ガンダムSEED×00~異世界にイノベイターは何を思う?~<完結>   作:MS-Type-GUNDAM_Frame

53 / 60
そういえば前々回日刊ランキング3位まで行ってましたね。正直ビビってまともに話が浮かばなかったという・・・
でも応援ありがとうございます。
前回はなんだか作者としてもうーん?みたいな出来だったもので先々週から書いては消して書いては消して・・・

それと、とある方にやんわりと指摘を頂いた時に気が付いたのですがコメント付き評価、前回初めて見ました。率直に言うと泣きそうです。ありがとう、本当にありがとうございます!

追記
設定にツッコミをもらいましたので少々話が変わると思います。今日の夜12時に変更を加えますのでお暇な方は確認どうぞ。

追追記
更新しました。


45話:命捨てるは誰が為

朝。マスドライバーにセットされたアークエンジェルは、否、連合とオーブの合同部隊が出発の時を待っている。そんな最中、オーブで建造された宇宙艦、クサナギでは、親子(より正確に言うなら親父)による寸劇が繰り広げられていた。

 

「父上・・・カガリはオーブの脅威を払うため、行ってまいります!」

「カガリ・・・カガリよ・・・おお、我が娘はこんなにも立派に・・・ウウゥ」

 

管制官たちも、最高責任者であるためにいくら茶番とは思っていても何も言えずにいたが・・・

 

「はい、時間が押していますのでそこまででお願いします。はい、拘束完了・・・発射時刻まで開放しないでね?」

 

合理性の塊であるシモンズ主任が、スケジュールが押しているからとSPに拘束させて連行させた。

 

『アークエンジェル、発射シークエンスに入ります。乗員は耐G姿勢をとってください・・・』

 

月の位置、地球の角度、気温、湿度、エトセトラ・・・いかなる幸運か、今日は打ち上げにもってこいの条件がそろっていた。もう一世紀以上も前から、世界では宇宙への打ち上げが行われている。そうして現在という技術の最高到達地点まで欠片も変わらないのは、体に懸かる慣性力だ。

 

「なあキラ」

「なんですかムウさん」

「覚悟、決めときな」

 

パイロットが詰め込まれた発射待機用の垂直ベッドで、ムウが差し出したのは、耐G訓練で使用するマウスピースだった。

 

「これって・・・」

「向こうで彼女と会った時?舌が無くちゃ話せないだろ?」

 

顔を赤くしながらも素直に受け取ったキラを、ムウはによによとした顔で見ている。反論しようにももごもごと話せないキラを見て、今度は計画通り、と悪い顔になった。

 

と、丁度ここで打ち上げが始まった。最初はゆっくりと、次第に強く、壁に押し付けられる。

 

「・・・!・・・!!」

 

声を出していなくても、キラが何か言いたそうだということは分かる。ただ、キラ同様に全パイロットが声を出せるような状況ではなかった。

そうした凄まじい加速度の中でも、アークエンジェルがレールに沿って緩やかに曲がるのが感じられ、遂に三半規管が上を向いたことを知覚し、加速が終わった。

 

キラは口に手を入れてマウスピースを外した。

 

「これ、もう飛んでます?」

「ああ、飛んでいるな」

 

海上を航行していた時とは違うゆらゆらとした不安定さが、いままでの低空飛行とは違うのだと感覚に訴えかけてくる。三人そろってブリッジへ向かうと、ノイマンを除いた全員がゆったりと寛いでいた。

 

「無事終わって良かったですよ。後はオートパイロットに任せるだけでいいんですよね?」

「良くないぞケーニッヒ二等兵!オートパイロットじゃ!操縦が!できないだろう!?」

 

打ち上げは無事終了し、月と地球の間を真っ直ぐに、しかし弧を描いてアークエンジェルは昇っていく。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

月の重力が支配的に変わり始めた地点で、アークエンジェルは月の目的地に向けて()()()()()

ふとキラがレーダーを見てみると、後方にはしっかりとクサナギが付いて来ているらしい。顔を上げてみると、目の前の窓には一面の工業地帯が映っていた。

 

