宵闇プロジェクト   作:照喜名 是空

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永田町騒乱2

■霞ヶ関・地上

 

上品な老婆、東の長にテレポートで飛ばされた議員団と退魔師たち。

退魔師が先導しつつ議員達はひいふう言いながら緊急用シェルターに走って行く。

 

「あーあ、ありゃとんでもないですねぇ、生身でヘリコプターと戦うなんて」

 

その言葉をつぶやいたのは修道服のシスターだ。おそらくエクソシストなのだろう。

空ではさながらミサイルカーニバルとでも呼ぶべき光景が見られていた。

 

「さすがは唯一の『魔術師』(メイガス)って所ですかぁ?んふふ」

 

どかんどかんと爆発音がして塵が振ってくる。非常に危険だ。

 

「しっかし、どうやってあの『魔術師』(メイガス)サマは日本で公務員なんかになれたんでしょうねぇ」

 

人々は皆、空を指差しどよめいていた。カメラを構える者もいる。

 

「ああ、それは……あの方は戦前から日本のスパイとして英米を探っておられましたから……

そのご縁でGHQに入られ、日本に帰化されたのですよ

口惜しいことですが、戦争で疲弊した日本の組織はどこもあの方にご恩がありますから。」

 

老婆はしゃんとした姿勢でしずしずと動きながらも、その速さはフルマラソン並である。

 

「とことん化け物ですねえ、あの『魔術師』(メイガス)

その二つ名にしたって、黄金の夜明け系で生身じゃ到達不可能な階位だもんねえ。

んふふ……きっとろくでもない外法で人を辞めたんでしょうよぉ」

「あの方は、さいぼおぐ、でしたか?脳を含めた体のすべてを機械化しているようですから」

 

聞けば聞くほど人間離れした来歴であった。

 

「そう、そして我々妖怪の敵対者・・・・・・久しぶりね、神子守(かみこもり)

 

その言葉とともに地面に魔方陣が描かれ、中から薄桃色の着物を着た美しい豊満な鬼『五百山蘇利耶(いおやますりや)』が出てくる。

 

 

「おやおや・・・・・・これはこれは、五百山の君。八十年ぶりでしょうか?」

「相変わらず、頭が記憶力が良いわねぇ。

でも、今日はあなたに会いに来たのじゃないの。

久しぶりね我が娘、計都(けいと)ちゃん」

 

八百万の妖怪、駒野盤外がその艶めく唇をゆがめて叫んだ。

 

「その名で呼ぶな!私は私として、八百万の長としてここにいるんだ。

あなたとはもはや親でもなければ子でもない」

 

魔方陣から続いて黒い迷彩服を着た妖怪たちが次々に出てくる。手にはAKー47だ。

退魔師たちは身構えるが足手まといを抱えた上、数の不利がある。

 

「あなた方の確執はあなたが精算なさいませ、。

ですが、妖が人を襲うのであれば滅するが我らが道理。

この婆も、少し体を動かさせていただきましょうか?」

 

退魔師たちの東の長はいつの間にかその小さな手の内に妖怪から素手でちぎり取ったとおぼしき生首を持っていた。

誰も目にもとまらない早業である。

 

「いいや、こんな事もあろうかと、ハルマンは僕らにリークしてきた。

だから僕は八百万の妖怪をここに展開させておいた。ここは僕らが引き受ける!」

 

駒野盤外が手を上げるとビルの上から妖怪の一団に向けて銃撃が行われる。

議員たちは悲鳴を上げた。

 

「行け!」

「わかりました。お手並み拝見と行きましょう八百万」

 

数十の青いジャンバーに身を包んだ八百万の妖怪達が武器を構えて降りてくる。

ビル街で妖怪達が乱戦を繰り広げる。その間をこそこそと議員が逃げていく。

 

「妖怪でありながら人が食えず、妖怪を殺すことに躊躇いがない、鬼として狂った忌み子・・・・・・

妖怪でありながら人間の味方を自称する出来損ない共と徒党を組んで私に立ち向かってくるのね。

素晴らしいわ!よく大きくなったこと。忌み子は忌み子なりに役に立つようになったのねえ」

 

桃色の鬼、スリヤが上品にしかし残酷に笑う。

 

「親殺し子殺しは最高の快楽、だったかな?反吐が出るよ。君たち妖怪のあり方には。

この策の巡らし方はラゴゥ姉様じゃない、あなたと鬼院のやり方だな?おそらくまた独断だろう。

ハルマンの暗殺にしては大げさすぎる。戦端を開いてどうするつもりだ?」

 

