宵闇プロジェクト   作:照喜名 是空

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アキラル 様
【 宵闇プロジェクト】適正値ゼロの退魔剣士【短編】
https://www.magnet-novels.com/novels/52054

とのクロスです!ありがとうございます!


ドライアド・ゼロさまよえる九龍に赴くこと

「ヤマト君、クーロン城を知っているかい?」

 

ある日の事、ゼロは相棒の退魔師ヤマトに尋ねた。

彼女は珍しい褐色のドライアド。そして退魔師であるヤマトの契約者でもある。

実はやんごとない姫君の血筋だったりするのだが、それは置いておいて。

 

「クーロン城?さすがに知ってますよ。

さまよえる九龍城(ワンダリング・クーロン)』世界中どこにでも生えてくるダンジョン型深淵でしょ。

中は異界化していて、実は全部繋がってるってあれでしょう?」

 

そう、1992年の香港にあった、今はもうないはずのスラム街。

それがそのへんににょきにょきとキノコの如く生えてくるのだ。

世界内戦で次元干渉型魔道兵器が使われてからこの方、世界はずいぶんと愉快なことになっていた。

500m×400mの迷宮のようなビルは複雑な増改築をくりかえし、一つのパンクな芸術と言える。

 

「うむ、それだ。実はそこに知り合いがいてな……」

「まさか行くんですか、クーロン城!?スラムの中のスラムですよ!?」

 

元々がスラムビルであった上、居住可能なダンジョン。

中にごろつきが住むのは当たり前といえた。

ましてや亜空間となったそこは、今だに内部で『増築』を繰り返しているのだ。

素人が入れば、あっという間に迷い簀巻きにされる地獄である。

 

「話は最後まで聞くんだ、もちろんその危険は私も考えている。

スラムに行くには現地住民の案内人をつけるのが一番いい。

誓約(プレッジ)』という組織を知ってるかい?探偵と傭兵を兼ねている組織なんだが、そこと渡りをつけられた」

「うっ、そこは俺に守れとは言わないんですね……」

 

ヤマトはちょっとがっかりするが、同時にほっとする。

この相棒は師匠も兼ねており、ヤマトにたびたび無茶ぶりするのだ。

 

「私だってそこまで鬼じゃないさ。というか、木だが。

今回は私自身も危ないからね、それとも何かい?

ゴリゴリのサイボーグ共をアウェイで何度も相手にできるのかな?」

「僕もいくのは決定なんですね……まあ、信じますよ。

ゼロさんはできないことはやれと言わないし」

「阿呆、自分の限界を決めるなといつも言ってるだろうに……

これはちょっと限界を超えなきゃ駄目だな」

 

ゼロはメモ帳に何かを書き留める。それを見てヤマトはうんざりした顔をした。

 

「うへぇ、トレーニング追加かぁ……」

「いいや?今回会うのは薬師だからね。プロテイン的なものを追加するのさ」

「えっ、俺のためのものを買うんです?」

「ついでにね。まあ何はともあれ行ってからだよ!さあ行こう!」

「今から!?」

「善は急げさ」

 

かくして、若き魔法を使えない体術オンリーの退魔師と、相棒の樹精は魔窟クーロン城に入るのだ。

 

 

夕闇に沈む九龍城。だいぶ混沌としたとはいえ、東北の一部であるはずなのにそこだけ香港の空気がする。

前に立ち並ぶ大陸めいたギラギラ輝く屋台の熱気もあるだろう。

 

「むっ!あれもおいしそうだな……」

飲茶(ヤムチャ)ばっかりこんなに買うとは……お財布に優しくない師匠だなあ」

 

ゼロは屋台のジャンキーな食い物をヤマトのおごりで買い食いしていた。

どれも中華テイストたっぷりなものや、異国情緒といえば聞こえは良い謎料理ばかりだ。

 

「一個一個は安いものだろう?それに君にも分けてやってるじゃないか!」

「ジャンキーなものばっかりで胸焼けしそうです」

 

ゼロは油こってりな何かの肉まんを半分分けてヤマトに押しつける。

 

「若いんだからしっかり食べないと駄目だぞヤマト君!