「現在、地球圏の工業はその大部分が月へ移行している・・・質量の影響はあるが、地上へ落下し難い分建築コストも安くて済むというわけだ」

 

艦長の言う通り、月には地球圏の工業がかなりの割合で存在している。それは、コズミックイラの暦が使われ始めた頃、地球外での建築ノウハウが実用段階まで達し、資材を運ぶコストが建築コストの差分と月の土地代の合計を下回り始めた時に始まった。

月でしか作れない特殊な合金もある。アストレイのフレームもその一種で、通常、混ぜ合わせた時に、軽い金属と重い金属は分離する。だが、月では地球の6倍金属の重さが影響し難いため、地球よりも滑らかな「偏り」を実現できるのだ。そうして生まれた偏りがある硬度は、金属に今までにない強さを与えた。

 

キラが眼下の工場で作られ続ける製品に思いを馳せている間に、アズラエル財閥の所有する宇宙港が近づいてきた。ここ、アズラエル財閥の宇宙港の桟橋は最新式で、宇宙と生活スペースが特殊なゲルの流れで遮断されており、時間をかけて空気を出し入れする必要が無い。

無駄が無く素晴らしいと、アズラエルは案が出た時直ぐに採用した。

 

透き通ってはいるものの、表面形状から歪んで見える向こう側には既に一隻の船が係留されていた。岩山をくり抜いて作られた港が、薄く青に光る口をぽっかりと開けて待っている。

ブリッジからはゲルの遮断幕を通り抜ける時、厚さが1メートル近くもありそうなゲルの断層が見て取れた。

 

完全にアークエンジェルがゲルを通り抜けた後、ブリッジに通信のコール音が鳴り響いた。

 

『ようこそ、アズラエル財閥第七工業地帯へ。アークエンジェルの皆様は三番ドックへ停泊してください』

 

今時に珍しく画像なしの通信はどうやら人工知能が発信しているらしい。ノイマンは歓喜の表情でミリ単位で着艦して見せると鼻白んでいたが、艦長に頭を叩かれて考え直すよう言われていた。横のムウが「まさか怒られたくてわざと」と呟いているのを聞いてしまったキラは笑いを押さえるのに必死でそちらは聞いていなかった。

 

数センチ単位で着艦したアークエンジェルから降りた乗員たちを出迎えたのは、秘書と(おぼ)しいスーツ姿の麗人だった。

 

「改めまして、ようこそ。こちらで理事がお待ちです」

 

後ろでヒソヒソと、「あんな美人が秘書!羨ましいー!」とか、「なに鼻の下伸ばしてるの!」などなど聞こえてくるが、キラはあの若さで秘書なんてきっとすごく優秀なんだな、と直接アズラエルに面会した人間特有の感想を抱いていた。

秘書は、ざわつく乗員を完全に無視し、短く「どうぞ」とだけ言って踵を返した。美人がやればなんでも絵になるらしく、一挙一動に小さくざわめきが上がる。正直少々うざったいが、ともかく全員が動き始めたため着いていく。

 

斜め下に伸びる動く歩道を下ると、突然目の前が開けた。アークエンジェルの個室より五倍は広い部屋で、アズラエルが窓の向こう側を黒いどう見ても不透明なバイザーを装着して見ていた。

 

秘書が部屋の壁に設置されたボタンを押すと部屋にジリジリと音が響き、アズラエルがバイザーを外しながら立ち上がった。

 

「失礼しました。皆さんようこそ私の城へ、さ、座って下さい」

 

アズラエルが何やらリモコンを押すと、ほとんど何も置かれていなかった部屋のタイルが割れ、丁度乗員が座れる数の椅子がせりあがってきた。驚く乗員を満足そうに見ながら、アズラエルはバイザーに繋がれたマイクに話しかけた。

 

「あー、君たち、そろそろ戻って来なさい。作戦行動を共にする相手とコミュニケーションをとるのは大事ですからね」

 