白銀の髪を持つ鬼、盤外が吐き捨てるように言った。

 

「うふふ、賢くもなったのねえ。そう、これは暗殺ではなくテロ。

日本に対して私たちは独立戦争を行う用意があるわ。

宣戦布告として永田町を血の海にしてあげましょう。泥沼の非対象戦よー」

 

母はおだやかに、のんびりと虐殺を語る。

 

「イカレてる・・・・・・この段階で銃を手に取るか!?」

 

子は苛烈に政治を語った。

両軍、大将同士のやりとりを弾丸や術を打ち合い牽制しながら聞いている。

 

「鬼相手に狂ってるは褒め言葉よ?それにーこの段階だからこそよー

あなた達どうせ隠れ里をつぶす気満々じゃない?だったらー正面から戦争した方が楽しいわよー」

 

空ではハルマンがミサイルカーニバル、地上では妖怪達が銃を持って戦争を行う。

永田町はまさに戦場となろうとしていた。

 

「他にも方法はあっただろうに・・・・・・だがまあ、そうするだろうとも思ってたよ。

来い!私が相手をしてやる。元よりそのつもりだ」

 

両軍の戦いはいきなり将同士の一騎打ちとなる。

周囲で両軍戦いながら、だ。

 

■霞ヶ関・上空

 

上空では『魔術師』と軍人がリラックスした様子で構え合っていた。

 

「さて、始めますかね」

「ああ、終わらせよう」

 

両者音速で飛び回り牽制し合いながら呪文が紡がれる。

 

「我に耳傾けよ。 我に全ての霊を従わしめよ。

されば全ての神霊、地上の霊、冥府の霊、

堅牢なる地の霊、静寂なる水の霊、渦巻く風の霊、猛進する炎の霊、

そして神の名までも我の思いのままとならん!」

 

先に動いたのはハルマンだ。

その一言一言で世界がきしみを上げる。

何処までも高潔で果てしなく傲慢な願いが世界を覆っていく。

 

「昼が考えるよりも夜は深く、快楽は苦痛よりも深い。

苦痛は死を望むが、すべての快楽は永遠を欲して止まぬ。

深い、深い永遠を欲して止まぬ」

 

ヘリに乗るギュンターが呪文を紡ぐ。

すべてを黒く焼き尽くすが如き魔力が世界を塗り替えていく。

双方が術の名を告げた。

 

「天道光破陣」

「ブレンネン・ウェイストランド」

 

その効果は劇的だった。ヘリが鼻先から塩に変わっていく。

その一方で東京中のありとあらゆる自衛隊と米軍の兵器がギュンターの近くに集まってくる。

 

「やはりこうなるよな。埒があかねえ」

「私の「天道」とあなたの「修羅道」、同時期に造っただけあって似たような能力ですからね。

打ち消し合うしかない」

 

塩に変わるヘリから一人の軍人が飛び出して空を飛ぶ。

狼のような鋭い風貌の大男だ。手には巨大なアサルトライフルのようなものを構えている。

黒いナチの軍服を着た彼こそがヘリの中身、ギュンター本人だ。

 

「なら、埒を明けてやるか」

「苦手なんですがね、接近戦。まあつきあいましょう」

 

ライフルを連射しながらギュンターが突撃する。

ハルマンも懐からすっと一本の日本刀を出して構える。

 

「相変わらずサムライの真似事か?」

「日本かぶれなのでね。それに、大切な友人の形見ですし」

 

ハルマンは音速で直線的にギュンターに向かっていく。

だがここで隙が生まれ、あっさりと避けられギュンターの弾丸をくらってしまう。

 

「近接格闘で魔術師が軍人に勝てるかよ。餅は餅屋だ」

「その通りなんですがね、あいにくあきらめの悪い質でして」

「それよりいいのか?後ろだ」

 

被弾の隙にギュンターはさらに攻撃を続けていく。ミサイルが塩になるその前に爆発する。

爆炎と破片がハルマンを覆った。

 

「すべて焼き尽くすだけだ。何も残りゃしねえよ」

 

 

■霞ヶ関シェルター

 

退魔師と議員たちはシェルターでその様子を呆然と観ていた。

議員用シェルターとなれば地上偵察用ドローンくらいは飛ばせる。

 

「なあんなんですかねえ、この気持ちの悪い感じは……天道光破陣でしたっけぇ?

