宵闇プロジェクト   作:照喜名 是空

23 / 24
すあま 様

『とある荒くれ狩人の妖怪狩り』

https://www.magnet-novels.com/novels/52181

誇高悠登 様

【宵闇プロジェクト】 裏切りの『大罪』

https://www.magnet-novels.com/novels/52417

香月夏人 様

【宵闇プロジェクト】剣と、鬼と。

https://www.magnet-novels.com/novels/52823

穂波じん 様

酒と退魔と二人のおっさん【宵闇プロジェクト】

https://www.magnet-novels.com/novels/56061

とのクロスとなっております。ありがとうございます!




宵闇おでん闇鍋ナイト 

「食事を奢ってくれと言うから来てみれば……君はずいぶんと変った趣味があったんだね?」

「いやあ、だって女一人でおでん屋台は勇気がいるじゃん?」

 

おでん屋台ののれんをくぐって二人の男女が入ってくる。

時刻は夕闇。客はまだいなかった。初老の店主がらっしゃい、とにこやかに応じる。

 

「へー、こんなかんじなんだ。何頼もうかな?ここに書いてあるのを頼んで、精算は帰る時ってシステム?」

「だいたいはね。僕もあまり来たことがないんだけど」

 

男の方は手足が長く髪も長い。フォーマルで明るい服を着て、おでん屋よりも高層ビルで夜景を背後にワインでも飲んでそうな感じだ。

対する女はサイバーパンクの国のアリスといった未来的なデザインの青白の服に、ウサギのつけ耳をしている。

どう考えても新宿か秋葉原辺りの方が似合いそうな二人だ。

 

「店主、僕等はこういう所に来たことが少なくてね。おすすめはあるかい?」

「へえ、そういうときはまず最初は大根でしょうなあ。次にちくわに玉子、と相場が決まっておりやす。

まあ、そう構えずに好きなもん頼んでくれりゃいいですよ」

 

二人はそれぞれ玉子と大根、にんじんをセレクトした。

 

「で、例のものは?」

「ああ、これね。三ヶ月分ちゃんとあるよ。夜叉さん用のをドクから貰ってきた」

 

女が包みを渡し、夜叉と言われた男が袋を確かめる。

中には錠剤の束が大量にあった。いかにも身体に悪そうな薬だ。

 

「ありがとう。間違いないね。さすがはロビー・アルバス。いつも良い仕事をありがとう」

「でしょ?あのドクから三ヶ月分とってくるのは大変だったよー」

 

店主が何かヤバい取引を目にしたのではないかという顔を向けてくる。

 

「大丈夫だよ店主さん!これ市販でも売ってる処方薬のちょっと強いのだから!」

「あ、ああ……キシモジンAですかい?ってぇとこの方は妖怪で?」

 

キシモジンA。人食い妖怪用の人食衝動を抑える薬だ。

ある種の特別な果実から精製されるそれは、人を食うことで得られる特別な栄養を満たすことができる。

 

「いや、僕はちょっと訳ありでね。寄生されたというか改造されたというか……まあ、よくある百鬼からの生存者だよ」

 

百鬼。妖怪によるテロリストでその犯罪行為は多岐にわたる。

中には人を誘拐し人体実験を行う輩も少なからずいて、その被害者も多い。

 

「ああ、何度も百鬼とは戦争がありましたねえ。ご苦労なさったでしょう。これはおごりです。

つらいことは酒に流しちまいなさい」

 

店主が焼酎を置いた。

 

「ありがとう。気を遣わせてしまったかな?」

「いいえ、お客さんその刺繍、連合の退魔師なんでしょ?被害にあってなお立ち向かえるのは見上げたもんですよ」

「そうだよー。飲んじゃいなって。ところで私にはなんかないの?」

 

店主は苦笑して水を置き、こうのたまった。

 

「お客さんが成年で注文していただけるならいくらでも出しますよ」

「あー、まあ仕方ないね。はい免許証!それじゃあ梅チューハイお願いねー」

「へえ」

 