返事が微かに響いて、窓の向こう側に三人の人間が現れた。ハンドサインで入ってくるように指示を出すと三人は窓の端に消え、扉から入ってきた。

 

許可証持ち(ライセンサー)、オルガ、クロト、シャニ入りますよー」

「ええ、おつかれさま」

 

同時に、三人組の後ろから給仕がカートを押して入ってきた。

 

「アメリカ人ですのでコーヒーで歓迎しましょう・・・かの砂漠の虎ほどの味は保証しませんがね」

 

砂漠の虎はアークエンジェルがアラスカに到着した時点で軍に引き渡され、先日の基地崩壊からも生還。現在はパナマの収容所に収監されているが、その戦功と気さくな性格から看守ともそれなりによくやっているらしい。

 

「さて、時間も有りませんので手短に。ギルベルトくん?」

「はい」

 

以前キラと少し話をした執事が、手早くアークエンジェルのメンバーに書類を手渡していく。

キラの書類を覗きこんだトールが一言。

 

「あれ?俺のと内容が違う」

「ああ、役職ごとにスケジュールは違いますよ?」

 

連合の要人と早くに協議を済ませ、秘書に分業させて全ての役職のスケジュールを作成させたらしい。

 

「シミュレーターを用いた合同演習・・・休憩、食事含む・・・出発・・・これだけですか?」

「これだけとは言ってくれますね。まあ片手間で作らせたことは否定しませんが、今回の訓練はかなりのものに成ると思いますよ?」

「確かに、その通りですね」

 

聞き覚えのある声に、キラはきょろきょろと辺りを見回し、オーブの軍服を発見した。

 

「レドニル・キサカ、オーブ宇宙軍一佐。ただいま到着いたしました」

「遅れてすまない、理事」

「いえ、時間通りです。座ったままで失礼。そちらへお掛けになってはいかがでしょうか、アスハ代表代理どの?一佐も」

 

立ち上がって首を垂れるアズラエルに、では失礼して、と二人は新たに出現した椅子に腰かけた。

 

「話は中継で聞かせていただいておりました。わが軍のパイロットも含めた合同軍事演習・・・の、シミュレーションというわけですな?」

「その通り・・・ただし、慣性まで再現された高級仕様品ですのでそれなりの臨場感は出るかと・・・」

 

先に入ってきた三人組のパイロットたちは、あれか、といった感じで顔を見合わせている。事実、先ほどまで彼らが使っていたものがそれだ。

 

「あー、それと、スケジュールに休憩とありますがそれは絶対です。もし私の方で休憩になっていないと判断しましたら・・・防衛設備の麻酔ガスで眠っていただくことになりますので」

 

冗談というには目に込められた意志が強すぎる。

 

「では、作戦を開始しましょう。そこに書いてある通り、γ線レーザーの性質上戦艦を総動員しての物量作戦は効果が薄いでしょう。私は無駄なことは嫌いですし、要は君たちの活躍に懸かっているというわけです・・・失敗が何を意味するかは分かりますね?

機体の損失、人材の損失、人類(顧客)の大幅な減少、投資の債権回収失敗を意味する最悪の結果だけが残ります。失敗の無いように、各自最善を尽くしなさい。以上、解散!」

 

随分自分勝手な事を言っていたような、と首をかしげたが、とりあえずやることはやるべきだろう。ちらりと見たスケジュール表の裏面には、スケジュールにおける必要性が簡潔に纏められていた、が、キラは敢えて見なかった。あれほど立場のある人間が、自分に頭を下げた時のことが忘れられなかった。無駄なことは何一つ無いのだろう。

 

「キラ、置いてくぞ」

「あ、ムウさん、すいません」

 

案内に置いて行かれそうな自分を待っていてくれたらしい。ありがたいと思った。

 

「スケジュール、なんて書いてありました?」

「遂に機体がもらえるんだとよ」

「訓練が報われる時が来たな」

 

ムウも待たれていたらしい。曲がり角に刹那が立っていた。

 

「お前でも冗談を言うんだな」

「人間だからな」

 

