戦闘の緊迫感がうまく伝わってくれればいいなと思っております。
黒影
他の魔導士が皆一様に動きを止めている中、紺だけが走りだした。
その先には空間転移室があり、恐らくそこに向かうつもりなのだろう。
しかし、紺を遮るように現れた一つの影があった。
「貴女にはここで退場願おう。」
その影は、手にしている杖を紺へと向けると、男の声で何事かを呟き始める。
しかし、紺はそれに構うことなく突進していく。
そして、紺の姿が次の瞬間にはかき消えていた。
「…敵を貫け」
影が誰もいない空間へ杖を向け、一際大きな声で言葉を括る。
言葉が括られると同時に、影の持つ杖の先端から一条の稲光が
誰もいない方向へと放たれた稲光は、ただ空を切っていくだけに思えたが、なぜか稲光の射線上の虚空から紺が姿を現し、苦しそうにその場でのたうちまわる。
「…運の悪い奴め。魔力を遮断するそのローブを着ていなければ苦しまずに死ねたものを…」
どうやら、魔力を通しにくい素材でできている魔導科用のローブのおかげで致命傷にはなっていないようだが、影がトドメを刺そうと、紺の方へと向かう。
「紺!」
しかしそれを、桜火が影めがけて焔の矢を放って制する。
それを皮切りに、それまで動くことのできなかった魔導士達も、影に向かって攻撃を始める。
焔、剣戟、銃弾、突風、吹雪、様々な物が影に向かって飛んでいく。
「貴様らは誰を相手にしているのだ?」
しかし、それらが影に到達する直前に、影は俺たちの背後へと瞬間移動する。
そして、魔導士の一人が影の持っていた歪な短剣に首を切られ、大量の血を流して倒れた。
短剣の形は、大きく曲がっていて、大昔のヨーロッパで使われていたサーベルのようであったが、その刀身には、不可解な赤い文様が浮かび上がっている。
また、流れていく血の量は傍目から見てもわかるほどに人間が流すには多すぎる量で、切られた魔導士は間も無く絶命した。
だが、それを悼む暇もなく、一人、また一人と瞬間移動して背後に回った影に倒されていく。
「よくも俺の相棒をぉぉぉ!」
「…迸る紫電よ、敵を貫け」
一人の男が果敢に飛び出すも、影の投げた短剣によって喉元を貫かれ、絶命した。
絶対に勝てない。そんな予感が、魔導士達の胸の中に渦巻き始める。
「諦めるな!この戦いの雌雄を決するのは紺だ!彼女を治療できる魔導医はすぐに治療しろ!」
しかし、その思いを吹き飛ばすように、京介が
なぜここで紺の名前を出したのかはわからないが、その声を聞きつけた魔導医の一人が紺の元へと駆けつける。
「彼女を治せばいいのね?」
「ああ。頼む。」
駆けつけた魔導医の女性は、持っていた杖を紺の腰の横のあたりに突き刺すと、祈るように手を合わせて目を閉じ、膝をついて静かに言葉を紡ぎ始める。
「この地を作りたもうた我らが父、母よ。
彼女が言葉を紡ぐたび、紺の周りに地面に突き刺さった杖を中心とした光る円が形成されていく。
それは俺が錬金術で土の腕を作り出す時に時に使った魔法陣に似ていた。
「彼女が治療を終えるまで時間を稼ぐぞ!あの影を何としても紺に近づけるな!」
京介は治療が始まったのを一瞥し、さらに喝を入れる。
「…ちっ、面倒な。」
影は忌々しげに舌打ちすると、虚空に姿をかき消した。
逃げ去ったのかと思いきや、次の瞬間、魔導士の一人から悲鳴が上がる。
その悲鳴の方向に目を向ければ、消えたはずの影が姿を現し、短剣を左の胸元深くに突き刺しているのが見えた。
その光景に、魔導士達が再び戦慄する。
そして、影の姿が再びかき消える。
誰もが次は自分がやられるのではないか、そう思って固まっている中、甲高い女性の声がその場に響いた。
「舞えよ不死鳥、その焔を持って、我らを守る壁をなせ!」
その声の主は、桜火だった。
桜火が言葉を括ると同時、俺達の目の前に天高くまでそびえる焔の壁が出来上がる。
「よくやった、桜火!」
京介は、その焔の壁を見るや否や、身に風を纏わせ、目を閉じて感覚を研ぎ澄ませる。
