さん付けとかって書きづらいです
庁舎を、紺さんの後をついて歩いていくと、紺さんは急に足を止めてこちらへと振り向き、俺に訪ねてきた。
「そういえばさ、君の名前、なんていうの?」
さっき自己紹介をした気もするが、もう一度答えておこうか。
「…
「龍司っていうんだ…よろしくね、龍司。」
「…あ、ああ。よろしく。」
いきなり下の名前を呼び捨てられて一瞬困惑したが、彼女の性格がこうなので、別に特別なことでもないのだろう。
そして、彼女はすぐ近くにあった扉をくぐってその部屋に入っていってしまった。
「あ、ここが私たちの部屋だから、場所、覚えておいてねー…ぁぐっ!?」
入っていった部屋から彼女の声がしたので、扉の近くにあった札に目をやると、確かに第二魔導分隊と書かれていた。
それを確認すると、俺も扉をくぐり、中へと入っていった。
「いったぁ…なにすんのよ、
しかし、中へ入ると、紺さんは扉の近くで頭を押さえてうずくまっていた。
そして、その傍には京介と呼ばれた細身で長身の男がいて、彼の足元にうずくまっている紺さんを見下ろしていた。
「紺、今までどこにいた。勝手にいなくなるなといつも言っているだろう。」
京介さんの紺さんを見下ろす目は冷たいが、その目はやんちゃな妹を諭す兄のようであった。
「もー、ちょっといなくなったからっていきなり殴らなくてもいいじゃない…あんたみたいな脳筋に殴られると洒落にならないくらい痛いんだからね。」
しかし、紺さんはそんな京介さんを物ともせず、殴られた頭をさすりながら文句をたれて立ち上がる。
「不満ならもう一発いっとくか?」
「じょ、冗談だから、その握ってる拳を下げて?ね?」
両手を挙げて降参の意を示すと、紺さんは素早く京介さんから距離をとった。
「ふん。まあいい…ところで、お前が新入りか?」
京介さんは紺さんへと向けていた視線をこちらへと向けると、ぶっきらぼうに俺に問いかける。
「…はい。本日付けで第二魔導分隊に配属になった、青木龍司一等陸曹です。」
一拍遅れて、敬礼で返答する。
「そうか。俺は
佐々木さんは、俺に敬礼を返し、自分の名前と階級を告げた。
「これからよろしくおねがいします。佐々木三尉。」
姿勢を崩さないまま礼を失さぬよう返すと、佐々木さんは渋い顔になって俺を見る。
「あー…その、なんだ。俺も、あそこのバカと同じで堅苦しいのは苦手でな。できれば、敬語はなしで、下の名前で呼び捨ててほしい。」
離れたところから、誰がバカよ、と抗議の声が上がるが、誰も取り合わない。
類は友を呼ぶというべきか、先ほどじゃれ合っていた紺さんと佐々木さんは同類だった。
「ああ。よろしく…京介。」
紺さんの時とは違い、同性だからか、はたまた二度目だからかはわからないが、先ほどよりは戸惑うことなく呼び捨てられた。
「よろしくな、龍司。」
こうして、俺と京介が握手を交わしていると、いつの間に俺たちのすぐ近くに紺さんが移動してきていた。
そして、恨みがましく俺のことをジッと見つめてくる。
「ど、どうかした…?」
「いや、京介のことは呼び捨てなのに、私はさん付けなのかなって。」
さっきはさん付けでもいいと言っていた割に、早い変わり身だ。
「あー…紺。少し離れてくれないか。」
十数秒睨まれたのち、俺が折れると、紺は顔を華やがせた。
しかしそれも一瞬で、顔を赤らめて俺から距離を取る。
「そ、そういえば
気恥ずかしくなったのか、紺が急に話題を変える。
「まだ食堂で昼飯を食べているはずだ。どこかの誰かが急にいなくなるもんだから、俺はまだ食べていないがな。」
京介が嫌味ったらしく言うと、紺は申し訳なさそうに黙ってしまう。
「…まあ、今からでも軽食くらいなら食べられるだろう。食堂に行けば、桜花に会えるかもしれないしな。」
京介はそう言うと立ち上がり、部屋の外へと出て行った。
俺と紺はその後をついて、同じく部屋の外へ向かった。
京介の案内により、俺はこの庁舎の食堂に訪れた。
今日は休日だったため、食堂の人はまばらだったが、その中に一人だけ、俺達の
菓子パンと牛乳を三人分受け取った紺がその人の元へ向かっているので、どうやらその人が桜花さんらしい。
「待たせたな、桜火。」
そう言って、京介は桜火さんの正面に座る。
紺は桜花さんの隣に座ったので、必然的に俺は京介の隣、紺の正面に座る形になる。
「十分くらいしか待ってないから大丈夫だよ。」
大丈夫なのかそうでないのか曖昧な答えが返ってくるが、あくまでも本人は気にしていない様子で、興味深げに俺を見てくる。
「その子が新入りくん?」
「そうだ。今日から
京介に紹介され、会釈をする。
「そんな緊張しないでよ。私は
差し出された手を握り返すと、彼女はおもむろに立ち上がり、
「じゃあ、私は先に部屋に戻ってるね。」
そう言ったっきり、彼女は足早にその場を立ち去ってしまった。
「桜火は照れてるのよ。初対面の人は苦手らしくてね。」
呆然としている俺の正面で、紺は笑っていた。
「ああ、俺もそうだったな…」
隣では、京介が自分の過去を思い出してか笑っている。
「そうなのか…」
「でも、いざという時には頼もしいわよね。」
「そうだな。桜火の炎からは逃げられる気がしない。」
遅めの昼食の時間を、桜火さんの話で盛り上がり、部屋へ戻ると、ようやく第二魔導分隊全員が揃ったようだった。
次回あたりから本格的に魔術要素絡めていこうかなーと思っていたり