ほらほら、よくわからない何かの肉を食うんだ」

「ゼロさんだってそんなに年変らないじゃないですかー!」

 

いや、それはひょっとしたら肉ですらないのかもしれない。

そこに、ゼロの持つスマホ端末が鳴った。

 

「おっ、SMSが来たぞ。もうすぐ案内人が来るそうだ」

「えっ、どこです?」

「上からだ」

 

どん、どどん……ビル群を蹴る音がして、上からサイボーグが振ってきた。

人混みのほんの一筋の隙間を縫った見事な身体能力である。

 

日本探偵誓約(JDP)白踵(はくてい)イナバだ。待たせたなゼロさん、案内なら任せときな」

 

小柄な少女の上半身に、むっちりした兎の筋肉がついたサイボーグ脚。

その名を表すかのように髪は左右にお団子結びにされ、身に纏うのは真っ白なパーカー。

半人半機の兎。それがこのパンクな時代の退魔師の姿である。

 

「は、はあ……よろしくお願いします」

「ああ、あんたが相棒で連合の退魔師の。なるほど伸び代ありそうじゃん」

 

連合(ユニオン)とは退魔師の組合の一つで、ごく中庸な市民の味方にして冒険者的なライトな組織だ。

同盟(アライアンス)というそれはひどく血なまぐさいが、キッチリ仕事はする組織と対立しがちである。

そして、同盟の退魔師とは「濃い」。どこかしらこじらせた変態か狂人が大半で、それ故にイナバは元同盟であろうと察せられる。

 

「うむ、良いだろう?若いだろう?渡さんからな」

「いや食わないからね?!あたしの好みじゃねえ、悪い」

「なんかひどく傷つくんですけど!?」

 

そして一行は歩き始める。ものの数分もせずに九龍城の入り口だ。

拍子抜けするほど当たり前にそっけなく存在するが、中は粘着質で熱い闇の気配がする。

まるで人の体内のように、腐れた闇深い路地だ。

 

「ここが……」

「おっ、解る?こっから先は法律無用のワンダーランドだから気をつけろよー」

「早く行こう、イナバ。ここの路地は少々私には目に毒だ」

「オッケー飛ばすぜ!ついてこいよ-!」

 

かくして、闇深きスラムは暖かく来訪者を飲み込んだ。

 

 

内部はとにかく、人、人、人!異形!

人口密度500%は伊達ではない。

人が2,3人通るのがやっとの小汚い路地にジャンキーが寝てたり、物売りが魚を満載した籠を持って歩いたり。

まるでスクランブル交差点のようだ。

 

「人が多すぎる!熱すぎる!」

「そりゃ、これだけ人がいればね。イナバ、早く広いところに出よう」

「いいよ。でもそれだけ危なくなるから気をつけろよー」

 

常闇の中に白熱灯がところどころにDIYで吊るされている路地を抜け、吹き抜けの路地に出る。

 

「うわあ……」

「転ぶなよ?下水も漏れているからな」

 

そこは混沌、混沌、混沌!

頭上には電線やコードが蜘蛛の巣のように偏執狂的にはりめぐらされ夜空は見えない。

吊るされたロープの上を歩く妖精に、空中を三次元的に箒で飛ぶ魔女達。

足下は汚水やゴミが所狭しと思い思いに汚れている。

 

「ところでえーっと、坊やは空飛べるのか?ジャンプは?」

「魔法が使えないので人間の範疇です……」

 

ヤマトは少し躊躇ったがやむなく口にした。大概は馬鹿にされるが、仕方ない。

 

「よっしゃ。じゃあ人間でもギリ行ける道な。鍛えてんだから、多少はいけるだろ?」

「いけます!」

「じゃあちょっとしたエクササイズと行こうか!」

 

そこからの道はまた違う種類の地獄だった。

ロープの上を歩き、不安定な足場の上を何度も飛び移り、ネオン広告の上を歩いたりした。

足を滑らせれば死ぬので、それだけでもうなんか鍛えられた。

 

「ヒャッハァー!観光客様2名ご案内!お荷物預かりますよぉ!てめえの命もなぁ!」

「安心するいい、すぐに痛くなくなるネ」

「じゃけえ大人しくしよれやぁ!」

 

ようやくなれてきたと思えばチンピラだ。

サイバネ武侠者に、妖怪の肉を移植したバイオインプラント。種族不明の何か。

それらに対し、イナバは躊躇うことなく懐から木槌を抜いた。

 

「悪いがあたしの客だ。横からしゃしゃり出てくんじゃねえよ物乞い野郎が!