おばあちゃんは何かしってるぅ?」

 

シスターは奇妙な居心地の悪さを感じていた。

まるで自分が異世界にいるかのように異物感がひどいのだ。

 

「ああ、あれは「創世術」と呼ばれる物です。

世界に新たな物理法則を生み出し世界を書き換える外法……あの方らしい」

 

東の長は忌々しそうに恐るべき事実を語る。シスターは違和感の正体を悟りぞっとした。

果たして物理法則が変わっても自分は生きていられるのだろうか?

 

「世界を創造し直して、神気取りでもしたいんですかねぇ、んふふ……

それで、どう書き換えたのこれぇ?」

 

聞くのも嫌だが答えるのも嫌な質問だった。自分を支えている足下が揺らぐかのような気持ち悪さがある。

 

「ハルマンの力は周囲数百キロを範囲内としてその中のすべてを認識し、

原子レベルで組み替える法。

おそらく「すべてを支配したい」とでも願ったのでしょう」

「うげえ、じゃああいつの気分一つでこの場の会話も聞けるしなんなら塩でもあめ玉でも何にでも変えられるってことぉ?

ふざけんなよ……あの魔術師が。ビッグブラザー気取りかよ……」

 

実にろくでもない術である。だが庇護を受ける分にはありがたい術かもしれない。

あらゆる怪我も病も治してくれるだから。その代わりプライバシーも何もあったものじゃないが。

 

「ですので外法、と。あの軍人さんの法は・・・・・・おそらくは「戦場で生き残りたい」とでも願い、

その結果すべての兵器を操る法でも造ったのでしょうねえ」

「自衛隊基地からメチャクチャたくさん兵器がとんでってたもんねえ。あれあの軍人が取り寄せたんだぁ……」

 

議員団からどよめきが起こる。シスターはさらっというが自衛隊と米軍の兵器がかっさらわれたのだ。

ちなみに戦闘機や戦車は一台で数十億くらいする。とてつもないカネが失われていた。

 

「しかし、すべてを操る法とすべての兵器を操る法がぶつかり合ったら、どうなる……?

んふふ、万能型と特化型なら、特化型の方が出力は大きいから……」

「ええ、戦場に特化した能力、軍人と魔術師。不利なのはハルマン殿の方でしょうね」

 

呑気に解説している退魔師たちの言葉をもはや議員団は聞いていない。

ハルマンのすべてを支配するという恐るべき力に震え上がっていた。

彼らは魔術師の脅威を初めて肌で感じたのだ。

 

■霞ヶ関・地上

 

殿を引き受けた妖怪同士の戦いは佳境に入りつつある。

 

「日輪・八卦光環」

 

スリヤが桃色の着物をはためかせて天を指さす。

それだけで強烈な熱量を持った光が八百万の妖怪達を襲った。

 

「デイドリームビリーバー」

 

盤外が地面に手をつくとアスファルトが壁のように隆起して味方を守る。

 

「あら、しばらく見ないうちに変わった芸当ができるようになったのね。

現実改変かしら?ハルマンの技の劣化版ねー」

 

一目で娘の異能を見抜いた母はそれをあざける。

 

「そういうあなたは相変わらず光使いか。対策を何もしてないとでも?」

 

盤外が地面についた手を中心として猛烈な勢いで黒煙が上がる。

八百万の妖怪たちがガスマスクと赤外線暗視装置をつけ始める。

 

「煙で光を遮る?そのくらいやってきた子がいなかったとでも思う?」

「あなたはなんとかするだろう。だが、雑兵はどうかな?」

 

百鬼の妖怪達は咳き込んで倒れる者が出始めていた。

 

「ああ、毒ねー。じゃあ手段を問わず散開して街に火をつけなさい。南へ、赤坂方面で暴れまくるのよー。適当なところで撤退していいわー」

 

そう言うが速いか百鬼の妖怪は周囲のビルの壁をぶち壊して散開を始める。

盤外がちっと舌打ちした。

 

「妖怪のみに作用して呼吸器から細胞レベルで破壊していく毒だけどー、

これ比重がかなり重いわねー。そんなに広げられないんでしょ?」

「ああ、だがあんたを守る壁はなくなった」

 

盤外は地面を蹴ってスリヤに躍りかかった。渾身の拳を振りかぶって。

 

「その手、触った相手を自在に改造する恐ろしい能力でー、

あなた自身もそれなりには格闘技を習ってるんでしょうけどー。

年季が足りないわねー。母は百年単位でクンフーを詰んでいるのよー」

 