本人のみ知ることだが、酷いブラックジョークだと刹那は思っていた。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

グリニッジ標準時刻、10時。全員が港の桟橋に集合していた。訓練は内容こそ濃かったものの、一時間に一度見回りに来る理事が途中でストップをかけたため疲労がたまる前にお開きとなった。

集まった全員の目には、抑えられないエネルギーが迸っているようだ。それは十分な休息に拠るものでもあり、全員が共有する世界を救うのだという目的意識にも依るのだろう。

古来から将があの手この手で求め、作り上げてきた錦の御旗、大義名分。最初から用意されているようなものだ。正義のためならば、と、人は死力を尽くす。

 

「ええ、休憩を強制した甲斐があったというものです。では出航しましょう」

 

ムルタ・アズラエル大西洋連合理事は、財閥が建造したらしいアークエンジェル級二番艦、ドミニオンに乗り込んだ。

カガリ・ユラ・アスハ代表首長代理はオーブの技術の粋を凝らしたクサナギに乗り込んだ。

ナタル・バジルール艦長は、最新鋭にして歴戦の不沈艦、アークエンジェルに乗り込む。

 

『全艦発進』

 

力強いながらも、どこか感情の抜けたアズラエルの声が三隻の戦艦に響いた。全艦が見事な反転を見せ、出口へと舳先を向ける。オーブの時とは異なり、計算された角度に向いた出口は、重力まで考慮した最短航路を指している。

 

「オートパイロットには負けないさ!」

「イーゲルシュテルンの制御は任せてください!」

 

乗組員の気鋭も十分だ。斯くして、三隻の船は放たれた矢のように月を離陸した。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

プラント支配圏・ヤキンドゥーエ宙域にて。

 

道中は、今までの攻勢は何だったのかというほどに静かだった。罠を警戒して最大限注意しながら進むも、これといって障害は無く、不気味なまでに静かな旅路は基地の直前まで続いた。

 

「これをどう見ますか?」

「どうもこうも・・・いや、遂に頭がおかしくなっちまったていう可能性もありますね」

 

艦長のつぶやきに、チャンドラーがため息をつきながら答えた。何の先触れも無く、ヤキンドゥーエの防衛ラインにそれは現れた。

 

「どうしたんだキラ?行かないのか?」

「いや、敵の部隊にちょっと違和感があって・・・」

 

キラにはそれ以上感覚を他人に説明できなかった。何でもないと言って発言を取り消し、パイロットスーツを着たままここまで来たために格納庫へと直行する。

 

「キラ・ヤマト、エールストライク発進します!」

『ムウ・ラ・フラガ、ガンバレルストライク・改二、出るぜ!』

『ソラン・イブラヒム、エクシア・アストレイ目標を駆逐する!』

 

三機は散開して、オーブ部隊の戦闘を守る。離れ際に、刹那からキラに一つ伝言が渡された。

 

『キラ』

「なんですか?」

『今回の敵は何かおかしい。気を抜くな』

 

ソランさんがそんなことを言うとは。信じられないという気持ちと、違和感の答えのようなものに触れられた気分がぶつかって、キラは拳を握りこんだ。

 

だが、疑問を整理する暇もなく、周囲は狂乱の戦場へと変貌していく。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

絡みつくような殺意と迫る手からするりと身を躱し、刹那・F・セイエイは今度こそ間違いなく敵の「脳」を刺し貫いた。

 

「厄介だな・・・」

 

多少の欠損では怯みもせず、コクピットを半壊させたとしても尚迫りくるZAFT防衛軍に、刹那が漏らした一言がそれだった。月で合流したアズラエルの部下、オーブの防衛軍も奮闘しているが、敵にはおおよそ人間らしい感情が感じられなかった。他の感情が混ざる余地もない、透明ですらある純粋な殺意。

複数の敵機に組みつかれ、自爆で吹き飛ばされた僚機をみて、思わずキラに確認を取る。

 

