艦隊これくしょん ―望郷― 戦艦娘『穂高』の戦い   作:月奏

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 色々とフラグが立つ回。


第七話 黄昏時

 今日があと七時間で終わろうとしていた。

 太陽は沈みかけており、空はオレンジ色に染まり徐々に暗くなっていた。

 影も大きくなっていき夜が近づいてきていることがひしひしと伝わってくる。

 そんななかで、志賀と皐月が港の岸壁にいた。

 オレンジ色に輝いている海面から吹き付ける風が彼女たちに吹き付ける。ショートカットである志賀の黒髪は微かに揺れるだけであったが、それに対してツインテールの皐月の黄色髪は大いに揺れていた。

 

「やれやれ……やっと任務が終わって戻ってこれたよ」

「そうね」

 

 皐月の疲労感と共にまるで吐き出すように出た感想に、志賀は同意する。

 今日も何とか無事に仕事を終えた。

 任務中に少し危ない目に遭ったものの、今日の感想や愚痴を言い合えるのだから“無事”と言えるだろう――――包帯に巻かれた右腕を眺めそこから感じる生きている証を実感している志賀はそんなことを思う。

 すると、充実感を得る。生と死の境界線がある戦場を潜り抜けたことを意識すると得る"それ”は酔いしれる程に強い快楽だ。

 

「今日は散々な日だったわ。私は武装艤装を修理に出す羽目になるとは……無事なのは貴方だけ、今日はついているわね」

 

 志賀が所属する第五護衛戦隊はタウイタウイ鎮守府が担当する海域に通過する船団の護衛が三日前から今日までの任務であった。

 道中は運良く深海棲艦と接触することはなく航行していたのだが、あと少しでレイテ鎮守府所属の艦娘との合流地点にたどり着いて彼女たちに後を任せるところで深海棲艦の襲撃を受けてしまった。

 敵は空母型から発進された飛行型だ。今まで数多くの艦娘、ごく普通の軍艦、船舶を海の底に送った油断ならない存在であった。

 三度に及んだ空襲によって、志賀は右腕が骨折、三日月は左手足が骨折しあと一撃を喰らえば沈没する程の重傷、神津は機銃掃討により被弾した箇所の肉と骨が抉れるなどの傷を負うなどの被害を受けた。レイテ鎮守府の支援、哨戒空母である『海鷹(かいよう)』の奮闘と第五護衛戦隊旗艦の『八十島(やそしま)』の的確な判断、各員の死の物狂いで行った神かかった回避運動がなければ全滅していただろう。護衛対象であった船団が一隻も欠けることもなくて無事であったのは幸運に恵まれていたと言いようがない。

 そんななか、皐月は巧みな操艦によって一発も被弾することなく逆に敵一三機を対空機銃で撃墜するという、終戦まで生き残ることはできなかったが、多くの犠牲を出しながらも敵に一歩も引くことがなかった前世の壮絶な戦いぶりを彷彿とさせる戦果を出したていた。

 

「は、は、は。常日頃鍛えているからね」

 

 皐月は尊大に言う。そんな彼女の姿に志賀は呆れ返って皮肉で返す。戦果を挙げて調子に乗るな、馬鹿と言えなかった。回避運動に必死で対空戦闘が敵機の牽制で精一杯でまともに戦果を出せなかった自分にはこんなことを言う資格がないと考えたからだ。皐月がいなければ志賀、三日月、神津はあのとき沈んでいただろう。それもあって強く言うことができなかった。

 

「全ての物事が筋肉で解決すると思っているのタウイタウイ鎮守府のスーパーマンさん」

「スーパーマンと呼ばれるなんて嬉しいね」

 

 褒められていると勘違いしている皐月に、さらにあきれ返る。あるものが大の苦手なとんだスーパーマンの癖をしてと心中で呟いた。

 

「褒めていないわよ」

 

 こんな勝気で能天気な奴が、真面目な表情を浮かべて駆け回って敵機を次々と撃墜したのだから実に信じられない。負けてたまるかと志賀は皐月に悟られないように内心で静かに闘志を燃やす。

 

「そういえば待機当番だった第三護衛戦隊が緊急発進したようだよ……聞く話だと、潜水型を最低三隻、駆逐型を最低二隻を沈めて旗艦だと思える巡洋型一隻を大破させて撃退させたようだよ」

