宵闇プロジェクト   作:照喜名 是空

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短編集
ある魔法少女の場合


門真あまなは困惑していた。

どうしてこんなことになったんだろう。私はただ、魔法少女になりたかったのに。

 

なんで妖精さんと魔法使いのおじいさんが言い争っているのを目にしているんだろうか……

 

「なるほど、あなたはつまり力を与える代わりに無償でそこの子供に戦えとおっしゃる」

「願いを叶えるよ。つまり有償だよ。その願いが何だろうと代償は払ってもらうさ」

 

 

私は思い返す。

事の始まりは放課後の路地からだった。

いつものつまらない学校の帰り道。そこにスリルの色を加えるファンシーな怪物。

子供の落書きみたいな怪物だったけど、突き飛ばされた痛みも恐怖も本物だった。

 

そこに彼が現れた。白い鼠みたいなかわいらしい体。子犬ほどの抱き上げるのにちょうど良い大きさ。

 

「ずいぶんと、大変そうだね。逃げ道はこっちだよ!」

「えっ、ええっ!?」

「さあ早く逃げないと!大丈夫!こっちは安全さ!」

 

これは、これはひょっとして非日常的冒険の始まりなんじゃないのかな!?

そう期待してた。実際ある程度のところまではそうだった。

ついてこいとジェスチャーする小動物についていくと、まったく不思議な空間に出た。

 

足下は青い砂、そこら中に虹色のシャボンみたいな一抱えもある球体が飛んでいる。

 

「ここは……?」

「狭間だよ。僕の隠れ家みたいなものさ。じゃあ、説明をさせてもらうね!ああ、僕の名前はメフ。君の名前は?」

「門真あまな……メフ君って呼べば良い?」

「そうだね。それでいいよ」

 

メフ君の説明を要約すると、この世には普通の人には見えない怪物がいて、素質のある子だけが魔法少女になれるって話だった。

願いもいつでも1つだけかなえられるって話だし。

ちょっと子供っぽいかなと思ったけど、でも普通の人にないすごい力が使えるのは魅力的だった。

 

「それで、どうかな?魔法少女になってくれるかい?」

「えっとー……」

 

答えようとしたその時、カーテンを分けるように空間を分けてあのお爺さんが入ってきた。

 

「少しお待ちください。あなたは大変な契約をなされようとしてますよ」

「なんだい君は」

「神祇局初代局長パトリック・R・ハルマン。あなた方のようなスカムを殲滅する者です」

 

青いシルクハットに青いスーツ。銀色のステッキ。まるで映画で見た英国紳士みたい。

そしておじいさんとメフ君は私を放っておいて言い争いを始めた。

 

「scam(クズ野郎)とは言ってくれるね。でも僕はお上に目をつけられるような事はしてないよ?」

「魔法少女とは武力を行使し、あなた方の言う怪物を倒す者、これに間違いはありませんね?」

「そうだよ。大事な使命さ」

「それで、何か見返りは彼女たちにあるのですか?」

「魔法の力を手にできる。それだけでも十分にすごいことだと思うよ。それに、僕等の国に来てきちんともてなすつもりさ」

「ほう、あんなゴミのような魔力でね。なるほど、あなたはつまり力を与える代わりに無償でそこの子供に戦えとおっしゃる」

「願いを叶えるよ。つまり有償だよ。その願いが何だろうと代償は払ってもらうさ」

 

なんだかこの話がふいになりそうだった。だから私は声を上げた。

 

「あの!私ボランティアでもいいです!力が欲しい!何かになりたい!だから、私……」

 

かつん、お爺さんが銀色のステッキを地面についた。そこから波紋が広がるのがわかる。

 

「結構、では改めて選択を聞きます。ここが最後の選択になりますよ。魔法少女になると?」

「はい!だから、お願いメフ君!」

「そういうことだよ。あなたの出番はないんだ。神祇局局長?」

 

メフ君の力が入ってくる。すごい、服が替わって変身する。かわいい!すごい!

私は白い魔女っ娘みたいな姿になった。

そうして、私の人生は変わった。

 

 

最初の3年はよかった。

ただ敵を倒すだけで良い。だいたいは悪いことをしてる怪物が相手だし、充実感もあった。

だけど高校生になって、このままでいいのかな……と思うようになった。

よく考えたら魔法が使えてもお金は稼げない。ちゃんとした職業じゃない。

 

あのお爺さんの言ったとおりだった。

 

そのことをメフ君に尋ねたら、お金を貰える仕事もあるよって言われた。

 

今までとはちょっと違った相手を倒すようになった。なんだか言葉を喋れたり、時には人間の悪人を倒すこともあった。

これって、何かとても怖いことをしてるんじゃ……?って思う。

 

だけど、お金は魅力的だった。

いつしか、やり過ぎて人を殺してしまった。でも、魔法でうまくごまかせた。

悪人だったし、仕方ないと思った。

 

そうして。人も怪物も殺して殺して殺して。

真っ白だったドレスも真っ赤になって。

気がつけば私はただの殺し屋になってた。

 

私はメフ君に言われるままうまく一人暮らしして、魔法少女……いや、魔女をしていた。

もうメフ君も隠すことはなかった。つまり最初の3年は野生動物が相手のハンティング。

そこから先はメフ君の敵対してる勢力や単に殺し屋として私を使っていただけだった。

 