暴力恵んでやるからありがたく死ねボケッ!」

 

罵倒短棒術。「鉄槌」のイルマを祖とする最新の近接格闘術だ。

主に金槌や棍棒のような短い棒を扱い、そして敵を罵倒することで威圧、挑発して叩き潰す。

暴力の塊のような流派である。もちろん、イナバもこれを身につけていた。

 

「ヤマト君、剣を抜け。こうなっては仕方ない。自分の身は自分で守るんだ」

「わかってますよ……と!」

 

ヤマトは木剣を抜き、ゼロはその樹精の身体能力で避けていく。

その間にイナバは壁を蹴り、悪漢を蹴り、三次元的に飛び回っては木槌で頭を叩き潰していく。

それはまるで舞のようで、あるいは鳥が空を飛ぶように自由で。

 

「オラァ!テンション上げて行こうぜドサンピン共!そんななまっちょろい攻撃でノれると思ってんのか!気合い入れろお粗末様が!」

「アァン?!うるせえムチムチしたケツ見せやがってビンビンだよ見ろオラ!」

「やかましい玉ごと叩いて潰すぞ死ねボケッ!鍛えてやるから叩かせろ!死ねっ死ねっ死ねボケが!」

 

なんともガラの悪さ極まる低IQライムバトルをしながら、化け物めいた動きをするイナバ。

対してヤマトも負けていない。

 

「かわいいねえ、まるで洗いたてのシャツみたいだよぉ!」

「あいにくとそういう趣味は持ってないんで!」

「そう言われると余計に染めたくなる!」

 

ガン・カタ二丁拳銃を至近距離で避けながら相手の鎖骨を木刀で巧みに折っていく。

 

「どーうなってるんだぁ?斬っても斬っても羽毛みてえに避けやがる……!」

「さあな、企業秘密だよ」

 

ゼロはその血の力による読心あるいは気を読む力でするりするりと避けていく。

彼女は木の精故に相手に根を張って吸い殺す事もできるのだが、さすがにこの様な悪党の血は吸いたくない。

 

「ゼロさん!」

 

攻め手に欠けるゼロ。しかしそこはコンビである。

ゼロが囮になる隙にヤマトが次々に骨を折っていく。

 

「お見事。ちょっとは腕を上げたじゃないか。しかし、敵が増えてきてないか?イナバ!」

「ここはいつもこんなもんだ!走り抜けるぞ!」

 

イナバが本気の走りで走り抜けを始める。

 

「ちょ、早い早い早いー!」

 

ゼロとヤマトもなんだかんだでついていくのだから、大概に鍛えられている。

 

「逃がすかよ!」

「ヒャッハァー!」

「お楽しみは……」

 

イナバが後続に手榴弾を投げるのと、後ろからロケットランチャーが発射されるのは同時だった。

 

「これからだァ!」

 

 

爆発、輝く電撃、飛び交う魔術!

混乱と混沌の追いはぎ集団を撒くに撒けず、とうとう目的の薬屋の近くまで来てしまった。

後ろからはミサイルを満載したトロールの如きサイボーグがしつこく追ってくる。

 

「どうするんですかこれ!追い込まれちゃいますよ!」

「いいや、あたしの勘と情報が正しければ、ここには今……

旦那ァ!久根の旦那ァ!貸し1だ!斬ってくれ!」

 

くふっ。そんな奇妙な笑い声が響いた。

 

「いいのかイナバ。この程度の状況で貸しを返してしまって。

まあいい。さあ、敵だ!敵が前にいる!おお出会いに感謝を!」

 

薬屋の戸口から色の浅黒い細身の男が出てくる。その手には片方に薬袋、片手にレシート。

まるで滑るように静かに出てきた男はあっという間にサイボーグを斬った。

手にしたただのレシートで豆腐を切るかの如くだ。

 

「さて、一番手はやられたわけだが、お前達まだやれるな?やれるだろう?

