宵闇プロジェクト   作:照喜名 是空

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原発占拠

「土地が足らん、頭数も足らん。金と武器と技術力はある。しかし時間は無い」

 

鬼の姫、五百山ラゴウがこたつでみかんを剥きながらうーむとうなった。

こたつの対面にいる女悪魔のニベールがふわあとあくびをする。

 

「ないないずくしよりはましじゃない?お金があればなんとでもなるわよ」

 

クソど田舎の山間地、脱法的に手に入れた衛星放送のテレビをぼんやり見ながら。

 

「まあ何も準備しとらんわけじゃないのじゃよ。現に軍資金と武器は貯めてたしの。

中東から武器商人と工作機械を輸入したりの。何にしても前回の敗北が痛い。士気が目に見えて下がっておる」

「そりゃあ、あれだけボロ負けすればね。敵将を一人もとれず雑兵は皆殺しでしょ?

挙げ句指揮官だけ逃げ帰ったとかそりゃ不満がたまるわ」

 

ニベールはお茶をずずいと飲む。

 

「それで?全くアイデアがないわけじゃないんでしょ?」

「うむ、士気がさがっとるのは人間側もじゃよ。失われた20年は怨嗟がたまるに十分すぎる。

上の世代がさんざん良い思いをして、自分たちだけはしごを外され、農奴の如き扱い。

いやうむ、よう解る。きっと奴らはこう思っておる。こんなはずではなかった。騙された。奪われたとな」

 

けけけ、と口を開けて笑うラゴウ。目は生き生きと策略を楽しそうに語っている。

 

「何か事が起ればいつか自分たちから未来と金を奪っていったやつらから奪い返してやる……とな。

そこで我らが事を起こした。ここで一発うちに来れば略奪し放題と演説をぶてば、ほうれ見事な一揆の完成じゃ」

「やればいいじゃない?で?何が問題なわけ?」

「うむ、土地が足らん、そしてうちの拠点はどこも都心からのアクセスが悪い。悪すぎる」

 

繰り返すが、この会話が行われているのはクソど田舎の山奥の秘境である。

 

「しかたないじゃないの。そもそもが百鬼は秘境に隠れ住む妖精や妖怪の集まり。

だからそもそもがゲリラ戦と電撃戦くらいしかできないのは解っていた事でしょ?

だから、どこかに攻め入って都市を奪うしかないわ」

「じゃからその候補地に迷っているんじゃよ。どこもぱっとせんわ!」

 

ぐてっと床に転がるラゴウ。

クソど田舎から進撃するとなるともうすこしマシな人間が住めるレベルの田舎くらいしかないのだ。

 

『……なので、震災地でとれたお米は国の規定を下回る安全なお米であるとアピールするためにイベントが行われました』

 

テレビがある震災とそれによる原発事故関連のニュースを放送している。

ニベールはちらとそれを見て笑う。

おかしいのだ。科学的に安全が証明されたもの、本来なら庇護されるべき被害者達を迷信で追い立てる人間達の愚かさが。

 

「あっはははバカじゃない?これ誰かうちの親戚が煽ってるんじゃないかしら。

この科学万能の21世紀に迷信とか……ほんっとバカねえ人間って。

ふふ、ラゴウあなたの言う通りよ。人間ほど乗せられやすい生き物はいないわ」

 

だがラゴウはじっとテレビを見ている。無言で音量を上げる。

 

「ラゴウ?」

 

まるで空中をにらむ猫のようにくいいるように見つめ、はれやかに笑った。

 

「……これじゃよ!このアイデアいただきじゃ!」

「あ、何か悪いこと思いついた顔してるわ」

 

このやりとりが実に10年にもおよぶ不謹慎にも程があるろくでもない作戦につながるとはまだ誰も知らない。

 

 

都心から少し外れた寂れた街の巨大な廃病院。

「院長室」と書かれた札にバツ印が書かれ下にマジックで「同盟長室」と書かれている。

床にはゴミが散らばり、不衛生だ。明らかに血と解るシミもいくつもあった。

 