しばし酒とおでんの時間が過ぎ去った後に、また人が入ってきた。

 

 

「おう、ここにちょうど良い場所あんじゃん。おっちゃん、がんも。あとコイツに大根ね」

「ったく何だよ?人が帰る時に突然……こんなボロいおでん屋に連れてきてよー!」

「店主の目の前で言うとか各方面に失礼過ぎるだろ。すいませんねこいつ口が悪くて」

 

黒帽子に黒コートの中年と、不良じみた派手な格好の若者が入ってくる。

 

「へえ、ボロいおでん屋には違いありませんからね」

 

店主はのれんに風と受け流す。数々の酔っ払いと日常的に相対してきた彼は歴戦の戦士だった。

 

「で、だ。竜次君であってるな?八王子支部の」

「ああそうだよ。何の用だよイルマさん・・・・・・だったか?あんた本部の人じゃねえか」

「そうだよ本部のおつかい色々やってんの。これ読め。ここの部分」

 

それはある有名な魔術師P・R・ハルマンの2000項目以上にわたる遺言の一つ。

 

<No.72.臆病者の狩人に努力家の黒騎士剣を贈る。意地を張るもよし、素直になるもよし。>

 

その下に竜次青年の住所と氏名があった。つまり間違いなくこれは彼への贈り物だ。

 

「で、これがそのブツね」

 

イルマは背中に背負った細長い袋から一本の剣を取り出す。

黒いロングソートは使い込まれ、しかし頑丈で使用に耐えそうだ。

 

「なんだよこれ……」

「心当たりある?まあくれるって言うんだからもらっとけば?」

 

竜次青年はしばらく百面相ともいえる動揺した顔をした後、フーっと息を吐いて手を差し出した。

 

「まあ、貰えるもんは貰っとくよ。モノは良いみたいだしな」

 

イルマは剣を布に包み竜次に渡す。

 

「まあなんだ。俺きみの事よく知らねえけどさ。様子見るに多分いろいろ突っ張って生きてきたんだろ?

イカツい見た目とか名前に負けねえようにって。かっこつけてつっぱって悪ぶってさ」

「……だから?」

 

おでん屋が最悪の空気になった。他の皆は黙々とおでんを食べ、介入すべきか迷い、黙々とおでんを煮ていた。

 

「あー……だからだ。いいじゃん。突っ張って生きるものかっこいいじゃん。

ただまあ、なんだ。信用できる仲間にくらい弱音打ち明けてもバチ当たんねえんじゃねえの。

きみ普段から真面目にすげえ頑張ってるみたいだし。がっかりされねえよ多分」

 

竜次の顔はなんだか、悲しそうに歪んでいた。

 

「……俺はずっとこうやって生きてきた。急に変える事は出来ない」

「いーんじゃねえの。所詮他人のくだらねえ説教だし、的外れかもだし。

ただまあちょっと頭の片隅に選択肢として残しててくれりゃあそれでいいよ」

 

ここで絶妙のタイミングで皿が置かれた。

 

「まあ、いいじゃん。食おう食おう。食って忘れよう」

「……そうだな」

 

話がまとまったらしい。はー、と誰ともなくため息が漏れた。

 

 

今より少し未来、退魔師が銃と魔法と鈍器で闘う世界。

いまや魔法はカルチャースクールで習うモノで、妖怪は外国人並みによく見かける存在となり。

街にはパワードスーツやサイボーグ、ロボットも見られるようになってきた。

そんな混沌とした宵闇の時代における一夜の話。

 

 

 

「おう、良い感じの屋台があるじゃあねえかい」

「ええー、おでんですか?十兵衛も私もお金はあるんだし、もっとちゃんとした所の方が……」

 

着流しの上から黒コートと中折れ帽をかぶった精悍な男と童女のような鬼人種が入ってくる。

 

「その金だって今は減ってくばかりなんだから、節約するに超したこたぁないだろう?」

「うー、そうだけど……」

 

鬼の娘は兄らしき大柄な鬼に抱えられている。

屋台に入るのか心配になる大きさであったが、不思議と入った。

 

「おう、あんたら同業者かい?こんだけ退魔師が集まるたぁ珍しいね。

何か鉄火場でもあるのかい?ああ、親父さんちくわぶ3つね」

「へい」

 

十兵衛の声に反応したのはイルマだ。

 

「ああ、あんたも狩人?着流しに刀ってぇと元からそっちの心得あったタイプ?