盤外が殴りかかるがスリヤは巧みに払いのけ逆に拳を打ってくる。

カンフーめいたやりとりが展開されるが、盤外はついていくので精一杯という様子だ。

スリヤはにやりと笑って余裕の表情で煽り始めた。

 

「そもそも-ハルマンになぜそこまで義理立てするのかしらー?抱かれでもしたー?」

 

蹴りが当たる。

 

「親と子を殺し合わせるような男が本当に公正明大だと思うー?」

 

拳が一撃一撃蓄積していく。

 

「人間だったらーこう言うじゃない?あなたは操られて、母と戦わされている哀れな木偶だってー」

 

とうとう盤外は膝をついてしまう。だが瞳はまだ負けていない。

 

「舐めるなよ。言ったはずだ。あなたとはもはや親でもなければ子でもない。

私は望み、選び取ってここにいる。それを言うならあなただって解っててここにいるだろうに」

 

くすくすと笑いながらスリヤは手を伸ばす。

 

「じゃあこう言おうかしらー?道を間違えた愚かな娘を叱るために、連れ戻すためにここにいるのよー」

 

ひととき、神聖な瞬間が訪れた。

盤外は差し伸べられた手につばを吐きかけた。

 

「あんた自身も信じてない事を言うな。親子を語るなら、親離れ子離れくらい受け入れろ。

私はあんたらが嫌いだ」

 

盤外の腹にスリヤの蹴りが突き刺さった。

 

「じゃあ聞くけどーあなたは私たちの何がそんなに気に入らないのー?」

 

スリヤは盤外の手に警戒しつつ盤外の顔を踏む。

 

「すべてだ。妖怪は人を狩り、人は妖怪を狩る。その関係性。

人類の敵対種であることを存在意義とする価値観。なんなんだ?妖怪は人間の寄生虫か?

ふざけるな!そんなものが誇りだというなら犬に食わせろ!」

 

盤外がスリヤの足をつかもうとする。

 

「なんだかよく分からないけどご立派な事を言ってるらしいのはわかるわー。

でも、そのザマじゃねえ。そういうのは勝ってから言うものよー」

 

だがその手はスリヤの指先から出た光によって切断された。

逆境である。

 

■霞ヶ関・上空

 

空中ではギュンターが地上の毒ガスのにおいと銃声を感じながら静かにつぶやいた。

 

「この感じ、戦争だ・・・・・・ああ、これが必要なんだよ。

俺もおまえも、平和な世の中じゃ用無しだろ?」

 

爆炎からハルマンが飛び出してくる。

足が一本もげ、脇腹が大きくえぐれていた。

中から見えるのは歯車とコード。彼らはすでに身体を機械としていたのだ。

 

「そうかもしれませんね。ですが私にはまだやるべき事が残っている」

 

ハルマンが攻撃を受けている隙にギュンターは戦う体制を整えていた。

地面には戦車が規則正しく並び、空にはヘリや戦闘機が隙なく飛び交う。

 

「お前は何のために戦う?

もう俺たちを知ってる奴らなんかいないだろう。ダチも、家族も・・・・・・みんな死んだ」

 

両者、人生に疲れた声色だった。

 

「決まっています。友が守り通したこの国を守るために。

あなたこそ、何故戦うのです。あなたの国ではないでしょう」

 

無数の弾丸が互いに飛び交い、お互いの身体は壊れていく。

ギュンターの身体からも歯車がいくつか飛んでいった。

高速で逆再生するかのように部品をかき集め身体を再生させる。冗談のような光景だった。

 

「俺は戦うことでしか人に関われん。それしか知らん。

戦うことが生きるための最後の(よすが)なんだよ。

ま、拾ってくれた恩も情もあるからな。お前だって似たようなもんだろう」

 

じわじわと火力差が開いていく。ハルマンの被弾が増えていく。

 

「そうですね、その通りだ。ジジイは若者のためにさっさと死ねば良い。

死に花を咲かせる場所としては上等でしょう」

「ああ、そうだな。だが勝つのは俺だ」

 

このままだとそうだろう。同じような能力に戦闘力の差。ジリ貧だ。

だが、ハルマンはにやりと笑う。

 

「いいえ、私がただ何もしないまま追い詰められていると思いましたか?」

「なんかやってるだろうなとは思ってたよ。見せてみろよ、お前の切り札を」

 

す、とハルマンが天を指さす。

 