このまま一生殺し屋してるのかな、結婚とかできるのかな……と思ってたらメフ君が人化した。

とても美しい悪魔だった。

 

信じられないような快楽を得た。彼らの国で「もてなし」を受けた。

そこで出たのは人肉だったけど、ちやほやされて舞い上がって私は笑いながら食べた。

とうとう私は壊れた。すっかり私は悪くなった。

 

メフ君に捨てられないように言われるままに禁忌の呪術に手を出した。

人を生け贄にした。何も悪くない人たちから奪った。

いつか捨てられると解っていながら。

 

そうして、ある日私と同じような魔法少女に襲われるようになった。

彼女は白い魔法少女で、私はもう真っ黒な魔女。

つまりは、そういうことだ。メフ君は私も邪魔になったんだ。

 

逃げて逃げて……

あの日の、路地裏。あそこにあのお爺さんがいた。

 

「魔法少女になるということがどういうことか理解しましたか?

子供に武器を与え、戦いにかり出し……行き着く果ては殺し屋か軍人。ろくなもんじゃありません。

私はもうそういうのは見たくないんですよ。国家的にそういうことをやってる時代も生きていましたから」

 

ああ、その通りだった。私は馬鹿だった。

 

「そうね……私が馬鹿だったわ。あなたも私を殺しに来たの?」

「いいえ。魔法を解きに来ました『夢はこれで終わりですよ』」

 

 

かつん。銀の色の杖が鳴った。

 

「では、改めて選択を聞きます。ここが最後の選択になりますよ。魔法少女になると?」

「え?あれ!?えっ!?」

 

私の体は中学生の時に戻っていた。青い砂。ここは、あのときの「狭間」?

どういうこと?時間が戻ったの!?

 

「何をしたハルマン!……これは未来予知に白昼夢!?そうか、未来を見せたなハルマン!」

「語るに落ちてますよ。あなたのやることはもう見せました。さて、門真あまなさん。あなたはどうしますか?」

「そういうこと……」

 

私は理解した。ハルマンが私がもし契約したらどうなるかの未来を一瞬の夢にして見せたのだと。

あれは全て夢。でも、これから先私がするかもしれない真実。

 

「あまな、騙されちゃ駄目だ!あれは全て夢なんだ!」

「つまり、夢の内容を知っているのね?あなたが私をどうするのか、この時点でもう決めてたのね」

「い、いやそれは……」

「さて、どうなさいますか?これでも魔道に足をふみいれると?」

 

私は答えた。

 

「ええ」

「じゃあ、僕と契約を……!」

「いいえ、まっぴらよ。私は私の力で魔法を手に入れてみせる。メフ君、優しい嘘をありがとう。殺すわ、あなたを」

「それはまだ決まってない未来じゃないか!」

「ええ、でも私のような子を何人も騙してきたんでしょう?報いの時よ」

 

魔法とは理論と技術。この体でも何の問題もなく使える。

道具がないのは惜しいけど、この間合いなら外さない!

 

『暴食の第五元素よ。復讐の槍となって我が敵を食め。肉を切り裂き、骨を刻み、霊の一片までも食らい尽くせ』

 

抜き手をメフ君に突き刺して掻き回して肉と魔力を抜き取る。

おぞましい色の血が散った。

私の体の中に魔力が戻る。いや、この世界線では初めてのことだろうけど。

 

「やるじゃあないか……未来の僕は相当君で稼いだようだね、惜しいことだよ」

 

メフ君の体が霧になって再構成される。ああ、その姿はまさしくスーツを着た悪魔。

美しい美男子のソレだ。ただ、頭に角が、尻に尾が生えている。

そしてメフ君は空を飛ぶ。ああ、たしかに今の身ではその高さまで飛べない。

 

「この場は逃げさせてもらうよ。君と戦っても何の得もない」

 

うやうやしく一礼して消えようとしたメフ君の胸に穴が空いた。

 

「何……!?」

「あいにくと私にはあなたに用事がありましてね。

あなたに騙された子供達の怨霊と、そして親御さんからの訴えがあるんですよ。

そしてなにより、私は悪党の勝ち逃げが大嫌いでしてね」

 

ハルマンの周囲にパチンコ玉のようなものが浮かんでいる。数は100どころじゃない。千か、万か。

 

「音速で飛ぶ魔法陣を刻んだタングステンカーバイト球です。空をとんでくれて助かりました。撃ち落としやすいですから」

「解った!逮捕される!だから殺さないで!」

「ああ、あなた、日本国民としての届け出もしてませんね?つまり保護されない野生動物なんですよ」

「待てまってくれ……あまな!助けて!」

 

私はにっこりと笑った。

 

「駄目よ」

 

その時のメフ君の顔は傑作だった。

 

「ちくしょうめ!死にたくな……!!」

「さようなら」

 

銀の弾丸に貫かれて、メフ君は血の霧になった。

 

 

「狭間」から抜けて、私はあの日の路地裏に帰ってきた。

思う存分泣いた。そして、立ち上がった。

 

「私はあなたを助けられなかった。夢とは言え魔道を見せてしまった。

あなたは、これからどんな人生を歩むのでしょう」

 

ハルマンが私の背中に尋ねる。その声には後悔があるようだった。

 

「さあ……?けど、もう路地裏は歩かないつもりよ。

私は私の人生を堂々と踏破してみせる」

 

夕焼けが落ちて、宵闇が迫ってくる。

だけど、私は夜を恐れずに歩く。今度こそ。

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