 

 空母型を取り逃がした第五護衛戦隊と違って見事な戦果を出した第三護衛戦隊に志賀は敬意を持った。流石、八十島の姉が指揮する部隊だ。アクの強い奴ばかりだが実力が確かだなと思う。

 

「流石は第三護衛戦隊ね。私たち第五護衛戦隊も頑張らないといけないわね……しかし何でそういったことを話したのよぉ? 小規模の集団が鎮守府にちょっかいかけるのは日常茶飯事じゃない」

「別働隊がいたようなんだ、それに攻撃せずにずっと第三護衛戦隊の動きを見張り続けていた潜水型も……旗艦撃破を優先したことが功を奏して引き上げたらしいけどね……」

「……それは初めてね」

 

 志賀は真剣な表情となって呟く。

 

「僕も今まで聞いたことがないよ。潜水型が“偵察”をするなんて、今までは目につく深海棲艦以外のものに襲いかかっていたのに……それに引き返した話だけれど旗艦が引き始めると別働隊を含めて他も引き始めたようなんだ」

「殲滅されるのを防ぐためか……もしそうだとすると厄介ね」

 

 どんなことがあっても攻撃を続けて一切引くことはなく全滅するまで戦い続ける。大日本帝国軍と彷彿させる深海棲艦の実に厄介な特性であるが、旗艦がやられて撤退するなど始めて聞いた。その特性を生かした戦術が無力化させる危険性があった。攻め手から受け手となった深海棲艦に何かしらの“変化”が生じているのだろうか? そんな疑問を抱いた。

 

「五百島もあまりにも不確定要素が出てきたから追撃せずに鎮守府に帰還したようだよ」

「追撃はしなかったのね」

「うん、戦闘自体には勝利したし、あまりにも変な動きをしたから警戒するのは当然なことだと特に問題にはならなかったよ。あの人、“不要な消耗”を嫌うし勘の鋭い五百島のことを信用しているからね」

「そう。来週にはパ号作戦の最終段階であるパ号目標撃破が控えているのに先行きが不安になる話だわ。この鎮守府の主力である大鳳さんがいなくなって守りに隙ができるのだから……」

 

 主力がいないときに艦隊規模の集団にこの鎮守府が襲撃されたら留守番の自分たち守りきれるがどうか分からなかった。私も所詮は海防艦であり、駆逐型や軽巡型や航空型との交戦経験があっても、重巡型や戦艦型や空母型とやりあった経験はなかった。なので艦隊決戦のような主力艦がぶつかり合う戦いに自分の実力が通用するとは思えなかった。ましてや、深海棲艦側に奇妙な兆候が見られているなかで……。

 

「性能面の問題で艦隊決戦に活躍できる実力を持つ(ひと)が大鳳さん一人しかいないところが……辺境鎮守府の悲しいところだね」

 

 皐月は諦めのため息をつく。

 そればかりは志賀も同感であった。

 

「提督もあらゆる手段を尽くしてこの現状の改善を試みているようですが……どの鎮守府も手元の戦力の抽出・転出を渋っているらしいな」

 

 ただ、横須賀鎮守府で偶然開発されてここに回された『海鷗(かいほう)』という双発小型飛行艇と幾つかの新型の航空機用装備の量産と戦力化を推し進めているようだと聞いている。詳しいことはよくは分からないが、戦力はあるに越したことはない。優秀ならば、できるだけ早く配備されて欲しいと志賀は思う。

 

「……首都が艦砲射撃される寸前までにいったときからさほど時間が経っていないからな。どこも襲撃に神経を尖らせているだろう」

「この戦いはどうなっていくのだろう……噂だと無敵の一航戦がマリアナ諸島の奪還戦にて空母四隻が沈んで壊滅したっていう話で、生き残りと後方に配備されていた大鳳さん、果てにはレベル上げに励んでいた雲龍型とあの大和型の信濃などを掻き集めて新・一航戦としているようだけど……」

 

 皐月の不安に、志賀は即座に一蹴する。

 

「どうなろうと関係ないわよ。私も皐月も艦娘としての責務を果たすだけよ」

 

