真・恋姫†無双 北郷警備隊副長   作:残月

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第二百四十三話

 

 

 

あれから馬車に揺られる事、数日。何事もなく魏に到着した。美羽の一件からまだ山賊等が出るのでは?と思っていた俺の心配は杞憂に終わった。

荀緄さん曰く、「山賊も以前に比べたら数は減っています。ですが時折、出没するんですよ。魏の近くでは全くいませんが」との事。魏の近辺の山賊連中は警備隊の演習がてらに殲滅させられているらしい。逆に蜀や呉近辺では未だに出るらしい。

 

そんな事を考えていたら馬車は魏の街中へと到着。今は検問の為に馬車を止められていた。因みに一刀と美羽は変装済みだ。此処で正体がバレては意味が無いから。そんな訳で俺も変装を済ませていた。

 

 

「お疲れ様です。今回はどの様な、ご用事で?」

「今回は平和祭が魏で行われますから、見学に。馬車に乗っている子達は天下一品武道会に参加する子達です」

 

 

街の入り口での検問に慣れた様子で対応をしている荀緄さん。俺達は口を開かず、一刀と美羽は軽く会釈をする。逆に俺は会釈もせずに腕を組んで不遜な態度を貫く。

 

 

「彼が……ですか?」

「ええ、私の推薦です。顔不からの太鼓判も押された強者ですよ」

 

 

警備隊の兵士が不審者を見る目で俺を見ている。因みに検問をしている兵士は見覚えがないから俺と一刀が現代に帰ってから入隊した兵士なんだな。

 

 

「そ、そうですか……では、どうぞ」

「はい、ご苦労様です」

 

 

日頃から取引や桂花との事で魏に来ている荀緄さんだから顔パスに近い形で通行許可が下りた。

 

 

「案外、アッサリと通れたな」

「俺達を知ってる兵士だったら止められたと思いますけど」

 

 

馬車の中から街並みを見ながら呟く俺と一刀。久し振りの魏の街は随分と広く感じた。懐かしいと思う気持ちと共に変化した街中に驚きと寂しさを感じていた。

 

 

「変わったんだな……」

「そうですね……」

 

 

俺と同じ気持ちだったのか、一刀も少し寂しそうにしていた。そんな俺の気持ちを察したのか美羽は俺の手をギュッと握っていた。何故、手を握っていたかと言えば、今の俺は上半身裸だからだ。

 

 

「ん、なんか……騒ぎが?」

「戻って早々にトラブルか……腹が減るぜ」

「主様、腕が鳴るの間違いなのじゃ」

 

 

馬車の中から街中での騒ぎを感じ取った一刀が身を乗り出して辺りを見回す。俺は久し振りの警備隊の仕事振りを見れるのだろうと期待を寄せた。変装中なので変装したキャラの真似をしたら荀緄さんとの授業で賢くなった美羽からツッコミが入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇side凪◆◇

 

 

乱世が終わった記念として行われる平和祭も今年で四年目になる。平和祭が行われるとして街中は賑わいを見せていた。民が笑顔で祭りの準備をして賑わいを見せてはいるが、私には以前のような活気がないと感じてしまう。

以前なら……隊長と副長が居た頃なら街中の暴漢が出たり、酔っぱらいの喧嘩と言った騒動があっても民は笑っていた。騒動ばかりの街中、何かといざこざが絶えない日々ではあった。乱世が終わってから平和になり、街中からも騒動は減ったのに、私の心は晴れなかった。それは民も感じ取っているのだろう。四年前の戦を経験していない兵士達は今の平和を喜んでいるが、乱世の終息と引き換えに隊長と副長を失った警備隊の古参である私達は心から笑えていない。

 

 

「楽進様、彼方で騒動が」

「酔っぱらいの喧嘩の様です」

「分かった。直ぐに行くぞ!」

 

 

警備隊の兵士達が報告をし、現場に急ぐ。

平和祭の開催で他国からも人が来るので騒動が絶えない。出店の許可を巡る騒ぎ。酔っぱらいの喧嘩。他国間の価値の違いの言い争い。こんな騒動が続き普段よりも警備隊の仕事が忙しくなるが、それが隊長と副長が居た頃の日々を思い出してしまう。

 

いつもごちゃごちゃしていて、何かといざこざが絶えなくて……今にして思うと、私はその活気が大好きだった。あの人達の困ったような笑みが未だに忘れられない。隊長と副長が居ない限り、あんなドタバタした日々は二度と戻らないのだと……流れそうになってしまう涙を堪えながら私は現場に到着した。

 

 

「ふはははははっ、俺様最強!」

「なんだ、こいつ!?」

「超強いぞ!」

 

 

死屍累々と言った様子で地面に伏している男達が数人。まだ喧嘩しようとしている数名の者達。その中心に立つ一人の人物。そして、その人物を取り囲む警備隊の兵士達。

 

 

「なんだ、この状況は……?」

「楽進様、現場に居た兵士達の話では地面に伏している者達は天下一品武道会の参加者のようです。選手同士の諍いからの喧嘩だった様なのですが、あの人物が喧嘩に参加し、鎮圧した模様です」

 

 

私の呟きに私よりも先に現場に来ていた警備隊の兵士から報告を聞くと状況は理解できた。しかし、喧嘩に乱入した者の姿が異質だった。確かに強い。拳で天下一品武道会の参加者を制圧をする様は強者の雰囲気を出しているのだが……

 

 

「何故、上半身裸で猪の頭の皮を被っているんだ……」

 

 

その人物は猪の頭を被り、戦っていた。その強さに彼と戦っていた者達は殴られ、宙を舞い倒されていく。

その光景に私は何故か懐かしさを感じた。

 

ドタバタでごちゃごちゃでイザコザが起きる。まるで隊長と副長が居た頃の魏が戻って来たかの様な錯覚に陥った。仕事が増えて忙しくなるのに私は自然と笑みを浮かべてしまう。

 

 

隊長と副長が居た時の様な高揚感を抑えきれず、私は猪頭の人物を取り押さえようと一歩前に出る。何故か、私の心臓はドキドキと騒いでいた。

 


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