真・恋姫†無双 北郷警備隊副長   作:残月

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第九十一話

 

 

「真桜の様子が変?」

「はい……」

 

 

月に頬をキスされてから3日後。朝の鍛練をしていた俺に凪が相談を持ちかけたのが始まりだった。

 

 

「またカラクリの事で何か失敗でもしたか?」

「いえ……それとはまた別な感じでして……」

 

 

俺の言葉に凪は複雑そうな声を出す。ふむ、何かあったかマジで?

 

 

「警邏の最中に表情をコロコロと変えていました。急に怒ったり、顔を赤くしたり、泣きそうな顔になったりと……」

「中2病でも発症したか?」

 

 

真桜の行動を聞くと思春期特有の症状にしか思えない。

 

 

「発症って……病気なのですか!?」

「いや、そこまで深刻に受け止めるもんじゃねーよ。要は心の問題……かな?」

 

 

俺は汗を拭うと煙管に火を灯す。やれやれ、何があったんだか。

ここ暫く事務の仕事ばかりで外に出てなかったから真桜の様子を知るよしもなかったんだが。

 

 

「まぁ……今日は昼から俺も警邏だし、その時に真桜の様子を見てみるか」

「よろしく、お願いします。最近の真桜は警邏を真面目に勤しみ、普段とは違う様子なので」

 

 

俺に頭を下げる凪だが真面目に勤しんでるなら本来は結構な筈なのだが、真桜の評価はやはりそんなもんなんだろうな。

やれやれ。しかし本当に何があったんだか……

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

「………」

「………」

 

 

さて、午後になり警邏に出たのだが、普段から喋り倒す真桜が終始無言なのだ。何となく空気も重いので俺から口を開くのも躊躇ってしまう。

なんなんだかなぁ……話も出来ないから何があったかも聞けないし。

 

 

「とー……秋月!」

「ん、ねねか」

 

 

どうしたものかと悩んでいたら、ねねが向こうの通りから歩いてきた。

 

 

「ねねは買い物か?」

「そうなのですぞ……って頭を撫でるななのです!」

 

 

買い物袋を抱える姿が微笑ましくて思わず、ねねの頭を撫でる。なんで頭を撫でたくなるんだろう不思議だよね。

 

 

「あ、あ……やっぱりなんか……」

「ん、真桜?」

 

 

ねねとじゃれていると真桜が驚愕の表情で俺を見ていた。いや、何事よ?

 

 

「やっぱり……副長は貧乳好きやったんか!?」

「いや、なんの話をしてんだテメーは!」

 

 

何を思ったから大声で叫んだ真桜に俺はビシッと真桜の額にチョップを一撃。何をトチ狂ってるんだ!

 

 

「だ、だって……この間、月っちと副長が……接吻をしてるの見てもーて……今もねねとイチャついて……そ、それで副長は貧乳好きなのかなーって」

「見てたのかよ!?」

「ゆ、月と接吻とはなんですとー!?後、貧乳って言うななのです!」

 

 

何を口走ってるんだコイツは!?いや、見られてたのも驚きだけどさ。

 

 

「やっぱあれか!無いか有るかわからんくらいのがええんか!?」

「落ち着け真桜!」

 

 

俺の部屋とか城の中ならまだしも街中で叫ぶ内容じゃないだろうが!

 

 

「曖昧なさんせんちでプニッとしたのがええのか!?」

「ちょっ!じゃなくて意味わかって言ってんのか!」

 

 

3㎝って微妙に言えてないから意味はわかってないなコイツ。

 

 

「そ、そやかて……華雄や顔良は兎も角、桂花とか詠とか月とかねねとかー!」

「具体的な落差を示すななのですー!!」

 

 

真桜の言葉に完全にキレてる、ねね。この場に桂花が居なくて良かったよ。殺されてたからね……たぶん俺が。

さて、これ以上被害拡大をされる前に……

 

 

「よっ……と」

「え……うひゃあ!?」

 

 

俺は真桜を正面から抱き抱えると米俵を担ぐみたいに肩に真桜を担いだ。真桜の腹が俺の肩の上に来る感じで。

 

 

「ちょ……副長!?」

「とーさま!?」

「やかましい!これ以上変な噂が流れる前に帰るぞ!」

 

