正義の味方の人理修復   作:トマト嫌い8マン

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いよいよ、あの二人が出会う……

果たしてどうなることやら


もう一人の正義の味方

洞窟のすべてが迷宮だったわけではなく、どうやらアステリオスは元あった洞窟に自身の宝具を展開していたらしい。地上に出るにあたりさて迷宮をどう脱出したものかと思案した士郎だったが、その心配は杞憂に終わった。

 

とは言ったものの、これはアステリオスの信頼を得たからこその結果であり、実際エウリュアレ曰く、

 

「確かにアステリオスを殺してもこの迷宮は消えるけれども、その場合は……そうね。迷宮が崩れ落ちてくるのだから、命がけの脱出劇も見られたかもしれないわね」

 

とのことだった。改めてアステリオスの宝具の恐ろしさを認識させられる。

 

しかしながらその怪力や宝具、そして容姿からは恐ろしさを想起させられるものの、アステリオス本人からはそういったものは既に感じ取れなくなっていた。どこか少年のような言動、そして根は優しいのだろう、エウリュアレやマシュ、マタ・ハリとの関係も悪くはなさそうである。

 

「なんだか、少し驚いてしまいます。こんなに優しいアステリオスさんが、神話で語られるミノタウロスだなんて」

「そう、だな。でも伝説なんてあてにならないことは、もう見てきただろ?アーサー王だってそうだ」

「そうですね。アステリオスさんを討ったという英雄、テセウス。彼は怪物として退治しに来たはずの相手がアステリオスという人だと知った時、どんな思いだったのでしょうか」

「どうだろうな。俺たちは想像することしかできないけど――」

 

けれどもきっと、その英雄は心を痛めたことだろう。怪物としての役割を持たされてしまった少年のような心の存在のために。

 

 

宝具が完全に解除されると、無限に続く空間にも思えた迷宮から一転、入り口が割とすぐ見える程度の広さの洞窟だったことが明らかになる。自然の光が外から差し込んで見える。

 

『もしもし!士郎君、マシュ!聞こえるかい?』

 

とここでようやく通信が復旧したらしい。Dr.ロマンの慌ただしい声が聞こえてくる。

 

「はい、ドクター。こちらは無事です」

『あぁよかった。君たちが洞窟に入ったあたりから急に接続が途切れちゃったから心配したよ』

「多分アステリオスの迷宮に入ったからだな。そうだ、新しい仲間がいるんだ」

『新しい仲間?』

「今言ったアステリオス、それから――」

(エウリュアレ)、でしょ?』

「あら、(ステンノ)?どうしてそこに?」

『シロウと契約してこちらに来させてもらったの。駄メドゥーサがいないから代わりに守らせてるわ。あなたもどうかしら?』

「そう、それは面白そうね」

 

仲のいい姉妹の会話、ではあるもののどちらも女神。どこか妖しげな笑みで話し合う様子は一見ほほえましくも見えるが、どこか身震いさせる怖さも感じられた。

 

「とりあえず、積もる話もあるだろうけれども一旦船に戻ろう。ドレイク達にも紹介したいしな」

「そういえば他にもいるのだったわね。大丈夫かしら?」

「大丈夫。ドレイクは豪快な人だし、リリィもジャンヌも頼れる仲間だ。海賊のみんなも、結構よくしてくれるしな」

「そう?まぁ、ならいいのだけれど」

 

そんな話をしながらも洞窟を出る。士郎は明るい日差しに一瞬目を細め――

 

「っ!」

 

――すぐさまエウリュアレに前に投影した剣を振り下ろした。

 

――――――――――――――――――――

 

「えっ?」

 

ガキンッ、と衝突音が響く。エウリュアレの前に静止している士郎の剣。刃は地面に向けられ、その側面から何かがポトリと落ちる。

 

「これ、弾丸?」

「先輩!」

「あぁ。狙撃された!」

 

すぐさま臨戦態勢を取る士郎達。

 

「アステリオス!エウリュアレを後ろから守っていてくれ!マシュは正面!今の狙撃の狙いは間違いなくエウリュアレだ!」

「うぅ、わか、った」

「了解!」

 

剣の投影を破棄し、代わりに士郎は弓を手に持った。周囲を見渡し、狙撃場所を探る。

 

単なる銃撃であればこの時代の海賊の可能性もあり、警戒レベルはもう少し低くても問題ないかもしれない。

 

だが明らかに違うと確信が持てる。

 

弾丸の形状から察するに使用されたのは「.300ウィンチェスターマグナム」、製造が始まったのは1963年、つまりこの時代からは遥か未来のもの。そもそもこの弾丸を使うということは使用している銃は恐らく狙撃用のライフル。

 

「比較的近代の英霊が呼ばれているってことか」

 

自分たちが出た瞬間を狙った狙撃。恐らく最初からエウリュアレをターゲットとしていたうえで、自分たちが出てくるのを待っていたのだろう。狙撃という手段を取ったということは、想定されるクラスは二つ。

 

「気をつけろ。恐らく敵はアーチャーか、或いはアサシンだ。俺とマシュは狙撃に備える。アステリオスとマタ・ハリは近くの気配を探っていてくれ!」

 

アーチャーであれば注意すべきはその狙撃。ライフルを使用している場合、自分たちが認識できる距離の外側から攻撃できるかもしれない。その場合こちらは防御に徹しながら移動する必要がある。

 