いいじゃん粋だよ。かっこつけるってなこうじゃなきゃな」

「お?解るかい?男に生まれたからには、かっこつけなきゃ嘘ってもんだろ」

 

イルマが露骨にうれしそうにうなずき問いかける。

 

「あんたもそう思う?だよなあ。弱いモノいじめは?」

「しない」

「強い奴ほど?」

「楽しい!」

 

にっと二人の男が笑い合った。戦士の瞳を互いに確認したのだ。

 

「よっしゃあんた話がわかる奴だな!おやっさんこの粋な兄ちゃんによく冷えた月桂冠を一杯!俺にもね」

「いいのかい?俺はちと酒にも強いぜ」

「あー、競い合いじゃなくってあれだ。親睦を込めて乾杯だ」

 

わっはっはとイルマと刀の男は背中をたたき合って笑った。

 

「あー、いやあね男同士の話って。勝手に盛り上がっちゃうんだから」

「そうかなー?私は面白いけど?こうやって人を観察するのが好きなんだ」

 

答えたのはウサギ耳の女性、ロビー・アルバス。

今まで連れの夜叉と会話していたが、鬼の子に話しかけられてにこやかに応じた。

 

「ふうん?ところで連れの人は?」

「私かい?私は連合の退魔師で、夜叉というんだ。気軽に夜叉お兄さんと呼んで欲しい」

 

フォーマルな服装の細身の男、夜叉がにこやかにその涼やかな顔を向けた。

 

「あー、鬼斬兄弟の兄の方の?わ、私は百鬼じゃないわよ」

「そうかい?まあそういうなら信じるとしようか。とりあえずは。

そっちの君、竜次君だったかな。君も何か説教されたみたいで大変だったねえ。こっちに来て飲みたまえよ」

 

イルマに説教されていた若き狩人も今の隙にコッソリと席を移動する。

 

「おっ俺かよ?まあ、イルマさん今はあっちのサムライの人と話してるからな。

いいぜ、こっちのほうが空気良いってもんだ」

 

ふふ、とロビーが笑った。

 

「じゃあ、皆飲み物はもったかな?乾杯しよう!」

「こういうの言うのヤボだけど、何に乾杯するの?」

 

ロビーはニヒヒと笑って答えた。

 

「そうだね、出会いに乾杯ってのはどう?」

「ふむ、ロビーちゃんもたまには真面なことを言う。いいじゃないか」

「そうね、それなら良さそう」

 

ここで飲み物が店主の熟練の技で行き渡り、それぞれ杯を掲げた。

 

「出会いに、乾杯!」

「かんぱーい」

 

そこからしばらく彼らは楽しい時間を過ごした。

 

「ええっ、あんた柳生十兵衛?あの?マジかよすげえ!」

「そういうあんたはあの鉄槌のイルマか。噂は聞いてるぜ」

 

男同士で話が弾むところもあれば。

 

「鵺ね。私も少しなら知っているわ」

「そうかね?ぜひ教えてもらいたい。謝礼ははずむよ。

しかし両手に華とはこのことだね。怖いお兄さんがいなければもっとよかったんだが」

「あら駄目よ、鬼若と私はいつもいっしょなんだから」

 

緊張と若干の色気のある会話を楽しむモノもいて。

そして、どれだけがたっただろうか?

