ガンダムSEED×00~異世界にイノベイターは何を思う?~<完結>   作:MS-Type-GUNDAM_Frame

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なんだかんだで予定通り更新。
次からは話が出せるかどうか活動報告に乗せようかと思います。
今週は更新あるのかな~とか思ってくださる方は、基本土曜日までには出しますので確認してみてください。

話を考えてみると盟主王のセリフばかり浮かぶ・・・
やっぱ檜山さん(盟主王の声優さん)すげぇよ・・・


40話:連合盟主アズラエル

見通しが甘かった。そうとしか言い様がない。ストライクの腕は確かに封じられていた。味方からは遠く離され、ネットの射出罠や簡易的な落とし穴等多彩なトラップを施したこちらのホームグラウンドでの戦いを強いられている。

それなのに攻めきれない。むしろ押されている。攻めれば必ずその場で凌がれカウンターをもらい、トラップにかけようと退けば全く同じ機動を描いて追ってくるためまるで当たらない。

そんなことは不可能と思ってはいたが、どうやら接地面も全く同じ部分を使っているらしい。

友人はしばらく目を離した間に想像を遥かに超えた怪物と化していた。

 

都合十度目の攻撃。ビームライフルでは完全に電力の無駄だと判断したため、ビームサーベルで刺突を繰り出す。

今度こそはと思ったが、ストライクは足を使って体を淀みなく捻り、まるですり抜けるかのように躱してしまった。続けて、ストライクから捻りを反動として利用したミドルキックが繰り出された。

流石に何度もカウンターは食らうまいと残心があったため、左手で受け止めた。

何度も移動を繰り返せば、最終的にはトラップの配置を読まれてしまう。次の手を考えるためにも、イージスは積極的に手が出せなくなっていた。一方、ストライクも足だけでは攻勢に移れないため、またトラップの配置が見切れていないため動けないでいた。

 

じりじりと消耗戦になった。両者ともにコクピットの中ですら動かないが、明らかにキラの方に精神的余裕がある。次の手と相手の出方を必死に考え続けるアスランに対し、ただじっと動きを待つキラ。

今二人の様子を同時に見られるカメラがあれば、目を閉じて調息するキラと、どんどん汗を流して憔悴していくアスランが観られただろう。

 

そして、最後の一手が外から切られた。

 

『アスラン、狙撃は失敗だ!しかも奴らが!』

「落ち着けディアッカ!どうしたんだ!奴らってなんだ!」

『連合のモビルスーツだよ!新型の!奴ら遂に量産に・・・クソっこんなとこまで・・・撤退しろ!アスラン!』

 

時は既に遅かった。

ストライクとイージスが戦う戦場とアークエンジェルの中間地点で戦っていたディアッカはまだしも、アスランは完全に包囲されていた。況してや、ストライクのような自立飛行能力もない。

 

「ははは・・・詰み、か」

『おい、アスラン!?』

「俺は置いていけ!」

『何言ってる!お前隊長だろ!』

 

当然、食い下がる。だがアスランは、この状況で一人のために隊員を犠牲にする方が愚かだと考える。だから、此処で言うべきは・・・

 

「頼む・・・隊長命令だ・・・」

『くそ・・・ずりぃぞ、それ』

 

そうは言ってもしっかり三機とも撤退していくのは、ザラ隊のメンバー全員が義理堅い性格をしているということの証左ではないだろうか。

そうして、アスランはイージスに諸手を挙げさせた。

 

「ZAFT所属、モビルスーツパイロット、アスランだ。投降する」

 

姓を明かさなかったのは、人質としての価値を作るまいとするアスランのささやかな抵抗だった。だが・・・

 

『始めまして、アスラン・ザラ。君の身柄は僕が預かります』

 

オープン回線で顔を見せたのは、水色のスーツに身を包み、金色の髪を左右に撫でつけた男だった。アスランは、二重の驚きで声を引き攣らせた。

 

「お前は・・・!」

『おや、ご存知でしたか。そう、僕はブルーコスモス盟主、ムルタ・アズラエルです。以後お見知りおきを』

 

その顔には、底の知れない笑みが張り付いていた。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「さて、君がストライクのパイロット、キラ・ヤマトくん・・・ですね?」

 

アークエンジェルのデータを基に新規で造られたらしい戦艦に、キラは乗っていた。現在位置は艦中央部、アズラエルの執務室だ。目の前にはアズラエルが満面の笑みで座っていた。

 

「まあ来てください。お茶でも出しましょう。紅茶で構いませんね?」

 