逆にアサシンである場合はより厄介である。アサシンの持つ気配遮断スキル。遠くからの攻撃ばかりに気を取られていて気づいたら接近されていた、なんてことになりかねない。

 

「どこからだ?」

 

普段の数倍集中するように最初の弾丸が飛んできた方向を重点的に見る。しかしながら木々が生い茂っていることや、この地形について詳しく把握しているわけではないことから、視認することは難しそうだ。

 

「ドクター!サーヴァントの反応は?」

『ある!でも君たちのほぼ正面付近にいることしか、こちらからは……待って、移動してる。それもすごい速さだ!君たちの方に進行している!』

 

通信の内容を聞き、さらに警戒を強める士郎達。

 

「先輩、このサーヴァントのクラスは、っ!」

 

ほんの一瞬、士郎の方向へ視線を向けただけだった。1秒あったかなかったかもわからない程の些細な隙。しかしその一瞬の隙だけあれば、男には十分だった。

 

はっとなり視線を前に戻すマシュ、しかしすでにその眼前に男は迫っていた。赤い布をフードのようにかぶり、顔のほとんどすべてが覆われているため表情が全く読めない。盾を構えなおす暇もなく、男の延ばした手に握られたナイフがマシュの顔に迫り――

 

――ガキンッ!

 

再度響く金属音。男の腕からナイフが弾き飛ばされる。

 

「くっ、アサシンのサーヴァントか」

「ええ。隠密行動については私もそれなりに心得があるの」

「マタ・ハリさん!」

 

ナイフをはじかれた手を軽くさすりながら、男が魔力弾の飛んできた方向に顔を向ける。笑顔でありながらも、どこか気迫を感じさせる表情のマタ・ハリが見つめ返す。

 

「まさか僕の気配遮断が気づかれるとはね」

「殿方の所作を観察するのは得意ですもの。敵も味方もね」

 

そう言いながらマタ・ハリがマシュの手を引き後ろにずれる。と、ちょうど二人がいた場所を一本の矢が通り過ぎ、フードの男へ向かう。

 

「!くっ」

 

瞬間、男が尋常ではない速度で身をよじるようにし、矢をかわす。

 

「なるほど。剣ばかりだと思っていたけれども、弓も得手か厄介だな」

「そういうあんたも、さっきとは比べ物にならない速度で動いてたな。今の距離で躱されるなんて、正直思っていなかったんだけど」

「説明でも求めているのか?やめておいた方がいい。時間の無駄だ」

「そういう割には会話には応じてくれるんだな」

 

くぐもっていてはっきりとはしないが、どこかドライな印象を与える抑揚があまりない声。淡々とただ仕事をこなすかのように、彼は真っ先にエウリュアレを狙った。そして先ほども、一瞬隙を見せてしまったマシュを、ためらうことなく、殺すつもりで迫ってきた。

 

「どうやらあんたは、生粋のアサシンって感じらしいな」

「別に生前暗殺者だった覚えはない。戦争を終わらせるために最適な方法がそれだったというだけだ。そのやり方のためにアサシンのクラスで現界したのだろうけど」

 

言いながら男がナイフを士郎めがけて投げつける。とっさに弓から剣に持ち替えた士郎がナイフをはじき、男に迫る。男の動きは完全に見切っていた――はず。

 

だというのに振りぬいた士郎の剣は空を切る。まただ。また突発的に、或いは瞬間的に、或いは爆発的に、男の動く速さが上がり、士郎の視界から消えた。

 

「先輩!」

「っ、投影、開始(トレース・オン)!」

 

マシュの声に反応し、咄嗟に背後に大剣を壁のように投影する。直後、背後に回り込んでいた男の銃――今度はキャリコM950A――による連射が襲い掛かる。

 

「っ、武器を瞬時に?転送、ではなさそうだ」

「やあっ!」

固有時制御(time alter)2倍速(double accel)

 

ぼそりと男がつぶやいたのは、たった2行の詠唱。しかしその直後、既に肉薄していたはずのマシュの盾は、先の士郎と同じように空を切った。

 

「っ、消え」

 

驚くマシュをよそに男はいつの間にかマシュの背後に回り込む。また別のナイフを手に取った男はマシュ――ではなく、再度エウリュアレめがけてナイフを投げつけた。

 

――ザシュッ

 

ナイフの刃が肉を割く音が聞こえ、そして鮮血が舞う。

 

しかしそれは女神の血ではなく、

 

「うぅ、させ、ない」

「ちっ」

 

外大きな腕でエウリュアレをかばうようにアステリオスがナイフを受け止めた。血こそ出たものの、彼にとってそのサイズのナイフによる傷はそこまでのものではなく、即座に腕を横なぎに払うようにし、男を後退させる。

 

「流石にここまで警戒されている中で、この人数を相手にするのは分が悪いか。ここは退かせてもらうとしよう」

 

言いながら、追撃が来る前に男はまた加速し、姿を森の中にくらませた。

 

追おうにも地理的な知識もなく、また相手のアサシンの気配遮断により、とてもではないが探し出すことは難しい。

 

「先輩……まだ、近くにいるのでしょうか?」

「わからない。けど、どうやらもう仕掛けてくるつもりは……少なくとも今はないみたいだな」

 

気を抜くことはできないものの、いつまでもそこに留まっているわけにもいかないため、士郎たちはあたりを警戒しながらドレイクの船の方へと移動するのだった。

 




ってなわけで、一体この謎の男はナニモノナンダ~

ではではまた次回でお会いしませう~

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