものへと変わる。ただそれだけのことだというのに、肌がぴりつくような感覚に襲われる。
(流石は女神。神格を落とし、かろうじて英霊の枠に押し込まれた状態でもこれか)
さらに言えばステンノもエウリュアレもともに男性に、より正確にいうなれば英雄に対して圧倒的な強みを持っている。事実士郎自身は謙遜するであろうが、既に積み重なった功績は、単なる武勇伝とはいえない域にある。
「いえ、私たちはあなたたちを捕らえに来たわけではありません」
若干慌てるようにマシュが士郎とエウリュアレの間に割り込む。
「私たちはここにサーヴァントがいるという情報があったので、そのサーヴァントを確認しに来ただけです。もしそれが聖杯が自ら呼び出したものだとしたら、味方になってくれるのではないかと」
「味方に?」
「はい。現在把握している情報から察するに、お二人は海賊黒髭、エドワード・ティーチに追われているという認識で間違いないでしょうか?」
「名前はよく知らないけれども、そうね。変な笑い方をしながらニヤニヤしてる黒い髭の男に追いかけられているわね」
「そ、そうですか……」
若干ひきつったような表情になりながら、マシュが何とか笑みを返す。まぁ気持ちもわからなくもない。今の説明だけ聞いたら黒髭はかなりのド変態待ったなしである。
「俺たちはその黒髭と戦うためにここに来たんだ。黒髭と黒髭に味方するサーヴァントと戦うために、俺たちも仲間を集めている」
「そこで私たちのところへたどり着いた、というわけね。なるほど」
先ほどまでの敵意のある視線は弱まったものの、まだ完全にこちらへの警戒をやめたわけではないらしい彼女の様子に、士郎はミノタウロスの周囲を包んでいた
「えうりゅ、あれ。だい、じょうぶ?」
「ええ。あなたこそ、熱かったでしょ?」
優しく微笑みながらエウリュアレはいたわるようにその腕のやけどの跡を見る。白魚のような指がわずかに傷に掠るだけで、ミノタウロスが小さなうめき声を出す。
「うぅ。まだ、やれる」
「そう?頼もしいわね。でもいいの。この人たちはどうやら戦うつもりはないみたいだし」
ちらりと士郎に視線を寄こしながらまるで諭すように、或いはあやすようにエウリュアレは怪物の腕を――当然傷のない部分を――撫でる。
「ああ。戦う必要がないなら、それは俺たちとしてもありがたい」
「そう。それで、さっき話していた黒髭――だったかしら?その男とあなたたちは敵対関係にある、そう見ていいの?」
「状況から察するにはそういうことだと思われます。私たちの協力者であるフランシス・ドレイクさんやマタ・ハリさんの話とエウリュアレさんの話を合わせると、現在黒髭及びその配下に加わったサーヴァントたちは何かしらの理由でエウリュアレさんを狙っていて、それを阻止する必要がある、ということのようです」
「そうね。概ねそんなところになると思うわ。できればこの後協力者たちと合流したいと思っているのだけれど」
そう言いながらマタ・ハリはエウリュアレの方を見る。言外に問いかける。一緒に来てくれないかと。
当然その意図はわかっているであろう
「?なんだ?俺の顔に何かついてるのか?」
「いいえ。なんでもないわ。まぁ、あなたには期待する方が無駄のようね」
「?まぁそれはいいとしてさ、二人とも困っているんだろ?よかったら一緒に来ないか?」
全くもってエウリュアレからの無言の振りに気づいた様子はないものの、さらりと正解を言ってのける士郎は流石ともいえる。しかもちゃんと「二人」と言っているあたりが特に。
「あら、大丈夫かしら?彼に襲われたばかりなのに?」
「それはエウリュアレを守るために戦ってただけだろ?確かにさっきは戦うことになったけど、俺は力になりたいと思ってる。どうだ、ミノタっじゃないか。アステリオス、でいいのか?」
特に敵意も怯えも感じ取られない士郎からの視線。そして自身のことを「
「こわく、ないの?」
「怖いもんか。アステリオスみたいに大きな体を持っているやつなら馴染みがあるしな。あいつとは話をすることはできなかったけど、アステリオスとはできるからその分親しみやすいかもしれないけど」
少しの冗談交じりに士郎がアステリオスに笑いかける。事実サーヴァントには一般の人を凌駕する巨体の持ち主は少なくはない(アッセイ!)……今何かが聞こえた気もするが気にしてはいけない。
それに加えて、衛宮士郎が戦うことを決めた直後、最初の対戦相手もまたアステリオスに迫るほどの巨体を誇っていたのだから。巨体に加え、アステリオス以上に飛ばされた理性、獣のごとく吠えながらも戦士としての技量を持って戦うその戦士は、これまで数々の英霊と出会ってきた士郎をして、未だに格が違うと認識せざるを得ない相手だった。
その男と戦った時のことを思い返せば、アステリオスに対する感情もまた変わってくる。同じなのだ。一人の少女を守るためにその身をとして戦う。怪物のように見えてしまえども、彼もアステリオスも行動はまさに英雄、英霊のものだった。
「もし俺たちを信頼してくれるなら、手伝わせてほしい」
そう言いながら士郎が手を差し出す。攻撃のためでも、自衛のためでもない。ただ差し伸べるために、その手を怪物ではなく、一人の英霊に伸ばした。
「う……」
考えるようにアステリオスの視線が士郎の手、顔を行き来し、そしてエウリュアレに向く。彼女はほとんど表情を変化させなかったが、アステリオスだけが気づくようにほんのわずかに微笑みを深めた。
「う、ん。いっ、しょに、いこう」
「ああ。よろしくな、アステリオス、エウリュアレ」
「ええ。でも、女神を連れて行くのだから、ちゃんとエスコートしてもらうわね」
「そこはご安心ください。先輩のおもてなしスキルは一級品ですから」
とまぁ、なんやかんやでまたまた旅仲間が加わることになったわけだが……
(あれ?アステリオスが休めるような広い場所、船にあったっけ?)
とまぁ、若干の不安要素を思い浮かべる士郎ではあったが、一先ずこの島での目的は果たせたことに安堵するのであった。
森の中に息をひそめながら身を隠していた男がピクリと動く。
先ほどまで自分がにらんでいた洞窟、そこから漂っていた魔力の気配が薄れていくのを感じる。
「迷宮が解除されたか。化け物退治に成功したのか、それとも懐柔に成功したのか。僕としては、前者の方が仕事がしやすいんだがね」
スコープ越しに洞窟の入り口を見つめていると、中から先ほど入っていったマスターとサーヴァント2騎、そしてターゲットと化け物が現れる。
「やれやれ。どうやら僕と彼との相性は、最悪らしいな。楽に仕事をさせてもらえそうにない」
ため息を吐き出しながら、男は手に持った銃を構えなおし、ためらうことなく引き金を引いた。