真・恋姫†無双 北郷警備隊副長   作:残月

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第百十七話

 

 

 

土下座をしたら上に乗られて顔を踏まれた。うん、普通に酷くね?でも、靴のまま踏まずに靴を脱いでから踏んだのは詠の優しさなのだと思いたい。

 

 

「………で、何の用なの?」

「ああ、その……デートのお誘い……かな?」

 

 

俺の上から降りた詠の冷たい視線と質問を受けながら答える。我ながらデートの誘いとか……

 

 

「でぇと?何よそれ、天の国の言葉?」

「あ……そりゃ通じないか……えーっと逢い引きって言えば分かるか?」

 

 

最近、忘れがちだったが三国志の時代とかで横文字は通じないわな。確かデートに該当するのは逢い引きだった筈だけど違ったかな?

 

 

「ま、まあ……兎に角、俺と出掛けようって話だ」

「………いやよ。桂花でも誘ったらいいじゃない」

 

 

詠は顔を赤くした後にサッと本で顔を隠すとそっぽを向いた。

やっぱ月が言ったみたいに拗ねてる感じだな。桂花を引き合いに出す当たり特にそう感じる。こう言う場合は……

 

 

「実力行使!」

「ひゃあっ!?」

 

 

俺は椅子に座っていた詠の両足を片腕で抱えると同時に反対の腕で詠の背に腕を回す。そのまま俺が立ち上がれば詠を抱き上げた状態、所謂『お姫様抱っこ』に出来るのだ。背もたれがない椅子に座っていた詠相手にだからこそ出来た荒業である。

 

 

「ち、ちょっと!下ろしてよ!」

「だーめ。詠が素直に話を聞いてくれないからこっちも実力行使だ。城の外に用事があるから付き合ってもらうぞ」

 

 

俺はそう言いながら書庫を後にする。お姫様抱っこのままで。当然ながら人目を引くが覚悟の上だ。

途中で桂花とすれ違って『話を聞かせてもらうわよ』『今度話すから今は勘弁して』とアイコンタクト。通じ会ってる事を喜ぶべきなのか尻に敷かれ始めてるのを嘆くべきなのか……

 

まあ、兎に角……

 

 

「此処が今回の目的地だ」

「此処って……」

 

 

多少顔がひきつってる詠。それもその筈。この店は以前、詠が俺との関係を冷やかされた服屋なのだ。つまりは俺の御用達。

 

 

「此処に預けてる服を着てほしくてな。詠の為に作った一品だぞ」

「ぼ、僕の為に……じゃなくて!そう言うのは僕じゃなくて桂花や月に……」

 

 

詠の為に作ったってのも嘘じゃない。いつかプレゼントするつもりだったのも間違いじゃないが、詠の話を聞くために少しばかり話しやすい状況を作りたいのが本音だ。

 

 

「じゃ……お願いします」

「「はーい!」」

 

 

俺が店の中に声を掛けると店の中から元気よく女性店員が出てくる。二人はガシッと詠の両腕を捕らえて拘束した。

 

 

「さ、参りましょう!」

「副長さんから頼まれましたから任せてください!」

「ま、待って!僕は着るとはぁぁぁぁぁぁぁ………」

 

 

凄い勢いで店の中に連れ込まれていった詠。ドップラー効果付きで店の中に吸い込まれていった。店員さんのテンションも妙に高かったな。

 

 

「副長さん、いらっしゃいませ」

「店長さん。おじゃましてるよ」

 

 

俺が店に入ると店長さんが迎えてくれた。店員二人が詠を連れてったから当然か。

 

 

「急な訪問で驚きましたよ」

「んー……ちっと複雑な話があってね。話しやすくする為に少し散歩してんだわ」

 

 

店長さんと軽く話をしていたら店の奥から先程の店員が戻ってきた。着替え終わったかな?

 

 

「流石副長さん、あの服素敵です!」

「そうそう、可愛いですよ!」

「そっか……んで、着替えた詠は?」

 

 

先程のテンションが持続されたままだった。しかし着替えた筈の等の本人が居ない。と思ったら不満気な顔で詠が店の奥から出てきた。

そして出てきた詠の姿に俺は目を奪われた。

 

 

「………何よ」

「ブラボー……おお、ブラボー……」

 

 

素晴らしいの一言だった。今の詠はセーラー服を着ている。しかも髪型や眼鏡は変えていないので見事なまでにマッチしていた。

似合うとは思ってたけどここまでとは……不覚、この秋月。戦力を見誤ったわ……俺は思わず拍手をしながら詠を見詰めた。

 

 

「な、何よ……ぶらぼうって」

「超似合ってるって事だ。素晴らしい」

 

 

顔を赤くしたまま聞いてくる詠に俺は親指をグッと立てて答える。是非とも『委員長』と呼びたい逸材だ。

 

 

「に、似合ってる……そっか……」

 

 

俺の言葉に詠の表情が緩んだ気がする。やっと笑ってくれたかもな。

 

 