「同盟長!官邸からのお客様がお越しです!」

 

そこに不似合いなハツラツとした声が響く。

フェドーラハットにコート姿の不審人物ともう一人、官僚然としたスーツ姿の男がいた。

ハツラツとした声を出したのはハットの怪人物のほうだ。

 

「通せ」

 

組合長室の中から低い声が聞こえた。

官僚風の男は異様な雰囲気におびえながら入る。

 

「これは……」

 

中は打って変わって全く別の雰囲気だった。

一言で言えば木造のアウトドア風だ。床も壁も木で作られ、落ち着いた雰囲気を出している。

絨毯が敷かれ、暖炉が作られ、壁には重厚な斧や鉈が飾られている。

丸太製のテーブルに男が一人座っていた。

 

「ようこそ、官邸からのお客人。何用かね?」

 

低くドスの効いた声の主は狩人の同盟長「獅子吼竜也(ししくたつや)」だ。

狩人とは犯罪を犯す妖怪や異能者、黒魔術師を狩る組織だ。

すなわち、現代によみがえった魔女狩り。

しかも相手は本当に魔法を使うが容赦なく殺すという血なまぐさい組織の長である。

 

「何用も何も、わかっているでしょう。妖怪ですよ、妖怪。

あいつらは先日永田町を襲撃したばかりだというのに、こんどは原発ときた!

島根原発がメルトダウンして奴らは籠城している!正気の沙汰じゃない!」

 

官僚がまくし立てるのに対して獅子吼は静かに目線を送る。

 

「ああ、原発に派手に砲弾をぶちかましてたな。それで?」

「それでって……あなた方は妖怪を狩るのがお仕事では?」

「ああ、仕事だ。故に金が出なくば狩りたくとも狩れん。狩りたくても、だ」

 

官僚は不服そうにかばんから小切手を出した。

獅子吼は一瞥して投げ返す。

 

「何が駄目なんです!20億ですよ!?」

「形式が違う。賞金首方式にしろ。雑兵でも首一つで10万。将官で1000万からだ。

別途に先払いで組織に3億ほどないと厳しい。

とりあえずそれで受けてやると伝えろ。言っておくが安い」

 

実際、命のリスクと弾薬代から考えれば安いのは事実である。

 

「……伝えておきます」

「ああ、それと。狩人が来たら自衛隊に邪魔はさせるな。

どうせ自衛隊の交戦許可がでなかったんだろう?

警察ではどうにもできんのだろう?だからここに来た。

……ウチを便利屋扱いか?まあいいさ。だが、甘くは見るな」

「わかりました」

 

官僚は一礼して去る。不服そうな顔でしかし内心はうまくいったとほっとしながら。

 

 

官僚が出て行った後、しばらくして獅子吼は机の上にある小さな鐘を鳴らした。

すると、家具の影から肌の浅黒いアロハシャツに麦わら帽の男が出てきた。

マリオみたいなヒゲのマッチョである。

どう見ても怪しい外人だった。

 

「グエン、どう思う」

「実際、便利屋扱いされてますネー。あの役人サン今頃うまくいった思ってる違いますか?」

「だろうな。そして事が終われば俺たちを犯罪者として扱う気だろう。

故に最善策はあえてダラダラ狩ってある程度は逃がし、戦線を長引かせることだが……

俺には、それは、できん」

 

獅子吼は絞り出すように狩りへの情熱をにじませる。

 

「デショウネー」

 

ケラケラとグエンが笑うが気にせず獅子吼は夢見るように血なまぐさいことを言い出す。

 