「アストレイ部隊、下がれ!キラ!ディスターバーランチャーは無事か?」

『遂に僕の安否は確認しなくなりましたね・・・はい、無事です。フォビドゥンのシールド、すごいです・・よっ!』

 

声は平静だ。だが、刹那にはキラの疲労の色が見える。

 

「・・・目標は近い。気を抜くな!」

 

ストライクがフォビドゥンの背後からビームを放ち、フォビドゥンがゲシュマイディッヒ・パンツァーを利用した軌道制御で周囲の敵に叩き込む。雲霞のごとくだった敵影も、徐々に減ってきていた。

 

こちらも被害は大きいが、遂に戦果と呼べそうなものが目に入りだした味方の士気は落ちていない。敵方もそう判断したことだろう。だからこそ、このタイミングでそれは来た。

 

『なんだアイツは!?はやすぎ・・・る・・・』

 

あっという間に、味方の識別信号が四つ途絶えた。アストレイのパイロットに知る顔がいないことを確認して少し安堵しつつ、ビームライフルを消えた僚機のあった方向へ構えなおす。

 

「シャニさん?4時、15時の方向にです」

『あの赤いやつ?』

 

カメラが映し出したそこには、血のように赤いモビルスーツが浮遊していた。その両手の甲と足の側面には、輝く何かが懸架されている。その装備が武芸者の具足のようなものと判断したキラは、フォビドゥンにランチャーを預け、同時にアタッカーとサポーターのポジションをスイッチした。

 

「あれは・・・やばそうですよ」

 

最早ベテランと言って差し支えないパイロットであるキラは、その隙の無さに嘆息していた。

構えの隙は、全てあの輝く盾で守れる部分に集中している。ならば、それは相手の形を崩すためにある隙なのだろう。攻める隙を見つけられずただ守りを固めて佇むキラに、赤い敵は勢いよく加速した。

右の握る手が大きい?暗器だろうか?

一合目の短いビームダガーの突きを角度をつけた盾で弾き、膝蹴りを見舞おうとした敵の太ももを蹴り足で抑えて機先を制したキラは、つま先から伸びるビームサーベルを半身になって躱し、相手の特性について頭の中でまとめ始めた。

 

動きの特徴を今まで見た例に強引に当てはめると、ムウが最も近い。恐らくは軍隊格闘をモビルスーツで再現しているのだろう。三合目、潰された蹴りから繋がれた背撃を右手をクッションに吸収し、その動きにあまりに淀みがないことに驚いた。キラはOSを自分に合わせて一戦一戦でカスタマイズを続け、意図的に動きの型を選び続ける事で操縦しているが、目の前の敵は似たような動きこそあれ同じ動きは無い。

クッション作用を利用して離した距離をさらに維持するべく、右肩付近へ三点射を入れる。敵は、二発を躱して最後の一発を盾で弾いた。そのまま体を沈めた動きで近くの残骸を蹴り、ストライクへ再度接近する。

 

今度は、左に通常より太く見えるビームサーベルを装備している。シミュレーターで見たフリーダムの解析結果を思い出した。

 

「一発でシールドがダメになったアレか!」

 

高出力ビームサーベルの斬りつけを、腕を押して逸らし、腕の付け根を蹴り飛ばして再び距離を取る。

 

執拗な目的への追従、動的なマニューバの生成、センサと一体化したかのような反射神経。敵機は人工知能が操縦しているのかと考えたキラだったが、事実はそれ程軽くは無かった。

 

敵機が迫り、再度向けられたダガーを払おうと配した左手を、ダガーを捨てた右手が人体ではありえない角度の手首の曲げに捕らわれた。そうして、敵機はつかんだ左手を引きながら右足で強烈な蹴りをストライクの腹部へと当てた。

 

だが、キラを襲った衝撃はその前に来ていた。接触回線で流れ込んだ声を、キラは聞いた。その言葉の内容に比べ、あまりにも薄い感情。聞き覚えのあるその声。

 

『俺は敵を討つ・・・父上の(テキ)を討つ。母上の(カタキ)を討つ』

「アス・・・・ラン・・・?」

 