 

驚く二人を後目に俺は城へ向けて全力ダッシュをした。途中で警備隊の若いのに会ったんで少しばかり残業を頼んだ。本来、俺と真桜が回る予定だった巡回コースを回るようにしてもらった。残業手当てを出さんとな。

 

 

 

◆◇◆◇ 

 

 

 

「ったく……ただでさえ、種馬兄なんて不名誉な噂が流れてるんだから勘弁しろよ」

「うぅ……すんません」

 

 

城に着く頃にはすっかりと冷静さを取り戻した真桜は顔を赤くしたまま俺の部屋で正座をしている。ったく……凪の言っていた、ここ数日の真桜の様子が変だったのは月が俺の頬にキスをしたのを見たらしく、その事から俺が貧乳好きだと勘違いをしたらしい。なんちゅー勘違いだ。

 

 

「だって……副長、ウチが胸を押し付けてもなんもしてくれへんやん」

「ギリギリの所で耐えてんだよ阿呆が」

 

 

立ち上がりプーっと頬を膨らませる真桜。何も感じてないとでも思ったのか。理性を総動員して耐えてるんだよ。

 

 

「あー、そっか。副長はへたれやからウチに手を出せへんのやな」

「………真桜」

 

 

流石にカチンと来たので俺はユラリと立ち上がると真桜に歩み寄る。

 

 

「あ、あれ……副長?お、怒ってしもた?」

「………」

 

 

俺は無言のまま真桜に歩み寄り、真桜は俺の態度に脅えながら後退りをして壁に背を向ける。

そしてトンと真桜の背が壁にブツかると俺は真桜の顔のすぐ横に手を乱暴に突いた。ドンと音が鳴ると同時に真桜がビクッと震えた。そして怯えた表情で俺を見つめる真桜に俺はなんかゾクッとした。ヤバい……なんか俺の中で目覚めそうな予感。

 

 

「真桜、そんだけ挑発したんだから……覚悟は出来てんだろうな?」

「え、あ、ちょっ、待って副長……ウチ……そんな……」

 

 

俺の言葉にいつもの調子はなく、ただ狼狽しまくりの真桜。俺がグッと身を寄せると真桜は身を固くして震えていた。

そんな真桜に俺は迫り……額にキスをした。

 

 

「え……ふぇ?」

「少し迫られてそんな調子じゃ……身が持たないぞ」

 

 

キスをした後に離れた俺を真桜は額に手を当てながらポカンとしていた。

 

 

「月との事も……真桜が思ってるほどの事は無かったよ。だから……焦って変な噂流さないでくれよな」

「もう……ズルいわ副長……そんなん言われたら……」

 

 

俺はそう真桜に告げると真桜はニヤッと笑うと俺に迫り、つま先立ちになって俺の肩に手を乗せて背伸びをしながら俺の額にキスをした。

 

 

「へへー……お揃いやね」

「な、おま……」

 

 

真桜は悪戯が成功したと、いつもの表情に戻っていた。

 

 

「副長がウチを嫌いにならんで良かったわー。ほ、ほなウチはカラクリの調整があるからー!」

 

 

と思ったのも束の間。真桜は早口にそう告げるとバタバタと俺の部屋を出ていった。

 

 

「強がってたんかな……やれやれだ」

 

 

最後のは真桜が強がって……と言うか照れ隠しでやったってのは良くわかった。

 

 

「ま、これで……….」

 

 

そう真桜の調子も良くなり、解決だと思っていたんだ……この時までは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ね、ねぇ……秋月は貧乳好きだと聞いたんだけど……」

 

 

顔を真っ赤しながら聞いてくる詠。

そう……あの時、俺は真桜を担いで城に戻ったが、ねねは俺の部屋に来る事はなかった。

その時、ねねは俺にキスした事をなんと月本人に聞きに行った挙げ句、真桜が口走った事を話したらしい。

その結果、城に『秋月は貧乳好き』と噂が流れてしまったのだ。

 

 

こうして俺は今、ほぼ毎日の様に誤解を解く日々を過ごすはめになる。

因みに一番誤解を解くのに時間が掛かったのは桂花だったりする。

 

 


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