キラがおっかなびっくり頷くと、アズラエルが呼び鈴を鳴らし、給仕がやって来ていそいそとお茶を注いだ。香りだけでも、昔家で飲んでいたものとはレベルが違うことが伺える。

口に含むと、柑橘類のような爽やかな香りが鼻を通った。

 

「落ち着きましたか?」

 

紅茶に一瞬心を奪われていたが、目の前にいるのは世界のコーディネーターを弾圧している組織、ブルーコスモスの盟主なのだ。気を許しては危ない、と居住まいを正した。

それを見たアズラエルは、ふふんと笑って紅茶を口に含んだ。

 

「君に害意があるなら、その紅茶に口をつける前に死んでいますよ。

まず、誤解の無いように言っておきましょう。僕は、コーディネーターであるかどうかなんて至極どうでも良いことだと思っています」

 

それはどういう事だろうか、と。まずは言葉の続きを待った。すると、アズラエルは笑みを深くして紅茶をもう一杯口に含んだ。

 

「冷静だね・・・実に僕の好みですよ。では続きですが・・・

僕が気にしているのは優秀か否か・・・つまり、コーディネーターに特別な敵意は持っていない、ということです。さっきの給仕だって、コーディネーターですよ。

ただ、プラントの連中は違いますがね。何故だと思います?」

 

キラに思い当たったのは、目の前の人物が途方もない金持ちではないか、ということだった。そこから考えれば、いくつか絞ることが出来る。どうも、この人物は損得勘定が第一のように思える。つまり・・・

 

「プラントの建築に出資していた・・・でしょうか?」

「素晴らしい!そう、現在プラントは評議会が政治を行っていますが、本来は建造のために出資した理事国が統治する予定でした・・・ですが、現在のプラントと評議会・・・昔は黄道同盟と言いましたか。彼らがプラントを奪取し、地球から不満を持ったコーディネーターを集めて建国し、今に至ります」

 

アズラエルが机に書類を置いた。そこに書かれていたのは、精巧なコロニーの設計図だった。

 

「これは・・・」

「砂時計型スペースコロニーの設計書・・・うちの部下が描いたものですよ。最も、プラントが奪われて数か月後に、心労で倒れましたがね」

 

表の人間は、プラントにコーディネーターが国を作ったとしか知らない。だが、裏ではシャレにならないほどの損害が計上されているのだという。

 

「当初、コーディネーターは優秀な作業員として雇われました。現場では当然ナチュラルもいましたが、蜂起の際に止めようとした者は銃殺・・・こちらもうちの財閥から死人が出ています」

 

コーディネーターとして、キラには少なからずプラントへ寄せる気持ちがあった。だが、キラにはプラントを奪った人間の考えがあまり好きにはなれなかった。

 

「最も、僕たちも利権のために兵士を死なせている・・・似たようなものです」

 

空になったカップをカランと皿に置き、アズラエルは深く息をついた。

 

「僕は、人が死ぬのを好みません。全ての人間は顧客にも労働力にもなり得るからです。だが、プラントの評議会。奴らにだけは裁きが必要だと。そう考えています。

今日、君とこうして話をしたのは、連合の責任者として僕の考えを、トップパイロットに聞いてほしかったからです・・・もう二度と、血のバレンタインは御免だ」

 

呼び鈴がもう一度鳴らされ、再び給仕が入ってきた。

 

「アークエンジェルから迎えが来ています。一緒にアラスカに向かいなさい・・・そして、考えて欲しい。この戦いの終了条件を」

 

案内を、とアズラエルが告げると、給仕はティーセットをもう一人の給仕に渡し、こちらへどうぞ、と言って歩き始めたが、アズラエルがキラを呼び止めた。

 

「これを」

 

手渡されたのは名刺だった。

 

「君のことは個人的に気に入りました。アズラエル財閥へ入社したいならいつでも連絡してください。それは僕への直通です。あまり周りには広げないでくださいね?」

「ありがとうございます・・・」

 

愛想笑いを浮かべるキラに、もう一つアズラエルが続けた。

 

「そうそう、君の友人は無事にプラントへ送り返します。もちろんイージスは返してもらいますがね」

 

驚くキラだったが、きっと金持ちには想像もつかないような情報網があるのだろう、と一人で納得した。では、と手を振るアズラエルにお辞儀をして、今度こそ迎えの待つモビルスールドックへ歩き始めた。

 

道の中頃で、給仕がキラへ話しかけてきた。

 