「おお友よ、このような音ではない!歓喜に満ち溢れる歌を歌おう。

ひとりの友の友となるという大きな成功を勝ち取った者、心優しき妻を得た者は彼の歓声に声を合わせよ

天の星々がきらびやかな天空を飛びゆくように、兄弟たちよ、喜ばしく自らの道を進め」

 

そこには巨大な隕石が空を覆わんばかりに迫ってきていた。

 

「最高だ!最高にイカれてるぜお前!ああそうだな、それは兵器じゃない。俺には操れん」

 

隕石は無数に分裂してギュンターに降り注ぐ。数百、数千に分かれた隕石は数分にわたってギュンターに向かい続けた。

抵抗も回避もした。だが圧倒的な質量の差があった。ぼろぼろになったギュンターは地面へと墜落していく。

 

「他の答えをすべて消してまで征くか・・・・・・なら成就しろよ、お前の答えを」

「無論です。これは始まりに過ぎない」

 

■霞ヶ関・地上

 

「『修羅』が落ちた・・・・・・潮時ね。さてと、あなたをどうしようかしらー?

持って帰っても良いし、ここで殺しても良いわねー」

 

みちみちとスリヤが盤外の頭を踏む力が強まる。

 

「それは、どうかな?」

 

ばちち、とスリヤの足に黒い電撃が走る。そして一瞬で炭化して崩壊した。

スリヤは悲鳴を上げて倒れる。

 

「切り札は取っておく物さ。いつ私が手だけで妖力を発動してると言った?」

 

盤外はぺっ、とつばを吐いて立ち上がる。スリヤはうめきながら這いずって逃げようとする。

 

「やられた、わね・・・・・・でもいいの?ここでは勝てたかもしれない・・・・・・

でも、私たちと戦争して、それでこの国が無事で済むとでも」

 

盤外は手を再生させるとがしりとスリヤの背中をつかむ。

 

「元よりそっちが望んだことだろう?

勝ち負けじゃない。リスクの問題でも無い。ただ変革を望んでるんだよ私は。

失敗?敗北?いいじゃないか。戦わずに死ぬよりはましだ」

 

じたばたとスリヤがもがき、光が盤外を狙うが片手でかき消される。

 

「それで誰も彼も、ついて行く者も死地に追いやるの!?」

「後のことなんて知ったことじゃないし、どうでもいい。

彼らだって自分で考える頭がある。私がそうしたように、彼らも自分で選択できるはずだ」

 

ぱきぱきとスリヤの身体が炭になっていく。

 

「この、薩摩者・・・・・・!」

「アナーキストと呼んで欲しいね」

 

そうして、ついに首元まで炭化が進んだと思った瞬間、ばつんとスリヤの首が消えた。

 

「これは、空間接続!鬼院お前の仕業か!」

 

いつのまにかそこにはドレスを着た貴婦人がいた。

鬼院楼蘭。この戦いの黒幕だ。

 

「ええ、もう十分でしょう。永田町の住民に我々の意思は示せたはず。

思ったより戦果を得られませんでしたけど、ここらへんが潮時ですわ。

『修羅』はすでに回収しました。あなたのお母様もこのとおり」

 

鬼院はいとおしそうにスリヤの首を抱えている。スリヤはにやりと笑い、唇だけで言葉を紡ぐ。

さようならと。

 

「ああそうだろうな、逃げるんだろう。あんた方はいつものように。

だが次こそは、この戦争で追い詰めてみせる・・・・・・!」

「ええ、さようなら。また戦場で」

 

消え去ろうとした鬼院の背後から日本刀の一振り!鬼院はそれを鉄扇で受け止め、空中で距離を開けた。

 

「いいえ、そうはさせません」

「何のおつもりかしら?ハルマン……引き際を誤るほど無粋ではないと思っていたけれど?」

「ええ、どうぞ兵は引かせれば良い。ですが、せっかくの機会ですからね。

戦場で我々がそろい、なおかつ言葉を交わせる機会はここを逃せばほぼ無いでしょう。

こういう時はあなた方はこう言うのでしたな。一曲いかがですかな、レディ?」

 

ハルマンの周囲に鉄球が回り始めた。

 

「なるほど、なるほど……いいでしょう。

永田町の住民に我々の言葉を聞かせる……それも一興ですわね。

では、私も忙しい身ですし、一曲だけ」

 

スリヤの首をどこかに仕舞い、鬼院は大量の光り輝く呪符を召喚した。

かくして、魔術師の黒幕と妖怪の総大将によるエキジビジョンマッチがここに成立した。

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