直後、コクピットが後方にブレた。前方に揺さぶられていた体を急速に振り戻され、キラの意識はブラックアウトに近い状態へ落ち込んだ。後方の斜め上からキラを守るように発射されたビームと、それに釣られてターゲットを変えた赤いモビルスーツは、キラの目には映っていなかった。

ただ、目には映らずとも脳は少し働いている。キラの走馬灯が色濃く映し出したのは、つい先日の事だった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「なあ、お前はどうして戦ってるんだ?」

 

聞く人によっては深遠な質問と取るのかもしれない。ただ、キラには目の前の男、オルガ・サブナックがそのような遠大な意図は持たず、ただ頭に浮かんだ疑問を口にしただけなのだろうと判断して答えを口に出してみる。

 

「最初は巻き込まれた友達を助けたかったんだけど・・・今は、いや、今も同じだと思う。地球を守ることで結果は同じ、守ることになるでしょ?」

「おお・・・立派なことだぜ」

 

いつの間にか大きなものを守るようになっていたな、と今更ながらキラは苦笑する。

 

「守るために、か。育ちが良いんだな」

「?」

 

同じように笑っていたオルガは、ぽつりとそう呟いた。キラは、発言の意図がつかめなかった。もちろん、今日入港した基地で出会い、高々1時間。シミュレーターで合同戦闘訓練を一度や二度重ねた程度で分り合えるほど人間は簡単に出来ていない。だから聞く。

 

「どういうこと?」

 

聞かれるとは思っていたのかいないのか。にやりと笑ってオルガは自分たちの過去を語った。

 

「俺は北米のスラムで育ったんだ・・・あそこは子供には住みづらくてよぉ、まあいわゆる腕力が全てってやつさ」

 

それは、キラが暮らしていたコロニーとはまるで違う一つの修羅道の話だった。一つのパンをめぐって発生する殴り合い、持ち出されるナイフ、拳銃。娼婦の母に育てられた彼は、食事こそ飢え死にしない程度には与えられていたものの、外では例えパンの欠片でも持っているのを見せるべきではない。お前はまだ小さく弱いのだからと聞かされて育った。

幸か不幸か、どうにかスラムを一人で生きていける程度に大きくなったところで母は病に倒れ、帰らぬ人となった。多少恵まれた食生活を送っていたおかげか、人より腕っぷしが強かったオルガは喧嘩屋として成り上がり、それでも町の外では生きられない人間だった。

数年後、スラムは都市開発で消え去り、どうにか狭くなった裏社会で生きていたオルガも、へまをして盗みの最中に掴まってしまった。

 

そうして、アズラエルに拾われて今に至るわけだが・・・

 

「守るってのはつまり守れる物を持ってるってことだろ?」

「考えたことも無かった・・・」

 

此処に一つの価値観の崩壊を見る。守るというのは持つものによる言葉であると。ならば。キラはこの人物に聞きたいと浮かび上がった一つの疑問をぶつける。

 

「昔の友達が敵になったら、どうしますか?」

「殺すさ。未来よりも過去よりも今が大事だからな」

「貴方は・・・」

 

今も持っていないのか?そんな勢いだけで生まれたような問をぶつける前に、外に出て行っていた刹那、ムウ、クロト、シャニが帰ってきた。

 

「さーて作戦のシミュレーション再開すっかぁ?」

 

おそらく、ムウは部屋の空気を敢えて読んでいない。ただ、二つ目の問は言わなくてよかったと心中で冷や汗を流すキラにとっては有難い提案だった。

 

「そうですね、休み過ぎましたし」

 

オルガは少々怪訝な顔をしていたが、気にしないと決めたらしく立ち上がってシミュレーターの前に戻った。一日を置かずに予定される作戦行動に、その後再開された訓練はまたもや一時間ほどで終了し、全員が宛がわれた部屋の高級な寝具でゆっくりと体を休めた。

 

ただ、キラはオルガの答えを何度も反芻していた。前もその前もその前も、アスランを討たなくて済んだことに内心胸を撫で下ろしていた。だが、もしアスランの命を天秤に懸ける時が来たのなら?