 この言葉は自分自身に言い聞かせるような口調であった。無事な手を目の前にかざし強く握りしめる。

 

「だよね。(ふね)のときもそうだったね」

 

 しぶしぶと皐月は言う。何か悩んでいるように見えた。

 

「まさかキミにそんなことを言われるとわね……」

 

 弱弱しく笑う皐月に、志賀は何も返すことができない。

 

「あっ!?」

「なに? どうしたの?」

 

 皐月の驚いた声によって金縛りが解かれ慌てふためいて反応してしまう。

 

「あそこに誰かいる」

 

 指さす先には、海を見つめる女性が座っていた。志賀には見たことがあった。

 

「確かに、あっ、あれは確か保護した艦娘()じゃない」

「そうだね」

 

 覚えていたのか皐月は同意する。

 

「何かため息をついているようだけれど、悩みごとかな?」

「放っておきなさいよ」

「何でだよ?」

「一人になりたいときなのよ、きっと。こういうときはむやみに突っ込んではいけないものよ」

「……これだからおばさんは」

 

 禁句を言われた志賀は頭に血が昇る。

 

「誰がぁ――――お婆さんですってぇ!!」

 

 思わず喚き散らしてしまう。

 

「苦しい。だからさ、年寄り扱いされて怒る癖は直した方がいいよ。神津にも言われていることだよね?」

「うぐっ」

 

 図星をつかれて何も言い返せない。

 

「それはとにかく話しかけてみるからな」

 

 この隙を突いて皐月は彼女がいる方向に駆け出した。

 

「あっ、ちょっと待ちなさい!!」

 

 

 

 穂高は視線を海に向けて思案の海に沈んでいた。

 今にも沈もうとしている太陽と黄昏色に染まる空と海は実に美しい景色であった。

 感動するところであるだろうが、それを抱く余裕は今の彼女にはなかった。

 

(航空機の怖さを知らないか。確かにそうかもしれない……)

 

 原因は案内を終えたときに大鳳に言われたことであった。

『貴方は航空機の怖さを知らない。そんな状態で実戦に出すことはできない』

 訳が分からなかった。知らないというだけで戦うことができないなんて。

 穂高は航空機に怖さを感じることないし、むしろ軽く見ていることは自覚していた。軍艦であった頃に航空機に攻撃を受けたことはあるが巧みな操艦で魚雷や爆弾は一発も被弾しなかった。また航空機を相手にしても負ける気はしない。

 そのためか、提督の口から説明された、まるで弁慶の立ち往生如き最後を遂げた大和型二番艦『武蔵』の最後がこっちの世界では航空機の集中攻撃によって実感が湧かなかった。

 普段ならば一笑するところだが、それをする前に怖い笑みをした大鳳に言われた――――。

『どんな手段も使っても怖さを叩き込んであげる』

 のせいでできないでいた。あの目は本気だ。

 何をするのか気になって仕方なかった。

 ただ何をするのか分からなかった。

 考えているとまたため息をついてしまう。もう何度目なのか分からなかった。 

 

「なにため息をついているんだい?」

「だ、誰?」

 

 突如話しかけてきた金髪ツインテールの少女に、穂高は恐る恐る問いかけた。

 

「ボクは皐月、ただの駆逐艦だよぅ」

 

 よろしくなっと微笑む皐月に悪意は感じられず、警戒心が緩和していくのを感じた。

 うん? 穂高はあることを思い出す。

 

「……どこかで見たことあるような」

「そりゃそうだよ、ドロップしたばかりのキミを助けたのはボクと……あそこにいるお婆さん」

「誰がッ、おばさんだぁ」

 

 後ろから誰かの怒鳴り声が聞こえてきた。

 振り向きたかったか、背中から伝わる怒気と殺気にする勇気を持てなかった。

 

「うへっ小声で言ったつもりなのに相変わらずの地獄耳だな。じゃあね」

 

 皐月は駆け出した。

 しかし、すぐに捕捉されて追いかけっこが始まった。

 おばさんって言うな!! と本当のことを言っただけだよ、帝国海軍艦艇のなかで最も長生きだったじゃないかと売り言葉に買い言葉の声が周囲に拡散する。  

 

「なにあれ……」

 

 穂高は茫然とした。

 

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