 

「ねえ、話を聞いてたらみんな地元はぜんぜん別の所じゃない?どうしてここに?」

 

鬼華がふと疑問を口にした。

 

「え?普通に来ただけだけど?ここ八王子の近くだろ?」

「いや、私たちはーー」

 

ここで皆が異常に気づき始めた。

のれんをめくるとまるで油を水に溶かしたかのような異常な空間が広がっていた。

 

「おい店主どういうことだ?」

 

十兵衛が鋭い目で店主を見る。

 

「へ、へえ。私もいつもの場所で普通に店をやってたらこうなった次第で・・・・・・どうも化かされちまったみたいでさあ。

お客さん退魔師の方が多いみたいですけど、なんとかできやせんか?」

 

剣呑な気配を店主はその歴戦の接客テクニックで和らげて見せた。

そこにイルマが場を仕切るべく立ち上がる。

 

「オーケー、じゃあこの中の誰かだ。はい心当たりある人!今なら怒らねえから素直に言え!」

 

ロビーが立ち上がって腰につけた時計を見せた。

 

「あっ、ごめーん。空間変成機の調子が悪いみたい。今から治すけど、時間かかりそう。誰かなんとかできる?」

 

ふう、と一同がため息をついた。

 

「オーケー。それなら話は早い。ここは妖し筋とか狭間とかまあそんな感じで言われる空間と空間のスキマだ。

鬼のお嬢ちゃん。あんた生粋の妖怪なら一度や二度は通った事あるだろ?

案内人がいるはずだ。なんとか呼べねえか」

 

鬼の娘は少し悩んでしゃべり出した。

 

「そうね、ここは道で言えば路地裏よ。大通りにまず出る必要があるわ」

「なるほどな……移動方法は兎歩とかの魔術歩法か、結界を切り裂きながらじゃねえと無理か?」

「無理ね。いわば蔦が絡まってて通れないようなものだから。それに妖し筋は妖怪の道。百鬼と遭遇する危険も高いわ」

 

ここで竜次が地図を広げて見せた。折り紙のように広げると立体的な構造図となる地図だ。

 

「なら、俺の方に資料がある。紙で作った妖し筋の三次元立体マップだ。

これを元に進んでいく。鬼若さんが屋台を押して、俺と連合の兄ちゃんが護衛。

イルマさんと十兵衛さんが前衛をして大通りまで進んでいく。どうだ?」

 

ふむふむと皆がうなずいた。竜次は根は真面目でマメな男なので、実は知識面ではかなり幅広いのだ。

 

「やるじゃん。あとは俺が十兵衛の剣にエンチャントかけるわ。それでなら切り開くこともできるんじゃねえの」

「うむ、ま、腹ごなしにかるく冒険と洒落込もうかね」

 

かちん、と十兵衛が腰の剣を抜いた。

 

 

そこからは三時間ほどで迷路のようなわけのわからない空間をダンジョン攻略していった。

途中、敵も出たが退魔師が四人に妖怪が二人もいればどうとでもなった。

そうして、しばらくしてなんとか通常空間に出た後、皆は別れを告げる。

 

「ごめんねー。私の機械の故障でー。これ私の名刺ね。何かあったら弁償するからー」

 

そこには名刺を配って歩くロビーの姿があった。

 

「こうして無事に出れたんだし、お前さんその機械で皆を元の場所に送ってくれただろう?

腹ごなしに面白い冒険もできたんだ。それでかまわんよ」

 

十兵衛は去るときもやはり粋で風のような男であった。

 

「ま、そういうことだな。なんかあったら連絡するから、今日はもういいや」

 

竜次が疲れを見せながらも、それでも気丈に、胸を張って帰って行く。

 

「別に俺は怒ってないからいいよ」

 

イルマも、他の皆も同じように元いる場所へと帰っていった。

そうして、残されたのは店主とロビー。

 

「で、ロビーさんこれでよかったんですかい?私は場所を貸しただけ、適当にフォローして後はそっちが何だかやるって話でしたけど」

「うん、これでよかったよ。ありがとうおでん屋さん。この出会いにはきっと意味がある。

彼らの物語が繋がって、互いに影響を与え合ったら、きっと楽しいことになるよ。

私は面白いことをもっともっとしたいんだ!」

 

クスクスと白兎は笑う。宵闇の時代、混沌とした世界を導くかのように。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。