「理事の名刺を頂くなんてすごいですね・・・連合の幹部でも持っているのは数人らしいですよ?」

「そんな貴重品だったんですか・・・」

 

エレベーターへのスイッチを押して乗るように促された。軽くお辞儀をして乗り込んだキラに、話が続く。

 

「理事は、よほど気に入った人間にしか直接は取り次がせません。私も、面接だけで半年かかりましたよ」

「自分で望んでここに?」

「執事の養成学校にいたんですよ。バトラーに成るのが昔からの夢だったんですが、ある日学校に理事の部下が来ましてね。アズラエル財閥で働いてみないか、とね」

 

それで、と続けた給仕は、扉を開いて先に出るように促した。

 

「スカウトを受けたのは嬉しかったですし、その場で話を受けました。すぐにそれなりの地位にはつけてもらったんですが、今はもう少し出世して理事の御着きになっています」

 

アークエンジェルと似たようなドアが開き、いきなり目の前が眩しくなったことで少し瞼が絞られる。

 

「あちらでお待ちなのが、アークエンジェルからの迎えです」

 

そこにいたのは、スカイグラスパーを降りて、女性整備士を口説いているムウ・ラ・フラガだった。

ゴホン!と給仕が空咳をして注意を引くと、すぐに向き直ったがいたずらっ子のような顔をしている。キラは心のスケジュール表に艦長への告げ口を追加した。

 

「では、連絡をお持ちしております。ご武運を」

 

見事な礼をして、燕尾服を着た給仕はキラを見送った。また、ムウは懐かしい物を見るような目で給仕を見ていた。

 

「どうだった?」

「理事ですか?」

 

当然聞かれるだろうな、と思っていたキラは、考えていたことを直に伝えた。

 

「ブルーコスモスの盟主とは思えないような人でした」

「だろうなぁ・・・」

 

ムウからすれば、無事に帰ってきた時点でそれなりに真っ当な人間を予想していたからだ。

 

「で、連絡ってのは?」

「スカウトを受けたんですよ」

「マジか!」

 

アークエンジェルに着くまで、ムウの驚きの声は途絶えることは無かった。

そして翌日、キラはのどを痛めた。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「君に伝えて欲しい事は一つです」

 

こちらは先ほどのキラの出発から数時間後。パナマのマスドライバーでの事だった。

 

「君の父、パトリック・ザラにです。我々は、評議会のメンバーの引き渡しと君たちが占拠しているプラントの建築費用、それのみを支払えば和平を結ぶ準備がある。そう伝えて欲しいのです。詳しくはそちらで書面にまとめていますので、そちらを渡してくだされば結構です」

 

スペースシャトルの中で、アスランは拘束すら受けていなかった。人体実験でも受けると思っていたのとは裏腹に、条約に基づいた捕虜としての扱いを受け、しかも即日で釈放されたのだ。

 

「・・・父には、確かに伝える」

「ふふ、頼みましたよ」

 

この文章は、確かに和平の先駆けになればそれで良い。そうでなくとも、十分な仕掛けになる。

発射前のシャトルから出たアズラエルは、肩を震わせて笑っていた。

 

「これで、プラントに出資した莫大な負債も取り戻すことが出来る・・・フフフフフ・・・ハハハハハ・・・ぃやったぁー!」




有能アズラエル、キラを口説いた挙句アスランを使ってプラントを揺さぶる策略を仕掛けるの巻き。
子供のころコーディネーターの子供に負けたのは、奴も部下にしてしまえばいいんだ!と吹っ切れています。完全な商売人・・・しかも情あり・・・
ちなみにキラ君に語った人情溢れる話は7割5分本気で、残り2割5分は落とし前付けたろうかとか考えてます。

おまけ:プロフィール

・給仕
執事の養成学校に入学していたところをアズラエルの部下にスカウトされる。紅茶を入れるのが非常に得意で、事務仕事も一般的な会社のたたき上げ専務くらいにこなす。有能だが恐らく二度と出ない。
本名はギルベルト・シュタイン。名前と違ってイングランド系。31歳。もちろん男。
見た目は黒執事のセバスチャンでどうぞ。

・ムルタ・アズラエル
現在30歳。アズラエル財閥の御曹司。趣味は商売を成功させることという超一流のワーカホリック。自分以外の人間はすべて将来の顧客だと思っているため、あまり人が死ぬのが好きではない。
GATシリーズにも出資しているのでストライクの親ともいえるかもしれない。(此処での設定です)

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