逃げるならば追いはしないが」

 

久根と呼ばれた男は楽しくて仕方がない、次の玩具で遊びたい。

そういう顔で静かに敵の群れに歩んでいく。

 

「無刀皆塵……!」

「無手千剣!」

「剣聖の狩人!」

 

それは彼の異様なる二つ名。

この時代の剣の極地。それは魔術と身体強化手術を「前提」とした邪剣。

しかして振われる技は正統な技巧派。

アクション俳優にして退魔師、それが久根という男であった。

 

「そうだ。俺の首を取って名を上げんとする者はいるか!」

 

静かに張られた声は腹に響くようで、一瞬全てが静まりかえるがやがて相手も動き出した。

 

「こいつはビッグチャンスだぜ……!」

「こうなりゃヤケじゃ!やってやらあ!」

 

すらり、すらり。舞うように動いたと思えば相手がなますになっていく。

一つ手が振るわれるごとに静かになっていく。

まるで悪夢のような刀の舞いだ。

 

「くふ、くふふ……良いぞ。その殺気、技巧。ああ、獲物に相応しいとも」

 

ヤマトには解った。

それは手に持つレシートに魔法がかかっているものの、ギリギリ人体で可能な範疇で。

故にそれはただ狂気めいた鍛錬による技巧だと。

冷たい汗が落ちるようだ。たしかに可能だろう、だがどれほど人を斬ればああなってしまうのだ?

 

「相変わらず冷や汗が出る剣術だな、旦那……!」

 

辺りはすっかり静かになっていた(・・・・・・・・)

 

「ああ、イナバ。そこな少年が今夜の客か?なるほど、良い剣筋をしている。きっとこれから伸びるぞ?ああ、楽しみだ」

 

ヤマトはぞっとした。相手は殺気も向けていないのに、本気だと解るのだ。

もし、自分が彼のお眼鏡に叶ってしまったら、彼は斬りに来るだろう。

だが、それでもヤマトは聞かねばならないことがあった。

 

「僕……僕は魔法が使えません。それでも、ですか?僕でも強くなれますか」

 

久根はきょとんとした顔をする。

 

「なんだ、そんなことか。別段人を斬るのに目立った魔法はいらんだろう。

俺は年だからサイバネやドーピングで下駄を履いているが、君ほど若ければどうとでもなる。

それこそ薬膳やサイバネを選ぶならばなおさらだ。できぬはずがない」

 

ヤマトは信じられなかった。久根はそれを読み取った様子で続ける。

 

「ああまあ、鍛錬の量はあるだろうが、本当の話だ。

武器ならば魔法が使えずともいくらでも仕掛けを施せる。

身体強化ならばいくらでも手段がある。

そして、万物を斬るにはそれで十分だ。

相手に効く武器とそれを成すだけの身体。あとは鍛錬あるのみだ」

 

自然体だというのに濃密な血の匂いが恐ろしい。だが、それでもヤマトは尋ねる。

 

「鍛錬で、あなたに届きますか。それに相応しい武器があれば」

 

久根は今度は苦笑した。

 

「俺に届きうる武器ならばすでに君は持っているだろう?だがまずは、心の問題だな。

できぬと思えばできるものもできん。まずは自分を信じてやれ。

自分自身にすら見放されては、誰か君を守ってくれると言うんだ?」

 

ここでゼロがすっと前に出る。そう、ヤマトの武器はゼロが自分自身を使って作る木剣だ。

武器を与える者、彼女を守り武器を振るう者。故に彼らは相棒なのだ。

 

「少なくとも、一人は君を信じているんだから、君も自分を愛することだ。

難しいかもしれないが、それも鍛錬だろう」

 

ここで久根は去るべく足を進めた。

 

「他でもない俺が見定めたのだ、君はできる。あとはそれを信じるかどうかだ。

だがまあ、墜ちるのも上るのも好きにすれば良かろうよ」

 

それはあくまで他人事で。だからこそ惜しみない賞賛でもあった。

ヤマトの中で、また一つなにかの枷が外れた。そんな気がした。

 

 

かくして、妖しい薬屋でヤマトは薬を買うことになる。

それを使うかどうかでまた彼はひどく悩むが、いずれにせよ彼は剣の道を上っていくだろう。

だがそれはまだ先の話。

 

「なんだこりゃあ!こんどは九龍城が異界にも接続しちゃった?!」

「なんだあれは……空に浮かぶ香港だと!?」

「似てる歴史を辿った別の世界、か……!楽しくなってきやがったぜ!」

 

そう、お楽しみは、夜はまだまだこれからなのだ。

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