「クソみたいな政治家に、イカレた科学者、傲慢な異能者、人間を舐め腐っている人外ども。

うんざりじゃあないか。皆、この機に狩り尽くす。

想像してみろグエン。肥え太った金持ち共の命乞いを。腐れ外道の黒魔術師どもの悲鳴と血を。

ああ、甘美ではないかね?クズ共を殺して飲む酒はさぞうまかろう」

「イエス!エキサイティングですね。バット、そのためには仕込み、いります」

「さあ、だから始めようじゃあないか。一心不乱の大戦争というやつを」

 

静かにしかし壊れた調子で忍び笑う獅子吼はまさに狂人そのものだった。

 

 

ラゴウたち「百鬼」は島根で原子力発電所を襲撃し、放射能汚染で住民を強制的に立ち退かせた。

さらにその混乱に漬け込み、暫定的名支配地域を確立する。

そして、ラゴウはネット上に声明を発表した。

 

「幻想民族解放戦線「百鬼」が指揮官、五百山ラゴウである。

今回の島根における軍事作戦は我が軍によるものじゃ。

ついては、声明を発表させていただく」

 

旧軍に似たスタイルの軍服を着た美しい鬼娘。

少女に軍服というその姿は見るものに倒錯的な美と衝撃を与えることを計算されたものだ。

 

「おんしらの政府の言うとおり、我々は妖怪じゃ。人類の近縁種かもしれぬが、

人類と同種族ではない知的生命体じゃ。

この姿はメイクなどではない。冗談でもない。島根の一件が冗談ではないようにの」

 

彼女は黒髪をめくって角の付け根を見せる。魅力的で不敵な笑顔だ。

 

「さてその異種族たる妖怪から人間に申したき事がある」

 

彼女は椅子に座り、後ろには数名のいかにも妖怪でございという連中が無言で立っている。

 

「人間達よ、飼い慣らさされた家畜の暮らしはさぞ退屈だろう?」

 

にやりと、蠱惑的に笑う。その仕草、表情は人をたまらなく魅了する。

 

「食い詰めて犯罪をすれば捕まり、商人でも政治家でも兵士でもなりあがれることはない」

 

時にサディスティックに、時に情熱的に革命家そのものの口調で日本人に語りかける。

 

「なぜか、金持ちどもは席を譲らないからだ。既得権益を奴らは決して手放さない」

 

ふう、とため息をつきそこから怒涛のように喋る。

 

「決まらない民主主義とやらに飽き飽きしては入ないか?

自らの権利ばかり叫び、果ては百姓を襲う熊を保護せよなどという妄言を垂れる物共にうんざりしておろう。

これも全て平和ボケよ。社会が過保護すぎるのだ」

 

にやりと、笑顔が黒いものに変わる。それは全てを破滅させるような。

破滅を誘うような、そんな笑みだ。

 

「権利、平等、なるほどそれは確かに尊い。

じゃが、行き過ぎた権利と保護は人を何処までも厚かましくする」

 

その艶めいた唇が真実を含んだ毒を流す。

 

「妾が対するべき人間はそのようなものか?否!そうではない。

おんしら人間はもっと誇り高い生き物のはずじゃ、そうでなくてはならぬ」

 

打って変わって優しい、甘やかすような声色。

 

「ならばいっそ妖怪となって我らと共に戦おう。

我等が平和ボケを壊す脅威となってやろう

なあに、吸血鬼化から何から、妖になる手段はいくらでもある」

 

そして決断的に宣告する。

 

「この戦いは単に妖怪という民族の存亡をかけただけ物ではない」

 

決意と覚悟をにじませて。

 

「管理された文明社会への挑戦だ」

 

言葉を弄するも、その意思は本物で。

 

「この国を新しく作り直すための戦いだ」

 

そして、だからこそ心を揺さぶる。

 

「若者達よ、今こそ戦で一旗上げる時だ。

鬼となり妖となり、サムライになれ、ここにくれば力が手に入る」

 

そうして、動画は百鬼のロゴを残して終わる。

この日から、少なくない若者が島根に行く用意を始める事になる。

 

 