やる、やらない、やる・・・ぐちゃぐちゃと、

 

そして作戦行動開始時刻。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

ここだ。夢だと気付いた時に目が覚めるように、キラの意識は主観から切り替わった。

カガリに手を握られ、私も頑張るから、と。そう言っていた。

 

―爆音が耳に入り始めた。

 

カガリを死なせたくない。

 

―起きろよ、と、感情の平坦なシャニの声が意識を失っていたことを知らせる。

 

アスランを放っておけばどうなる?

 

―どうやら思った以上に時間は経過していないらしい。

 

決めるしかない。

 

―今、キラの頭でスイッチが切り替わる。どうしても順位がある。今それはキラの危機管理と結びついて、一つの判断を下した。

 

カガリを守るために、僕はアスランを殺すのか!

 

現実に帰還したキラは、両手の武器をビームサーベルに持ち替えて電源を落とし、全身の武装をアイドリング状態へと引き上げた。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

アスラン・ザラは夢を見ていた。

 

体は固定されて動かないが、意識の半分はモビルスーツを直接操っており、もう半分は父の記憶を追体験していた。

 

半日かけて頭に刷り込まれた疑似体験。父親の怒りが、まるで自分自身の怒りのように感情を突き揺さぶる。頭に直接送り込まれた情報は、目の前の機体を識別信号からナチュラルと判定。士官学校で体に叩き込まれた体術が、直接モビルスーツに出力されて敵のコクピットを穿つ。

 

そうだ、母さんの敵じゃないか。父さんの敵だ。じゃあ殺す。ナチュラルは殺す。ナチュラルに組する裏切り者も、全て、全て・・・

 

見覚えがあるような白くて赤くて青い敵がいる・・・あれは誰だったろうか。頭がもやもやする。そうか、敵か。じゃあ排除しなくては。

目の前の憎きブルーコスモスのテロリストは卑劣にも二人組で同胞を攻撃している。それはいけない。直ちに消さなくては。

 

腕を突き出してジャブを防がれた。腕を回して掴んだ。ここで有効なのはこの卑劣漢に罪を叩き込む鳩尾への蹴りだ。父の声がそう呟いた気がした。

目の前の人間は少しはやれるようだが、母上の敵を討つために鍛えた俺の敵じゃあない。父上の言う通り鳩尾に蹴りを叩き込んでやった。

 

後ろに控えていた男がこちらへ撃ってきた。守る?奪ったお前らが?ふざけるな!

 

お前だ、お前が、お前はそんな資格もないのに戦う!

 

手の甲に着けた防弾シールドで弾を弾きながら、懐に潜り込もうと加速する。

ああ、背中にジェットでもついているかのように身軽だ。生身だなんて信じられない。

 

右、下、ああ鬱陶しい・・・全然近づけない。

ああ、さっき罰を与えてやった男が立ち上がる。そうだ。俺は奴を倒さなくちゃいけないんだった。あいつが一番の敵だ。父上もそう言っている。ああ、早く、早く!

 

ああ?なぜ武装を解いたんだ?まあそんなことは関係ない。ナチュラルの味方であるというだけで罪だ。もう一度立ち上がれなくなるまで殴りつけてやらなくてはならないんだ。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

夢から覚めることは必ずしも幸せだろうか?キラは、意識の覚醒によって全身にジンジンと響く痛みを思い出した。これは短期的な痛みだろうと当たりを付けて、迫るアスランに対して構える。

 

右手でレバーを引いて、近接格闘用のモードを切り替える。

 

奇しくも、ストライクの採った戦法によってストライクは無手となったため、相対する二機は赤と白のペアのようだった。

 

「ごめん、アスラン。もしかしたら僕は前から分かっていた」

 

目の前に迫る足を先に置いた突進を、ストライクの足裏が柔らかく吸収し、まるで磁石のように張り付いた。

 

「僕は、周りの人間に順位をつけていて」

 