「それで僕を連れ出したのって……」

「さ、行こうか。まずはお茶かな?」

「へ……ち、ちょっと!?」

 

 

詠が早くも話を終わらせようとしたので手を引いて店の外へ。不機嫌になる前に色々としましょーね。

この後、お茶したり、買い物したりと詠の機嫌を取った。最初は拒み気味だった詠も途中からは純粋に楽しんでくれていたみたいだ。繋いだ手も離さないでくれたしね。今は夕食を食べた後に酒を飲んでいた。

 

しかし……俺ほどの年齢の男がセーラー服の似合う娘を連れ回すって現代だったら色々とマズい気もしたが……考えないようにしよ。後が怖そうだ。

さて……散々遊んだ後でそろそろ本題に……

 

 

「ねぇ……僕に聞きたいことがあるんでしょ?」

「……ありゃまー」

 

 

聞こうと思ったら先手を取られた。

 

 

「なんで僕が不機嫌だった……とか?」

「んー……そこまで先読みされるとどう聞こうか悩んだ自分が虚しくなるな」

 

 

完全に読まれてたよ。しかもちょっと気を使われてるし。

 

 

「だったら僕も聞きたい……なんで秋月は……その桂花以外には手を出さないの?噂は聞くけど実際には桂花だけでしょ?」

「………思ったよりも深く刺さった質問だなぁ。前に話したかもだけど……天の国じゃ一夫多妻は認められてない。だから……」

 

 

だから桂花以外には関係を作ってないと言おうとしたら詠が先に口を開いた。

 

 

「でも……秋月も『種馬』が仕事なんでしょ。北郷は色々と関係持ってるみたいだけど」

「『種馬』が仕事として認知されてる件に関しては別に話し合うとしてだ……」

 

 

もう既に仕事として認知されてる辺りが泣ける。だからと言って種馬だから抱いたと思われるのも心外だ。

 

 

「秋月……アンタが僕達を思って手を出さないのは分かったけど……それはそれで残酷なのよ。僕達は少なくとも……その……待ってるんだから……」

「そっか……またやっちまったな俺は」

 

 

大将からの『ちゃんと他の娘も見ろ』の言葉をまたしても再認識してしまった。詠がここ暫く機嫌が悪かったのは俺が正しく『何もしなかった』からだ。期待させといて桂花ばかりにかまけて他の子を蔑ろに……した覚えはないが彼女達にはそう思われてしまう。特に詠からしてみれば月を泣かすなってのもあるんだろう。

 

 

「俺も……まだまだだなぁ……」

「普段の気遣いがそこにも発揮して欲しいわね」

 

 

溜め息を吐いたら詠から追い討ちの一撃が来た。いや、俺も悩んでるのよ?

 

 

「あのな……俺も結構堪えてる部分があるんだぞ……真桜とか華雄なんて隙が多いし……」

「だったら悩まずに行けばよかったじゃない。特にあの二人もアンタに惚れてるのが目に見えてるんだし」

 

 

俺の言葉にも詠は酒を注ぎながら答える。いや、だから頑張って理性を総動員してるんだよ俺。真桜は服装があんな感じだし、華雄は華雄で鍛練の時とかも服の裾が舞って視線に困る時があるし。

 

 

「月や詠はメイドって普段から愛でたいし、斗詩は世話焼き女房みたいで甲斐甲斐しいし、ねねは時おり布団の中に潜り込んでくるしで……普段から理性と煩悩の戦いなんだぞ」

「そうね……普通に腹立たしいわね。それでいて桂花が一番なんでしょ?」

 

 

あ……やばっ。詠からフツフツと怒りのオーラが……確かにさっきの言い方だと自慢してるみたいだよな。

 

 

「………意気地無し」

「さっきの話聞いてた?意気地云々じゃなくて堪えてるんだからね?」

 

 

詠はジト目で俺を睨む。俺は俺なりに悩みがあるっちゅうのコイツは……

 

 

「とことん話し合おうか?」

「そうね……僕も不満があるから言っとくわ」

 

 

互いの杯に酒を注ぐ。こうなりゃとことん言ってやろうじゃないの。

 

って感じで酒飲んで口喧嘩したら、かなりスッキリした。思えばここまで誰かに悩みを打ち明けて語り合ったの、この世界に来てから初めてかも。ありがとな詠。

飲み終えてから城に戻る間は気まずくなってたけど……俺はもう一つ……抑えていた言葉を詠に告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇side詠◆◇

 

 

 

 

秋月にでぇとに誘われてから服を着替えて……

 

街中を仲良く散策して……

 

夕御飯を食べてからお酒を飲んで……

 

秋月の悩みと僕達の思いを話したら……

 

それから暫く口喧嘩をして……

 

互いに言いたい事を沢山言い合って……

 

帰り道は互いに無言になって……

 

城に着く頃には二人とも頭が冷えて気まずくなって……

 

そのまま別れて部屋に戻ろうかなって思っていたら……

 

秋月の口から聞きたかった言葉が出て……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕は断らずに彼の部屋へと一緒に行った。

 

 

 

 


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