そして、いきなり飛び出したかと思うと、虚空に向かって認識するのも難しい速度で両手にしている短剣を振り下ろし、さらに返した刃で十字を描くように下から切り上げる。
そして、その刃の軌跡上から、影が姿を現わす。
「…な、なぜだ…なぜ俺の姿が見える…?」
「いや、見えてはいない。ただ、お前は何も瞬間移動しているわけではない。自分の姿を幻惑の魔術で隠し、近づいてから首を掻き切っていたに過ぎん。」
影の能力の正体を説明しながら、その場から逃げようとする影の足を短剣で切り刻む。
「故に、お前は姿は見えないが、そこに存在してはいる。ならば、足音と焔の動きを見れば、大体の位置は分かる。あとはそこに刃を滑らせるだけだ。」
最後に、腕を切り刻んで、影の首筋へと短剣を突きつける。
「おい、お前の親玉は一体何なんだ!…アイツは…」
しかし、京介が何かを言いかけた途端、異変が起こった。
「ハ、ハハ、アーハッハッハッハ!あの女狐もなかなかやるな…!」
影がいきなり笑い出すと、その姿が徐々に虚空に溶け始める。
「ま、待てッ!」
京介が目にも留まらぬ速さで刃を振るうが、それは虚しく空を切っていくだけだ。
場を静寂が支配する。
その静寂が意味するものは、死んでいった仲間への追悼、現実を受け入れられないことからの無言、想像絶する出来事に対する思考停止だった。
しかし、まだ俺たちには倒さなければならない敵がいる。ここで立ち止まっているわけにもいかない。
「…京介、お前は、アイツや、アイツの親玉がなんなのか知っているのか?」
京介がなぜか異常に影の能力について知っていたため、今回の黒幕やあの影について知っているのではないかと思い、京介を問いただす。
「…ああ。それよりも、紺は?」
「おい、知ってるんなら話してくれよ!…アイツのせいで、何人も…!」
京介は知っているようだが、決して話そうとはしない。
俺を無視して紺のいる方へ歩いて行くと、紺を治療していた魔導医に話しかける。
「…ええ。完全に治ったわ。ただ感電していただけだから、しばらくすれば目も覚めるわ。」
魔導医の女性は
「…そうか。よかった…」
「それより、知っているなら私も話してほしい。私の仲間も何人か…」
「ああ。もちろん話そう…だが、それは紺が目覚めてからだ…これはあいつに深く関係することだからな…」
そう言って、京介は紺の傍に腰を落ち着ける。
いつの間にか、京介の隣には桜火が座っており、その表情には、苦悩が色濃く浮かんでいた。
どれくらいの時間が経っただろうか、一時間だろうか、はたまた一分だろうか。
空がまだ完全に暗くなっていないということは、おそらくそんなに時間は経っていないのだろう。
しかし、その時間を一時間と知覚するほどに、極度の緊張が時間を引き伸ばしていた。
そして、紺が目を覚ます。
目を覚まして寝ていた体を起こし、首を巡らせて京介を見る。
「…私…一体何して…」
「敵によって、一時的に戦闘不能に追い込まれていた。魔導医が治療は施してある。」
頭のはっきりしていない紺に対して、京介は落ち着けるようにゆっくりと状況を説明していく。
「…そうだ…アイツが…またアイツが…!」
そして、意識と記憶が戻ってきたのか、紺が取り乱したように興奮し始める。
しかし、京介はそんな紺の腕を引き、引き止める。
「お前一人では奴に太刀打ちできん…それより、奴のことをここにいるものに説明すべきだろう。」
取り乱している紺に対して、あくまで京介は冷静だ。
その様子に、紺はだんだんと落ち着きを取り戻していく。
そして、紺は辺りを見回して状況を確認すると、おもむろに立ち上がって話し始める。
「…みんな、ごめん…」
最初に彼女の口をついて出たのは謝罪だった。
「アイツは…あの獣人は…私なの…」
次に続いた言葉で魔導士たちの間に衝撃が走った。
「…こいつの言っていることは真実だ…そして、俺たちが殺したはずだった。」
そして、京介と紺によって過去が語られていく。
なんか思ってた以上に戦闘シーンの文字数少なくなってしまいました。
以後もっと長くできるように工夫します。