何も持っていない右手を。鉄槌のようにアスランの乗るモビルスーツの脇腹に叩きつける。

 

「今、こうして明確な意識で選んだ」

 

叩きつけた拳もまた、磁石でもあるかのように張り付いて、ストライクは右腕を軸に反転した。右足のつま先で、ビームサーベルの柄を蹴り上げた。膝部分で打ち上げられたビームサーベルは、装甲越しの信号で発振し、身をよじった敵の腹側を焼き削った。

コクピットに直撃はしなかったが、モビルスーツは動かない。それで、例え生きていたとしても・・・

 

「僕には今、殺意があった。これで、僕も人殺し、かな」

 

動かなくなったモビルスーツは小さく爆ぜ、コクピットからワイヤーでつながれた物体を吐き出した。拡大された画像から、ワイヤーがパイロットのどうやら首筋に直接刺さっていることと、その顔を確認したキラは、小さく嗚咽した。

 

『生きてる?』

「ええ・・・ランチャー、もう一度僕が持ちます」

 

もうすぐ、目標に先陣が触れる。




過去最長更新いたしました。
いや、深夜テンションでしたね。ちょっと後半が鬱です。まさかここで死ぬということは・・・そうです、あの人もラスボスです。はい、あの人「も」。

単語だけの説明なしが幾つかあったのでここで説明を。

ムウの新型
キラの戦闘データをムウのシミュレーター記録に基づいて抽出し、組み込んだストライク2号機。フレーム構造はアストレイからの一部フィードバックが無いため旧型同様だが、各部の耐久性、反応性、耐損耗で言うならグフイグナイテットより強くね?というレベル。
付属の専用ストライカーパック、ガンバレル改二は財閥が買い取ったガンバレルをリニアガンから小型電子収束砲に換装し、ランチャーパックの発展用に開発された新型バッテリーを内蔵したワンオフパック。ガンバレルは全部で四つあり、衝突させる等の使用法も思案されたためTPS装甲で覆われている。四つのガンバレルを同じ方向に向けると、フリーダムと同等の加速を発揮する(宇宙限定)。

ZAFTの新型
いわゆる鉄血の阿頼耶識に、加えて、パイロットには薬品と脳内信号への電気的干渉による洗脳で「パトリック・ザラ」の経験を植え付けられている。人体を動かす感覚でモビルスーツを操縦する上にほとんどが兵士としての教育を受けているため、並みのパイロットでは到底及ばない戦闘力を発揮する。
原作での「生体CPUは人間ではない」がプラント側で実行された場合はこうなるのではないかと予想。
外見はまんまゲイツ。

赤いモビルスーツ
特に試験成績が良かったアスラン専用機。肘近くと膝近くにある発振器からビームシールドを出す近接格闘機。抜き手がやばい威力で、PS装甲以外は一発で貫ける。
地上で戦うようにOSが出力を調整して再現することで、本人の格闘術を活かしている特別仕様。
イージスとインフィニットジャスティスのファトゥム(後についてるアレ)無しを足して二で割った感じの外見。もちろん核動力。

ディスターバーランチャー
財閥の月基地で新型の量子通信ユニットを開発中に発見された、電磁波を遮断するニュートリノの一種を発生する装置が弾体として組み込まれている。コズミックイラのモビルスーツはレーザー核融合で発電しているため、レーザーによる核融合の維持と電力の取り出しを阻害することで核エンジンを停止させる。(実用的な技術でこれ以外はあり得ない、とされているためのメタ)
今回の作戦では装置を四つ同調稼働させ、電源もパワーエクステンダーを利用しているため超高出力。
γ線そのものを阻害するため、γ線レーザー発射装置(ジェネシスのプロトタイプ)の機能停止に利用される事となった。勘の良い人はもしかして?となるかも。

磁石でもあるかのように・・・
武術の応用。合気に代表される力の利合で、そう錯覚させているだけ。なまじ人体と思って操縦されていることを逆手に取っている。モビルスーツのマニュアル操縦でやるのは人外の証。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。