そしてその数日後。

「同盟」からもある動画が投稿された。

 

「ごきげんよう、俺は自警団組織「同盟」の長、獅子吼竜也だ。

今からする行為は殺人ではない。単なる害獣の駆除だ」

 

ちょっとジョニーデップに似た黒髪の男が椅子に縛られた明らかに妖怪と分かる男に拳銃を向けている。

 

「これが何をしたか言ってやろう。

こいつは人を辞め、医師という立場を利用して患者を何十人と奴隷にして化け物共に売り払った。

そこで何が起ったか。この動画を見るが良い」

 

そしてワイプが写される。モザイクが多かったが、裸の人間達が檻に入れられ、理性無く餌をむさぼり食う姿だった。

 

「見たか?これがこいつのやったことだ。人の家畜化。

人肉工場をこいつは経営していた。我々日本人を使ってだ!

我々は被害者が死ぬまで待っている政府とは違い、即時救出を行い、こうして主犯のこいつを捕まえた」

 

その表情は常ならぬ怒りに包まれ、見ている者に戦慄を与えただろう。

 

「そして……今ここでこいつを殺し、その動画を公開しても警察はダラダラと仕事をしているだろう。

決して、誰もこいつを助けに来ない」

 

銃声。妖怪の男の頭が吹き飛び、倒れた。

 

「これが現実だ。公権力は形骸化し、すでに我々が自警活動をしなければならない状況になっている。

先日の妖怪による島根原発占拠事件を覚えているか?

あのならず者共は我々「同盟」が駆逐した。自衛隊でも、警察でもなく、我々がだ」

 

そして再び画面が変わり、原発らしき場所での銃撃戦や魔法の打ち合い、鈍器で妖怪を殴り殺す姿が写される。

 

「いいか、日本にもはや治安はない。

世の中、犯罪者に甘すぎる。警察が守ってくれるか?ノーだ。

彼らは君らが死体になった後にしか来ない。

すでに形骸化しているんだ。誰が殺人鬼や化け物から君らの身を守ってくれる?」

 

ここで獅子吼は言葉を溜め、むしろ愛おしそうに囁く。

 

「誰も、だ」

 

くくく、と静かに偲び笑う。狂気と喜悦に満ちた笑いだった。

 

「故に日本の人々よ、形骸化した警察を恐れず、武器を取り給え。

自らを、愛すべき人々を守るためにだ。

我々同盟は新しい同士を歓迎する。自警する君たちに協力しよう」

 

ここで画面の下にURLが映る。「同盟」のサイトURLだ。

つまりこれは勧誘動画なのだ。

 

「世の中そこらじゅうクソのような汚物ばかりだ。その点は彼らに同意しよう。

だからこそ、素晴らしいじゃあないか。我々は存分に狩り、殺し、奪える」

 

ぐっと拳を握り力説する。言葉すら血塗れだった。

暴力を持てと駆り立てる姿はラゴウにどこか似ていた。

 

「なにしろ彼ら自身が自らは化け物だ、人の敵だ、お前も人を辞めろというのだから。

ならば化け物を殺して罪に問われる謂われはない。これは合法的な自警行為だ。

我々同盟は君たちの力を欲している。この国の権力に愛想が尽きたのならば、来るが良い」

 

ここで動画は「同盟」のロゴマークである八咫烏を写して終わる。

この動画は削除されては上げ直され、とんでもない累計PVを稼ぎ出した。

そして、結構な数の若者がそれぞれの思惑を胸に「同盟」の門を叩くこととなる。

 

時代は、いまや戦乱へと傾き始めていた。

人々はそれぞれの信条と情報格差、貧富により分断され、その対立はもはや血を見ずには収まらなくなった。

だがある者達はうそぶいたという。

どうせ死ぬのであれば、めそめそ滅ぶよりは戦って死ぬ方が幸福だと。我々はその機会を与えたのだ、と。

 

これより、宵闇の時代が始まる。

 

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